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最終章
雨上がり
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スタジアムのある駅を過ぎたところで、雨が降っていない様子が確認できた。
あとは、雲さえなくなれば――
雲が晴れることを祈って、詩音は次の駅で降りた。
ここまでで、慧人に借りたお金は約半分がなくなった。
もし何も起きなければ――明日のことも考えたら、鈍行で帰るとしても、いくらかお金を残しておかなければ。
(いやいや、そんなこともう考えない!)
詩音は急いで改札を抜けた。
外へ出ると、ビルや店が立ち並んでいて駅前は明るく、空が見えづらかった。
スマホを持っていない詩音は、地図の書いてある看板を探す。
(.....お城があるんだ。そこなら、暗くて広々とした場所があるはず)
駅からさほど遠くない位置にお城と公園があることが分かったので、そちらに向かって歩き出す。
雨はやんで空は曇っているが、雲の流れは早い。高速で流れていく雲の隙間から、星が見え隠れはするものの、星座まではわからないような状態だった。
線路と繁華街に挟まれた道をひたすら歩く。横断歩道を渡って学校を横目に通り過ぎたところで、急に視界が開ける場所に出た。
少し先に、ライトアップされたお城の天守閣が見える。
(あった、ここだ。なんか、裏口みたいな感じだけど、いいよね)
城址公園自体は特に入場手続きなどはいらず、自由に入れた。
空が見えやすい場所を探して、歩き回る。
今の時間は確か20時くらいだった。
なんとか周囲が暗く開けた場所に来て、首を最大まで上に向けて空に目を凝らす。
傍からみると宇宙と交信しようとしているような怪しい人にしか見えない。
あの星の集まり―――昴を探す。
(いや、私自身、怪しいよね。宇宙と交信しようとしてるのと、何が違うっていうの)
その時、南を向いた詩音の右側――つまり西側から、雲がはけてぽっかり空いた闇が流れてくるのに気付いた。あの流れる空間の中に、星を見つけられれば。詩音はネックレスをぎゅっと握りしめ、ひたすらその空間を追った。
右から左に流れる空を追い、身体ごと天頂を仰ぐ形になった時。
視界の左端に、その"星の集まり"を捉えた。
「あった……!!!」
詩音が喜びのあまり手を挙げた時、身体を上に逸らせすぎたのか、そのままバランスを崩して後ろへ倒れた。
(来たっ!)
その時、星が強く光った気がして、詩音は目をつぶった。
。.。.+゜
「……っ!」
堅い床に強かにお尻を打ち付け、詩音は声にならない声を上げた。
明るい日の入る、見慣れた執務室。
(よ、良かった……成功したみたい)
日中で別の場所にいるのか、今ここに人の気配はなかった。
それにしても、あれから"こっち"ではどれくらい経ったのだろうか。
(もし浦島太郎みたいに、知っている人はいなくなってました――なんて、ないよね)
部屋の奥へ行くと、高級そうな茶器と様々な種類の茶葉がきれいに陳列されていた。それを見て、ここには遥星がいるのだと安心する。
詩音はいつも片付けをしていた文机の方へ向かった。
(あーあ、またこんなに紙を散らかして)
かなりの枚数が散らばっているが、これは果たして適当な順番でまとめて良いものだろうか。
以前よりも、草書体の"文字"は少しは何が書いてあるかはわかるようになったものの、"文章"として何が書いてあるかまではわからなかったから、順番の判断ができなかった。
(前も、勝手に見るなって言われたし、とりあえずこのままで)
詩音が紙以外の道具などを整頓していると、ギィッと扉が開く音がした。
扉が閉まったのを確認し、衝立から顔を覗かせる。
―――彼だ。
紛れもなく、愛しいその人の姿がそこにあった。
「遥さまっ」
詩音はその名を呼んで駆け出した。遥星も詩音の存在に気づいた瞬間、勢い余ってバランスを崩し、腰元に飛びかかる形となった。
それを受けて、遥星もゆっくりと後ろに倒れる。なんとか手をついて上半身は支えたものの、またしても詩音は押し倒す格好となってしまった。
「た、ただいま戻りました......!」
「.....ふっ」
途端に遥星が噴き出す。
「ははっ.....あぁ詩音、おかえり」
遥星は床に座ったまま、詩音の身体をぎゅっと自分の懐に抱き締めた。
「遥さまっ.....遥さま.....っ」
詩音もその存在を確かめるように彼の身体にしがみつき、何度も名前を呼んだ。
――夢なんかじゃ、ない。
身体の感触、体温、鼓動.....すべて、詩音にとっては紛れもない現実で、かけがえのないものだ。
「.....詩音」
名前を呼ばれ顔を上げると、目の前に優しい笑みを湛えた愛しい人の顔があった。
詩音がその顔を見逃すまいとじっと見つめると、そっと頬に手を添えられる。
「そんな顔をするな。.....もう、逃げないから」
置かれた手が頬を滑り、顎をそっと持ち上げられる。
ゆっくりと彼の顔が近付いてきて、唇が重なった。
ただ触れるだけの、優しい口付け。
触れている部分はわずかなのに、全身の熱がそこに集まったかのように熱く、痺れる。
目を閉じた詩音の目元から一筋の涙が零れ、胸元の星を光らせた。
あとは、雲さえなくなれば――
雲が晴れることを祈って、詩音は次の駅で降りた。
ここまでで、慧人に借りたお金は約半分がなくなった。
もし何も起きなければ――明日のことも考えたら、鈍行で帰るとしても、いくらかお金を残しておかなければ。
(いやいや、そんなこともう考えない!)
詩音は急いで改札を抜けた。
外へ出ると、ビルや店が立ち並んでいて駅前は明るく、空が見えづらかった。
スマホを持っていない詩音は、地図の書いてある看板を探す。
(.....お城があるんだ。そこなら、暗くて広々とした場所があるはず)
駅からさほど遠くない位置にお城と公園があることが分かったので、そちらに向かって歩き出す。
雨はやんで空は曇っているが、雲の流れは早い。高速で流れていく雲の隙間から、星が見え隠れはするものの、星座まではわからないような状態だった。
線路と繁華街に挟まれた道をひたすら歩く。横断歩道を渡って学校を横目に通り過ぎたところで、急に視界が開ける場所に出た。
少し先に、ライトアップされたお城の天守閣が見える。
(あった、ここだ。なんか、裏口みたいな感じだけど、いいよね)
城址公園自体は特に入場手続きなどはいらず、自由に入れた。
空が見えやすい場所を探して、歩き回る。
今の時間は確か20時くらいだった。
なんとか周囲が暗く開けた場所に来て、首を最大まで上に向けて空に目を凝らす。
傍からみると宇宙と交信しようとしているような怪しい人にしか見えない。
あの星の集まり―――昴を探す。
(いや、私自身、怪しいよね。宇宙と交信しようとしてるのと、何が違うっていうの)
その時、南を向いた詩音の右側――つまり西側から、雲がはけてぽっかり空いた闇が流れてくるのに気付いた。あの流れる空間の中に、星を見つけられれば。詩音はネックレスをぎゅっと握りしめ、ひたすらその空間を追った。
右から左に流れる空を追い、身体ごと天頂を仰ぐ形になった時。
視界の左端に、その"星の集まり"を捉えた。
「あった……!!!」
詩音が喜びのあまり手を挙げた時、身体を上に逸らせすぎたのか、そのままバランスを崩して後ろへ倒れた。
(来たっ!)
その時、星が強く光った気がして、詩音は目をつぶった。
。.。.+゜
「……っ!」
堅い床に強かにお尻を打ち付け、詩音は声にならない声を上げた。
明るい日の入る、見慣れた執務室。
(よ、良かった……成功したみたい)
日中で別の場所にいるのか、今ここに人の気配はなかった。
それにしても、あれから"こっち"ではどれくらい経ったのだろうか。
(もし浦島太郎みたいに、知っている人はいなくなってました――なんて、ないよね)
部屋の奥へ行くと、高級そうな茶器と様々な種類の茶葉がきれいに陳列されていた。それを見て、ここには遥星がいるのだと安心する。
詩音はいつも片付けをしていた文机の方へ向かった。
(あーあ、またこんなに紙を散らかして)
かなりの枚数が散らばっているが、これは果たして適当な順番でまとめて良いものだろうか。
以前よりも、草書体の"文字"は少しは何が書いてあるかはわかるようになったものの、"文章"として何が書いてあるかまではわからなかったから、順番の判断ができなかった。
(前も、勝手に見るなって言われたし、とりあえずこのままで)
詩音が紙以外の道具などを整頓していると、ギィッと扉が開く音がした。
扉が閉まったのを確認し、衝立から顔を覗かせる。
―――彼だ。
紛れもなく、愛しいその人の姿がそこにあった。
「遥さまっ」
詩音はその名を呼んで駆け出した。遥星も詩音の存在に気づいた瞬間、勢い余ってバランスを崩し、腰元に飛びかかる形となった。
それを受けて、遥星もゆっくりと後ろに倒れる。なんとか手をついて上半身は支えたものの、またしても詩音は押し倒す格好となってしまった。
「た、ただいま戻りました......!」
「.....ふっ」
途端に遥星が噴き出す。
「ははっ.....あぁ詩音、おかえり」
遥星は床に座ったまま、詩音の身体をぎゅっと自分の懐に抱き締めた。
「遥さまっ.....遥さま.....っ」
詩音もその存在を確かめるように彼の身体にしがみつき、何度も名前を呼んだ。
――夢なんかじゃ、ない。
身体の感触、体温、鼓動.....すべて、詩音にとっては紛れもない現実で、かけがえのないものだ。
「.....詩音」
名前を呼ばれ顔を上げると、目の前に優しい笑みを湛えた愛しい人の顔があった。
詩音がその顔を見逃すまいとじっと見つめると、そっと頬に手を添えられる。
「そんな顔をするな。.....もう、逃げないから」
置かれた手が頬を滑り、顎をそっと持ち上げられる。
ゆっくりと彼の顔が近付いてきて、唇が重なった。
ただ触れるだけの、優しい口付け。
触れている部分はわずかなのに、全身の熱がそこに集まったかのように熱く、痺れる。
目を閉じた詩音の目元から一筋の涙が零れ、胸元の星を光らせた。
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