カメラの外で抱きしめて

かれは

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1.配信者

11.炎上から

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配信開始から二時間。
 そろそろ終盤に差し掛かって、視聴者との軽いやり取りをしていたときだった。

「おい、集中してんのか?」
 低く響く声が、真横から落ちてきた。
 驚いて横を見れば、颯真がカメラの死角ぎりぎりに立っている。
「……お前、今……」
「何?」
 平然と首をかしげる声が、マイクに乗った。

《え、今の誰?》
《低音やば……》
《え、彼氏の声?》

 さらに最悪なことに、画面端に颯真の腕が映り込んでいる。
 黒い時計——見覚えがある視聴者も多いはずだ。

「お前、退け!」
「はいはい」
 適当に流し、颯真はソファに腰を下ろした。
 だがコメント欄はその後もしばらく騒がしいままだった。



 翌朝。
 スマホを開いた瞬間、胃が重くなる。
《RENくん彼氏説》がトレンド入り。
 例の場面を切り抜いた動画は既に数十万再生され、
「声が優しい」「付き合ってる?」というコメントがずらりと並んでいた。

 応援する声も多いが、「隠してるのが嫌」というファンや、ただ面白がって荒らすアカウントも混ざっている。
 頭が痛い。



「REN、これ否定しよう」
 事務所の会議室。マネージャーがタブレットを差し出し、例の切り抜きを再生する。
「こういうのは火がつくと収まりにくい。友達だって言い切って」
 上司の声は穏やかだが、有無を言わせない圧があった。

「……」
 友達、と言えば済む。
 それだけのはずなのに、颯真の顔が浮かんで、喉が詰まった。
 “違う”と断言してしまえば、この関係を全部否定することになる気がした。

「どうした? 言えない理由でも?」
「……いや……」
 曖昧に笑ってごまかすしかなかった。



 その夜、颯真に話を切り出した。
「……お前のせいで炎上しかけてる」
「お前が勝手に意識してるだけだろ」
「事務所から否定しろって言われた」
「すりゃいいじゃん」
「……」
「本当じゃないならな」

 唐突に視線が絡む。
「……違うのか?」
 真剣にも、冗談にも取れる声音。
 息が詰まり、何も言えなかった。

 颯真はただ笑って、「なら、放っとけよ」とソファに沈んだ。
 その余裕が、妙に癪に障るのに、胸の奥はざわついたままだった——。
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