暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第二章 冒険、始めます

幕間十四 プチ旅行 後編

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 宿場町は領都と違って木製の簡素な市壁に、建前で立ち番をしているだけの門衛が入町審査をしていた。
 端から見て怪しい人でも袖の下を渡せば普通に素通りできているところを見て、俺はニアを連れてきたことを後悔する。

「我々は専用の通行証を持っていますので、袖の下は不要です」

「なるほど。では中に入って路地裏に行くまでは、そちらで対応してください」

「かしこまりました」

 巨デブの蹴撃鳥が馬車を引くというイレギュラーな状況でも、身分を利用した通行証は強力な効果を発揮して、何の問題もなく入町できた。
 その後、予定通り商業ギルドに近い路地裏まで馬車で移動し、馬車とデッドマン号を《障壁》と《暗幕》で隠す。

「さて、商業ギルドに行くのは商会担当班なのですが、ヒトダマ商会、ファントム商会、ワイト商会は別の所で商会登録をしてきましたか?」

「「「はいっ」」」

「それではロンダリング担当商会班はどうでしょう?」

「登録してきました」

「私たちもです」

「全員準備してきていただき感謝します。では、テオ様も準備しましょう」

「えっ? 俺も商会を作るのか?」

「いいえ。アンペオ伯爵家の御子息に体格が近いので、彼を召喚したいのです」

「意味が分からん」

 俺も最初は意味が分からなかった。
 イムレが覚えた新しい能力のお披露目をしたときに今回の作戦を思いついたのだが、ドヤ顔のルークを前に俺もテオと同じこと言ったのだ。
 でもきっと俺も今、ルークと同じ顔をしているだろう。

「イムレさん、よろしくお願いします」

『うむ、任せよ』

 これはルークの真似だ。
 本当に可愛い。

 すでにスライムに戻っていたイムレは、体の一部を分裂させてテオの体にまとわりついた。

「お、おいっ」

「お静かにっ」

 テオを心配して動こうとした狼公の部下たちは、【念動】で強制的に止めている。
 多少手荒になっていたかもしれないが、一応手加減をしているから感謝して欲しい。

「じゃーんっ! 完成っ!」

「なにがっ!?」

「怒んないでよーー」

 語気を強めるテオとは対照的に、ルイーサさんたちは一言も発することなく固まっている。

「どうです? 見覚えがあるんじゃないですか?」

「さ、サブマス……?」

「正解でーすっ」

「はぁ!?」

 なんと、イムレは吸収した生物に擬態するだけでなく、他生物も擬態させることができるようになったのだ。
 分体を増やす事に包める範囲は減るらしいけど、吸収した生物の鮮度次第では魔力の擬態もできるらしい。
 行動するだけならテオは要らないのだが、人間らしい行動や常識はスライムには分からないので、テオの動きに合わせて商談用の個室まで向かう予定だ。

 それにサブマスは、この宿場町の貸金庫に書類などを預けているらしく、それを回収するまでは奇行をされては困るから、そこそこ貴族的な行動ができるテオをサブマスの中の人を任せることにした。

「イムレ、素晴しい」

『イムレ、すごいでしょう♪』

「すごいぞ」

『うむうむ。オレの教えた通りにできているぞ』

 なんでもルークの知り合いのスライムが似たようなことをしていたらしく、イムレを抱き枕にする代わりに色々伝授してあげているらしい。

 俺も寝る前に血の契約による【青獅子】効果を伝授してもらっているから、俺とイムレはある意味師兄弟だろう。

 それはさておき。
 俺とテオと商会担当班は商業ギルドに向かい、【双竜の楽園亭】組はモフモフたちを連れて買い物に向かってもらう。
 馬車とデッドマン号は、再び蹴撃鳥に変身したイムレが引くことに。

「じゃあまたあとで。何もないとは思いますが、何かあれば呼んでくださいね」

「ディルの方も何も起こらないわよね?」

「もちろんです」

 良い子にしていますとも。

『おやつの材料を買って帰るからなっ』

 ナディアさんに商会の名前と地図が描かれたメモを渡しておいたから、売っていればルークの望みが叶うだろう。

「みんなを守ってあげてね」

『任せろ』

 ルークたちを見送り、俺たちは商業ギルドに向かった。



 ◆


 俺が一番先にギルドに入り、商業ギルドのカードを出して【ドラウグ商会】を設立する。
 見せ金として数枚の金貨を口座に入れておき、業種項目は不動産業と記入しておいた。

 一度外に出てテオの護衛兼従僕用の装束を纏い、あらかじめ分裂しておいてくれたイムレの分体に顔を押し付ける。

「さて、行きましょうか」

「おう」

「「「はいっ」」」

 最初は貸金庫の中身の回収だ。
 貸金庫は魔法金属でできており、指紋のように個人によって異なる魔力紋を使った錠前を使っている。
 たとえ会話できなくても、魔力紋が合っていれば本人である証明はできるので、割符を渡せば準備をしてもらえる。

 ところで、今のテオは話せない。

 擬態の唯一の弱点は話せないということ。
 魔物だったら唸り声をあげたり、鳴き声を真似することはできる。
 しかし、普段から念話を使うスライムは会話するという概念はない。会話させたければ言葉を教えることから始める必要がある。

 今回は時間がないので首に包帯を巻いて話せないふりをし、従者役の俺が代弁をしている体で話を進めている。
 なお、テオが話した場合はテオの声になる。
 だから、テオにはジェスチャーだけで意思表示を行ってもらっている。

「──魔力紋に以上はありません。貸金庫五つの中身を全て開けますか?」

「笑えない冗談は止めてください。五つではなく、七つです。貴族を相手に試すなんてこと、もしかしなくてもなさりませんよね?」

「も、もちろんですっ。わ、私の思い違いでございますっ! 申し訳ありませんでしたっ!」

「アンペオ卿は慈悲深い方ですが、二度目の失態は許されませんぞ?」

「感謝いたしますっ」

 合言葉というか、洗脳被害用の盗難対策らしい。
 でも、屋敷の金庫に貸金庫七つ分の利用明細があったのだ。全て同じ商業ギルド発行で。
 洗脳して金庫を開けられた時点で、この問答に意味はなくなるだろうに。

 本当に考えが甘いやつだ。

「では、挽回の機会を与えます。アンペオ卿は命の恩人である【ヒトダマ商会】に深く感謝しております。そのため、彼らの商売に投資することを決めました。あなたには取引の立会人になっていただき、契約書の作成をするという名誉を与えましょう」

「そ、それは……」

 うわぁ……。嫌そうな顔。

「どうしました? 名誉を挽回せずにアンペオ卿の帰郷を見送るのですか?」

「滅相もございませんっ! 誠心誠意お手伝いさせていただく所存でございますっ!」

「結構です」

 まずは貸金庫の中身をサブマスの屋敷からもらってきた空間収納バッグに入れ、全て回収した。
 次に、ヒトダマ商会に救助報酬を払う。

「閣下っ! 本当に全て譲渡してもよろしいのですかっ!?」

 納得の反応だ。
 普通の感性を持っていれば、目前の取引が異常なことはすぐに分かるだろう。
 口座の中身から始まり、土地など不動産の所有権に商会などを一切合切を譲渡すると記入された契約書だ。止めない方が逆に怖い。

「もちろんです。それともあなたは、アンペオ卿の命はこちらの報酬以下だとでも言いたいのですか?」

「微塵も思っておりませんっ! しかしっ、当主様の許可をもらっているのでしょうか!?」

「無礼なっ。許可があるから、伯爵家の印章を使った契約なのでしょう? それとも今度は印章を偽物だと言うつもりですか? 心して答えよっ! 返答次第では不敬罪を適用しますぞっ?」

「そ、そのようなことは……」

「違うというなら契約を進めなさいっ」

「は、はいっ」

 このギルド職員はその後もあとで契約の解除ができるような項目を付け加えたりと、様々な妨害をしてきた。
 だが、商会担当班は全員諜報工作員だ。
 一言一句見逃すことなく看破していき、全ての譲渡契約を終えられた。

 その後、ファントム商会が入出してきて、ヒトダマ商会との鉱山売買取引が行われた。
 ファントム商会はダズル子爵の血判及び魔力紋印を使った委任状を持って、鉱山と周辺の土地を売り渡した。

 さすがに二度目ということもあり、今度はすんなりと契約を結び終え、妨害を続けた職員に他言無用の魔法契約を結ばせたところまで終える。

「散々妨害し、報酬を後に返還させるような内容の契約を結ばせようとしたことは伯爵家に対する侮辱行為である。本来ならば打首にするところだが、伯爵家を慮ったことによる行動であるとし、恩赦を与えるものとする」

「感謝いたしますっ」

「ただし、此度の契約内容を外部に漏らした場合は契約違反として、厳罰が下るようになっている。緊張感を持たせるためにあえて知らせておこう。自分及び大切な者が重度の呪病に罹患するであろう。努々忘れぬように」

「そ、そんな……」

「挽回の機会を棒に振った自分を責めるが良い」

「あの行動こそっ伯爵家への忠誠の表れですっ」

 分かるけどね。
 商人に騙されないように契約を破棄できる旨を契約書に盛り込むことは、アンペオ伯爵家にとっては最善の行動だろう。
 ただ残念なことに、この場にはアンペオ伯爵家に連なる者は一人もいない。彼らが利することをよく思わない者しかいないため、職員の行動はむしろ邪魔である。

 その後、北部公爵領の情報を集めていたワイト商会とロンダリング担当商会班と合流する。
 彼らはそれぞれ使用者固定型の高級空間収納ポーチを使用しているというので、ギルド口座にお金を預けずに空間収納具に入れてもらった。

 このギルドもそうなのだが、高額の引き出しはすぐに用意できず、最短で一週間かかるそうだ。
 時間が勝負の作戦に、一週間を無駄にする余裕はない。
 それゆえ、特に現金が必要なファントム商会とワイト商会に現金を持たせ、北部までの各町で少しずつ引き出してもらうことにした。

 ファントム商会は現金で債権を買う必要があるので、優先的に現金を回して行き、残った現金をワイト商会に渡すことになった。
 領都に戻れば追加の軍資金候補の【赤王】の遺産や、冒険者ギルドからの賠償金がある。それらは後日配送すればいいだろうと判断し、借金地獄作戦の要であるファントム商会を北部に送り出した。

 ちなみに彼らの移動手段は、応援要員が用意した高速馬車だ。
 応援要員はそのまま海外交渉担当になってくれるらしい。
 どうか頑張って欲しい。

「いってらっしゃーい」

「気をつけろよ」

 変装を解いたテオの一言目である。
 家臣想いなところは父親に似たのかもしれない。

「行ってまいります」

 彼らを見送った後、ルークたちと合流して帰路についた。
 材料を手に入れたご機嫌のルークによる特急便は、多くの者を失神させることになるのだった。



 ◆ ◆ ◆


 少し長引いた気がする幕間は一旦終了です。
 閑話を挟み、新章に入ります。


 引き続きお読み頂ければ嬉しいです。


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