暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
92 / 106
第三章 雑用、始めます

第七四話 チーム問題児

 森に帰った俺達は、兎さん達とお別れを済ませ夜のうちにポットへ帰還することにした。

 ただ、お別れの際に一悶着があり、ボスであるはずのヴァルがすごく困った表情をしていた。
 特に兎さんの剣幕がすごく、『嘘だったらお転婆発揮しちゃうからねっ』と詰め寄っていたほどだ。

 ヴァルは終始『分かった分かった』と宥め、俺に早く出発するように促していた。
 逃げるように出発した俺達は、ヴァルの転移でポット北側の森まで転移と多少の上空移動で、あっという間に帰宅してしまった。

 本当なら早朝に着くように調節するつもりだったのだが、説教事由になりそうな一泊を回避できたのは僥倖だろう。
 これで間違いなく説教は回避できたはず。

「ルーク、ただいまっ」

『……おかえり』

「どうしたの? テンション低いじゃん。イムレから聞いていると思うけど、こちら【ヴァル】です」

『久しぶりだな』

『うむ』

「んっ?」

 どこか周囲の虎さんたちも元気がないように感じ、留守にしていた間に事件でもあったのか心配になる。

「どうしたの? なんかあった?」

『あった』

「敵はっ!?」

 すぐに対処せねばと、ルークに敵勢力について問い質す。

『お前』

「──えっ?」

 イムレや虎さんたち含む全員が俺を指差していた。

「いやいやいや。アリバイあるよっ!?」

『そういうことじゃねぇんだ。誰も食堂に近づけねぇし、とある人物の機嫌がすごく悪いんだ』

「そ、そんなっ」

『分かるだろ? わざわざ名前を言わずとも。というわけだ、行って来い。ヴァルはオレが仕事の説明とかをするから残れば良い』

「い、いやいやいやっ。ヴァルを紹介しなきゃいけないんだから連れて行くよっ!」

『ニアはもう寝た。せっかく紹介するなら明日でいいだろ。行って来い』

「許可取ったって言ったじゃんっ」

『許可は取った。でも、報連相を忘れた。以上』

「し、死んだ……」

 緩衝材を担ってくれるモフモフはいないだろうか。
 そう思って周囲に視線を巡らせるも、めちゃくちゃ懐いてくれている子虎ちゃんもプイッと顔を背けた。

『あぁ、そいつも怒っているからな。何も言わずに出かけたから大泣きして大変だったんだぞ』

「ご、ごめんね……」

「ナウっ」

 プイッと顔を背けた子虎ちゃんは、そのままママ虎のお腹の隙間に潜り込んでいった。

「こ、孤立無援……」

『早く行け』

「くそ……」

 過去一重く感じる足を引きずるようにして一歩一歩前に進み、般若が座す食堂の扉を開けた。

「た、ただいま戻りました……」

 魔導ランプを一つだけつけ、テーブルの上で手を組んだ般若様もといルイーサさん。
 口元は微笑んでいるのだが、その目はちっとも笑っていない。
 悲鳴をあげなかった自分を褒めたい。

「おかえりなさい、ディル」

 怖すぎる……。

「遅かったのね」

 帰りが?
 それとも報連相が?
 もしくは両方?

 扉の外や客室に繋がる廊下にいる野次馬たちが気にならないほど、思考が高速回転している。

「はい、すみません……」

 とりあえず無難に答えておく。
 が、いつものカンニングパートナーのイムレから悲報がもたらされた。

『主、ナディアが悪手だってー』

 はい、死んだ。

「ん? 何がかしら?」

 ほらね?

「ほ、報連相が遅れたことから始まり、許可があったとは言え深夜の帰宅になってしまい、すみませんでした」

「そうね。ママの精霊が慌てて知らせに来てくれたのよ。そのときのママの気持ち、分かるかしら?」

 精霊を振り切ったのも良くなかったようだ。
 イムレの分体がいるから良いかなって思ったんだけど。

「……ご心配をおかけしました」

「分かってくれればいいのよ」

「はい」

「もう二度としないわよね?」

「……はい」

 しそう……。
 でも口が裂けても言えぬ。

「じゃあ明日はママと一緒に出かけましょうね?」

「えっ?」

 明日もやることが……。

「えっ? ディルは悪い子なの? こんなに心配をかけてママの心を痛めつけたのに、デートをして癒してあげたいなって思わない悪い子なの?」

 言い方……。
 現在進行形で滅多刺しにされている気分だ。

「良い子です」

「そうよね。良かった。薬を使わずに済んだわ」

「薬?」

「えぇ。貴族の知り合いが教えてくれたんだけどね、入浴剤っていうものがあるの」

 ──誰だっ。教えたヤツっ!

「どうかしたの?」

「い、いえ何も?」

「そうよね。それで、デートなんだけど……」

「楽しみにしていますっ」

「そう。じゃあ早起きしないといけないから、もう寝ましょうね」

「はいっ。おやすみなさいっ」

「えぇ。おやすみなさい」

 一礼して自室に駆け込んだ俺は、ニヤつくモフモフたちに迎えられた。

『おかえり』

「……ただいま」

『結構圧がある人間だったな』

 初対面のヴァルにとっては、第一印象が最悪になってしまったのでは?

『アレはオレも初めて見た姿だ。普段はあんな感じじゃない』

『そうなのか。じゃあ大丈夫そうだな』

「何が?」

『こっちの話だ』

 ルークたちとすでに相談済みなのか、何やら専用回線で念話しているらしい。

『それよりも早く寝ないといけないんだろ。綺麗にしてやるから寝ろ』

「ありがとう」

 久しぶりの睡眠ということもあり、モフモフで溢れて窮屈になったベッドでも即寝からの熟睡だった。



 ◆



 翌朝、ノックの音で目覚めた。

「おにいちゃん、おきてる?」

 あぁ。モフモフしに来たのか。
 遠慮して毎日は来ないんだけど、モフモフしたいがために早寝早起きをしているのは知っている。

「起きてるよ」

 返事と同時に部屋に入れてあげる。
 しかし、ニアは部屋に一歩入ったところで一点を見つめたまま立ち止まった。

「ん?」

 ニアの視線を追った先にいたのは、丸まって眠る緑色の熊。
 それもベッドの半分を占める大きさ。

「あぁ、ヴァルを見てるのか」

「ゔぁる?」

「新しい従魔だよ。名前は【ヴァル】だよ」

「かわいい……」

 ニアですら可愛いと思うなら、テオなら間違いなく発狂するだろうな。

「さわってもいいのかな?」

「起きたら聞いてみようか」

「うん」

 ニアは返事をした後、ヴァルを横目に見ながらルークとイムレの元に向かい、いつも通りモフモフを堪能していた。

 そして俺はというと、子虎ちゃんの機嫌を取っている。
 起きているのは知っていたのだが、視線を合わせようと顔を向けると背けられていたのでどうしようかと思っていた。
 しかし、ルーク経由で仲直りしなさいとママ虎さんに注意を受け、粘り強く謝罪交渉を試みている。

「ナウ……」

 その結果、何かで埋め合わせをするということで謝罪を受け入れてもらえた。

「おーいっ。メシだぞっ」

 朝の日課である見回り等の時間を全て謝罪に回した結果、テオへの対策がないままテオにヴァルを会わせることに。

「まぁなるようになれ」

 その前に寝坊助のヴァルを起こさないといけないけど。
 頼むから殺気を放つことはやめてほしい。

「ヴァル、起きて」

『ん……』

「ご飯だよ」

『ん……』

 全然起きないな。

『おい、そんなんで起きるわけないだろ』

「じゃあどうやって起こすの」

『任せろ』

 ルークがデブ猫姿でヴァルの耳元まで進み、ボソッと一言『蜂蜜』と言った。

『──んあっ。蜂蜜っ!? どこだっ!?』

『食堂にある』

『じゃあ行くぞっ』

 ムクッと起き上がったヴァルはフワッと浮き上がり、俺に手を差し出した。

「おはよう」

『うむ』

 ニアや子虎ちゃんたちは突然浮いたヴァルに驚き、ジッとヴァルを見つめていた。
 当の本獣は気にもしておらず、早く進めと急かしている。

「ニア、行くよー」

「う、うん」

 ぞろぞろと部屋から大移動していく途中、ナディアさんやエイダンさんと井戸端会議をしているテオと遭遇した。

 テオはヴァルをお手本のような二度見で確認し、次に俺の顔を見た。

「も、もしかして……俺の?」

「残念。僕の」

「──何でだよっ!!!」

『どうしたんだ、コイツ?』

「彼は、熊のことを心底愛してるんだよ」

『はぁ?』

「熊が一番可愛くて、熊と従魔契約をするために日々努力をしている熊獣人のテオドール様」

『ふーん……』

 テオをジッと見たヴァルは何か思うところがあったのか、テオに声を掛けた。

『おい。熊に執着する理由は?』

「えっ? ぬいぐるみがきっかけですが、王都で遭った熊が可愛くて……」

『ふーん。動くなよ』

「えっ?」

『【緑鬼】』

 もしかして尋問官を……?

『巫女よ、視よ』

 新しい熊だ。
 それも巫女装束を纏った女の子。

「えっ?」

 初見の者はもれなくパニックになるほど高密度の魔力を放つヴァルの能力に、本館からはルイーサさんを始めとするエルフ三傑が現れる。
 だが、その場から一歩も進むことはなかった。

 テオ含め俺とニア以外の人間全てを拘束していたからだ。
 そこまでしてヴァルが何をしたいのかはわからなかったが、ルークが動いていないから大丈夫だろう。

『どうだ?』

 熊巫女に顔面をプニッとされたテオは、何が起きているのかわからないという顔を俺に向けている。
 が、俺もわからないから耐えてくれと手で合図をしておいた。

『本当でした。あとこちらが記録です』

『ご苦労。戻って良い』

『失礼します』

 可愛い声で報告した後ペコリとお辞儀をして戻っていく熊巫女さん。

 と、同時に拘束術を消したヴァル。

「て、テオ様、大丈夫?」

 高濃度の魔力にさらされたテオは、拘束術が消えた瞬間その場で膝をついた。

「大丈夫……だ」

『どんな熊か確かめたかったからな。それとコイツはお前を追って来ているらしいぞ』

「「えっ?」」

 思わずテオとハモってしまった。

「獲物として?」

『うーん。近づいたら話を聞けそうだが、獲物ではなさそうだぞ。寄り道をしているくらいだからな』

「そうなんだ……」

『うむ』

 気にはなるけど、確認できないなら気にしても無駄だ。
 それよりも、今は片付けないといけない問題がある。

 説明、どうしよう……。






感想 12

あなたにおすすめの小説

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~

冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。 「道路やばくない? 整備しよ」 「孤児院とか作ったら?」 「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」 貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。 不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。 孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。 元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち―― 濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。 気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。 R8.1.20 投稿開始

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。