12 / 57
12 自己啓発セミナーみたいな
しおりを挟む
自分は何者であるのか。
自分はどう生きるか。
自分の頭の中でだけ考えても一向に答えは見つからなかった。悩みに悩んだ私は、国王の誕生日会の時に語っていた倫道士の処へ足を運んでみた。
(いつでも来ていいって、言ってたし……でも、何を相談したらいいかも具体的に決まってないんだけど、大丈夫かな)
一緒に来てくれた菖蒲は外で待っていて貰い、一人で倫道士と対面した。倫道士のいる部屋は、伽藍としていて余計なものは何もなかった。
私が自己紹介しようとすると、道士に遮られた。
「自己紹介は、いりません。ここでは肩書きは不要、貴方は貴方であるのですから」
「は、はぁ……」
どこまで話していいものだろうか、迷ってしまう。東龍国の青妃と侍女・朱琳は入れ替わっている、ということがここから国王に伝わってしまっては問題だ。自己紹介を不要としてくれたのは、ある意味幸運だった。
私は、今日ここへ来た理由から話すことにした。
「ここへ来たのは、『自分の意思で生きる』というのはどうしたら良いのか、見当がつかないからなのです。どうしたら、自分の意思なるものが持てるのでしょうか」
「貴方は、今までは他人の意思によって生きていたのですか」
「わかりません。ただ、親に従い、主人に従い、国に従い、ここへやってきました。今までは他人から与えられた役割を果たそうとすることで、自分の存在価値を見出していたように思います」
「その、『与えられた役割』を果たしたくない、と思ったということですか」
「いえ……どう言えばいいか。『役割がなくなってしまった』のです。もしかしたら、もう少し待てば新たな『役割』がどこからか与えられるかもしれません。ただ、一時的にそれが消え、自分自身はどう身を振るべきか、考えてしまって」
質問されるがまま、私は自分の気持ちを吐露していった。話してみると、意外とすんなりと迷っていることが出てくるものなのだな、と不思議と感じた。
「なるほど……それで何か役割を自分で見つけなければ、と思っているということですね」
「まぁ、そんな感じです」
「『~しなければいけない』という考えも、何かに支配されているように見えます。貴方は今、『自分の意思で生きたい』と考えた。それだけでも、随分と変わったのだ思います。何かをすべき、と焦って考える必要はありません」
結局、どうしたら良いのだろう。
「『何もない』、素晴らしいじゃないですか。『役割』なんてものは、相対的なものです。これを機に、一から自分を立て直してみると良いのでは。自分の内面から湧き上がる何かに従って行動しているうちに、果たすべきことは自ずと見えてくるものでしょう」
「……見つかる、でしょうか」
「貴方は、『今、自分が何も持たない』ということを認識できている。不完全な自分と現状をまず受け入れた。何も持たないことは、劣等感を抱くべきことではない。これから、一歩ずつ進んでいけば良いのです」
倫道士の話は、なんとなくわかるような気はするが、結局どうすればいいのか、答えを与えてくれるものではなかった。
自分で見つける、というか自然と見つかるものを自分のものにしていく感じなのかな、となんとなく理解した。
確かに急にこんなことになり、焦り過ぎていたのかもしれない。というか、コロコロコロコロと状況が変わり、わけがわからなくなっていた。一旦落ち着いて、冷静に過ごしてみよう、と思った。
「あの、倫道士、ありがとうございます」
「礼には及びません。貴方は今の貴方が存在しているだけで、素晴らしいのです」
なんと返したら良いかわからない、胡散臭く感じるようなことを言われ、若干困ってしまう。ついでに私は、この間話を聞いた時から気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、ちょっと伺いたいのですが」
「どうぞ」
「この、後宮という場には、自ら望んでやってきたという人は多くはないはずです。そして、『自分らしく生きる』とか『劣等感を持たない』とか、ここの存在と対極にあるように思います。……何故、後宮でそのような教えを広めているのですか。むしろ後宮の女達が好き勝手生き出したら、逆に統制が取れないのではないかと」
そう、このあたりに、強い違和感を覚えていたのだ。
妃たちはほとんどが政略結婚で、誰かの命令によって来ているはずだ。ここは国王陛下の寵愛や女同士の力関係を巡って優越感と劣等感の渦巻く世界であり、女の存在の目的は王の子孫を残すこと、という環境である。
こんなところで、『自分らしく生きる』ことを推進するなんて、その対比により自分たちが否定されているように映ってしまい、むしろ嫌がらせに近いのではないか、と思った。
「国王陛下のご意思は、私の存じるところではありません。私はただ、この教えにより一人でも辛い心の御方を救えたら良い、と考えるのみです」
「この教えを広めて、何をしたいのですか」
「救われる御方が増えることを祈っています」
……祖国から「最近朋央国で怪しい宗教が流行っている」ということは聞いていた。この宗教が、例えば民衆を煽動して何か成し遂げようとしているのか、国の中枢に入り込んで操作しようとしているのか、その状態と目的を探る必要もあった。
だが、道士がこの調子では、その答えには今はたどり着けないだろう。
そして、そもそもこうした事情を探り続ける必要はあるのかと、ついつい癖が抜けず調査するようなつもりになってしまった自分を顧みた。
国や皓月様へ、報告するべきだろうか。
王妃ではなくなったことで、こちらに求められる役割も変わってくるかもしれない。
ただ、彼らから何らかの連絡があるまでは、何もしないでおこうと思った。
せっかくの『何もない』状態である今を、大事にしたいと感じていた。
自分はどう生きるか。
自分の頭の中でだけ考えても一向に答えは見つからなかった。悩みに悩んだ私は、国王の誕生日会の時に語っていた倫道士の処へ足を運んでみた。
(いつでも来ていいって、言ってたし……でも、何を相談したらいいかも具体的に決まってないんだけど、大丈夫かな)
一緒に来てくれた菖蒲は外で待っていて貰い、一人で倫道士と対面した。倫道士のいる部屋は、伽藍としていて余計なものは何もなかった。
私が自己紹介しようとすると、道士に遮られた。
「自己紹介は、いりません。ここでは肩書きは不要、貴方は貴方であるのですから」
「は、はぁ……」
どこまで話していいものだろうか、迷ってしまう。東龍国の青妃と侍女・朱琳は入れ替わっている、ということがここから国王に伝わってしまっては問題だ。自己紹介を不要としてくれたのは、ある意味幸運だった。
私は、今日ここへ来た理由から話すことにした。
「ここへ来たのは、『自分の意思で生きる』というのはどうしたら良いのか、見当がつかないからなのです。どうしたら、自分の意思なるものが持てるのでしょうか」
「貴方は、今までは他人の意思によって生きていたのですか」
「わかりません。ただ、親に従い、主人に従い、国に従い、ここへやってきました。今までは他人から与えられた役割を果たそうとすることで、自分の存在価値を見出していたように思います」
「その、『与えられた役割』を果たしたくない、と思ったということですか」
「いえ……どう言えばいいか。『役割がなくなってしまった』のです。もしかしたら、もう少し待てば新たな『役割』がどこからか与えられるかもしれません。ただ、一時的にそれが消え、自分自身はどう身を振るべきか、考えてしまって」
質問されるがまま、私は自分の気持ちを吐露していった。話してみると、意外とすんなりと迷っていることが出てくるものなのだな、と不思議と感じた。
「なるほど……それで何か役割を自分で見つけなければ、と思っているということですね」
「まぁ、そんな感じです」
「『~しなければいけない』という考えも、何かに支配されているように見えます。貴方は今、『自分の意思で生きたい』と考えた。それだけでも、随分と変わったのだ思います。何かをすべき、と焦って考える必要はありません」
結局、どうしたら良いのだろう。
「『何もない』、素晴らしいじゃないですか。『役割』なんてものは、相対的なものです。これを機に、一から自分を立て直してみると良いのでは。自分の内面から湧き上がる何かに従って行動しているうちに、果たすべきことは自ずと見えてくるものでしょう」
「……見つかる、でしょうか」
「貴方は、『今、自分が何も持たない』ということを認識できている。不完全な自分と現状をまず受け入れた。何も持たないことは、劣等感を抱くべきことではない。これから、一歩ずつ進んでいけば良いのです」
倫道士の話は、なんとなくわかるような気はするが、結局どうすればいいのか、答えを与えてくれるものではなかった。
自分で見つける、というか自然と見つかるものを自分のものにしていく感じなのかな、となんとなく理解した。
確かに急にこんなことになり、焦り過ぎていたのかもしれない。というか、コロコロコロコロと状況が変わり、わけがわからなくなっていた。一旦落ち着いて、冷静に過ごしてみよう、と思った。
「あの、倫道士、ありがとうございます」
「礼には及びません。貴方は今の貴方が存在しているだけで、素晴らしいのです」
なんと返したら良いかわからない、胡散臭く感じるようなことを言われ、若干困ってしまう。ついでに私は、この間話を聞いた時から気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、ちょっと伺いたいのですが」
「どうぞ」
「この、後宮という場には、自ら望んでやってきたという人は多くはないはずです。そして、『自分らしく生きる』とか『劣等感を持たない』とか、ここの存在と対極にあるように思います。……何故、後宮でそのような教えを広めているのですか。むしろ後宮の女達が好き勝手生き出したら、逆に統制が取れないのではないかと」
そう、このあたりに、強い違和感を覚えていたのだ。
妃たちはほとんどが政略結婚で、誰かの命令によって来ているはずだ。ここは国王陛下の寵愛や女同士の力関係を巡って優越感と劣等感の渦巻く世界であり、女の存在の目的は王の子孫を残すこと、という環境である。
こんなところで、『自分らしく生きる』ことを推進するなんて、その対比により自分たちが否定されているように映ってしまい、むしろ嫌がらせに近いのではないか、と思った。
「国王陛下のご意思は、私の存じるところではありません。私はただ、この教えにより一人でも辛い心の御方を救えたら良い、と考えるのみです」
「この教えを広めて、何をしたいのですか」
「救われる御方が増えることを祈っています」
……祖国から「最近朋央国で怪しい宗教が流行っている」ということは聞いていた。この宗教が、例えば民衆を煽動して何か成し遂げようとしているのか、国の中枢に入り込んで操作しようとしているのか、その状態と目的を探る必要もあった。
だが、道士がこの調子では、その答えには今はたどり着けないだろう。
そして、そもそもこうした事情を探り続ける必要はあるのかと、ついつい癖が抜けず調査するようなつもりになってしまった自分を顧みた。
国や皓月様へ、報告するべきだろうか。
王妃ではなくなったことで、こちらに求められる役割も変わってくるかもしれない。
ただ、彼らから何らかの連絡があるまでは、何もしないでおこうと思った。
せっかくの『何もない』状態である今を、大事にしたいと感じていた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる
若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ!
数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。
跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。
両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。
――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう!
エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。
彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。
――結婚の約束、しただろう?
昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。
(わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?)
記憶がない。記憶にない。
姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない!
都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。
若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。
後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。
(そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?)
ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。
エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。
だから。
この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し?
弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに?
ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?
サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。
「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」
リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。
王子よ、貴方が責任取りなさい
天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」
王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。
それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。
だけど、私の答えは……
皆さんに知ってほしい。
今代の聖女がどんな人物なのか。
それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる