勇者の息子は従魔と神託騎士になる~FPSとMMORPG能力で自由気ままに人助けをします~

暇人太一

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第一章 神託騎士への転生

第二十七話 炎の呪いが炸裂する

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 みんなそれぞれ車両を見て驚いているけど、俺はドラドだけを見ていた。
 M134を見て「アレはっ!」と、はしゃいでいるのだ。可愛くないわけない。

「驚いているところすみませんが、同行する方は乗ってください」

「ちょっと! 聞いてない! ズルい!」

「仕方がないでしょう。平和的な解決だったし、わたくしだけ独り身で自由がきくのです!」

「皆さんお子さんが?」

「……いると思います?」

 レイラさんが怖い……。
 しかも代表して聞いたのがレイラさんというだけで、他の四名も無言の圧力をかけていた。

「いえ、全く! 見えないから驚いたんです!」

「ならよかったです」

 怖いよ……。

「おれはどこに乗ろうかな。やっぱり助手席だよな!」

「アレはいいの?」

「どうせ使えないんだろ?」

「……よく分かったな。非常時以外はロックを掛けているから、現在はただの飾りです」

「……なら助手席一択だ! また変な呪文が聞けるかもしれないからな!」

「じゃあティエラたちにはドライマンゴーを渡すから、女子会でもやってみたら?」

「親睦会ね! 分かったわ! ドラド、ミートパイとタルト!」

「わ、分かってるよ! まずはシチューな!」

「楽しみなのーー!」

 と言って、ティエラとカグヤはご機嫌で荷台に乗り込んでいく。
 ドラドは盗られまいと急いで助手席に座り、狭い座席で使う武器の選択を考えていた。……まぁFive-seveN一択だろうけどね。

「あぁぁぁぁぁーーー!」

 悔しそうにしているのはレイラさんで、グレースさんは勝ち誇った表情で荷台に乗り込んでいった。

「そういえば、荷物はいいんですか?」

「わたくしは村長に取り上げられましたし、元々避難民ですから大した物は持っていません。村ではお金を使いませんしね」

「私も同じだ。あの家の物は師匠のものだから、私の物はないのと同じだ」

 グレースさんも王女も着の身着のままの旅立ちらしい。今もTシャツとスウェットショートパンツ姿という、ほぼ寝起きの状態だからね。

「そうなんですね。じゃあこのまま出発しますね。……少し寄り道しますけど」

 報復という名の寄り道だ。

「それではみなさん、気をつけて帰ってくださいね。また会う日までお元気で!」

「またねーー!」

「ありがとう!」

「待っててねーー!」

「ルシア様、お気をつけてーー!」

「また会いましょう!」

 エルフたちの言葉を受け、王女も涙を浮かべた笑顔で応える。

「行ってくるぞーー!」

 新たな旅立ちは、美人エルフに見送られるという最高のものであった。


 ◇◇◇


「兄貴、何でそんなに急いでいるんですか? ゆっくり帰りましょうよ」

「……死体が腐るだろ!」

「置いていけばいいじゃないですか」

「どこで見てるか分からないし、宣誓したから無理だ! とにかく急いで帰るぞ! たしか【聖王国】の文官がいたはずだ。死体を持って帰ったことで恩を売っておけばいいだろ!」

「疑われますよ!」

「殺したヤツが死体なんか持ち帰るかよ! それに、疑われるとしたらエルフだろ!」

「ふんっ! 私は村に帰るつもりはないからどうでもいいがな!」

 村長は鎧を大事そうになで、ニヤリと笑みを浮かべる。それを見たパー・プーは、神官が言っていたことは本気だと信じ込んだ。
 そして、急いで呪いの鎧を脱がせようと決意を固めた。

「――やっと見えた! 街だ!」

「兄貴、出迎えもありますよ!」

「そりゃあ、これだけ分かりやすければな! とりあえず、到着したら綱を切って馬を逃がすぞ! それから報告だ!」

「了解っす!」

「分かっている」

 馬車と出迎えの一行が合流するすぐ手前で馬車を停め、すぐに馬具の綱を切っていく。
 その行動に出迎えの者たちに警戒心を抱かせてしまったが、三人に共通している宣誓ゆえ、細かいことを気にせず宣誓内容を実行していた。
 これで宣誓を一つ消せるなら文句などないだろう。

 馬を散らせたあと、それぞれ自分に課せられた宣誓内容を実行しようと行動を開始する。

「ボス! 報告しなければいけないことがあります! あの【聖王国】の貴族の鎧を急いで脱がすんです! アレを三日以内に脱がさないと、着ている者と関係が深い者やその周囲に呪いが降りかかるんです!」

 真っ先に動いたのは身軽なパー・プーだ。

 他の二人はパー・プーの報告を聞きギョッとする。「逆だッ!」と声を声を張り上げたかったが、宣誓によって許されていない。
 必死に否定するが、あらかじめ拒否するだろうと告げられているパー・プーは信じない。

 それどころか、忠誠心の塊とも言える子分までも欲に負けてしまったのかと失望していた。

 話を聞いてもらえないと思った村長と子分の二人は、話を逸らすことを思いつく。

「そ、そういえばエルフの取引のことがバレ、証拠を握られてしまった! 王女にも逃げられ、行方知れずになってしまったのだ! 私の部下も制圧され、私も帰ったら無事では済まないでしょう!」

「そうです! 【聖王国】の兵士も殲滅され、そのせいで証拠が渡ってしまったみたいです!」

 村長と子分から聞き逃せない情報が怒濤の勢いで押しつけられ、呪いという意味不明な話で混乱していた頭の気付け薬になった。

「マジかよ! その証拠はどこに渡った!? エルフの国に渡ったら詰むぞ!?」

「そんなことはどうでもいい! 殲滅!? 我が国の精鋭一個大隊が殲滅……!? バカも休み休み言えッ! 貴殿のところには、まともに報告できる者が一人もいないのですなぁッ!!!」

「――なんだとッ!?」

「ボス、ボス!!! それよりも呪いです!」

「そんなもんない! それより殲滅の真偽の方が重要だろうがッ!!!」

「真偽も何も……ここにある馬車は全て死体置き場ですよっ!!!」

 パー・プーの発言により、目の前にある十一台の馬車に視線が集まる。

「――か、確認しろーー!!!」

 ボスと話していた【聖王国】の上官が街に残っていた数名の部下に指示を出し、各馬車に近づいていく。

 直後、中を見た部下の多くがその場で嘔吐し、その姿を持って上官への報告としていた。

「――ま、まさか……っ!」

 精鋭一個大隊が数日で殲滅され、物資が満載していたはずの馬車には死体しか載せられていない状況に絶望を抱かずにはいられない。
 自分たちは何に手を出したのか……。

「それよりも呪いです! 早く――」

 そして、負の連鎖は続くものである。

 ――ドンッ!!!

 落雷に似た轟音が連続して鳴り響き、縦に並んだ十一台の馬車が次々に爆発し炎上していく。

 そして、作戦名「呪いの鎧」の幕が上がるのだった。


 ◇◇◇


 ――数分前。
 ここは廃墟街を見渡せる丘の上。
 ここに来るまではすぐだったが、トラブルが発生した。エルフ勢が子どもみたいにはしゃいだせいで車に酔ってしまったのだ。
 二人には悪いが、悪い例の教材として使えてよかったと思っている。

 一応状態異常扱いらしいから、内傷治療薬を使ってあげた。おかげですぐに元気になって、女子会を楽しんでいる。

「もっと早く治して欲しかった」

 と、口を尖らせて言う王女の姿は普通の少女のようで、すごく可愛らしかった。

 ……少女で合っているかは不明だけど。

「そろそろだと思うんだけどな」

 ――《望遠モード》

「――おっ! 来た来た! 戦闘準備!」

 女子会を中止し、ティエラはみんなにいつもの認識阻害の魔法をかける。
 カグヤはM82A1を取り出し、狙撃態勢に入る。俺はRPG-7をドラドに渡して、L96A1と爆弾のリモコンを持って狙撃態勢に入った。

 エルフの二人は待機だ。

 ドラドは、「これが御褒美か……」と喜んでいた。
 喜ぶドラドとカグヤにターゲットを指定して、ティエラには狙撃中の護衛を頼む。

 様子を窺っていると馬を解放した後、馬車から離れているところにいる首脳陣一行の元に駆け寄っていく。
 鎧を着ている二人は転ばないようにしているせいで、少し出遅れているようだ。

 一応ヘッドセットの《集音モード》を使ったが、途切れ途切れで聞こえてくるくらいだ。

「……呪い?」

「――えっ? グレースさん、聞こえるんですか?」

「えぇ。精霊が教えてくれるんです」

「あぁ……」

 それがあったか。

「コラッ! 話したら効果が薄れるわよ!」

「ごめん!」

「ごめんなさい」

 もう! と言いながらもかけ直してくれるティエラは優しい。特に俺は、あり合わせの毛皮を使っているせいで効果が薄いというのに……。
 対してドラドは、「怒られてるーー!」とニヤニヤしていた。……悔しい!

 犯罪者首脳陣の動きを待っていると、慌てた様子で馬車に近づいていく。
 馬車内を見た者たちは嘔吐していた。
 最近も見たなと思って視線を向けようとしたが、途中で思い直してやめた。
 何故ならば、後方から殺気が飛んできたからだ。

 彼女たちの気を紛らわすため、呪いの序曲を奏でることに。

 ポチッとな!

「――キャッ!」

「――なっ! 何事だっ!」

 二人とも可愛い声ではないか! ふふふっ!

 証拠隠滅と火葬を同時に行い、さらに残った敵兵も同時に殲滅できる。我ながら素晴らしい作戦だ。

 これで呪いの事実も信じたことだろう。

 果たして、これは誰のせいなのか?
 【聖王国】の鎧のせいだけど、危険物を持ってきたのは最初から廃墟街を制圧するためだったのか?
 廃墟街で突如炎上した馬車は、本当は証拠隠滅のために廃墟街に住む魔術師の仕業ではないのか?
 それとも目の前のエルフが口封じのために呪いに見せかけているのか?

 まだまだ荒らすよ? 
 後背が不安な状況では、【絶界の森】内での行動もままならないだろう。
 さらに、エルフを違法に取引した証拠を確保されている今、下手にエルフを刺激することなどできないはず。

 廃墟街にある意味平和が続き、損害が出ていないから現在のボスがまとめているのだろう。
 しかし、災厄をもたらす存在だと判断されれば、早晩確実に排除されることになるはずだ。それが、法がない場所の絶対のルールだと思う。

 ボス殿。貴殿が優秀な方である事を祈っていますよ。

「ドラド、発射っ!」

「了解だっ!」

 ボシュッ! と発射された対戦車ロケット弾が、人がいない建物を破壊する。
 次弾を装填後、場所を変えて再び発射する。今度も人がいない建物だ。

「おぉぉぉぉーー! 慌てているねーー!」

 L96A1のスコープ越しにボスの表情を見る。
 その表情は真っ赤になっており、怒声を飛ばして指示を出しているようだった。

 一生懸命火を消そうとする姿を見ていると少しだけ溜飲が下がる。

「あの建物は何かしら?」

「精霊は何と言ってますか?」

「騒がしくてはっきり聞こえないそうです」

 なるほど。万能ではないのか。

「一つ目は食料倉庫で、二つ目は武器倉庫ですね。この順序で来ると、次はどこを狙うか分かるでしょ?」

「……薬かしら?」

「そうですね。楽しみですね」

 ドラドが三発目を用意した頃、ボスたちの方も動きがあった。

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