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第三章 雑用、始めます
第七三話 以夷制夷
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司令官を隔離空間に入れたところで、辺境砦はもぬけの殻になった。
資材置き場や金庫なども全て丸ごと回収し、その後馬を連れて砦の外に出る。
「あっ、忘れてた」
『どうした?』
「シェイドール商会の幹部を回収するの」
『コイツで良いだろ。尋問官よ、シェイドール商会の位置情報を聞き出せ』
今度の熊さんは尋問官。
しかし見た目は獄卒。
そして聞き出し方は頭部への噛みつき。
『うむ。ご苦労』
ぺっと吐き出された珠を受け取り、尋問官を送り返すヴァル。
それにしても不思議な能力だ。
『行くぞ』
「はーい」
記憶珠を左手に持つヴァルの右手を握り、帝国内部のシェイドール商会の支店を転移で回る。
その際商会長に次ぐ権限を持つ幹部を拉致した。
他の者や対応は辺境砦と同じだ。
唯一の違いは、去り際にヴァルが魔力でマーキングしたこと。
これらを繰り返し、時にはモブ従業員を拉致して商会にあった隷属化魔導具で奴隷にし、ペーパー商会を作らせた。
理由はシェイドール商会の資金を吸い取るため。
王国の北部公爵家に行う計画の短期版である。
彼らには大都市の商業ギルドでシェイドール商会から融資を受けるという名目で、怪しまれないギリギリの金額を口座に入金させる。
広大な帝国内の各都市をシェイドール商会を襲撃するついでに回り、各所の商業ギルドで同様のことを繰り返した。
ただ一つ問題がある。
帝国と王国では貨幣が異なる。
それゆえ帝国内で引き出した場合、どこかで両替をする必要がある。
商業ギルドを始めとする各ギルドで対応しているのだが、それぞれ上限が定められているため全ての現金化は不可能だ。
ということで捻り出した答えは、「現金化担当商会を創る」である。
その名も【グリム商会】だ。
商会長は、リーパー君。当然偽名である。
身分は奴隷で、戦闘能力もそこそこ。
彼は王国の北部公爵領周辺で引き出し続け、その現金はテオの商会に入金させて計画の資金源とする。
そして引き出しきれなかった際は、北部公爵領乗っ取り計画で創ったロンダリング商会に入金後、倒産させる。
グリム商会への融資をした全ての商会は全て潰した。
その上で口封じも済ませた。
それもリーパー君の目の前で。
「君も彼らのようにただの駒で終わりたくはないだろう? 働き次第では、契約継続または奴隷からの解放を約束するよ。どちらが良いか考えておくといい」
「いいえっ! 奴隷からの解放などの望んだことはございませんっ! 一生そばに置いてくださいませっ!」
おぉ。意外と賢い。
普通なら解放を望むだろう。
しかし、そちらは墓地がセットでついてくる選択だ。
目の前で行われたことを見せしめ以上の情報として受け取っていれば、さすがに解放を選ぶことはないはず。
そしてリーパー君は短いやり取りから、自分の能力を証明した。
「期待しているよ」
「はいっ」
報復も終盤に入り、最後の目的地は帝都にあるシェイドール商会の商会長の屋敷だ。
「ヴァル、できればあの家ごとほしいんだけど」
『任せろ』
「代わりの物をプレゼントしてあげたいんだけど、それもできる?」
『うむ』
報復が終わっていないのに機嫌がいいヴァル。
理由は有能さを証明することに必死なリーパー君が、美味しい蜂蜜を取り扱う商会を教えたからだ。
この商会の素晴らしいところは独自開発の蜜菓子も販売しているところで、味見の時点でご満悦だったヴァルは大量の蜂蜜と蜜菓子を大人買いしていた。
『お前、意外と使える』
「ありがとうございますっ」
リーパー君はヴァルの話し相手をしつつ、死体を全裸にするという作業に従事している。
そこでも有能さを発揮し、兵士が使っていた認識票の予備に所属と名前の文字入れを行い管理しやすくしていた。しかも全裸作業と同時並行で。
「君、うちの外注先より使えるね」
「ありがとうございますっ」
モブだと思っていたけど、結構良い拾い物をしたと思う。
『じゃあ移動するぞ』
ヴァルは死体の山を先に辺境砦の集団墓地へ送り、建物を地上と地下とで二分割して辺境砦近くに転移した。
地下空間と建物はそれぞれ分けて置く。
事前に回収していた財産とは別に回収したかった時計塔を丁寧に解体し、プレゼント第一弾の準備は終了した。
シェイドール商会長の屋敷にある時計塔は帝都の名物の一つになっているそうで、そんな素晴らしいものをもらっておいて返礼品が一つというのは失礼に当たると思う。
だからこそ次の名物になるものを返礼の品とさせて頂く。
「あ、あの……それは何かを伺っても……?」
「土属性魔法で作った巨大な槍だね。天を穿つような大きさは、彼らが迷わず神の御下に行けるような配慮からだよ」
「そ、そうなんですね……」
シェイドール商会ポット支店の倉庫に落としたのは土属性魔法で作った巨剣。それも巨人が大地に突き刺したかのように、刃が下向きだ。
だが今回は刃が上向きで、大地に接している部分は石突となる。
これは巨大な墓標であり、遺体が眠る場所を指し示す石碑であり、シェイドール商会が壊滅した日を記念する記念碑でもある。
オベリスクをイメージした巨槍の柄には今まで集めてきた認識票を埋め込んでおり、光が当たるとキラキラと輝き装飾としての効果も期待できた。
「こちらの槍を屋敷があったところにお願い」
『屋敷は?』
「あー……適当に捨ててくれればいいよ」
『あいよ』
蜂蜜を食べ終わったヴァルは機嫌よく無茶難題を聞き入れてくれた。
個人的には面倒くさい注文だと思うから、本当に感謝している。
『まずは砦からだな』
どんな熊さんが出現するか楽しみにしていたのだが、今回は出現しないらしい。残念。
代わりにヴァルが自ら実行するらしいから、ヴァル単体の能力を観察しようと思う。
『結界から出るなよ』
「はーい」
「はいっ」
直後、合掌をするヴァル。
どこかプニッと聞こえて来そうな優しい合掌にほんわかしてしまったのだが、目の前の光景が現実に引き戻してくれた。
砦が地面ごと圧縮されて消え去り、その場には巨大なクレーターが残っただけ。
集団墓地の住民や熊に抱かれた司令官は、順にクレーター中央に開いた穴の中へ消えていった。
そして穴が塞がった後、砦の水源から水が湧き出てクレーター内に溜まり始めた。
もしかしたら湖となり、観光名所になるかもしれない。
「「…………」」
衝撃的な光景を目にした俺達が呆然とする中、ヴァルは一度両手を離した後、屋敷と巨槍に向かって両手を向け、再びの合掌。
『結果が見たいだろ?』
「あ、ありがとう」
「ありがとうございますっ」
消えた屋敷と巨槍の代わりに現れる巨大スクリーン。
そこに映し出された映像は、壊滅という言葉では生温いほどの被害だった。
まずは各支店。
これらは辺境砦と同様に圧縮されて消えてなくなった。
ただ、俺達のときとは違って周囲に尋常じゃないほどの被害が出ているところだ。
結界に守られていた俺達に被害はなかったが、本来なら空間が歪んで消滅したわけで、不思議効果によって急速に空間が修復されるときに衝撃波が発生するらしい。
現に森の外苑の木々は衝撃波でなぎ倒されている。
ヴァルの魔法の効果でクレーターが発生しているところに、さらに衝撃波による波状攻撃だ。
被害の規模は想像したくもない。
次に、名物贈呈式である。
こちらは屋敷がなくなったことで多くの野次馬がいた。
しかしいないものとされ、無慈悲に投下される巨槍。
「──素晴らしいっ。帝城の高さを超えたっ」
本来なら絶対に許されない行為だ。
建築の申請をした時点で叛意ありとされ、拘束からの公開処刑がセットらしい。
つまり、俺は帝国史上初の記録を打ち出した人間となったわけだ。
「えっ? えっ?」
俺が悦に浸っている間、リーパー君を焦燥させる事態が発生したらしい。
「どうした?」
「あ、アレ……」
彼が指差した画面を見ると、そこには屋敷を投下した場面が映し出されていた。
俺が適当に捨ててと言ったわけだから当然の事態なのだが、場所が最悪だった。
「て、帝城……」
その上空にポイッとされた映像が映し出され、元帝国諜報員のリーパー君は顔面蒼白にを通り越して気絶一歩手前の表情をしている。
『うーん……やっぱり結界はあるよな』
「だよねっ」
弾かれてどこに行くのかと脳内の帝都地図から導き出そうと必死に頭を働かせていると、ヴァルが可愛いお手々を握り込んだ。
何のためかを考えるまでもなく、画面に答えが出ていた。
「ブースト来たぁぁぁぁっ」
帝城に張られた結界に衝突する瞬間、ヴァルが屋敷に結界を張り弾かれないように進路を固定したらしい。
相手の術師も拙いと判断し、柔軟に対応してきた。
『人間にしてはなかなかやる』
結界を強度重視から弾性重視に変え、防御力を落とす代わりに直撃を避ける方向に舵をきったようだ。
術師の判断は功を奏し、帝城に直撃するはずだった屋敷の残骸は広大な庭園に落下した。
「見ごたえあったなぁ」
『ああいう人材は大事にした方が良いと思うぞ』
「…………」
リーパー君はホッとしているようだったが、同時に俺達に向ける視線に変化が見られた。
もしかして、子供らしいと思ってくれたのかな?
だったら嬉しいな。
「じゃあ最後にシェイドール商会の幹部と合流しますか」
『うむ』
彼の認識票は既に巨槍に埋め込み済みだ。
行き先も決まっている。
というのも、彼が兎さんを苦しめる指示を出した張本人だから。
幸せな家庭を持ち、幼い娘もいる。
それなのに、幼い兎さんを苦しめるという非道。
敵なら理解できるが、森を開拓するための駒の一つにすぎなかった。
ならば、彼にも我々の気持ちを味わってもらおう。
ついでに計画の駒にもなってもらう。
「こちらです」
馬車三台分に乗せられた様々な奴隷。
これは全てシェイドール商会の手形で購入させた。
本来、奴隷の購入時は現金払いのみだ。
特別扱いの理由はシェイドール商会だから。
後ろ盾が帝国だからで、信用も国が保証している。
それ故の特別扱い。
「ご苦労。君は役目を果たした。安心して安全なところに行くと良い」
彼は司令官がいる空間で、永遠と家族を見守るという呪いがかけられた。
家族に何かがあっても見ること以外は何もできない。
逆に目を逸らすこともできない。
『本当にこれで罰になるのか?』
「なると思うよ。帝国はこれから復興支援でてんてこ舞いになる。シェイドール商会の人員も海外に派遣しているメンバーしかいない。再編のために帰還命令を出さざるを得ないほどに弱体化すると思うんだよね」
『それが?』
「奴隷商たちは奴隷商人組合みたいな組織が後ろ盾になっていて、これが大国でも無視できない組織なんだよね。さらに言えば、復興で予算を使うから諜報活動に回す予算は減らされると思うんだ」
『ふむ』
「そこに手形が不渡りになるという悲劇っ! シェイドール商会の信用は失墜し、奴隷商人に喧嘩を売るという最悪の状況っ。犯罪者をも抱える奴隷商人は奴隷の仕入に制限をかけることはしないはずっ。そして見せしめも兼ねた最初の奴隷はっ?」
俺のプレゼンに「まさかっ」とこぼすリーパー君。
「──リーパー君っ! 答えをっ!」
「さ、先程の方の家族……」
「大・正・解っ! 奴隷となった家族を見ていることしかできず、目を逸らすこともできない無力さを味合わせるには最適だと思うんだっ!」
まぁ計画自体は九分九厘予想通りに進むだろう。
前職で王弟がやったことをパクっただけだから。
ただ、王弟は奴隷商人組合に喧嘩を売ることにビビってたから、最初から連携する方法を取っていたけど。
「ど、奴隷はどうするのです?」
「君が使う? これからの仕事で人員は必要でしょ?」
「よろしいので?」
「今は連れ帰っても場所がないからね。情報漏洩にだけ気をつけてくれれば、君に全部任せるよ」
「ありがとうございますっ」
事前に確保していた服に着替えさせ、ヴァルの転移で北部公爵領の西端に移動し、各所から現金を引き出して回るように指示を出す。
同時にシェイドール商会時代にも行っていた諜報行為も任せることに。
仕事の出来で去就が決まるリーパー君は、決死の覚悟で取り組むと意気込んでいた。
「じゃあ森に帰ろうか」
『うむ』
報復を終え、すっきりした気分で森へ帰還するのだった。
資材置き場や金庫なども全て丸ごと回収し、その後馬を連れて砦の外に出る。
「あっ、忘れてた」
『どうした?』
「シェイドール商会の幹部を回収するの」
『コイツで良いだろ。尋問官よ、シェイドール商会の位置情報を聞き出せ』
今度の熊さんは尋問官。
しかし見た目は獄卒。
そして聞き出し方は頭部への噛みつき。
『うむ。ご苦労』
ぺっと吐き出された珠を受け取り、尋問官を送り返すヴァル。
それにしても不思議な能力だ。
『行くぞ』
「はーい」
記憶珠を左手に持つヴァルの右手を握り、帝国内部のシェイドール商会の支店を転移で回る。
その際商会長に次ぐ権限を持つ幹部を拉致した。
他の者や対応は辺境砦と同じだ。
唯一の違いは、去り際にヴァルが魔力でマーキングしたこと。
これらを繰り返し、時にはモブ従業員を拉致して商会にあった隷属化魔導具で奴隷にし、ペーパー商会を作らせた。
理由はシェイドール商会の資金を吸い取るため。
王国の北部公爵家に行う計画の短期版である。
彼らには大都市の商業ギルドでシェイドール商会から融資を受けるという名目で、怪しまれないギリギリの金額を口座に入金させる。
広大な帝国内の各都市をシェイドール商会を襲撃するついでに回り、各所の商業ギルドで同様のことを繰り返した。
ただ一つ問題がある。
帝国と王国では貨幣が異なる。
それゆえ帝国内で引き出した場合、どこかで両替をする必要がある。
商業ギルドを始めとする各ギルドで対応しているのだが、それぞれ上限が定められているため全ての現金化は不可能だ。
ということで捻り出した答えは、「現金化担当商会を創る」である。
その名も【グリム商会】だ。
商会長は、リーパー君。当然偽名である。
身分は奴隷で、戦闘能力もそこそこ。
彼は王国の北部公爵領周辺で引き出し続け、その現金はテオの商会に入金させて計画の資金源とする。
そして引き出しきれなかった際は、北部公爵領乗っ取り計画で創ったロンダリング商会に入金後、倒産させる。
グリム商会への融資をした全ての商会は全て潰した。
その上で口封じも済ませた。
それもリーパー君の目の前で。
「君も彼らのようにただの駒で終わりたくはないだろう? 働き次第では、契約継続または奴隷からの解放を約束するよ。どちらが良いか考えておくといい」
「いいえっ! 奴隷からの解放などの望んだことはございませんっ! 一生そばに置いてくださいませっ!」
おぉ。意外と賢い。
普通なら解放を望むだろう。
しかし、そちらは墓地がセットでついてくる選択だ。
目の前で行われたことを見せしめ以上の情報として受け取っていれば、さすがに解放を選ぶことはないはず。
そしてリーパー君は短いやり取りから、自分の能力を証明した。
「期待しているよ」
「はいっ」
報復も終盤に入り、最後の目的地は帝都にあるシェイドール商会の商会長の屋敷だ。
「ヴァル、できればあの家ごとほしいんだけど」
『任せろ』
「代わりの物をプレゼントしてあげたいんだけど、それもできる?」
『うむ』
報復が終わっていないのに機嫌がいいヴァル。
理由は有能さを証明することに必死なリーパー君が、美味しい蜂蜜を取り扱う商会を教えたからだ。
この商会の素晴らしいところは独自開発の蜜菓子も販売しているところで、味見の時点でご満悦だったヴァルは大量の蜂蜜と蜜菓子を大人買いしていた。
『お前、意外と使える』
「ありがとうございますっ」
リーパー君はヴァルの話し相手をしつつ、死体を全裸にするという作業に従事している。
そこでも有能さを発揮し、兵士が使っていた認識票の予備に所属と名前の文字入れを行い管理しやすくしていた。しかも全裸作業と同時並行で。
「君、うちの外注先より使えるね」
「ありがとうございますっ」
モブだと思っていたけど、結構良い拾い物をしたと思う。
『じゃあ移動するぞ』
ヴァルは死体の山を先に辺境砦の集団墓地へ送り、建物を地上と地下とで二分割して辺境砦近くに転移した。
地下空間と建物はそれぞれ分けて置く。
事前に回収していた財産とは別に回収したかった時計塔を丁寧に解体し、プレゼント第一弾の準備は終了した。
シェイドール商会長の屋敷にある時計塔は帝都の名物の一つになっているそうで、そんな素晴らしいものをもらっておいて返礼品が一つというのは失礼に当たると思う。
だからこそ次の名物になるものを返礼の品とさせて頂く。
「あ、あの……それは何かを伺っても……?」
「土属性魔法で作った巨大な槍だね。天を穿つような大きさは、彼らが迷わず神の御下に行けるような配慮からだよ」
「そ、そうなんですね……」
シェイドール商会ポット支店の倉庫に落としたのは土属性魔法で作った巨剣。それも巨人が大地に突き刺したかのように、刃が下向きだ。
だが今回は刃が上向きで、大地に接している部分は石突となる。
これは巨大な墓標であり、遺体が眠る場所を指し示す石碑であり、シェイドール商会が壊滅した日を記念する記念碑でもある。
オベリスクをイメージした巨槍の柄には今まで集めてきた認識票を埋め込んでおり、光が当たるとキラキラと輝き装飾としての効果も期待できた。
「こちらの槍を屋敷があったところにお願い」
『屋敷は?』
「あー……適当に捨ててくれればいいよ」
『あいよ』
蜂蜜を食べ終わったヴァルは機嫌よく無茶難題を聞き入れてくれた。
個人的には面倒くさい注文だと思うから、本当に感謝している。
『まずは砦からだな』
どんな熊さんが出現するか楽しみにしていたのだが、今回は出現しないらしい。残念。
代わりにヴァルが自ら実行するらしいから、ヴァル単体の能力を観察しようと思う。
『結界から出るなよ』
「はーい」
「はいっ」
直後、合掌をするヴァル。
どこかプニッと聞こえて来そうな優しい合掌にほんわかしてしまったのだが、目の前の光景が現実に引き戻してくれた。
砦が地面ごと圧縮されて消え去り、その場には巨大なクレーターが残っただけ。
集団墓地の住民や熊に抱かれた司令官は、順にクレーター中央に開いた穴の中へ消えていった。
そして穴が塞がった後、砦の水源から水が湧き出てクレーター内に溜まり始めた。
もしかしたら湖となり、観光名所になるかもしれない。
「「…………」」
衝撃的な光景を目にした俺達が呆然とする中、ヴァルは一度両手を離した後、屋敷と巨槍に向かって両手を向け、再びの合掌。
『結果が見たいだろ?』
「あ、ありがとう」
「ありがとうございますっ」
消えた屋敷と巨槍の代わりに現れる巨大スクリーン。
そこに映し出された映像は、壊滅という言葉では生温いほどの被害だった。
まずは各支店。
これらは辺境砦と同様に圧縮されて消えてなくなった。
ただ、俺達のときとは違って周囲に尋常じゃないほどの被害が出ているところだ。
結界に守られていた俺達に被害はなかったが、本来なら空間が歪んで消滅したわけで、不思議効果によって急速に空間が修復されるときに衝撃波が発生するらしい。
現に森の外苑の木々は衝撃波でなぎ倒されている。
ヴァルの魔法の効果でクレーターが発生しているところに、さらに衝撃波による波状攻撃だ。
被害の規模は想像したくもない。
次に、名物贈呈式である。
こちらは屋敷がなくなったことで多くの野次馬がいた。
しかしいないものとされ、無慈悲に投下される巨槍。
「──素晴らしいっ。帝城の高さを超えたっ」
本来なら絶対に許されない行為だ。
建築の申請をした時点で叛意ありとされ、拘束からの公開処刑がセットらしい。
つまり、俺は帝国史上初の記録を打ち出した人間となったわけだ。
「えっ? えっ?」
俺が悦に浸っている間、リーパー君を焦燥させる事態が発生したらしい。
「どうした?」
「あ、アレ……」
彼が指差した画面を見ると、そこには屋敷を投下した場面が映し出されていた。
俺が適当に捨ててと言ったわけだから当然の事態なのだが、場所が最悪だった。
「て、帝城……」
その上空にポイッとされた映像が映し出され、元帝国諜報員のリーパー君は顔面蒼白にを通り越して気絶一歩手前の表情をしている。
『うーん……やっぱり結界はあるよな』
「だよねっ」
弾かれてどこに行くのかと脳内の帝都地図から導き出そうと必死に頭を働かせていると、ヴァルが可愛いお手々を握り込んだ。
何のためかを考えるまでもなく、画面に答えが出ていた。
「ブースト来たぁぁぁぁっ」
帝城に張られた結界に衝突する瞬間、ヴァルが屋敷に結界を張り弾かれないように進路を固定したらしい。
相手の術師も拙いと判断し、柔軟に対応してきた。
『人間にしてはなかなかやる』
結界を強度重視から弾性重視に変え、防御力を落とす代わりに直撃を避ける方向に舵をきったようだ。
術師の判断は功を奏し、帝城に直撃するはずだった屋敷の残骸は広大な庭園に落下した。
「見ごたえあったなぁ」
『ああいう人材は大事にした方が良いと思うぞ』
「…………」
リーパー君はホッとしているようだったが、同時に俺達に向ける視線に変化が見られた。
もしかして、子供らしいと思ってくれたのかな?
だったら嬉しいな。
「じゃあ最後にシェイドール商会の幹部と合流しますか」
『うむ』
彼の認識票は既に巨槍に埋め込み済みだ。
行き先も決まっている。
というのも、彼が兎さんを苦しめる指示を出した張本人だから。
幸せな家庭を持ち、幼い娘もいる。
それなのに、幼い兎さんを苦しめるという非道。
敵なら理解できるが、森を開拓するための駒の一つにすぎなかった。
ならば、彼にも我々の気持ちを味わってもらおう。
ついでに計画の駒にもなってもらう。
「こちらです」
馬車三台分に乗せられた様々な奴隷。
これは全てシェイドール商会の手形で購入させた。
本来、奴隷の購入時は現金払いのみだ。
特別扱いの理由はシェイドール商会だから。
後ろ盾が帝国だからで、信用も国が保証している。
それ故の特別扱い。
「ご苦労。君は役目を果たした。安心して安全なところに行くと良い」
彼は司令官がいる空間で、永遠と家族を見守るという呪いがかけられた。
家族に何かがあっても見ること以外は何もできない。
逆に目を逸らすこともできない。
『本当にこれで罰になるのか?』
「なると思うよ。帝国はこれから復興支援でてんてこ舞いになる。シェイドール商会の人員も海外に派遣しているメンバーしかいない。再編のために帰還命令を出さざるを得ないほどに弱体化すると思うんだよね」
『それが?』
「奴隷商たちは奴隷商人組合みたいな組織が後ろ盾になっていて、これが大国でも無視できない組織なんだよね。さらに言えば、復興で予算を使うから諜報活動に回す予算は減らされると思うんだ」
『ふむ』
「そこに手形が不渡りになるという悲劇っ! シェイドール商会の信用は失墜し、奴隷商人に喧嘩を売るという最悪の状況っ。犯罪者をも抱える奴隷商人は奴隷の仕入に制限をかけることはしないはずっ。そして見せしめも兼ねた最初の奴隷はっ?」
俺のプレゼンに「まさかっ」とこぼすリーパー君。
「──リーパー君っ! 答えをっ!」
「さ、先程の方の家族……」
「大・正・解っ! 奴隷となった家族を見ていることしかできず、目を逸らすこともできない無力さを味合わせるには最適だと思うんだっ!」
まぁ計画自体は九分九厘予想通りに進むだろう。
前職で王弟がやったことをパクっただけだから。
ただ、王弟は奴隷商人組合に喧嘩を売ることにビビってたから、最初から連携する方法を取っていたけど。
「ど、奴隷はどうするのです?」
「君が使う? これからの仕事で人員は必要でしょ?」
「よろしいので?」
「今は連れ帰っても場所がないからね。情報漏洩にだけ気をつけてくれれば、君に全部任せるよ」
「ありがとうございますっ」
事前に確保していた服に着替えさせ、ヴァルの転移で北部公爵領の西端に移動し、各所から現金を引き出して回るように指示を出す。
同時にシェイドール商会時代にも行っていた諜報行為も任せることに。
仕事の出来で去就が決まるリーパー君は、決死の覚悟で取り組むと意気込んでいた。
「じゃあ森に帰ろうか」
『うむ』
報復を終え、すっきりした気分で森へ帰還するのだった。
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評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
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