歩く

かれは

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歩く

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歩く歩く歩く。

一日予定の無い青年は歩き出す。

玄関のドアを開ける。

天気はいい。

別にお気に入りの靴を履いておしゃれして出掛けるわけではなく、着古したパーカーに万が一汚れてしまってもいい使い古したスニーカーを履いて。

歩く。

何も目的はなく、時間の制限もない。

青年はいつもよりも姿勢をただし、視線をあげる。

いつもよりもゆっくりと景色を楽しみながら。

車通りの少ない、人通りも少ない道の上それでもいるかもしれない何かに気をつけて。

時に道の脇に逸れてみたり。

時に人間の気配を感じて隠れる小さな生き物を見つけたり。

足元には気をつけて、決して振り向かず。

時に立ち止まり、全身に風を受けて忙しい日々を忘れて自然を感じ、人で無くなってみたり。

よーく耳を済ませば聞こえるのは鳥のさえずり。

徐々に日は登り、自分の影と共に少年は周りが木に囲まれた静かな公園にたどり着く。

人のいない平日の昼間、ここには自分しかいないと思うとなんだか解放された気分になる。

大きく深呼吸する。

少し疲れた。

ここには自分しかいない。

そう、いないはずなのに影は二つ。

後ろにひとつ影がある。

そろそろ振り向いてもいいかな。

いや、見なくてもいいや。

誰にも迷惑はかけない。

どうかうまくやってください。

日が一番高く上る頃、青年の影ともうひとつの刃を持った影がひとつになった。

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