エルフに転生したけど、魔法じゃなくておもちゃで無双する

暇人太一

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第一章 転生と計画

第二十二話 商会長、ショックを受ける

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 俺と御令嬢が暗い森の中、カンテラ片手に進んでいく。

「お嬢様もうすぐ着きますよ」

「クロエです。アポロみたいにクロエと呼んでください」

「……クロエ……さん」

「さんもいりません」

「……癖です」

 名前の呼び方を言い合っているうちに村に着いたのだが、何やら雰囲気が違って物々しいのだ。俺はやっぱりかと思い、すぐに魔力感知と魔力操作に集中した。案の定般若さんがすぐに殴りかかってきたのだ。

「このクソ野郎がっ! 大事な客人の娘さんを連れ去るとは鬼畜のやることだ! 地べたを這いずり許しを請え!」

 俺はいつも通りのことだと思い、目を瞑って殴られ続けた。俺の周囲には見えない膜があるから、そもそも拳が肉体に届いてすらいない。そしてテロリストの残党であるフラウア家は、この機会に俺を殺そうと近くに御令嬢がいるのに構わず精霊術を使い始めた。しかし俺は【霊王】だ。遠巻きに近づいて盗み聞きくらいはするが、俺に対して攻撃することはあり得ないとアポロに聞いている。

 精霊界の中では神にも等しい存在であるため、不敬どころの騒ぎではなく、最悪消滅もあり得る行為であるらしい。つまり、今のところコイツらに俺を殺すことは不可能なのだ。これだけでもチートと言える。

 当然そんなことを知っているはずもなく、精霊術が発動しないことをただただ困惑しながら隠しているだけしかできない。もし精霊術が使えないことがバレたら、堕罪の烙印を押されることになるからだ。

 それにしても何人かヴァーミリオン商会の人が加勢しているが、正直ショックである。真面な人たちの集団かと思っていたのに、結局はエルフと同じだったのだ。

「何をするんですか!? 森の中で迷っていたわたしを助けてくれた命の恩人に話しも聞かず、どうして決めつけて一方的な暴力を振るうのですか? 商会のあなたたちもです! 主家の娘が帰ってきたのに無事の確認もせず、暴行に加わるとは呆れて物が言えません! この暴行に加わった者は後ほど処罰いたします! 命の恩人を侮辱することはわたしを侮辱することと同義です! 覚悟しておいてください! それから神子様、従者様、どうもありがとうございました。おかげさまで、ティグルさんの家に行けて有意義な時間を過ごせました」

「ちょっとリース様が言うなって言ったじゃない!」

「えぇ。ですから、誰にも言ってませんよ。わたしは本人にお礼を申し上げているだけですので」

 突然の御令嬢の発言に全員が呆気にとられ、商会員たちは真っ青になって怯えている。まぁしょうがないか。弓で射られるとは思わなかったからな。近くに御令嬢がいるのに。

 それと御令嬢が話し始めた頃から、近くに捜索装備を身につけた商会長や護衛たちが隠れて様子を見ていた。すごい怖い顔をして商会員を見たり、終いにははめた張本人である自称神子にお礼を言っている場面では殺してしまうようにさえ見えた。

 それにしても御令嬢は思った以上に弁が立つようだ。確かに誰にも言っていない。ただ全員の前でお礼を言っただけで、モンスが勝手に自白して全員が勝手に想像してしまっただけだ。ただの事故であり、誰も悪くない。もしかしたらモンスだけは悪いかもしれないが。

「おやおや。聞いていた話と違うではないですか。村長の娘さんは『知らない』と言っていたのに、隣の少女が『言うな』と言っていましたが、どういうことか詳しく話を聞かせてもらえますか? それと私は娘かティグル君が来たら話を聞きたいから、何もせず呼び戻して欲しいと言ったはずだが、まさか娘が近くにいるのに集団暴行を行い、魔法や弓矢で攻撃する者まで現れるとは思いませんでした。そのことも詳しく聞きたいですね。カルコス君、暴行に加わった者たちを捕縛しておいてください。後ほど処分を下します」

 御令嬢の援護をするかのように姿を現し、静かだけどとても冷たい口調で話し掛けていた。そのせいか話し掛けられていた当事者たちはもれなく顔色を悪くし、これから行われるであろう話し合いというなの尋問や処罰に対する言い訳を考えているようだった。一部の加害者たちーー特に商会員たちが顕著で、村長を含むエルフに頼まれたと必死に主張していた。

 でもさすがに一人の親である商会長は、話し合い前に御令嬢の無事を確認し多少の小言を言っていた。その際アポロたちのことは隠して危ないところを助けてもらい、さらに食事を提供してもらったあと暗い森の中を送ってもらったのだと説明していた。

 アポロたちのことを抜いた模範解答を淀みなく答えられるところを感心するも、女性に口で勝てないって本当なんだろうなと改めて思う。そして直後、俺の心を読んだかのような絶妙なタイミングで名前を呼ばれる。

「ティグルー! お父様が話したいことあるって」

 村まで来る間にもめにもめた呼び方問題は、御令嬢が呼び捨てで呼ぶから呼び捨てで呼んでというものだった。だからこそ今この場で率先して有言実行しているのだろうが、呼び捨てで呼んだときの商会長の顔を見て欲しかった。アノ顔はいわゆるボーイフレンドを連れてきた娘を見て衝撃を受け、男に対して敵対行動をとる父親の顔だ。

 このボーイフレンドは別に彼氏というわけではなく、仲の良い男友達という意味として世の中の父親に認識されている。何故なら、たとえ彼氏としても認めなくて済む都合のいい言葉だからだ。

 それはさておき、御令嬢は呆然とする父親を放置して俺のところまで来ると、俺の手をとって父親の元まで連れて行こうとする。

「ほら、行こう!」

 ……やめて。顔が……商会長の顔が……。

 結局振り払うことなどできるはずもなく、できるだけ商会長の顔を見ないように下を見ながら進んだ。幸い手を引かれているせいで、前を向かなくてもしっかり進めた。そのことと、女の子の柔らかい手を転生後初めて握れた感動を味わい現実逃避できたことは、不幸中の幸いだと言えた。

「ク……クロエ……。随分仲良くなったのだな……」

「はい! 博識なティグルのおかげで髪の毛の色の本当の意味もしれたし、夢のために必要な知識も教えてもらえました!」

 いや、それはアポロとベガだから……。言えないのは分かるけど、嘘はいかんよ。あと、いつまで手を握っていればいいのかを聞きたい。さっきから商会長がチラチラと繋がれた手を見ているし、護衛の何人かはニコニコと笑みを浮かべて力説する御令嬢と繋がれた手に視線を向けている。

「そ……そうか。それはよかった。ところでティグル君、娘の危ないところを助けてくれたと聞いた。本当にありがとう。それからうちの商会員が酷いことをしてしまい本当にすまなかった。私の国の法律で裁くことになってしまうが、きちんと処罰することを約束する。今回は本当にすまなかった」

 商会長が頭を下げると全商会員と護衛が同時に頭を下げて謝罪してきた。それを見た俺は少し反省していた。長い間エルフと接していたせいで、一人を見て全体を把握した気でいた。全体を把握することは大切だが、個を見て判断することもまた同様に大切であることを見落としていた。

 俺は商会長を見てヴァーミリオン商会の人たちがいい人たちだと感じたり、暴行を加えた商会員を見てヴァーミリオン商会の人たちがエルフと同じだと感じたりしていたが、商会長という個人がいい人で暴行を加えた人が敵なのだと、一括りにするのはよくないと気づく。それと今回のことで改めて商会長の誠実さに気づけてよかったと思う。

「大丈夫ですよ。荒事には慣れていますので、特に気にしていませんよ。だから頭を上げてください」

「……慣れてる?」

 護衛隊長が訝しげに質問してきた。そこで自分の失言に気づく。

「……【蛙石】や【蛇眼石】の原料調達などで森に入りますので」

 なんとか誤魔化されて欲しい。普通成人前の子どもが荒事に慣れていたら、そこは異常環境だもんな。主に虐待最前線。

「……あぁ、なるほど」

 御令嬢だけは素直に納得しているが、元々不審な言動が目立つエルフの村で荒事に慣れたハーフの孤児と聞いたら、まず間違いなく虐待を疑うだろうから、さすがに大人組は微妙な顔をして無理矢理納得していた。

 こういうときは逃げるに限る。とりあえず帰ってアポロをモフモフしてから考えよう。

「では、これ以上暗くなると帰れなくなってしまいますので、ここで失礼させていただきます!」

 俺はお辞儀をした後、そっと手を離して走って家に帰るのだった。


 ◇◇◇


「会長、ついに来てしまいましたね。子どもの親離れの時期が……。クククッ。お手手繋いでましたよ。ぎゅ~って!」

 ティグルが走り去った後、休むように言われたクロエ・ヴァーミリオンは早々に隊商のテントの中は入り、残った大人組は話し合いのための準備を行っていた。そのときに古株の商会員や護衛隊長が、上司であるイフェスティオ・ヴァーミリオンをからかっていた。

「まだだ……。外国の地で仲良くなってしまい、外国の解放感から普段とは違った行動をしてしまっているだけだ。そうでなきゃ、他人と話すことが苦手なクロエが呼び捨てで話すわけないだろう? それに手を繋いでいたのは暴行を受けたから倒れないようにと、つまりは介抱をしていただけだ」

「えぇぇぇ~、だって走ってましたよ? 俺たちのように訓練を受けた兵士でも、集団で暴行されたら無傷ってのは無理だし走るなんて到底無理ですよ。そもそも森で暮らしているんでしょ? 荒事に慣れるくらいの戦闘をして。……介抱いります?」

「……そうか。肉体強化が得意な者がうちの護衛隊にいるんだが、毎回訓練後にきれいな治癒士に介抱してもらっていると聞く。介抱が必要ないのなら、もう派遣しなくていいのだな?」

「「すみませんでしたーーー!」」

 美人の治癒士の派遣元であり、派遣費用を支払ってくれている上司の一言にあえなく撃沈した商会員や護衛隊長は、即座に謝罪して派遣継続を願っていた。商会員も願う理由は、彼らも必要最低限の護身術を習っているのだが、本職でないからこそモチベーションを維持する美人治癒士が必須だったからだ。

 というのも、ファンクラブができるほどの美人治癒士と結婚することを願い頑張っている者も多くいる。そして叶えた者もいる。その人物は護衛隊長のヴァン・カルコスだった。夢を叶えた英雄が目の前にいるからこそ、自分も後に続けと頑張れるのである。

「さて、仕事をしにいきますよ」

「はっ!」

 美人治癒士の派遣継続を約束された部下たちは、高い士気を保ったまま話し合いに臨み、結果、多くの慰謝料や迷惑料を分捕ることができたのだった。


 ◇◇◇

 
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