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第1章 転生からの逃亡
第17話 お見合い
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翌朝、快適な眠りだったおかげでいつもより早く起きた気がする。
迷宮内だから正確な時間は不明だが、感覚的に早く感じた。
それに先輩はともかく、ご主人様もすでに起きている。
朝のお世話というものは存在しないけど、今日出発する身としては早く起きておいた方がいいだろう。
「おはようございます」
「うむ。おはよう」
「出発のための荷造りしようと思うのですが、あの部屋の物ってどうすればいいですか?」
「そこに置いてある」
「あっ! ありがとうございます。ちなみにあの部屋ってどうなりました?」
「各部屋を貴殿の捜索のため開けられたくらいだ。討伐を後回しにして、片っ端から扉を開けることを優先しているらしい」
「もったいない。せっかくの御馳走を放置するなんて……」
「王国の騎士だろ? もっといい物を食べているだろ」
「そうですかね? ケチくさい国だから、ひもじい思いをしていても不思議ではないですけど」
お宝を没収する国とか……意味不明。
法律的にいいのか?
他国に行く前にその辺の勉強もしておきたかったな。
「ケチで思い出したが、外に出たらいろいろ没収されると思うから、スクロールもここで使っていけよ」
「え? でも、使い捨てですよね?」
「何を言ってる? 魔法発動の挙動と発動した魔法を見れば再現できると、今まで勉強して来たのではないのか?」
「そ、そうでした」
「うむ。本当は餞別に何かやろうと思ったのだが、没収されそうだからな。手紙や地図も没収されそうだな……どうするか。少し考えるから、貴殿はスクロールの魔法を習得していろ」
「はい」
こんなケチくさい国なんか、大海嘯で滅亡してしまえ。
なぁーんて。そんな酷いことは思ってない。
ただ、王族の交代はして欲しいな。
◆
スクロールの生活魔法は無事に習得した。
火属性魔法の《着火》や、水属性魔法の《清水》など、全属性持ちの本領発揮だ。
「なかなか良い方法を思いつかなかった。残念だが、少し痛い思いをしてもらう」
「――え?」
「左手を出せ」
ちょっと嫌かも……。
「……コイツに手伝ってもらうか」
「グルッ?」
いつの間にか起きていた先輩が頭を持ち上げ、「やってあげようか?」とでも言っているのか、うなり声を上げる。
「一人でできますっ」
手伝うって、手が潰れるわっ!
おずおずと左手を差し出すと、手の甲に爪を当てられる。
直後、貫かれたような激痛が左手に走った。
「――いっつぅう……」
「男だろ?」
それ、セクハラぞ?
「女性の……方が……痛みに………強い、らしいです……」
「我は、痛いのは遠慮したいぞ」
「グルグルッ」
「僕もですっ」
遠慮できるならしている。
俺には拒否権がないから手を差し出しているだけだ。
「そうなのか? ずっとスライムばかりを食べているから、苦痛愛好家だと思っていたのだが……」
ドMとでも言いたいのか?
それは誤解です。
「水スライムは美味しいですよ」
「水と光は別格だ。一緒にしてはいけない」
「グルグルッ!」
さすが先輩。俺よりも忠実だ。
「よし、終わったぞ」
「どうなったんですか?」
「手のひらの中に座標を埋め込んだ。大体の位置が分かるから、霊峰を越えたと分かったら、手紙と地図や餞別を転送してやろう。御褒美があった方が頑張れるだろ?」
GPSみたいなものか……。
実害は痛かったことだけで、特に困ることもない。
それよりも御褒美が嬉しい。
頑張れる、すごく頑張れる。
「頑張ります!」
「死ねば消えるから安心しろ」
「いや、安心以前に死ぬたくありません」
「なら頑張れ」
「はい」
そしてついにお別れの時間になった。
拠点に転移して、地上に戻る予定だ。
「グルグルッ」
「……なんて言ってるんですか?」
「また来いと言っている」
「報告もありますから、必ず戻って来ます」
「グルッ!」
「『約束だ』と言っている」
「はい。約束です」
差し出された前足を両手で掴み、約束を守ることを誓う。
「師匠、お世話になりました。強くなって戻ってきます」
握手をしながら頭を下げた。
「うむ。楽しみにしている」
ご主人様の言葉に返事をしようと顔を上げるも、目の前にご主人様や先輩の姿はなかった。
代わりに押しくらまんじゅうの域を超えたスライムが、俺の視界を埋め尽くしていた。
「――いってきますっ!」
◆
「待たれよっ!」
「……」
「そこの黒髪の少年っ!」
「……僕ですか?」
「そうだ」
「何か御用ですか? これから帰るところなんですけど」
「すぐに済むから質問に答えてほしい」
「わかりました」
騎士らしい装備を身につけた年配の男性が、数人の若い兵士とともに近づいてきた。
この人たちがご主人様が言っていた捜索部隊だろう。
いったい何の用で捜していたのだろうか。
態度や待遇から、別に死んでも構わないって感じたのだが、使い途でも見つけたのか?
そこはかとなく面倒な予感がする。
「君は勇者の一人で間違いないか?」
勇者と聞いておきながら「君」かぁ……。
しかもタメ口。
キチ○イ王女が様付けで呼んでいたけど、この違いはいったい……。
「召喚されましたが、勇者かどうかは分かりません」
勇者だと思ってないからタメ口なんだろ?
何かに利用するために機嫌を取ろうとしているけど、下手くそすぎて見てられない。
「……それはいったいどうして?」
「倉庫をあてがわれて、食事も出されず、馬車の御者も用意されないほど、どうでも良い存在だからです。『七勇』とか言われている人たちも同じ扱いなら、僕も勇者となるでしょう」
待遇の違いをそこそこ大きい声で、彼らや周囲の迷宮挑戦者に伝える。
これで同じと言ったら勇者たちを冷遇する愚か者になり、違うと言ったら俺だけ冷遇していることになる。よって、勇者ではないという意見が通るはず。
「…………同じなのではないかな」
まさかの前者。
前者を選んだ場合のリスクは結構大きいと思うのだけど……。
たぶんだけど、勇者の担当はキチ○イ王女だろう。
勇者を冷遇していることを承認してしまうということは、待遇を決めている王女の失態を晒す行為だ。
王国に所属している騎士が、あのキチ○イを敵に回すのか? ……正気ですか?
それに、すでにお披露目を終えているのかは不明だが、どちらにしろ生命神様が使わした者たちを冷遇していると宣言したわけだから、国民が何かしら行動を起こしてもおかしくない。
エルモアールは地球よりも神様が近いゆえ、神罰は普通に存在しているらしいからね。
だから、言わせていただこう。
「あんた、頭大丈夫か?」と。
「そうですか? では確認しますので、あなたの所属と名前を教えてください」
「……何故?」
「先ほどの二択によって、僕の立場が変わることは理解してます? であれば、確認を取った上で正確な答えを提出しようと思いまして。連絡先を聞いておかないと、お答えできませんでしょ?」
「……現時点での答えを聞きたい」
「だから、分からないですって言いましたでしょ? 理解してます? では、『分からない』で納得していただけます? 無理でしょう? だーかーらー、質問を、持ち帰らせて、ください。分かりました? 理解できてます?」
「今答えてもらわないと困ると言っているっ!」
あんたの選択ミスのせいで話が進まないのに、なんで逆ギレしてるんだ?
あの二択は後者を選ぶべきだろ。
連れて行くことが目的なわけだから、誰か別の者の責任にして「手違いでした。すみませんでした」って、一度頭下げるだけで終わっただろうに。
そんなに頭を下げたくなかったか?
であれば、俺も折れるようなことはしない。
不手際を認めさせて、装備を取り上げられないようにしただけなのに……馬鹿だな。
「……なぁ……勇者様って、この間お披露目されてた使徒様のことだろ? 倉庫暮らしで食事も出されないって……神罰が落ちるんじゃないか?」
ほら。ほらほら、時間が経てば経つほど話が広がっていくぞ。
「勇者様の側には王女様がいたぞ? 王族が待遇を決めているとしたら……ヤバくないか?」
「いやいやいやっ! あの敬虔な王女様が許すはずないだろっ」
「でも、あの騎士が全員同じ待遇で、差別なんかあり得ないって言ってただろ? 理解できてますかー?」
誰かが俺の真似をしている。
そして鈍い音が響いた。
きっと殴られたのだろう。
「これ以上話がないようでしたら、これで失礼しますね」
「待てと言っているっ」
「最初から思っていましたけど、失礼な人ですね。誰何するなら、自分の名前と所属を言ってからにしてもらいます? 王女様への批判は報告しておきますので、御安心くださいませ。きっと二階級特進ですね。おめでとうございます。では御免」
「き、キッサマァァァァアッ」
我慢の限界が来たのか、騎士が剣を抜いて追いかけて来た。
俺は怖がるフリをしつつ、ドタバタと不細工な走り方をして逃走する。逃亡先はクソメイド待機所だ。
逃げ場を探しているときにクソメイドの気配を捉え、ネズミのお土産のことを思い出した。
しかし、スライムにしか会っていないからネズミはない。よって、お土産の代わりに、クソメイドとクソ騎士のお見合いをさせてあげることにした。
「た、助けてーーっ! こーろーさーれーるーっ!」
「――何事ですっ!?」
「死ねぇいっ」
クソメイドがいるテントに駆け込んだ瞬間、無様に足をもつれさせて隅に向かって転がる。
これでいつでも布をめくって逃げられるぜ。
「お止めなさいっ。ここをどこだと思っているのですかっ!? 衛兵っ! 早く捕縛なさいっ!」
「黙れっ! 黙れ黙れ黙れ黙れっ! キ○ガイ王女の金魚のフンめがぁっ! 貴様らの飯事のせいで、連日迷宮くんだりまで来るはめになっているのだぞっ!?」
相当ストレスを溜めていたのかな?
口角泡を飛ばしてすごい勢いで捲し立てている。
衛兵も同様に思っているのか、動きが悪く全然捕縛に動かない。
「しかも最初は、無能は訓練をさせずに迷宮で死なせ、死を直面させる教材にする予定だと聞いていたのにっ! 『死なせるわけにはいかなくなったので、すぐに捜し出して下さいっ! 指揮は私が執りますっ!』とか言い出しやがって、巫山戯るなよっ?! じゃあ迷宮に言って連携の指示を出せっ! こんなところで茶なぞ飲まずになっ!」
ごもっとも。
迷宮に行って捜してこいって、行かなくてもいい死地に向かわされたようなものだもんな。
しかも監視付きの。面倒いわな。
「――以上ですか?」
「は?」
「遺言は以上ですか?」
「――死ねっ」
===============
遅くなりました。
近況ボードを更新しました。
引き続きお読みいただければ嬉しいです。
迷宮内だから正確な時間は不明だが、感覚的に早く感じた。
それに先輩はともかく、ご主人様もすでに起きている。
朝のお世話というものは存在しないけど、今日出発する身としては早く起きておいた方がいいだろう。
「おはようございます」
「うむ。おはよう」
「出発のための荷造りしようと思うのですが、あの部屋の物ってどうすればいいですか?」
「そこに置いてある」
「あっ! ありがとうございます。ちなみにあの部屋ってどうなりました?」
「各部屋を貴殿の捜索のため開けられたくらいだ。討伐を後回しにして、片っ端から扉を開けることを優先しているらしい」
「もったいない。せっかくの御馳走を放置するなんて……」
「王国の騎士だろ? もっといい物を食べているだろ」
「そうですかね? ケチくさい国だから、ひもじい思いをしていても不思議ではないですけど」
お宝を没収する国とか……意味不明。
法律的にいいのか?
他国に行く前にその辺の勉強もしておきたかったな。
「ケチで思い出したが、外に出たらいろいろ没収されると思うから、スクロールもここで使っていけよ」
「え? でも、使い捨てですよね?」
「何を言ってる? 魔法発動の挙動と発動した魔法を見れば再現できると、今まで勉強して来たのではないのか?」
「そ、そうでした」
「うむ。本当は餞別に何かやろうと思ったのだが、没収されそうだからな。手紙や地図も没収されそうだな……どうするか。少し考えるから、貴殿はスクロールの魔法を習得していろ」
「はい」
こんなケチくさい国なんか、大海嘯で滅亡してしまえ。
なぁーんて。そんな酷いことは思ってない。
ただ、王族の交代はして欲しいな。
◆
スクロールの生活魔法は無事に習得した。
火属性魔法の《着火》や、水属性魔法の《清水》など、全属性持ちの本領発揮だ。
「なかなか良い方法を思いつかなかった。残念だが、少し痛い思いをしてもらう」
「――え?」
「左手を出せ」
ちょっと嫌かも……。
「……コイツに手伝ってもらうか」
「グルッ?」
いつの間にか起きていた先輩が頭を持ち上げ、「やってあげようか?」とでも言っているのか、うなり声を上げる。
「一人でできますっ」
手伝うって、手が潰れるわっ!
おずおずと左手を差し出すと、手の甲に爪を当てられる。
直後、貫かれたような激痛が左手に走った。
「――いっつぅう……」
「男だろ?」
それ、セクハラぞ?
「女性の……方が……痛みに………強い、らしいです……」
「我は、痛いのは遠慮したいぞ」
「グルグルッ」
「僕もですっ」
遠慮できるならしている。
俺には拒否権がないから手を差し出しているだけだ。
「そうなのか? ずっとスライムばかりを食べているから、苦痛愛好家だと思っていたのだが……」
ドMとでも言いたいのか?
それは誤解です。
「水スライムは美味しいですよ」
「水と光は別格だ。一緒にしてはいけない」
「グルグルッ!」
さすが先輩。俺よりも忠実だ。
「よし、終わったぞ」
「どうなったんですか?」
「手のひらの中に座標を埋め込んだ。大体の位置が分かるから、霊峰を越えたと分かったら、手紙と地図や餞別を転送してやろう。御褒美があった方が頑張れるだろ?」
GPSみたいなものか……。
実害は痛かったことだけで、特に困ることもない。
それよりも御褒美が嬉しい。
頑張れる、すごく頑張れる。
「頑張ります!」
「死ねば消えるから安心しろ」
「いや、安心以前に死ぬたくありません」
「なら頑張れ」
「はい」
そしてついにお別れの時間になった。
拠点に転移して、地上に戻る予定だ。
「グルグルッ」
「……なんて言ってるんですか?」
「また来いと言っている」
「報告もありますから、必ず戻って来ます」
「グルッ!」
「『約束だ』と言っている」
「はい。約束です」
差し出された前足を両手で掴み、約束を守ることを誓う。
「師匠、お世話になりました。強くなって戻ってきます」
握手をしながら頭を下げた。
「うむ。楽しみにしている」
ご主人様の言葉に返事をしようと顔を上げるも、目の前にご主人様や先輩の姿はなかった。
代わりに押しくらまんじゅうの域を超えたスライムが、俺の視界を埋め尽くしていた。
「――いってきますっ!」
◆
「待たれよっ!」
「……」
「そこの黒髪の少年っ!」
「……僕ですか?」
「そうだ」
「何か御用ですか? これから帰るところなんですけど」
「すぐに済むから質問に答えてほしい」
「わかりました」
騎士らしい装備を身につけた年配の男性が、数人の若い兵士とともに近づいてきた。
この人たちがご主人様が言っていた捜索部隊だろう。
いったい何の用で捜していたのだろうか。
態度や待遇から、別に死んでも構わないって感じたのだが、使い途でも見つけたのか?
そこはかとなく面倒な予感がする。
「君は勇者の一人で間違いないか?」
勇者と聞いておきながら「君」かぁ……。
しかもタメ口。
キチ○イ王女が様付けで呼んでいたけど、この違いはいったい……。
「召喚されましたが、勇者かどうかは分かりません」
勇者だと思ってないからタメ口なんだろ?
何かに利用するために機嫌を取ろうとしているけど、下手くそすぎて見てられない。
「……それはいったいどうして?」
「倉庫をあてがわれて、食事も出されず、馬車の御者も用意されないほど、どうでも良い存在だからです。『七勇』とか言われている人たちも同じ扱いなら、僕も勇者となるでしょう」
待遇の違いをそこそこ大きい声で、彼らや周囲の迷宮挑戦者に伝える。
これで同じと言ったら勇者たちを冷遇する愚か者になり、違うと言ったら俺だけ冷遇していることになる。よって、勇者ではないという意見が通るはず。
「…………同じなのではないかな」
まさかの前者。
前者を選んだ場合のリスクは結構大きいと思うのだけど……。
たぶんだけど、勇者の担当はキチ○イ王女だろう。
勇者を冷遇していることを承認してしまうということは、待遇を決めている王女の失態を晒す行為だ。
王国に所属している騎士が、あのキチ○イを敵に回すのか? ……正気ですか?
それに、すでにお披露目を終えているのかは不明だが、どちらにしろ生命神様が使わした者たちを冷遇していると宣言したわけだから、国民が何かしら行動を起こしてもおかしくない。
エルモアールは地球よりも神様が近いゆえ、神罰は普通に存在しているらしいからね。
だから、言わせていただこう。
「あんた、頭大丈夫か?」と。
「そうですか? では確認しますので、あなたの所属と名前を教えてください」
「……何故?」
「先ほどの二択によって、僕の立場が変わることは理解してます? であれば、確認を取った上で正確な答えを提出しようと思いまして。連絡先を聞いておかないと、お答えできませんでしょ?」
「……現時点での答えを聞きたい」
「だから、分からないですって言いましたでしょ? 理解してます? では、『分からない』で納得していただけます? 無理でしょう? だーかーらー、質問を、持ち帰らせて、ください。分かりました? 理解できてます?」
「今答えてもらわないと困ると言っているっ!」
あんたの選択ミスのせいで話が進まないのに、なんで逆ギレしてるんだ?
あの二択は後者を選ぶべきだろ。
連れて行くことが目的なわけだから、誰か別の者の責任にして「手違いでした。すみませんでした」って、一度頭下げるだけで終わっただろうに。
そんなに頭を下げたくなかったか?
であれば、俺も折れるようなことはしない。
不手際を認めさせて、装備を取り上げられないようにしただけなのに……馬鹿だな。
「……なぁ……勇者様って、この間お披露目されてた使徒様のことだろ? 倉庫暮らしで食事も出されないって……神罰が落ちるんじゃないか?」
ほら。ほらほら、時間が経てば経つほど話が広がっていくぞ。
「勇者様の側には王女様がいたぞ? 王族が待遇を決めているとしたら……ヤバくないか?」
「いやいやいやっ! あの敬虔な王女様が許すはずないだろっ」
「でも、あの騎士が全員同じ待遇で、差別なんかあり得ないって言ってただろ? 理解できてますかー?」
誰かが俺の真似をしている。
そして鈍い音が響いた。
きっと殴られたのだろう。
「これ以上話がないようでしたら、これで失礼しますね」
「待てと言っているっ」
「最初から思っていましたけど、失礼な人ですね。誰何するなら、自分の名前と所属を言ってからにしてもらいます? 王女様への批判は報告しておきますので、御安心くださいませ。きっと二階級特進ですね。おめでとうございます。では御免」
「き、キッサマァァァァアッ」
我慢の限界が来たのか、騎士が剣を抜いて追いかけて来た。
俺は怖がるフリをしつつ、ドタバタと不細工な走り方をして逃走する。逃亡先はクソメイド待機所だ。
逃げ場を探しているときにクソメイドの気配を捉え、ネズミのお土産のことを思い出した。
しかし、スライムにしか会っていないからネズミはない。よって、お土産の代わりに、クソメイドとクソ騎士のお見合いをさせてあげることにした。
「た、助けてーーっ! こーろーさーれーるーっ!」
「――何事ですっ!?」
「死ねぇいっ」
クソメイドがいるテントに駆け込んだ瞬間、無様に足をもつれさせて隅に向かって転がる。
これでいつでも布をめくって逃げられるぜ。
「お止めなさいっ。ここをどこだと思っているのですかっ!? 衛兵っ! 早く捕縛なさいっ!」
「黙れっ! 黙れ黙れ黙れ黙れっ! キ○ガイ王女の金魚のフンめがぁっ! 貴様らの飯事のせいで、連日迷宮くんだりまで来るはめになっているのだぞっ!?」
相当ストレスを溜めていたのかな?
口角泡を飛ばしてすごい勢いで捲し立てている。
衛兵も同様に思っているのか、動きが悪く全然捕縛に動かない。
「しかも最初は、無能は訓練をさせずに迷宮で死なせ、死を直面させる教材にする予定だと聞いていたのにっ! 『死なせるわけにはいかなくなったので、すぐに捜し出して下さいっ! 指揮は私が執りますっ!』とか言い出しやがって、巫山戯るなよっ?! じゃあ迷宮に言って連携の指示を出せっ! こんなところで茶なぞ飲まずになっ!」
ごもっとも。
迷宮に行って捜してこいって、行かなくてもいい死地に向かわされたようなものだもんな。
しかも監視付きの。面倒いわな。
「――以上ですか?」
「は?」
「遺言は以上ですか?」
「――死ねっ」
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