身代わりで隣国に嫁がされましたが、チー牛王子となんやかんや仲良く生きていきま、す?

佐伯 鮪

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56 パンダとご対面

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 翌朝、私は一人でこっそりパンダの香香シャンシャンのいる処へ遊びに来ていた。場所は、この後宮の最北端。ほとんどの人がここには近寄らないが、立派な建物とその側に香香シャンシャン用の飼育地があった。

 香香シャンシャンが逃げ出さないよう、また、人が踏み込まないようにか、背の高い柵でしっかりと囲われていた。

 ここは以前、晃栄コウエイ殿下に一度連れてきてもらったきりだった。その時は時間もなく、遠目で香香シャンシャンを眺めただけだったが、今日は柵の近くでコロコロと転がってくれていた。


香香シャンシャン、こんにちは。私も香香シャンシャンって言うの」

 返事はないとはわかりつつ、遊んでいる香香シャンシャンに向かって声をかける。近くに大きめの石を見つけ、腰をかけた。

「……やっぱりさぁ、この好機は逃せないよねぇ。せっかく何が起きてるのか直接目で確かめられるのに、ここで辞めたら今までの努力が水の泡だよね」

 香香シャンシャンに向かって、ボソボソと独り言を呟く。

「貴女は何で後宮にいるの? 無理矢理連れて来られたの? 私も、似たようなもんなんだ。お互い、何して過ごしたらいいかわからないよねぇ」

 パンダが聞いているはずもないし答えてくれるはずもないが、喋り出したら止まらなくなってしまった。

「貴女は本物のパンダだけど、私は本物の公主ひめじゃないんだぁ。そもそも妃なんて身分、身に余りすぎてどうしたらいいかわからない。……彼を、守りたいとちょっとだけ思ったけど、そもそも私にそんな力なかったのよ。なんか彼も……気になる女ができたみたいだし、望めばあの子を妃にすることも容易いでしょう?」

 お前の身の上話なんか興味ないわ、とでも言うように、香香シャンシャンは私にお尻を向けて走っていった。

(そもそも、考えてみればあの子は本来妃になるべきだったんだから、王太子妃にしたって問題ないのよね。本人は嫌がるでしょうけど……)

 一人で喋っていたら、気付いてしまった。
 私が、単身で寺院に乗り込めばいいのではないか、と。

 王太子殿下を危険に晒すことはできない。
 だが、ただの妃、それも偽物の女ならば、いなくなったって支障はないはずだ。
 代役、というか本来その座につくべきだった人間が他にいる。

 それにもし噂通り東龍とうりゅう国へ売られるのだとすれば、なんだかんだ国の中枢へ戻れる算段はある。
 私は、東龍とうりゅう国の王族の証を持っている。
 奴隷になったとしても、それを理解している立場の者と接触できれば、こちらのものだ。

 皓月ハォユェ様には会いたくないけど……仮にそこまで戻れれば、また朋央ほうおう国へ戻るか連絡することもできよう。

「ありがとう香香シャンシャン、聞いてくれて。って聞いてないけど。じゃあね」

 私がこの場を離れようと立ち上がると、ガサガサッと草が揺れる音がした。

「あら、もう帰っちゃうの?」
「ひぇっ!」

 声の方を見ると、よく日に焼けた健康そうな女の人が、檻のそばに立っていた。

「え、え、一体いつから……聞いてました?」
「最初から。アタシが草むしりしてたら、アンタが勝手に喋り出したんだから、アタシ悪くないわよ」
「わ、わぁ……」

 冷や汗がダラダラ出て、服がジメッと張り付くのに背筋が寒い。
 人がいると思っていなかった。以前来た時は香香シャンシャンだけだったし、今はまだ早朝で動き出している人も少ないはずだった。

 自分は偽物の妃である、と喋っていたのを聞かれてしまった。ご丁寧に私は自分の名前や立場まで語ってしまったという体たらくである。

「アンタもなんか大変なんだねー。てかさ、若いね! 悩め悩め若者よ! あはは」

 白い歯を見せて笑うその人に、つられて一緒に苦笑いをする。

「あの、貴女は一体……?」
「ん、私? 私はまぁ、この子のお世話係みたいな感じかな~。可愛いでしょ? まぁ、捕われていて不自由だけど、自由に生きてるっちゃ生きてる」
「飼育員さんでしたか。すみません、どうか今日のことは内密に」
「ふふっ」

 彼女は"はい"とも"いいえ"とも答えず、にっこりと笑うだけの返事をした。不安だが、念を押して心象を悪くすることも避けたい。結局それ以上何も言えなかった。
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