おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一

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第二章 一期一会

第五十六話 土産からの役割担当

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 森の小道に入って洞窟まであと少しというところで、森の西側から今まで最大の殺気が放たれた。

 とっさに《精神異常無効》と《状態異常無効》スキルを強く意識し、察知系スキルを全て活かし回避態勢を整える。

 魔力による防御は最大にして神器を構える。

「大丈夫だよー! この感じはぶーちゃんが怒ってるだけだから!」

「……ぶーちゃんって誰?」

「アークが親分って呼んでる熊さんのことだよ!」

 由来が気にならないでもないけど、親分が怒っている状況の方が気になる。俺の中の親分像はあまり怒らず、のんびりした熊さんだからだ。その親分が怒るとは、いったい何があったんだろ?

「アーク殿、馬がショック死した。どうする?」

「……だよねー。他にも死んだ生き物がいそうだね。人間とか……」

「そちらは大丈夫だ。運び出すときにうるさかったから強めに眠らせておいた。殺気で起きたかもしれないが、殺気も一瞬だけだったから大丈夫だろう」

 よかった……。運んできた意味がないとか最悪だからな。

「馬はしまってゴーレムで引きますよ。あと少しですしね」

「では吾輩は、他に有用な魔物の死体があるか確認してこよう。少しは森の魔物に還元する必要があるから全ては無理だがな」

「お願いします! できれば馬車が引ける魔物を!」

「任された」

 馬を馬車から外したあと、ゴーレムを創って馬車を引っ張っていく。元々すぐ近くだったこともあって、引き始めて十分も経たないうちに洞窟が見えた。

 ゴーレムの魔力を感じ取ったのか、食堂を兼ねた訓練場にペットたちが勢揃いして出迎えている。

「オカエリ」「シュルルーー」「ゲコッ!」

「ただいま!」

「たっだいまー!」「ガウゥーー!」

「ただいま戻った」

 意外に早かったな。もしかして、スライムさんにスキルと死体を渡すと思ったのか?

「スライムさんにお土産持ってきたよー!」

「ナニ」

「シュルルーー!」「ゲコォォーー!」

「ズルいと言っています! 差別は反対です!」

「待って、待って! エントさんからの提案で、別のスライムが持っている《吸収》と《変身》をハイドラさんとメーテルさんに移せば、エントさんやスライムさんみたいになれるんじゃないかと考えています! ただし、《変身》は《擬態》と違ってレアスキルだから時間がかかるかもしれません。最優先でやる予定ですから差別はしてません!」

「ゲコ?」

「どう違うの? と言っています!」

「《擬態》は《吸収》不要で姿だけ。《変身》は《吸収》が必要だけど、新規に吸収した能力や元々の能力を使える。見た目だけならどちらでもいいけど、《擬態》だとエントさんたちみたいにお話しできないよ」

「……ゲコーー」

「……我慢しますーー。と言ってます!」

 言い方まで再現してくれてありがとう。心にずーんと罪悪感が降りてくる言い方をね。

「では、早速分配をしよう。吾輩は猿獣人と《棒術》スキルを望む」

「……ボウ? ズルイ」

 気づいたか……。だが、策はある。

「スライムさん、四体が人間になったとき冒険者になるとします。町に行くには身分証明書が必要だからね。そのときに四人の役割を考えてみたんだけど、聞いてくれるかな?」

「キク」

「ありがとう。メーテルさんは水場でもみんなを守ってたし、ハイドラさんも一緒に棲めるように気配りしていた子だから、防御型の近接タイプが合っていると思うんだ。ハイドラさんはワニに挑む勇気を持っていて、ワニを衰弱させるまで追い詰めた武力がある。攻撃型の近接タイプが合っているんじゃないかな。もちろん、二人とも魔力的攻撃ができるから中距離以上も任せられるね」

 二人だけでも十分強い。それとメーテルさんを盾役にしたのは、前衛のコントロールを任せられそうだと思ったからだ。

「イムハ?」

 何故……名前を知っている……?

「……スライムさんはチビスラを統率できるし、臨機応変に姿を変えられるから斥候を兼ねた盗賊役がいいと思うな。武器は短剣や暗器などかな」

「ウーン……」

「優秀な盗賊は希少なんだよ? 悪い盗賊じゃなくて、職業としての盗賊だからね!」

「アークハホシイ?」

「もちろん!」

「ナル」

「良い子!」

「アーク殿、吾輩は?」

 説得のためじゃなかったっけ?

「エントさんは落ち着いて全体を見れる視野を持っているし、経験や知識もあるから、全体の指揮を執れる後衛に向いていると思います。基本的に魔力的攻撃が主体で、近寄られたら棒術か杖術で攻撃すればいいと思いますよ。最強の女性パーティーの完成ですね」

「ふむ。それなら、これからは必要なスキルを主軸に吸収していこう」

「タマさんが労働力を欲しているので、ほどほどにお願いしますね」

「うむ。わかった」

「それともったいないから、二頭のお馬さんはスライムさんにあげようかな。もしかしたら馬になれるかもしれないしね」

 エルフと同じなら三体以上は必要で、魔力が少ない普通の馬なら五体はないと変身できないだろう。でも捨てるのはもったいないからね。

「アリガト」

「どういたしまして」

 特別扱いするつもりはないけど、可愛いんだよなぁ。

「アーク! 時間がかかるならゴーレムさんを出してください! 魔水晶の採掘に向かわせてください!」

 そういえば帰りに、巨大タンクを造る量がないって話をしていたんだっけ。
 とりあえず小さめの鍋を造って我慢すればと言ったんだけど、ラビくんは首を縦に振ってはくれなかった。

「大きいタンクがいいんだね?」

「当然! 保存用の小さい鍋をつくってくれてもいいんだよ?」

 ラビくんの言う小さい鍋は、大きめの寸胴鍋のことだろう。本当に小さい鍋をつくったらブチ切れそうだ。

「……ゴーレムさん、魔水晶を掘り出してきてください!」

「……」

 ノシノシと迷宮に向かって行進してしていくゴーレムさんたちを、ラビくんとリムくんは敬礼をして見送っていた。

「エントさん、胸に刺しますね」

「うむ」

 神器をエントさんの胸に刺し、スキルと魔力を移していく。

「うむ……。少々痛いか?」

 ん? 従魔以外は痛くないのでは……?

 これは本格的にラビくんと話し合う必要が……。事と次第によってはドロン酒を減らさなければ。

「それと死体をどうぞ。女性になれるといいですね?」

「うむ。まな板とはおさらばしたい」

 また板なの? 男のシンボルとおさらばしたいんじゃなくて? 女性になったからといって、全員が膨らみを持っているとは限らないんだよ? 説明したでしょうに……。

「イムノ」

「スライムさんのは馬車の中だから、ちょっと待ってね!」

「マツ」

 可愛い……。巨体なのがまた……良い。

「差別はダメだよ?」

「してないよ。それとあとで話があるからね?」

「んーー? 何だろ?」

 首を傾げたりする仕草がいちいち可愛いけど、騙されてはいけない。知らぬ間にモフモフの計略にハマっていたかもしれないからだ。

「さて、起きてるかな?」

 馬車の後ろを開けると、いきなり全裸の男が飛び出してきた。それも二人同時に。

 当然、起きていることを知っていたし、声をかけたのもタイミングを取りやすくするためだ。
 何故そんなことをしたかというと、検証第二弾をしたかったからである。白虎ちゃんや白虎ママではできなかった《身体硬化》だ。

 扉を開ける前から《身体硬化》を発動しており、魔力の消費量次第で硬度が変化するというのも確認できていた。
 あとは防御に徹したときに相手に及ぼす影響や威力の検証だけだったのだが、思いの外威力が高かったのと、攻撃手段が頭突きだったせいで瞬殺してしまった。

 後ろで手を縛っていたから頭から飛び込む体当たりしかないとはいえ、最後は首の骨を折って亡くなるとは……。まぁその前に頭蓋骨骨折はしていそうだけど。

 事故とはいえ亡くなってしまったのだ。サクッと能力をもらおうではないか。二つとも欲しいと言えば欲しいスキルだ。虎獣人らしくパワー系で魔力量は少ないけど、《斧術》と《盾術》を持っている。

 斧だよ? オークちゃんと同じだよ。

 盾も白虎ママに襲われたときに欲しいと思ったから、ある意味ラッキーだ。

 二つともノーマルスキルだから痛みも慣れ、特に気にならなくなってしまった。
 しかしその瞬間、両手を広げて歓迎しているドM勇者の幻像が見えた……。

 慣れちゃダメだ。絶対に……。

「死体はどうするかな?」

「イム殿にあげれば良かろう。斥候なら獣人の感覚がより多く必要であろう。そこの娘も猫獣人なら相性が良さそうだ」

「なるほど。では、運ぶのを手伝ってください」

「よいぞ」

「それと……おさらばできました?」

「下のものはな。だが、まな板はまだだ……」

 すごい不満そうだ……。おめでとうと言いにくいではないか。

「スライムさん。スキルと魔力はもらっちゃったけど、二体の虎獣人をどうぞ」

「ウン」

 体を伸ばして死体を掴むと、体内に引き込んでいく。スライムさんは闇属性がメインらしく、全体的に黒い体をしている。ただサブ属性が火属性らしく、中心に向かって徐々に赤くなっていく。

 まるで闇を照らす星のようで、その神秘的な体も魅力の一つである。

「アトスコシ」

「じゃあメインの猫獣人だよ。《短剣術》と風属性を持ってて、まだ死んでないよ」

「カゼ。オナジ」

「そうだね。同じ風属性だね」

「シュルルーー!」「ゲコーー!」

「ズルいぞ。魔術は吾輩の領分だ」

 盲点だった……。

「ワタサナイ」

「そうだね。今日はいっぱい我慢したもんね」

「ウン」

 集中する視線が痛いが、今日は譲ってあげなさいよ。これもダメって言ったら、それこそ差別になっちゃうよ。

「今日はスライムさんの日。みんなはまた今度ね。ラビくん、説得してあげて!」

「任せて!」

 俺は馬車から降ろした猫獣人の対応しなければいけないのだ。

 目の前に脅威度五の巨体魔獣が三体も現れて、ピヨった上に足腰が子鹿モードになってしまった兵士を処刑台に連行する。
 下半身が汚物塗れだから、足元に穴を掘ってから水魔術で洗い流した。汚いままスライムさんにあげたくないのだ。

「あ……あんた……」

「あの子たちはペットです。あんたらのせいで今日が命日になるところでした。俺は自力で生き残ったので、あなたも自力で生き残ってください。最後にロープから解放しますのでね。それではさようなら」

「やめ……やだぁーー!」

「今、観客を連れて来るので待っててくださいね」

「一人にしないで……! イヤ……イヤァァーー!」

 無視してエルフの二人と鏡餅を連れてくる。エントさんはラビくんに説得されてる最中だから、ゴーレムさん創って手伝ってもらっている。

「ちょっと何するのよ! 私が誰か分かってるの!? 絶対後悔しますよ!」

「無礼者! お嬢様に触るなーー!」

「ここは……。何故僕は裸なのだ……?」

「エルフさんが見たいと言ったから」

「なんと……! そのような趣味があるとは……!」

「デタラメを言うな! 誰がそのような汚物をっ!」

「では、もっといいものをお見せしましょう。こちらへ!」

 馬車の後ろから出すと、そこには異世界版三竦みの姿が。
 すでに猫獣人と同様の粗相をしてしまっている。バッチイから温水洗浄便器を再現して洗ってあげたのだが、初めての体験と水の勢いのせいで少しだけ上に跳びはねていた。

「プッ……」

 思わず笑ってしまったのは仕方がないだろう。ラビくんたちも見てたようで、耳がフルフルと揺れるほど笑っていた。……可愛い。

 ラビくんには悪いが、やっぱり兎にしか見えないのだ。手足が短く、ずんぐりした丸い体にウサ耳。これで狼と主張する方が難しい。

 でもステータスに【耳長銀狼】と書かれていたから狼なのだろう。いつか四足歩行バージョンも見てみたいものだ。

「それでは猫獣人さん。いざ、裁きへ! 始め!」

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