暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第一章 居候、始めます

第二九話 裏切り者

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 晩御飯はウサちゃんの串焼きと、ブラウンシチューだった。
 主食はふんわり白パンで、平民で食べられるはずもない豪華な食事だ。

「美味いっ」

「相変わらず美味いな」

 ドワーフのエイダンさんは、冒険者ギルドで働くようになってからは中央広場近くのギルドの宿舎に住んでおり、北門近くにある【双竜の楽園亭】に来なくなったそうだ。
 それまでは、家族揃って毎日のように通っていたらしい。

 そして、その家族は家を取り戻すために出稼ぎに出ているらしく、これから呼び戻すんだとか。

「また毎日世話になるかもな」

 というエイダンさんの笑顔と、エルフ親子の嬉しそうな顔が印象的だった。

「グルッ」

 明らかに小さくなったルークを見たテオドールは何かを言いたそうにしていたが、シチューの美味さに衝撃を受けたからか、ルークのことは大食いライバルという認識に変わったようだ。

「早いぞっ」

「グルッ」

 悔しがるテオドールに、ドヤ顔を浮かべて挑発するルーク。
 だけど、一番早いのはイムレだ。
 気づいていないのか、それとも悔しすぎて見て見ぬ振りをしているのか。

「あらあら。お客さんが二人入っただけなのに、お鍋が空っぽになりそうね」

「おいおい。俺はおかわりしてないぞ」

 確かに。
 エイダンさんはお酒を飲みながら食べているから、シチューのおかわりはしていない。
 まぁお酒と串焼きのおかわりはしてるけど。

 ということは……。

 そうです、うちの従魔が爆食しています。

「グルッ」

「そうね。働いているものね。お腹空くわね」

「グルッ、グルッ」

 単体向けの念話でもしたのだろうか。
 話が通じている。

 ちなみに、普通は食事代は別で、おかわりごとに追加料金が発生する宿屋がほとんどだ。
 しかし【双竜の楽園亭】は、食事込みの料金設定になっている。おかわりについては追加料金が発生する場合と、発生しない場合があるらしい。

 今日みたいに素材持ち込みの場合は、持ち込んだ人が許可を出せば提供されるから、追加料金は発生しないことになる。
 ただ、ブルーノさんに売った場合は仕入料金が別途発生しているから、追加料金をもらうことになっているらしい。つまり、全ては仕入れ次第。

「いやぁ、住みたくなるほどの美味さだ」

 テオドールは住む気満々になっているけど、そもそも何しに来たんだろうか。

「好きなだけいるといいわ」

「やったっ!」

 ゴツいおっさんが子供のようにはしゃいでいるようにしか見えないけど、実際は俺と三歳ぐらいしか変わらないというから驚きだ。

「つかぬことを聞くけど、父親に似ている?」

「な、なんで知ってるんだ? まぁみんなはそう言うよ。そっくりって」

 やっぱりか。
 実のところ、お父上とは会ったことがない。
 でも、噂で聞いた性格と目の前のおっさんの特徴が、双子並みに似ていて本人がいるのかと思ったのだ。

「……お、親父に会ったことあるのか?」

「ない」

「じゃあっ、何でっ!?」

 似てないところ、一つだけあったかも。
 お父上は感情を隠したり偽ったりできる傑物らしいから、感情を隠すどころか動揺が表に出てしまうおっさんは、まだまだ未熟者扱いだろう。

「えっと、はしゃぎ方? 母親よりも父親の方がしっくり来るでしょ」

「うっ……。それは、そうだけど……」

 まぁルイーサさんみたいな例外もいるけど。

「なぁに? ママに何か言いたいことでもあるの?」

「いえ、何も」

 勘が良すぎる。
 絶対ナディアさんも思ったはずなのに、上手い具合に気配を消している。
 ナディアさん曰く、消しすぎてもいけないという高等技術らしい。けど、ルイーサさんが不機嫌になっているときに役に立つからと、家族の必須技能だとこっそり教えてくれた。

「ママ……?」

「そうよ」

 テオドールがママという単語に反応した。
 俺も当事者じゃなかったら同じように反応していたと思うから、特に何とも思わない。

「え? 親子?」

 ただ、次に発言した言葉が良くなかった。

「お前、家なら家って言えばいいのに。お世話になっている宿屋って言ってたから、下宿しているのかと思ったぞ」

 あ、あかぁぁぁんっ!

「──ディル?」

 あいつ、殺すぞ。

「な、何でしょう……」

「ここはどこだっけ?」

「ぼ、僕の……実家です」

「そうよね。これからは間違えることはないわよね?」

「もちろんですっ!」

「うん、よろしい」

 折檻の日数が加算された気がするのは、俺の気のせいだろうか。

「それと、ずっと気になってたんだけど、どうしてママに敬語を使うの? もっと気楽に話してくれていいのよ?」

 これはいつか言われるだろうと思っていたから言い訳を準備していた。

「ナディアさんも敬語を話しているからです。それに母上と呼んでいますし」

 ナディアさんから裏切り者を見るような鋭い視線を向けられるが、俺の手本になっているのは事実だ。

「そうなのね。でも、あの子は成人してるけど、あなたはまだ子供なのよ。急いで大人になることはないの」

 つまり、真似するなと言うことか。

「母上の言うとおりだ」

 裏切ったなっ。

「ぜ、善処します……」

 そして俺は、明日のゴミ探しを理由に逃げるように自室に戻るのだった。

「おやすみなさいっ」


 ◆


 翌朝。
 今日はゴミ捨て場で宝探しをする予定だ。

『うむ……肉ぅぅぅ……』

 今日も飯時まで起きる気配がないルークとイムレを横目に見ながら、俺は時間を潰すことにする。
 昨日と同じ失敗はしない。
 外出は後でできるのだから、今はボスウサの角を短剣に加工しよう。

 朝食後にエイダンさんが柄と鞘を拵えてくれるそうだから、それまでに試しておきたいことがある。
 昨日拾った二本のナイフの内、付与剣の方を【神字:理】で調べてみたところ、魔力量が不足しているせいで魔法陣が形成不全になったらしい。
 つまり、魔力量が足りていれば付与剣が完成したのだ。

 俺は転生者特有の早期魔力量訓練のおかげで魔力量には自信があるし、魔法陣を複製できる能力もある。
 付与剣という異世界特有の武器製作を試さないなんてありえない。

 魔法陣の内容は不明だが、文字が薄いほど最初に付与された魔法陣らしく、同じ手順で魔法陣を付与していく。
 ただ独自性を出したかったから、片面ではなくて両面構成にしてみた。おかげで、三つ目の魔法陣を付与したときの魔力量は想定を超える量になってしまった。

「できた」

 途中、角が魔力を反発しているような感じを受けたが、無理矢理押し込むことで角の一部が剥げた。
 一瞬失敗したかと思ったけど、金属製のナイフとは違って魔物素材での付与で必要な工程だったらしく、その後は比較的簡単に付与が進んだ。
 結果、真っ黒だった角は赤い魔力を帯びた赤銅色に、薄っすらと赤い魔法陣が浮かぶ刃になった。

「うん、かっこいい」

『……何してんだ、お前』

「あ、起きた? おはよう」

『おはよ。で、何してたんだ?』

「暇だから武器作ってた」

『魔力込めすぎだろ』

「おかげでいいものができたよ」

 ちなみに、子分のウサちゃんの角はエイダンさんが持ち帰った。
 投擲ナイフとして機能するように研いだり、ホルダーの在庫を確認してくれるそうだ。

 今思えば、ルイーサさんが土地の権利書を直接返すように言ったのは、ご近所さんに俺の顔を売って馴染みやすくしてくれたのだろう。
 土地が返った後よりも、返ってきた瞬間の方が感謝するし、相手への感謝の気持ちが湧くから、「何かあったら何でも言って」と言われやすい。
 さらに、ルイーサさんたちの目の前で言った手前あとになって反故にしたら、それこそ村八分にされかねないだろう。

「本当に頭が上がらない……」

『何が?』

「ルイーサさんたちへの恩が溜まってくなぁって」

『違うだろ?』

「え?」

『ママ、だろ?』

「……ルーク、お前もか」

 賄賂に何をもらったんだか。
 結局、朝食の知らせが来るまで仕返しのモフモフを堪能するのだった。

『やめろぉぉぉっ』



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