暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一

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第一章 無人島

第二十話 通貨

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 あのあと、異世界百貨店のレストランで買った晩御飯を、みんなで食べた。もちろん、プルーム様も一緒に。
 俺とボムは、弟子扱いらしく、プルーム様と呼ぶことになったのだ。俺は、カルラがボムのことを父ちゃんと言い、プルーム様のことを母ちゃんと言うのなら、夫婦なのでは? と思ってしまったが、それを察したのか、若干睨まれた。

 理由は、ボムが嫌なのではなく、未婚で一度も番になったことないのに、夫婦と呼ばれるのは心外だそうだ。
 ちなみに、プルーム様は人化スキルで竜人族のような格好をしている。姿は黒い角を頭に生やし、赤い瞳は変わらず、深い緑の髪が腰くらいまである、スタイル抜群の美人だった。だが先ほどの威圧のせいか、何とも思わなかった。しかも服は、パーティードレスみたいな、セクシーなやつだったのにかかわらずだ。

 ご飯は無礼講らしく、楽しく食べた。
 プルーム様の一番のお気に入りは、お酒のようで、ビールを樽で抱えて飲む姿は豪快である。そして、「これで獅子王に自慢ができる!」と、言っていた。初めての味に、大満足し、晩ご飯は終わった。ただカルラは昨日初めて入った、お風呂が忘れられないらしく、ずっとソワソワしている。

「カルラ? どうしたのじゃ?」

『お風呂は? お風呂は入らないの?』

 円らな瞳で上目遣いをされたら、破壊力抜群だ。困ったプルーム様は、俺を見る。目が「なんとかせい」と言っている気がした。

 だが、残念ながら工務店はアンロックしていなかったため、造れないし、売っていない。昨日一回だけ入ってハマるとは、思わなかったのだ。だが、さすが女の子だ。本能で風呂はいい物だと、認識しているのだろう。

 どうしよう……。
 ないとは、とても言えない。
 いつの間にか、ボムもカルラ側に回っているし、どうしたら……待てよ? 浸かるだけなら、魔術でどうにかなるかもしれない。洗い場は微妙だ。森羅魔術はあんまり使わないから、苦手なのだ。ヨシッ! そうしようと思ったら、カルラがお風呂の良さをプルーム様に語っていた。

『あのねあのね。お風呂はね、まず体を洗うの。一日の汚れを疲れと一緒に洗い流すんだよ。その日嫌なことがあっても、一緒に洗い流すの。そしたら、いよいよ暖かい水に浸かるんだ。暖かい水は、お湯ってい言うんだって。とっても気持ちいいの。お湯に浸かっていると、体が溶けてしまうようで気持ちいいんだよ。
 今日は母ちゃんと一緒に入るの。気持ち良さを教えてあげたいの。父ちゃんとも入るの。父ちゃんの体洗うのとっても楽しいからね。兄ちゃんは、体洗うの上手だから、体洗ってもらうの』

 そう、楽しそうに語るカルラに、「洗い場ないよ」なんて言えない。言った瞬間、プルーム様のグーが飛んできそうだ。しかもドラゴンバージョン。プレッシャーが強くなってしまった。親馬鹿コンビによるダブルパンチだ。

「プルーム様、開けた場所を貸してください。あと、カルラ。準備してくるから、お菓子食べて待っててな」

 そう言って目の前に、クッキーを山ほど出して置いた。

『わーい! 待ってるー!』

 そう言ってクッキーを囓りだした。
 親馬鹿コンビは、微笑ましい光景を幸せそうに眺めてるのだが、ボムだけ楽をさせるわけにはいかない。

「一人では時間がかかってしまうため、ボムに手伝いを頼んでもいいですか?」

 なんで俺の従魔なのに、プルーム様経由でしか手伝おうとしないんだ? と思う。俺もカルラを見ていたいのに……。

「そうか? では、手伝ってやれ」

 ボムは渋々、後ろ髪引かれる思いで、手伝いに来た。

「本当に俺が必要なのか?」

 気づいてらっしゃる。
 だが、早くなるのは間違いない。
 ボムは大地魔術が使えるからだ。
 そして、ボムには風呂場を指示して造ってもらい、俺は、森羅魔術の準備をする。勝手に、生えてる木を使うのは気が引ける。だが魔術で造った木だと、魔素に戻ってしまう。

 ということで、ストレージに入っている、城から持ってきた素材を元に、小屋を建てることにした。小屋の設計図は、プモルンに頼んで図書館のデータベースからプリンタでコピーしたものを使った。そして、ボムが完成させたようだ。横で待っててもらって、魔術を発動する。

 ――森羅魔術《操樹》――

 すると、木材が設計図通りにウネウネ動いて、出来ていく。今回は全自動なため、木組みという手法で造ってみた。全自動で楽だと思われがちだが、使い手が一番少ないのが、森羅魔術だ。
 攻撃的なイメージではない上、繊細で、緻密な魔力制御と完成予想図や設計図が必要になるのだ。故に、人気なのは火炎魔術と雷霆魔術だ。奇しくも、あの適当コンビの象徴魔術が人気なのだ。

 ようやく出来た。
 あとは、ストレージ内の素材を使って造った、風呂の魔道具のコピーをボムと設置して、湯を張り、完成。早速カルラを迎えに行こう。


「カルラ。出来たぞ。さあ父ちゃんと一緒に入ろう」

 まさか先に言われるとは……。
 だが、うちの子はいい子なのだ。

『父ちゃん、兄ちゃん。お風呂造ってくれてありがとう。一緒に入ろー♪』

 造ったかいがあると、実感する。
 ボムは横で、感動して震えてる。

 道具を持って、いざ風呂へ。
 
 ここで、問題が発生した。
 俺以外は人間ではないのだが、俺の近くにいる生物で人間に近い動物は、熊なのだ。もちろん毛はある。だが、プルーム様にはないのだ。ボムに慣れてしまっていて、気を回さなかったのだが、目の前の美女がいきなり全裸になったら驚くだろう?

 今の心境は、それだ。だが、さすがである。種族が違うと何も思わないらしく、気にする様子はゼロのようだ。なら、こっちだけ気にしたら、負けた気がする。明日から修行で負けっぱなしになるのだ。今日くらいは勝ちたい。それにカルラの教育によろしくないからだ。まだ、生まれて一日なのだ。そういう機微は、ゆっくりでいいのである。

 まずは、一番時間がかかるやつから、やってしまおう。ボムを寝かせて、ゴシゴシッゴシゴシッ洗う。はしゃぐカルラに、目の前の様子に衝撃を受けるプルーム様。そして、目を閉じ、口を閉じ、指示通りに動くボム。それを必死に洗う、俺。

 生活魔法があるのだから、「適当でいいじゃん!」と、言ったことがある。そしたら、それはそれ、これはこれ。全く違うものだと、ソモルンと二人で抗議をしてきた。俺が折れたとき、二人でハイタッチをしていたのは、微笑ましい光景だった。

 あと、ソモルンには一つだけ魔法を教えてもらった。俺のユニークスキルの全魔対応でも、ソモルンの使う星霊術は覚えられなかった。テイムも出来なかったのだ。故に、本当に特別な存在なんだと実感する。そして、そんな中、他の魔術で対応出来た唯一の魔法が、ボムの水を落とす魔法だ。「これだけは絶対に覚えろ」と、プレッシャーをかけられたから、かなり頑張ったのだ。

 結局重力魔術と流水魔術の同時展開という、大魔術になったのである。それを口から出す魔法陣だけでやってしまう、ソモルンっていったい……と、思わなくもない。だが、可愛いからいいのだ。

 そんなことを思い出しながら、全員洗い終わり、湯へ。自分で造った風呂釜なんだから、深くすればいいのに、カルラに言われた、

『横になって入る父ちゃんが可愛くて好きー!』

 という一言で、いつもと同じ深さで造っていた。それに、その方が水の節約になるだろ。と言っていたが、水は魔術で作るので関係ないのである。結局は素直じゃない、ツンデレ熊さんなのだ。

 お風呂を堪能した後は寝るだけなのだが、寝る場所はテントだ。こればかりは、本物を見たことないし、基本引きこもりの賢者にテントは必要ないため、空間拡張機能付きテントの資料がなく、作れなかった。本屋で資料を買おうとも思ったのだが、金が足りなかった。

 今まで無人島で必要なかったため、あまり気にしていなかったが、この世界の常識という本を買って、読んだことで通貨が分かった。単位は【ギル】というそうだ。各一枚での単位で、次のようになる。

【星金貨】一千万円
【白金貨】 百万円
【金貨】  十万円
【銀貨】  一万円
【銅貨】  一千円
【鉄貨】   百円
【青銅貨】  十円

 というように、日本と同じだ。
 星金貨は基本、国同士の支払いにしか使わないらしい。白金貨は大きな商会を持つ商人なら、扱うこともあるそうだ。金貨は高ランク冒険者か商人だそうだ。あと、この世界は中世ヨーロッパに近いらしく、平民は、人数にもよるが、金貨一枚あれば生活出来るそうだ。基本は銀貨以下になるわけだ。

 賢者たちが持っていた硬貨も、銀貨が一番多かった。あっても、金貨までだ。そして基本、本は高く、だいたい金貨。だが白金貨はなかった。今までは。

 件の時空魔術の付与方法が書かれた本は、星金貨十枚だ。まず見たことないし、国が管理しているらしいから、誰も持ってない。一億分の他の硬貨で用意したとしても、売る物にも限りはある。基本的に、攻撃されて身の危険を感じるか、食べるためか、冒険者の依頼以外は狩りたくない。あのやんちゃそうなボムでさえ、そうだからだ。

「理性あるものは、自分の必要としているものだけで良いんだ」

 と、哲学めいたことを言っていた。


 そんな理由から、それぞれに一つずつのテントを用意したのだが、お気に召さないようだ。誰がカルラと寝るのかをもめている。まあ俺は寝るとしよう。どうせ勝てないのは、目に見えているのだから。

 どこかに新たな可愛いモフモフはいないものか思いを馳せ、カルラを取り合う声を聞きながら、眠りに落ちていったのだった。
 

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