暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二八話 増える居候

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 街道で熊獣人を拾ったのはいいけど、おっさんは気遣いという言葉を母親のお腹の中に置き忘れて来たらしい。
 子供の俺が二十匹の兎を荷車で運んでいる姿を見ても、「手伝おうか?」の一言も言わない。日常的にやってもらう側なのだろう。

 そして、俺はおっさんの正体に当たりをつけていた。

 子爵領の領都に知り合いがいる熊獣人で、いつもと違う帰り道だけど東部に帰ってきた貴族。
 ここまで情報があれば、九分九厘想像通りの人物だろう。

 貴族はできれば関わりたくないんだけど……どうするべきかな。

「あらぁ、早かったわねぇ」

 え? 何でいるの?

 なぜかルイーサさんの声が突然聞こえてきて、聞こえてきた方向に視線を向けると、衛兵の制止を振り切って走ってくるところが見えた。
 後ろには見知った顔や見知らぬ顔が並び、常識人らしき人が衛兵に謝罪していた。

 ブルーノさんと一緒に歩いて来る人の中にギルドで会ったドワーフさんがおり、そこから察するに土地関係の人だろうことが窺える。

「怪我はない?」

 少し視線を外していた間に、ニアとイムレを乗せたルークとルイーサさんが近くに来ていた。
 ルークはともかく、ルイーサさんの速度に一瞬驚く。

「どうなの?」

「なんともありませんよ」

「よかった。それで、彼はだぁれ?」

「…………」

 そんなすがるような目で見なくてもいいのに。

「……空腹で倒れていたので、どこかいい場所がないかと宿で聞こうと思って」

「ん? どこで聞くの?」

「ですから、宿で……」

「ん? どこ?」

 店名を言ってないからか?

『主、ナディアが家って言ってる』

 ナイスッ。

 誰にも聞こえないイムレの念話だからこそ可能な秘匿回線は、カンニングには最適な手段である。

「家で聞こうかと」

「そうよね。間違えたらダメでしょう?」

「はい」

 そうだ。別の話にすり替えよう。

「それで、皆さんは誰で何しに?」

「ほら、土地のことよ」

 やっぱりか。

「でも、権利書はブルーノさんが持ってますよ。それに条件は武器屋さんと一緒ですしね」

「うーん、でもみんなお礼を言いたかったんだって」

「なるほど。とりあえず町の中に入りませんか? 肉のこともありますし」

「そうね。それにしてもたくさん獲ってきてくれたのね」

「角が欲しかったんです」

「角? 何に使うの?」

「投擲ナイフの代わりになるかなと思って」

「確かに友達が使っていた記憶があるわね」

 熊獣人が空気になっているから、手で合図を送ってついてくるように伝える。

「重くない? 代わる?」

「大丈夫ですよ」

「ニアもおすーー」

「危ないからルークの上に乗ってて」

「えーー」

「これは適当に作ったから、素手で触るとチクチクするんだよ」

「おにいちゃんも、おててすでだよ?」

「僕は蔦を巻いてるからね」

「ほんとだ。……おとなしくする」

「偉い。良い子」

「えへへへ」

 ちなみに、ニアを乗せているルークはと言うと、ウサちゃんの一番上に載ったボスウサを見つけたらしく、ブルーノさんに自分のものだと主張していた。
 ブルーノさんは俺に視線を向けてどうするかを問い掛けてくれ、イムレにも分けてあげるように言った後、ルークにあげることを伝えた。

 熊獣人はルイーサさんによる質疑応答に正直に答えており、そのおかげで宿泊を認められていた。
 元々変わったところで宿屋を経営している時点で、何か変わった条件があるだろうなと予想していたが、ルイーサさんによる質疑応答だとは。

 内容は利用目的がほとんどで、他には差別的なことをしたら追い出すなど、常識的なことの説明だけ。
 利用目的は他に場所を知らないからだったけど、ルイーサさんは何も言わなかった。

「さぁお家に帰るわよ」

「はい」


 ◆


 宿屋までの道中、立ち退きの被害者たちに感謝された。
 周囲が工業区だけあって、生産系の工房が併設されている土地が多く、何か欲しいものがあったらいつでもおいでと声を掛けてもらった。

 個人的には武器屋と革製品の工房はすぐに行きたいとおもっているから、場所を聞いて行ってみるのもありかもしれない。
 抜き身でナイフは使いづらいし、投擲ナイフ用のホルダーも欲しい。さらに、ポーチや鞄も欲しい。防具はともかく、小物系はできるだけ揃えたい。

 でも残念なことに、抵抗して亡くなった人もいるらしいから、その空き地をどうするかは未定だ。
 詳細は後日ということで解散することになったが、何故か残ったドワーフさんが解体を手伝ってくれることに。ついでに、暇になった熊獣人こと──テオドールとナディアさんも、大量のウサちゃんの解体をしてくれるそうだ。

「魔核は取ったんですけど角はまだなので、丁寧にお願いします」

「金属の方が良くないか?」

「金属は使い捨てできないでしょ? もったいない」

「そうか? 所詮、道具だぞ」

「坊っちゃんには一生分からない感覚だよ」

「坊っちゃんじゃねぇっ」

 これは、定番の爺やに「坊っちゃんって呼ぶなっ」って言うやつかな?

「おにいちゃん、ぼっちゃんじゃないよ」

「良い子だな」

 満面の笑みでニアを見るテオドール。
 肉の脂でギトギトしているのに、ニアの頭を撫でそうなほど嬉しそうだ。

「おじちゃんは、おじちゃんなんだよ」

「「「──ふっ」」」

 俺とナディアさんに、黙々と解体していたドワーフさんまでもが、我慢できずに噴き出してた。

「おい。そりゃあないだろう……」

「そういえば、可愛さの象徴は見たかな?」

「…………熊の方が可愛い」

「ルークのこと? それともイムレちゃん? どっちもくまよりかわいいよ?」

 ニア、大正解だよ。

「く、悔しい……」

「まぁ好みだけどね」

「そうだよな。熊が可愛いって言ってくれる子もいたしな」

「何? 何でニヤけてるの?」

「べ、別に、ニヤけてないしっ」

 俺たち全員のジト目に堪えきれなくなったのか、ボスウサの使い途について聞いてきた。

「こ、これはどうするんだ? 上位種の角は高く売れるぞ。他のより大きいし」

「ナイフより長いし、しばらくは短剣として主要武器にしようかなと」

「柄は?」

「革でも巻いておけば大丈夫でしょ」

「──お前さんは、何を使いたいと思ってるんだ?」

「片刃の曲刀ですね」

 理想はシミターかな。元々好きだったし。
 シャムシールは幅が狭いって聞いたことがあるけど、俺は幅が広いシミターの方がいい。
 それに何より、『獅子の尾』という意味があるところが自分に合っていると思う。

「ふむ。似たものがあるから、近いうちに見に来い。それを元に試作してみる」

「ありがとうございます」

「家が帰ってくるなら安いものだ」

「あれはエルフの神秘ですから」

「……そうだったな。嬢ちゃんもまだ出発していなければ一緒に来い。剣を見てやる」

「はいっ」

 静かに話を聞いていたナディアさんも招待され、ここ数日で一番はしゃいでいた。

「ナディアさんは剣を使えるんですか?」

「当然だ。あの両親だぞ? 使えないはずがない。まぁ一番下の弟は微妙だけどな」

「そうなんですね。でも、持ってないですよね?」

「そういえばそうだな」

 ドワーフさんも、ナディアさんの今日一日の姿を思い出したのだろう。

「あの……あの剣は折れました……」

「はぁ? 何と戦えば折れるんだ!?」

「遠征中にオーガの上位種と遭遇しまして、そのときに複数回剣を合わせたら……。オーガも逃走してしまい、踏んだり蹴ったりです」

「部隊から死傷者は出たのか?」

「死者は出てません」

「なら、剣も報われるだろう」

 結局、ナディアさんも新調が決定した。


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