身代わりで隣国に嫁がされましたが、チー牛王子となんやかんや仲良く生きていきま、す?

佐伯 鮪

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7 妃仲間と愚痴ってみた

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 夏妃の殿舎は、煌びやかな装飾でいっぱいだった。
 高級で有名な銘柄の品々が、きちんと整えられて並んでいる。夏妃自身もまた、上質そうな華やかな衣装を身につけていた。

「今日はお招きありがとうございます。夏妃はお召し物も素敵ですね」
「そうー? ありがとう。こないだは、お疲れ様。青妃とまた会えて嬉しいわ」

 夏妃は茶菓子を運んできた侍女に、部屋の外へ出ているように言いつけた。ここは、合わせた方がいいだろうか。私も伴ってきた菖蒲に、同じように外で待っているようお願いした。
 そんな私の菖蒲に対する話し方を見て、夏妃が不思議そうに言った。

「青妃は、随分と腰が低いのね。東龍国の公主様がわざわざ嫁いできたんだから、もっと堂々としてるものかと思ったのに」

 やはり、妃らしい態度は上手くできていなかったらしい。といっても、朱琳のように振る舞うことは性格上できそうにない。今がいっぱいいっぱいだった私は、小さく苦笑いするしかできなかった。

「ま、いいや。いやー、こないだのアレ、酷かったよね。もぉ愚痴りたくて愚痴りたくて。あの場で誰かに聞かれても調子悪いし、来てくれてありがとう」

 まだ会ったばかりだというのに、愚痴を聞いてしまって大丈夫なのだろうか。何か罠だったりしないか。警戒もしたが、国王と貴妃やこの後宮内の情報を詳しく聞ける絶好の機会を逃すわけにはいかない。

「由貴妃という方は、あの、控えめそうな方でしたね。噂からもっと派手な女性を想像していたので、意外でした」
「噂?」
「あ、えと、国王陛下の御寵愛が深いと……」

 この発言は、大丈夫だったろうか。
 後宮は、妃たちが『王の寵愛』を取り合う戦場だ。自分は今はその寵愛が欲しいなどとは思わなかったが、夏妃の気持ち次第では不快にさせてしまうかもしれない。
 『妃として』考えるべきことは、同じ処で暮らしていても侍女とはだいぶ違うのだと思い知らされてきた。

 夏妃は、私の心配したようなことには特に触れず、別のところへ食いついた。

「控え目? あのブスが?」
「え、あああの、ちょっと」

 明け透けな物言いに、さすがに戸惑う。由貴妃は他の妃たちとは容姿も明らかに違っていたが、それでも国王に一番に愛されているというのだから、他の魅力がきっとあるのだろうと思っていた。

「あのブスの着ていた着物、色合いこそ控えめだけど、めちゃくちゃ高級品よ。それに装飾品も、私も見たことのないような珍しい宝石を使っていたわ。あれはね、そういう女なのよ」

 夏妃の勢いに圧倒される。

「そういう女?」
「顔は後宮に似つかわしくないブスだけど、自分が一番じゃなきゃ気の済まない気位の高い女ってこと。貴女も気をつけた方がいいわ」
「はぁ」
「ね、青妃。その指輪見せて。青い綺麗なの」
「これですか?」

 私は東龍とうりゅう国の王族の証である例の指輪をはめた手を、夏妃に向けて差し出した。

「これって、何ていう石なの? この国では、流通してないみたい」
「これは、碧玉へきぎょくと言って、東龍とうりゅう国の一部でのみ採れる石なのです。希少なため国内でも市場には流通はしておらず、王族のみが持てる宝玉となっています」
「へぇ~。綺麗ね」

 夏妃はまじまじと指輪を眺めた後、ありがとうと小さく言って、私の手を下ろした。


「あの、国王陛下は、どんな御方なのでしょうか? その、私は、先日の会でお顔を拝見したのが初めてでして」
「え?」

 夏妃が、目を見開いて聞き返した。
 何か、おかしなことを言ってしまったのだろうか?

「青妃、貴女は東龍国王の娘だと言ったわよね? 後宮へ来てどれくらい経つの?」
「え、は、はい……一ヶ月弱になります」
「まだ、王の渡りはないの? 東龍国からわざわざ入ったのに?」

 またしても彼女の勢いに圧倒されてしまう。
 それほど、おかしなことなのだろうか。普通は、隣国の公主が嫁いできたなら、もっと早く訪れたりするものなのだろうか。
 私はこれまで、公主様の侍女として下働きをしてきてはいたが、妃としてどう扱われるべきなのかなど、そのあたりの機微は持ち合わせてないことを痛感した。

「東龍国から、というのはそれほど重要なことなのでしょうか?」
「あら、何にも知らないで嫁がされたお姫様なのね。いいわ、教えてあげる」

 夏妃が語ったのは、次のようなことだった。

 ここ朋央ほうおう国は、この大陸にあるいくつかの国の交易の要所である。ここを中心として見ると、北に強大な国力を誇る玄冥げんめい国、東に私の出身である東龍国、西に西麟さいりん国という位置付けだ。ここ朋央国は玄冥国の属国であるが、東龍国と西麟国はまだ玄冥げんめい国にはくだってはいない。そして東と西の二国は敵対している関係にある。これら二国は、玄冥国との国境はそれぞれ自然で阻まれているため、ここ朋央国が玄関口となって、三国の貿易を助ける役目を果たしている。

 ここまでは、さすがに私でも知っている情報だった。

 朋央国は、敵対している東西の二国間の間で中立を保つことで、国家間の均衡に多大な貢献をしている。経済的にどちらかが有利不利など起きないよう、玄冥国との関係も含めてうまく調整して平和を保ち、繁栄してきた国であった。

「凄い、どうしてそんなにお詳しいんですか?」
「貴女も公主だったなら、そのくらい知ってなさいな。って意地悪は置いといて、私の実家はね、この国の筆頭の商家だから。はっきり言ってうちのおかげでこの国は成り立ってるようなもんよ」
「だから、服や装飾品などお詳しいんですね」
「うん? まーね。で、さっき言った通り、この国にとって、東龍国は大事なお客様でもあるわけ。商売上、というのもあるけど、政治的にも、朋央は東か西どちからに偏ることは許されないはずよ。そこから受け入れた妃を一ヶ月も放っておくなんて、と思ったのよ」

 そういうもの、なのだろうか。とはいえ、それに関しては私からはどうすることもできないのではないだろうか。「来て下さい」と妃の側からお願いするなど、ありえないことだ。

「まぁさ、奴の御渡りなんて個人的にはなくていいんだけど。ぶっちゃけキモいだけだし」

 二人きりとはいえ、夏妃は声を落として顔をしかめながら言った。この間から思っていたが、かなり自分の気持ちに正直な人なようだ。本来、妃が王様に対してこのようなことを言うなどあってはならないことだが、もしかしたら実家の立場が強いということも関係しているのかもしれない。

 彼女の言う通り、御渡りがあるということは、つまり、服を脱いで身体を重ねるということだ。
 私個人の感覚だけで言えば、そりゃあ御免被りたいことこの上ない。しかし、東龍国という立場を背負っているのならば、むしろ来て貰わないと困る、というところだろう。

 改めて、朱琳を恨めしく思った。
 だが、彼女もこの葛藤を抱いていたのかと思うと、あまり責める気にはなれなかった。今自分が考えたことは、嫌がる彼女にこの役目を無理やりさせようとすることだったからだ。

 そのあたりまで話したところで、夏妃の侍女が終わりの時間を知らせにやってきた。

 肝心の阿銅羅教のことについて聞きそびれた、と気付いたのは登龍殿へ帰ってからだった。
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