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第一章 神託騎士への転生
第二十四話 虎子は償いを欲する
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片付けは終わった。
馬車は一台が大破したため、全部で五台しか確保できなかった。
棺桶が減ったからその分燃やす死体の量が増えてしまったのだ。正直面倒くさい。
エルフを気遣って疫病対策をし、【聖王国】のクズを弔わなくてはならないとは……。時間の無駄だ。
ただ、大破した馬車は足回りが修理不能になっただけで、大きな木箱としての価値はある。……動かせないけど。
だが、《コンテナ》を使えば動かせない問題も解決するので、物資をまとめてしまうのには大いに助かった。
防護柵はそのまま残してあげ、何かに使ってもらおう。せっかく【聖王国】の者たちが作った野営地なのだから。……仮に魔物が棲み着いたとしても、そのときは魔物牧場にしたらいいんじゃないかな。
「ドラド、馬車の御者台に王女とエルフたちを載せたら、もう一つの馬車に合流しよう。ご飯はそこで食べようね!」
「……馬車なのか?」
「仕方がないじゃん。馬を連れていかないといけないんだし」
「そういう車はないのか?」
「……あるよ。馬運車っていうのがね。でも、ここは狭いから無理だよ」
「残念だ……」
「可愛い……」
落ち込んでるのに可愛いと言ったからか、ギロリと睨まれてしまった。
「またすぐに乗れるよ! 殲滅作戦が終わったんだから用事はなくなったしね! 北方辺境侯の領都に行くんだよ!? 乗り物に乗るに決まってるじゃん!」
「うん……。分かった!」
ポテポテと走ってティエラたちを呼びに行き、王女を担いで保護したエルフ女性二人と戻ってくる。
というか、お前さんも担ぐんかい……。
「連れてきたぞ!」
「ありがとう! 真ん中の幌馬車に分乗させてあげて。御者台しかあいてないから、落とさないように気をつけてね!」
「分かってる!」
落下の危険があるのは、現在も簀巻きにされている王女だけだ。しかし、解くことはできない。
暴れられて困るというのもあるが、自暴自棄になられるのも困るからだ。
御者台に寝かせてロープで固定しておく。
三台の幌馬車と最後尾の箱馬車はロープで繋げてあり、連結された先頭の幌馬車にエルフ女性を乗せて御者をしてもらう。
まぁ、ドラドがついてこいって馬に言っていたから意味はないだろうけど。
俺たちが乗る馬車が五台の馬車の先頭で、一番豪華な箱馬車だ。
連結せず独立して動けるようにしているが、棺桶であることは変わらないため乗る場所がない。よって、ティエラとカグヤの狙撃組は屋根の上に載っている。
ドラドも乗りたそうにしていたが、馬に指示を出す役割があるから遊べないのだ。
ちなみに、前半戦を行った戦場跡地に向かうルートは村を経由しない新しいルートである。
というのも、【聖王国】の兵士たち二個中隊と、輜重部隊が協力して道をつくったようで、作戦行動を取るために別行動を取ることになった場所まですぐだったから。
つまり、来た道を戻って村に戻るよりも合流地点から村に向かった方が遥かに近く、大幅な時間短縮になるということだ。
「腹減ったーー! ドラド、シチューはどうかな?」
「今日は無理だ」
「そうだよなーー。じゃあ今日の晩ご飯は?」
「うーーん……、風呂に入りたいからなぁ。簡単な肉野菜炒めかな!」
「昨日は時間がなかったもんな」
「そうだぞ! マッサージ付きがいいぞ!」
「わたしも!」「カグヤもーー!」
「任せなさい!」
「約束だからな!」
可愛い……。
「あっ! 見えたのーー!」
「あそこに馬車が見えるわ!」
死体を見過ぎて汚れた目を、ご機嫌なドラドを見ることで浄化していたら、屋根の上から到着を知らせる声が聞こえてきた。
「めちゃくちゃ近いな。挟撃というほど部隊が離れていたわけじゃないのな」
「村の門の正反対は無理だろ」
「何で? ツリーハウスがあったところの外側でしょ?」
「あそこは森の奥へ入る境界線だ。あそこに部隊を展開したら、あっという間に狩る側から狩られる側になると思うぞ。ツリーハウスの住人があの子を保護できていた理由は、村で唯一の守人だったからじゃないか?」
「そんな危ないところに案内させられたのか。次は股間を撃ってやる!」
「……ショック死しちゃうぞ!?」
「それは困る! 彼にはまだ役目があるんだからな!」
「……どんな?」
「内緒――っていうのは冗談で、裏取引がバレて王女に逃げられてしまったと廃墟街に伝えるメッセンジャーかな」
ギロリと睨んだ表情に変わったため、即座に役割を教えることにした。
「ん? エルフの村はピンチにならないのか? バレたなら好きに捕まえていいよね? って!」
「なったら何か問題でもあるのか?」
と、ドラド会話しているうちに合流を果たし、エルフたちが王女を簀巻きから解放していた。
そこで問題となったのが、会話の最中に出てきた『エルフ村ピンチ問題』だ。
「問題しかないだろう!!!」
ズタボロの王女がフラフラと御者台に近づいてきた。
ティエラとカグヤが照準を合わせていたけど手で制し、王女の目の前に降り立つ。
「何故でしょう?」
「貴様に良心はないのか!?」
「ありますよ」
「では何故……何故、村を危機にさらす!?」
「良心があったから、あなたを助けたでしょう? エルフの女性を奴隷から解放したでしょう? 村に来たときは襲われたのにもかかわらず、大量の物資の提供もしたし、【聖王国】の大隊を殲滅した。あなた方エルフがした蛮行を見逃して。これ以上何をしろと?」
「中途半端に首を突っ込んで引っかき回しただけだろ!」
「はぁ……。首を突っ込ませたのは誰? エルフだ。引っかき回さなければ死にそうになっていた。そう仕向けたのは誰? エルフだ。元々の状況も今の中途半端だという状況も、作ったのは全てエルフのせいだ!」
「頼んでない!」
まだ分からないのか?
「誰があなたが原因と言いました? 森の中で盗賊行為を行おうとして襲撃してきたのはエルフの集団だ。村に来て物資が欲しいと言ったのもエルフだ。村の中に引き込んだのも、【聖王国】に引き渡して貢ぎものにしようとしたのも! あなたはエルフが何よりも大切なんだろう! 目の前で家族を失った悲しみを知っているのだろう! では、俺が家族を失っても構わないと何故言える!? あなたには良心がないのか!?」
「――っ!」
「エルフを助けようとする心は立派だよ。でもエルフさえ助かれば他の人はどうでもいいのか? それとも【落ち人】は家族なんて持つ資格はないというのか?」
「……」
少しだけ興奮してしまったが、一息ついて心を静める。どちらも興奮して話せば、それはただの喧嘩だ。
「あのエルフ村がやっていることは、世間一般の常識に照らし合わせると盗賊行為というんですよ。盗賊は奴隷か死刑が基本ですが? あなた方エルフは、エルフを違法奴隷にする盗賊を手厚く歓迎して助けるのですか? 『滅べ!』と、恨み言を言う方が間違っているのですか? 盗賊の被害者が報復行為を行っても罪にはならないのですが、報復せずに立ち退こうとしているんです。十分良心的だと思うんですが?」
四人で一個大隊を殲滅したのを考えれば、エルフ村の制圧なんて簡単だし、慰謝料として売り払うこともできる。
それをせず、『自業自得だから頑張って』と放置するだけだ。何も問題がないだろう。
「その自己犠牲と正義感はあなたの長所なのでしょう。しかし筋を通していなければ、理不尽を他人に押しつけているだけです。あなたが気に掛けなければいけないのは、村長を含むエルフ村の人たちではなく、あなたを助けようとして犠牲になっているエルフたちです。――王女を売り渡したヤツらと一緒の扱いをしたら、報われないだろうがっ!」
「…………すまない」
誰に、そして何に謝っているのか分からないが、少し落ち着いて考えられるようになってきたのだろう。
絶望の淵にあって唯一の支えが、エルフを助けるという使命感だと思う。何もできずに国を亡くしてしまったから。
それを利用したのが、村長だったり廃墟街の住人だったり【聖王国】だったりするのだろう。
彼女はまだ絶望するには早すぎるということを知ってもらい、冷静な判断ができるようになってもらいたい。
「……何より、自分や家族を犠牲にしてまで王女を救おうとした気持ちを踏みにじるべきではない。誰も頼ろうとせず、勝手に絶望に暮れるのは間違っている。……彼女たちは私に王女を助けるように懇願した。あなたはどうするのですか? 私たちは明日、後始末をしたら旅立ちます。食事を摂ったら、ゆっくりと休みながらお考えください」
首に外傷治療薬と内傷治療薬を打ち込み王女を治療する。
他の六人のエルフも同様に治療してあげ、馬車の馬を木に繋げに行く。
ここには王女を含めて七人のエルフがおり、馬の扱いに長けているということで、略奪物資から道具やエサを取り出して世話をお願いした。
その際、六人のエルフがそれぞれお礼を言いに来た。
自分のことは二の次で、真っ先に王女のことでお礼を言われたのだ。
もちろん、奴隷解放や治療のこともお礼を言われた。俺も馬のことでお礼を言い、報復作戦の準備に移る。
「ちょっと出掛けてくるから、ご飯作っておいてね!」
「……早く帰って来いよ。風呂があるからな!」
「もちろん!」
ティエラには王女の行動を見てもらって、カグヤとデートに行く。
「カグヤ、一緒にお出かけしようか!」
「うん!」
村まで手を繋いで歩き、お風呂のジャンケンで一番をゲットしたという話をしたり、次の目的地の話をしたりと、妹と夜の散歩をしているようだった。
めちゃくちゃ楽しい。幸せだ!
「むぅ……邪魔がいる!」
「村長を覚えてる?」
「うん! 足に穴が開いた人!」
「そう! そいつを捕獲したら帰ろう!」
「うん! カグヤが行ってくる!」
「じゃあ邪魔者は俺が相手をしようかな!」
サブ装備を魔法円盾からスタン警棒に変え、P90からモスバーグM500に変えた。弾丸はテーザー弾だ。
「早く帰ってくるから気をつけてね!」
「カグヤもね!」
「うん!」
音を立てずに移動する様は、まるで本物の忍者のようで見とれてしまった。カッコいい……。
「さて、夜分遅くにすみませんね。尻に穴を開けられたい人……いますか?」
怒気が跳ね上がったと同時に矢が放たれた。
マップはすでにデフォルトに戻してあるため、伏兵の位置も把握している。
難なく避けて、破壊された門内に用意された罠をHK45Tで撃ち抜いてく。
同時に左手でM84スタングレネードを投げる。
「グアッ――!」
という声が至るところから聞こえ、マップを頼りにテーザー弾を打ち込んでいく。
遠くにいて狙えない場合は、HK45Tで弓を破壊して遠距離攻撃を阻止していく。
もれなく一巡したことを確認した後、スタン警棒を片手に武装解除させて拘束していく。
残存兵力の制圧も行おうかとしたところで、村長を引きずるカグヤが帰ってきた。
「隠れてたよーー! お金と一緒に!」
「お金はエルフたちのだから置いていこうか」
《コンテナ》から拡声器を取り出し、村内に向けて話し掛ける。
「あーー! テステス! こちらはオラクルナイトのディエスです。この度は謀ってくれてありがとうございます。貴殿らの行動は余すことなく神の目に届くでしょう。
さて話は変わりますが、村長が主導して【聖王国】や廃墟街の人間とエルフの売買取引を行い、私腹を肥やしていたのはご存知でしょうか? 王女が理由ではなかったのです。それでも王女は潔く引き渡しに応じました。村民を救うべく最大限努力をしてきたのです」
話を聞きに家の外に出てきたエルフを見渡し、情報を反芻する時間を作る。
「いつぞや私に、王女は王族であるのに何もしないと言っていたエルフがいました。そんなあなた方に私から質問があります。『あなた方は王女を救うために何をしましたか?』。何もしない行動が王女を絶望の淵に立たせ、心に剣を突き立てたことを心に刻んでいただきたい! 最後に、村長はいただいていきます! 以上。二度と会うことはないでしょうが、お元気で。盗賊諸君!」
リヤカーを《コンテナ》から出して村長を載せ、ドラドの晩ご飯を食べに野営地に向かう。
途中でティエラと合流して。
「……晩ご飯を食べ損ねますよ」
「…………うん」
馬車は一台が大破したため、全部で五台しか確保できなかった。
棺桶が減ったからその分燃やす死体の量が増えてしまったのだ。正直面倒くさい。
エルフを気遣って疫病対策をし、【聖王国】のクズを弔わなくてはならないとは……。時間の無駄だ。
ただ、大破した馬車は足回りが修理不能になっただけで、大きな木箱としての価値はある。……動かせないけど。
だが、《コンテナ》を使えば動かせない問題も解決するので、物資をまとめてしまうのには大いに助かった。
防護柵はそのまま残してあげ、何かに使ってもらおう。せっかく【聖王国】の者たちが作った野営地なのだから。……仮に魔物が棲み着いたとしても、そのときは魔物牧場にしたらいいんじゃないかな。
「ドラド、馬車の御者台に王女とエルフたちを載せたら、もう一つの馬車に合流しよう。ご飯はそこで食べようね!」
「……馬車なのか?」
「仕方がないじゃん。馬を連れていかないといけないんだし」
「そういう車はないのか?」
「……あるよ。馬運車っていうのがね。でも、ここは狭いから無理だよ」
「残念だ……」
「可愛い……」
落ち込んでるのに可愛いと言ったからか、ギロリと睨まれてしまった。
「またすぐに乗れるよ! 殲滅作戦が終わったんだから用事はなくなったしね! 北方辺境侯の領都に行くんだよ!? 乗り物に乗るに決まってるじゃん!」
「うん……。分かった!」
ポテポテと走ってティエラたちを呼びに行き、王女を担いで保護したエルフ女性二人と戻ってくる。
というか、お前さんも担ぐんかい……。
「連れてきたぞ!」
「ありがとう! 真ん中の幌馬車に分乗させてあげて。御者台しかあいてないから、落とさないように気をつけてね!」
「分かってる!」
落下の危険があるのは、現在も簀巻きにされている王女だけだ。しかし、解くことはできない。
暴れられて困るというのもあるが、自暴自棄になられるのも困るからだ。
御者台に寝かせてロープで固定しておく。
三台の幌馬車と最後尾の箱馬車はロープで繋げてあり、連結された先頭の幌馬車にエルフ女性を乗せて御者をしてもらう。
まぁ、ドラドがついてこいって馬に言っていたから意味はないだろうけど。
俺たちが乗る馬車が五台の馬車の先頭で、一番豪華な箱馬車だ。
連結せず独立して動けるようにしているが、棺桶であることは変わらないため乗る場所がない。よって、ティエラとカグヤの狙撃組は屋根の上に載っている。
ドラドも乗りたそうにしていたが、馬に指示を出す役割があるから遊べないのだ。
ちなみに、前半戦を行った戦場跡地に向かうルートは村を経由しない新しいルートである。
というのも、【聖王国】の兵士たち二個中隊と、輜重部隊が協力して道をつくったようで、作戦行動を取るために別行動を取ることになった場所まですぐだったから。
つまり、来た道を戻って村に戻るよりも合流地点から村に向かった方が遥かに近く、大幅な時間短縮になるということだ。
「腹減ったーー! ドラド、シチューはどうかな?」
「今日は無理だ」
「そうだよなーー。じゃあ今日の晩ご飯は?」
「うーーん……、風呂に入りたいからなぁ。簡単な肉野菜炒めかな!」
「昨日は時間がなかったもんな」
「そうだぞ! マッサージ付きがいいぞ!」
「わたしも!」「カグヤもーー!」
「任せなさい!」
「約束だからな!」
可愛い……。
「あっ! 見えたのーー!」
「あそこに馬車が見えるわ!」
死体を見過ぎて汚れた目を、ご機嫌なドラドを見ることで浄化していたら、屋根の上から到着を知らせる声が聞こえてきた。
「めちゃくちゃ近いな。挟撃というほど部隊が離れていたわけじゃないのな」
「村の門の正反対は無理だろ」
「何で? ツリーハウスがあったところの外側でしょ?」
「あそこは森の奥へ入る境界線だ。あそこに部隊を展開したら、あっという間に狩る側から狩られる側になると思うぞ。ツリーハウスの住人があの子を保護できていた理由は、村で唯一の守人だったからじゃないか?」
「そんな危ないところに案内させられたのか。次は股間を撃ってやる!」
「……ショック死しちゃうぞ!?」
「それは困る! 彼にはまだ役目があるんだからな!」
「……どんな?」
「内緒――っていうのは冗談で、裏取引がバレて王女に逃げられてしまったと廃墟街に伝えるメッセンジャーかな」
ギロリと睨んだ表情に変わったため、即座に役割を教えることにした。
「ん? エルフの村はピンチにならないのか? バレたなら好きに捕まえていいよね? って!」
「なったら何か問題でもあるのか?」
と、ドラド会話しているうちに合流を果たし、エルフたちが王女を簀巻きから解放していた。
そこで問題となったのが、会話の最中に出てきた『エルフ村ピンチ問題』だ。
「問題しかないだろう!!!」
ズタボロの王女がフラフラと御者台に近づいてきた。
ティエラとカグヤが照準を合わせていたけど手で制し、王女の目の前に降り立つ。
「何故でしょう?」
「貴様に良心はないのか!?」
「ありますよ」
「では何故……何故、村を危機にさらす!?」
「良心があったから、あなたを助けたでしょう? エルフの女性を奴隷から解放したでしょう? 村に来たときは襲われたのにもかかわらず、大量の物資の提供もしたし、【聖王国】の大隊を殲滅した。あなた方エルフがした蛮行を見逃して。これ以上何をしろと?」
「中途半端に首を突っ込んで引っかき回しただけだろ!」
「はぁ……。首を突っ込ませたのは誰? エルフだ。引っかき回さなければ死にそうになっていた。そう仕向けたのは誰? エルフだ。元々の状況も今の中途半端だという状況も、作ったのは全てエルフのせいだ!」
「頼んでない!」
まだ分からないのか?
「誰があなたが原因と言いました? 森の中で盗賊行為を行おうとして襲撃してきたのはエルフの集団だ。村に来て物資が欲しいと言ったのもエルフだ。村の中に引き込んだのも、【聖王国】に引き渡して貢ぎものにしようとしたのも! あなたはエルフが何よりも大切なんだろう! 目の前で家族を失った悲しみを知っているのだろう! では、俺が家族を失っても構わないと何故言える!? あなたには良心がないのか!?」
「――っ!」
「エルフを助けようとする心は立派だよ。でもエルフさえ助かれば他の人はどうでもいいのか? それとも【落ち人】は家族なんて持つ資格はないというのか?」
「……」
少しだけ興奮してしまったが、一息ついて心を静める。どちらも興奮して話せば、それはただの喧嘩だ。
「あのエルフ村がやっていることは、世間一般の常識に照らし合わせると盗賊行為というんですよ。盗賊は奴隷か死刑が基本ですが? あなた方エルフは、エルフを違法奴隷にする盗賊を手厚く歓迎して助けるのですか? 『滅べ!』と、恨み言を言う方が間違っているのですか? 盗賊の被害者が報復行為を行っても罪にはならないのですが、報復せずに立ち退こうとしているんです。十分良心的だと思うんですが?」
四人で一個大隊を殲滅したのを考えれば、エルフ村の制圧なんて簡単だし、慰謝料として売り払うこともできる。
それをせず、『自業自得だから頑張って』と放置するだけだ。何も問題がないだろう。
「その自己犠牲と正義感はあなたの長所なのでしょう。しかし筋を通していなければ、理不尽を他人に押しつけているだけです。あなたが気に掛けなければいけないのは、村長を含むエルフ村の人たちではなく、あなたを助けようとして犠牲になっているエルフたちです。――王女を売り渡したヤツらと一緒の扱いをしたら、報われないだろうがっ!」
「…………すまない」
誰に、そして何に謝っているのか分からないが、少し落ち着いて考えられるようになってきたのだろう。
絶望の淵にあって唯一の支えが、エルフを助けるという使命感だと思う。何もできずに国を亡くしてしまったから。
それを利用したのが、村長だったり廃墟街の住人だったり【聖王国】だったりするのだろう。
彼女はまだ絶望するには早すぎるということを知ってもらい、冷静な判断ができるようになってもらいたい。
「……何より、自分や家族を犠牲にしてまで王女を救おうとした気持ちを踏みにじるべきではない。誰も頼ろうとせず、勝手に絶望に暮れるのは間違っている。……彼女たちは私に王女を助けるように懇願した。あなたはどうするのですか? 私たちは明日、後始末をしたら旅立ちます。食事を摂ったら、ゆっくりと休みながらお考えください」
首に外傷治療薬と内傷治療薬を打ち込み王女を治療する。
他の六人のエルフも同様に治療してあげ、馬車の馬を木に繋げに行く。
ここには王女を含めて七人のエルフがおり、馬の扱いに長けているということで、略奪物資から道具やエサを取り出して世話をお願いした。
その際、六人のエルフがそれぞれお礼を言いに来た。
自分のことは二の次で、真っ先に王女のことでお礼を言われたのだ。
もちろん、奴隷解放や治療のこともお礼を言われた。俺も馬のことでお礼を言い、報復作戦の準備に移る。
「ちょっと出掛けてくるから、ご飯作っておいてね!」
「……早く帰って来いよ。風呂があるからな!」
「もちろん!」
ティエラには王女の行動を見てもらって、カグヤとデートに行く。
「カグヤ、一緒にお出かけしようか!」
「うん!」
村まで手を繋いで歩き、お風呂のジャンケンで一番をゲットしたという話をしたり、次の目的地の話をしたりと、妹と夜の散歩をしているようだった。
めちゃくちゃ楽しい。幸せだ!
「むぅ……邪魔がいる!」
「村長を覚えてる?」
「うん! 足に穴が開いた人!」
「そう! そいつを捕獲したら帰ろう!」
「うん! カグヤが行ってくる!」
「じゃあ邪魔者は俺が相手をしようかな!」
サブ装備を魔法円盾からスタン警棒に変え、P90からモスバーグM500に変えた。弾丸はテーザー弾だ。
「早く帰ってくるから気をつけてね!」
「カグヤもね!」
「うん!」
音を立てずに移動する様は、まるで本物の忍者のようで見とれてしまった。カッコいい……。
「さて、夜分遅くにすみませんね。尻に穴を開けられたい人……いますか?」
怒気が跳ね上がったと同時に矢が放たれた。
マップはすでにデフォルトに戻してあるため、伏兵の位置も把握している。
難なく避けて、破壊された門内に用意された罠をHK45Tで撃ち抜いてく。
同時に左手でM84スタングレネードを投げる。
「グアッ――!」
という声が至るところから聞こえ、マップを頼りにテーザー弾を打ち込んでいく。
遠くにいて狙えない場合は、HK45Tで弓を破壊して遠距離攻撃を阻止していく。
もれなく一巡したことを確認した後、スタン警棒を片手に武装解除させて拘束していく。
残存兵力の制圧も行おうかとしたところで、村長を引きずるカグヤが帰ってきた。
「隠れてたよーー! お金と一緒に!」
「お金はエルフたちのだから置いていこうか」
《コンテナ》から拡声器を取り出し、村内に向けて話し掛ける。
「あーー! テステス! こちらはオラクルナイトのディエスです。この度は謀ってくれてありがとうございます。貴殿らの行動は余すことなく神の目に届くでしょう。
さて話は変わりますが、村長が主導して【聖王国】や廃墟街の人間とエルフの売買取引を行い、私腹を肥やしていたのはご存知でしょうか? 王女が理由ではなかったのです。それでも王女は潔く引き渡しに応じました。村民を救うべく最大限努力をしてきたのです」
話を聞きに家の外に出てきたエルフを見渡し、情報を反芻する時間を作る。
「いつぞや私に、王女は王族であるのに何もしないと言っていたエルフがいました。そんなあなた方に私から質問があります。『あなた方は王女を救うために何をしましたか?』。何もしない行動が王女を絶望の淵に立たせ、心に剣を突き立てたことを心に刻んでいただきたい! 最後に、村長はいただいていきます! 以上。二度と会うことはないでしょうが、お元気で。盗賊諸君!」
リヤカーを《コンテナ》から出して村長を載せ、ドラドの晩ご飯を食べに野営地に向かう。
途中でティエラと合流して。
「……晩ご飯を食べ損ねますよ」
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