暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一

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第三章 学園国家グラドレイ

第七十七話 喧嘩

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 その後は、表彰式と閉会式を行った。表彰式では、ヒヒイロカネで出来た、短剣をもらった。これも、俺の提案である。魔法金の【ヒヒイロカネ】。魔法銀の【ミスリル】。魔法銅の【オリハルコン】で、金銀銅を表した。

 だが、ミスリル以外は、手に入りにくい。そのため、ミスリル以外は、表面だけである。ミスリルだけは、刃の部分だけは、全部ミスリルで出来ている。一番得をするのである。しかし、賞金が出る。

 そして、お使いである大会も終わったため、この国ですることは、もうない。これでやっと、出国出来る。一人考えていると、グリードと学園長が、あいさつをしにきた。

「大変お世話になりました。次来られたときには、逆に、お世話をする側に、なってみせます。どうか期待していてください」

「楽しみにしています」
 
 お互いにあいさつを済ませ、ボム達とプルーム様の下へ。道中、ずっと聞きたそうにしている、二人。だが、ここで邪魔が入る。……『深淵』だった。

「最後のアレは何だ? お前は、魔王なのか? 魔法であんなことを出来るわけない!」

 横には、反省中のシルバがいた。怒られるだけで済んでよかった。中には、暴力を振るったり、殺したりする者もいる。コイツは、言葉は汚いが、阿呆ではないらしい。

「あれは、魔術で創った、使い魔ですよ。魔王だと、よく言われますが、努力の結果です。魔力操作と魔力感知が、魔術を使うコツです。頑張ってみてください」

 シルバを、怒るだけで済ませたお礼に、魔術のコツを教えた。

「……そうか。我も、まだまだか。また頑張るか。なぁ、シルバ」

 そう言ったあと、お辞儀をして去って行った。天狗よりも、ずっと真面だった。



「……使い魔なのか?」

 ついに、我慢しきれなくなったのだろう。先ほどの魔術について、ボムが聞いてきた。

「そうだ。内緒にしていて、ごめんな。奥の手だったから、驚かそうと思って。それに、召喚するのに、大量の魔力を消費するんだ」

「俺が弱いからか?」

「違う! ダンジョンから、皆が無事に出るために、用意した。ボムなら、そう言うと思ったから、出さなかった。使わないで済むなら、それでいいと思ったからだ。だが、隠し事をしているのが、辛かった。だから、今回折檻の代役として出した。ボムは、俺が強いから一緒にいるのか? 俺が弱かったときから、ずっと一緒にいてくれたのに、なぜ強さを気にする? ボムが、神獣になりたいのは、知っている。だが、強いだけが全てじゃないだろ? それに、俺がボムと一緒にいる理由に、強さは関係ない!」

「すまん……」

「ボムちゃん……ラース……」

 久しぶりに喧嘩してしまった。無人島にいたときも、何回か喧嘩をしていた。だが、俺が怪我をしたからか、最近は強さにこだわりすぎていた。そして、俺が強くなったら、離れて行ってしまうと、思っているらしい。

 俺が、ラースとして転生してから、ずっと側にいて、守ってくれてた存在だ。それは、肉体だけじゃなく、心も守ってくれていた。でなければ、とっくに、心が折れていた。俺にとっては、家族なんてものじゃなく、半身と同じだった。そんなボムを置いて、何処かに行くはずがない。そして、そう思われているのが、すごく悲しかった。

「俺は、お前の案内役だから、怪我させたのは、俺のせいだから、強くならないとって思って……。弱いから、あの使い魔が必要になったなら、あの使い魔がいたら、もう俺はいらないのかと……。ガルーダもいるし。プルーム様もいる。案内役は、不要なのかと……。すまん……」

「じゃあ、ボムが怪我をしたら、俺のせいなのか? あれは、俺のミスだ。武器を用意せず、強力な魔術を使っただけだ。ただの慢心だ。火神様が言う、案内役とは強くなきゃ駄目なのか? それなら、何故最初から、神獣をつけなかったと思う? 最強とか言ってた、虎でよかったということだろ? 強さは、あまり関係なかったんだ。それに、俺はボムがいいんだ。だから、そんなこと言わないでくれ」

「すまん……。焦ってたようだ。もう言わない。俺も楽しいから、いるんだ。強いからじゃない。すまん」

「ボムちゃん……ラース……」

 俺とボムの喧嘩を、間近で見ていたソモルンは、泣いてしまった。きっと、バラバラになってしまうと、思わせてしまったのだろう。悪いことをした。そして、仲直りした俺達は、VIP席に戻ると、モフリスト共と、王女とカトレア。それから、カルラが号泣していた。……コイツら、盗み聞きしていたな。

「なかなか面白い闘いじゃったぞ! ボムは、早すぎじゃ。もうちょっと、見たかったぞ。ラースは、いつも通りじゃったな。あの使い魔には驚いたが、使い勝手が悪そうじゃ。じゃが、二人とも十分、十大ダンジョンに挑める実力を見せた。教国では、楽しみじゃな」

「俺も……ですか?」

 不安そうに、プルーム様に聞く、ボム。

「そうじゃ。気づいておらんのか? ボムは、ラースのことを見過ぎて、自分のことが見えておらんようじゃ。強さだけなら、十分神獣になれるぞ。【賢獣・九尾】の強さを、しのいでおる。属性竜の老竜クラスじゃな。ボムに足りないのは、自信じゃ。ずっとラースが、戦闘をしてきたのじゃろ? 今日のように、楽しくなって集中してしまうほどの、戦闘勘が戻れば、実感出来るようになる。ダンジョンは、今日のように、やり過ぎるくらいが、ちょうどいい。すぐに、分かるじゃろ。それから、あの竜はどうした?」

 プルーム様の言葉に、嬉しそうにするボム。そして、その周りを囲む、子熊達。

「な……何なのだ? お……おい。離れろ。親は、向こうにいるだろ!」

 ボムを慰めたいのか、周りを囲む、子熊達。だが、ボムにとっては、迷惑でしかないため、振り払おうとするが、デカいため無理だった。そして、酒のつまみを気にする、プルーム様。

「もちろん、もらってきました。鎧や武器になりそうな部分は、置いてきました。解体のサービス付きで。まぁ、しばらくは起きられないでしょうが」

 そして決まる。本日のメニュー。ドラゴンパーティー開催である。故に、早めに帰るのだった。もちろん、転移で。



「「「「いっただきまーす!」」」」

 目の前に広がる、ステーキや焼肉。すき焼き、もつ鍋と、豪華な肉料理の数々。俺は、神様にお供えをして、閣下にもお供えをして、リオリクス様にも、お供えをした。その後、それぞれ竜を堪能していき、今回用意した料理がなくなった頃、酔っぱらったプルーム様が、ポロリと一言。

「褒めてたぞ」

「誰がです?」

「リオリクスに決まっておるじゃろ」

 俺の言葉に、そう続けるプルーム様だが、俺はツッコみたかった。「決まってねーよ!」と。だが、いつ見ていたのだろうか。【神魔眼】でも、分からなかった。

「何処から見てました?」

「VIP席からじゃ」

「えっ? いたんですか?」

「そうじゃ。出て行った弟子の成長と、お前達の成長が見たかったんじゃと。勝てば官軍の話をしたら、怒っておった。今頃、折檻でもしておるのかもな。そして、自信の弟子の成長に、ガッカリしていたわ。《岩槍》に貫かれるほど脆い、属性纏など、偽物だと言っておったわ。対して、お前達二人は、力をつけたんだから、早くお使いを終わらせて、俺のダンジョンに来いっていってたぞ。じゃが、アイツのダンジョンではないがの。最後に、ソモルンとボムのゴーレムを、自慢して帰って行った。まぁ、我には本物がいるから良いが、ローズ達は羨ましそうにしてたな」

「当然ですわ。フワフワモコモコでしたのよ。子熊達にも優しくしてくれて。名前は、モンタとボンタですって。可愛いわ」

 そう言いながら、だらしない顔になっていた。それにしても、VIP席にいたのは、驚いたな。だが、ボムが嬉しそうにしているから、よかった。ところで、ボムのお使いの内容を、しっかり聞いたことがなかった。

「そう言えば、ボムのお使いって何だ?」

「詳しく言ってなかったな。大陸の東に、聖獣の聖地がある。そこの聖獣は、その島で生まれた者しか、聖獣と認めないそうだ。そして、そこには【世界樹】がある。この世界で、たった一つの樹だ。そのこともあって、プライドの高さが、尋常ではない。だが、獅子王神様は、ダンジョンの攻略もしないし、引きこもっているだけの者に、腹が立ったため、そのプライドを叩き潰したあと、その島の覇者しか飲めない、世界樹の酒をくんでくることが、お使いだ」

「聖獣がダンジョンを攻略するのか?」

「んっ? 十大ダンジョンは、聖獣のために作られたんだぞ。最初は神々が人のために与えたけど、攻略されないし、聖獣が暇そうにしてるし、弱くなっていたから、聖獣の遊び場所として、提供することにしたんだ。【創世の塔】は、創造神様の希望もあって、未だに人のためだけどな」

 なるほど。これで納得した。難度の高さ。攻略させる気がないほどの、強さを持った魔物がいるダンジョンに、誰が行くのか、ずっと不思議だったが、聖獣のためなら、納得の強さである。

「じゃあ、教国の後は、そこに行ってもいいかもな。まぁ、それまでに飛行船出来るか、分からないけど」

「ちょっと待つのじゃ!」

 俺とボムが、相談していると、王女から待ったがかかる。

「……どうしました?」

「教国の後は、グリフォンじゃろ?」

「どうやって、行く気ですか? ちなみに、転送は駄目ですからね」

 俺が釘を刺すと、王女とモフリスト共の目が、一斉にカトレアへと、向いた。

「飛行魔道具の約束。優勝した」

 覚えてやがったか……。ここで、知らないふりは、出来ない。酔っぱらったプルーム様は、手加減が出来ないからだ。今日、折檻を受けるのは、避けたい。

「カトレアだけですね」

 すると、俺を取り囲む子熊達。ボムの気持ちが、すごく分かる。

「な……何かな?」

 子熊達は、自分のマントを、俺に見せてきた。そして、指を指して、何かを訴えてきた。俺は、目を合わせないように、下を向くが、後ろからガルに顔を掴まれ、無理矢理上を向かせられた。

「ざ……材料が……」

「私の羽根なのだろ? もうないのか?」

「……あります」

 さすがに、神様に嘘をつけなかった。そして、ボムの大きい手が、肩に置かれた。

「諦めろ。俺は、諦めたぞ。この子熊達は、しつこいからな。俺は、今日は長湯だから、モフリスト共が出てきたら、俺を洗ってくれよ」

 どうやら、あのとき囲まれていたのは、一緒に風呂に入ることを、迫られていたらしい。まぁ明日には、出国予定だ。全て終わらせよう。教国の後、グリフォンの保護区に、行かなければいいだけだ。一人、そう思っていたのだが、上手くはいかないらしい。

「プルーム姉様、お世話になりました。グリフォンの保護区で会えるのを、楽しみに待っています。それまで、一生懸命勉強します。最悪、王国の学園に編入します」

「その方がいいじゃろ。我も、会えるのを楽しみにしておるぞ。また会ったときに、いろいろな話を、聞かせてくれ」

『カトレア。絶対来てなの……。また会いたいの』

 これで、行かなくてはならなくなった。班を分けると言うと、また怒られるんだろうな。出来れば、もう怒られたくはない。

「シュバルツさんにも、飛行魔道具を渡さなきゃいけませんが、魔力纏は、出来るようになりましたか?」

「この度、属性纏も少しなら、出来るようになりました。属性は、火炎です。ガルーダ様やボムさんに、教えてもらいました」

 衝撃だった。すごい。王国にいた頃から、真面目に修業していた、成果が出ていた。さらに、ボムのことを、さん付けで呼んでいて、ボムに教えてもらっていたとは。

「ボムさんに、そう呼べと、諭されまして。ソモルンさんは、呼び捨てか、君がいいと言われましたが、無理でした。そして、何故教えてくれたかは、最近知りました。組み手要員だったんですね。修業になりましたが、死ぬかと思いました」

「そうですか。また、諭されたんですね。属性纏が、出来るようになったなら、安心ですね。騎士用の、マントにしましょう。配置換えに、対応出来るように、色の変更と、サイズ自動調整機能もつけますね。これも、使用者固定と、盗難防止装置をつけますから、安心して使ってください」

「ありがとうございます」

「真面で努力する者には、褒美は大切でしょう。機会がありましたら、召喚獣を得るのも、いいと思いますよ」

「はい」

 そして、この屋敷で過ごす、最後の夜は更けていくのだった。




 ◇◇◇




「そこに並べ!」

 立つのも辛いほどの、重傷を負っている者が二人と、グリード、そして試合を観戦していた、その他の弟子達。その中には、お忍びで来た、ミルドガルもいた。実力者や権力者が、整列している目の前には、熊と怪獣のぬいぐるみに挟まれた、人物が。

 その人物は、怒りに満ちた表情をし、周囲を威圧していた。そして、その怒気が漏れないように、必死で結界を張る、【神馬・スレイプニル】。そう。怒れる人物とは、【獅子王・リオリクス】だった。

「それで、勝てば官軍って、代々受け継がれているらしいが、俺がいつそんなことを言った? 女の子を、ネチネチいたぶる武術や、技術を誰が教えた? 俺が教えたということで、いいのか?」

「そ……そんなことは、ありません」

 一人の弟子が、必死で答える。だが、コイツは天狗の教育係で、現在も交流があった者だった。つまり、天狗一家の一員だった。そして現在、保身に必死であった。

「じゃあ、教育係のお前が、教えたということで、いいんだな? しかも、あんなふざけたものが、属性纏だと? たかが、槍の魔術なんかで、防御型の属性纏が、破れるわけねえだろ。そんなものは、魔力纏と変わらねえ。さて、せっかくいいものを見られたわけだから、気持ちよく酒を飲みたかったのに、邪魔してくれたお前らには、お礼をしなきゃな」

「ちょっと待ってください。最後のは、ズルをしたんです。師匠を呼ばれたら、勝てません」

「はぁ~。あれは、アイツが創った使い魔だよ。俺じゃねえから。しかも、弟子に不正行為を、させてたらしいな。まぁ、ソイツは天罰を喰らったらしいから、いいわ。それより、お前は獅子族なのに、国外で負けるとか、国に帰れなくなったな。それに、もう俺の弟子は、名乗らせないからな。じゃあ、教育係と天狗。並べ!」

「「そ……そんな」」

 グリードとミルドガル達によって、無理矢理並べられ、グリード達は、退避した。そして、繰り出される、右ストレート。二人は、吹っ飛び、そのまま意識を失った。

「じゃあ帰るが、二度と阿呆な真似するなよ。はぁ~プルームが、羨ましいぜ」

 そう言い残して、ぬいぐるみとともに、去って行った。ミルドガルは、ラース関連で二度目の、怒ったリオリクスに会っていた。出来れば、もうラース達には、関わりたくなかった。だが、世の中、そう上手くはいかないのだった。

「くそっ! 我らを、ないがしろにしていらっしゃるのに、あのガキと熊がいいとは、どうされてしまったのだ?」

 と言う、阿呆弟子。だが、コイツは高弟であり、属性纏を使える、実力者。ミルドガルには、意見出来ない相手だった。故に、無視するのだった。それが、後に自身を苦しめるのだが、今はまだ知らなかった。




 ◇◇◇



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