勇者の息子は従魔と神託騎士になる~FPSとMMORPG能力で自由気ままに人助けをします~

暇人太一

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第一章 神託騎士への転生

第二十八話 首脳陣に絶望を贈る

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 半信半疑の呪いが暴威を振るい、ようやく危機感を持ち始めたようだ。
 真偽はともかく、これ以上被害を出さないようにしなければと考えたボスが打った手は二つ。

 一つ目は、予想通りの薬品の分散だ。
 建物ではなく、品物を狙っているのなら有効なリスク管理だろう。

 二つ目は、鎧を脱がせることだ。
 ただし、こちらは【聖王国】の所有物であり、正統な後継者である【聖王国】の血が入っている者が扱った方がいいというボスの提案に、【聖王国】の上官が呪いを恐れて拒否をするといった一悶着があった。
 何を言っていたかは分からないけど、激しく口論しているところを見てしまった。

 結局、先ほどに爆発を参考にして首脳陣は距離を取り、【聖王国】側の兵士たち全員で脱がしにかかった。
 当然二人は激しく抵抗する。
 特に実力者である元村長。

 しかも殺してはいけないと言ってあるから、元村長相手に手加減をしなければならない。
 精鋭はもういないというのに……。

「ドラド、三発目!」

 薬品倉庫から薬品を分散させようと、多くの住民が集まっているところに三発目の対戦車ロケット弾をぶち込んだ。
 殺すよりも怪我をさせることが目的だから、人ではなくて建物を狙う。

 こういってはなんだが、戦場や紛争地で困るのは傷病者なのだ。
 見捨てることはできないし、物資を消費するだけで生産をしない。看護のために人材を配置しなければいけず、健康な人間も失う可能性があるのだ。

 この犯罪者の町が周辺諸国から放置されているのは、背後に【聖王国】がついていること、エルフの奴隷を扱っていること、面倒な犯罪者を請け負ってくれていること。
 そして、やりすぎていないことが主な理由だろう。

 付け加えるとしたら、潰したとしてもメリットがないからだ。むしろ、デメリットしかないだろう。

 では、報復しても意味がないのでは? と、誰もが思うだろう。王女たちも興味なさそうにしているから、同様に思っているかもしれない。

 俺はそうは思わないけどね。

 将来王女の国を復興するに当たって、一番邪魔な廃墟街を潰す布石になると思っている。

「……もう終わりか」

 御褒美が終わって悲しそうにしているドラドが可愛い。でも終わりだ。すまん。

 薬品倉庫から火の手が上がり、崩壊していくところを呆けた表情で見上げているボス。
 あの表情が絶望の表情なのかな?
 大丈夫。まだ更生できるはず。

 ――ドンッ! ドンッ!!!

 直後、【聖王国】の巻き込んだ大爆発が、二度連続して起こった。
 鎧が弾け飛び、そのせいで被害が大きくなるも首脳陣は多少の怪我で済んだ。

 代わりに、首脳陣の関係は最悪になってしまったけど。

 呪いの鎧を持ち込んだのは【聖王国】だが、脱がさないといけないというを言ったのは廃墟街の人間だ。

 国の規模が違うから比較が難しいが、単純な数だけをみた被害は【聖王国】の方が大きいだろう。
 しかし、国の危機レベルの被害を受けたのは廃墟街の方だろう。

 食料が焼かれ、武器を失い襲撃や狩りができず、傷病者が多くいるのに薬が存在しない。
 今までの支援者は、エルフの奴隷を優先的に融通してもらうのと引き換えにしていたのだろうが、もう最強の手札は失った。

 さらに、背後についている【聖王国】との関係も悪化し、追い詰められた犯罪者を作ってしまった。
 果たして、彼らは周辺諸国が見逃す程度に大人しくしててくれるだろうか。
 一癖も二癖もある犯罪者を統率する力が、まだボスにあるというのか。

 彼らが周辺諸国に繰り出して暴れ回る姿が簡単に想像できる。そして派遣された討伐隊の姿も。

 え? 周辺諸国に迷惑がかかってもいいのかって?

 ――いいんです!

 王女やグレースさんたちエルフが助けてと声を上げていたのに無視し、犯罪者たちを支援して弱者を食いものにしていたのだ。
 完全に自業自得だろう。
 悔い改める機会をあげるだけマシだと思ってくれ。

 特に、東にある宗教国家。

 だから、上官には【聖王国】まで無事に生きて帰ってもらうことにする。しっかり報告してくれたまえ。……たぶん帰ったら処刑されるけど。

 あっ! 馬は使わないで欲しいな。時間稼ぎにもなるし、少しは苦労してほしいからね。

「グレースさん、馬があの上官を乗せないようにするってできますか?」

「精霊にお願いしてみるわ」

 空中にいるらしき精霊に話し掛けているのだが、暇になったドラドが反対側から同じ方向を見つめているせいで、グレースさんとドラドが見つめ合っているみたいだ。

 グレースさんも笑いを堪えている。

 王女はドラドには心を開いているのか、ニコニコと可愛い奇行をしているドラドを見ていた。

 グレースさんが半笑いのまま俺を見て、コクリと頷く。

「ありがとうございます」

「いいえ。ふふふ……」

「どうしたんだ?」

 思い出し笑いをしたグレースさんに質問するドラドがまた可愛い。

 馬車馬にした騎士の馬は軍馬で、他の馬に比べて体が大きくたくましい。
 これが二頭いるのだが、一頭は町内に入って駆けていき、もう一頭は外にいる馬を統率するように動いていた。

 ……賢すぎだろう。

 町内に入った馬が戻ってくると、複数体の馬を引き連れていた。
 一緒に旅立とうってことかな?
 ボスが死にそうな顔をしているよ?
 上官も真っ青な顔をしているよ?

 ボスはともかく、上官の気持ちは分かるな。
 一個大隊を失い、死体が着ているはずの装備もなければ物資もない。馬車は全焼し、馬は仲良く旅立っていった。
 これから唯一の生き残りとして、ほとんど手ぶらで歩いて帰還しなければいけない上、帰れば厳罰が待っている。

 うん、生き地獄だね。
 そんな君にありがたい言葉を贈ろう。

 ――頑張れよ。ゆっくり歩けばいいさ。

 さて、呪いの仕上げといこうじゃないか。

「……ドラド、四発目を用意して」

「やったぞ!」

「カグヤも準備してね!」

「任せてなのーー!」

 ボスがアジトに向かうらしく、パー・プーさんと一緒に移動を始めた。

「ボスがアジトに入る前にアジトを壊してね。窓が開いているといいなーー! 同時にパー・プーさんの頭を狙撃してね!」

 宣誓は完璧ではないからね。
 口封じはできるときにしておくに限る。

「発射っ!」

 テンション爆上がりのドラドが窓を狙って発射するが、わずかに逸れてしまった。
 特に問題はないが、ドラドは少し落ち込んだ。

「すまん……」

「別にいいんだよ? 開いてるといいなって言っただけだからさ!」

「うん……」

 ――プシュッ!

 サプレッサーをつけたM82A1の高い音が聞こえ、カグヤの狙撃が行われたことを知る。
 確認すると、寸分違わず頭を打ち抜き、頭を吹き飛ばしていた。

 突然起こったことにパニックになっており、自身の体をペタペタと触って無事を確認している。
 血肉は貼り付いているけど、大きい傷はないと思うよ。安心して欲しい。

「ふぅ……。やっと終わりかな! カグヤ、相変わらずすごいね。ドラドもティエラもありがとう!」

「任せてなのーー!」

「うん。今度ははずさないぞ!」

「次は参加したいわ!」

 うむうむ、可愛い。

「……わたくしは?」

 なでなでモフモフいていると、グレースさんがアピールしてきた。
 海外の人は自己アピールが上手と言っていたけど、異世界の人も自己アピールが上手なのかな?

「助かりました。ありがとうございます」

 カグヤと同じように頭を撫でた。

「なっ――!」

 大きく目を見開き、口を開けて驚いているグレースさん。……と、王女。

「あれ……? 撫でているときに言われたから撫でて欲しいのかと思いましたが、違いましたか?」

「おい、人間の頭は気安く撫でてはいけないんだぞ! ……子ども以外は!」

「なるほど。これは失礼しました。今後は気をつけます」

 今後も同行するし、前世でも一部はセクハラ案件だったはず。
 タイミングが悪くて誤解してしまったが、悪化する前に素直に謝っておこう。

「それじゃあ、改めて出発しましょう!」

「「「おぉーーー!」」」

 元気な従魔たちとは違い、王女とグレースさんは静かだ。
 さっきのを蒸し返される前に出発してしまおう。

「『Oh God! 【武皇国ネメアー】の北方辺境侯の領都を地図に表示して!』」

「出た! 謎の呪文!」

『【武皇国ネメアー】のアギラ領を表示します』

 現在地を表示していたディスプレイが自動で縮小して動き、北方辺境侯の領地全体が表示された。

『続いて、領都ホルトゥスを表示し、目的地をマークします』

 自動で拡大された後、目的地とされる場所に旗が立った。
 ……何でそこなの? 入口の門じゃなくて。

「『Oh God! 目的地の詳細を教えて!』」

『……検索しています。……歴史的価値がある建物です』

「……やっぱりなのか? このアイコンはサイコパスなのか?」

「早く行こうぜ! 目的地も分かったんだからさ!」

「……そうだね。『Oh God! 無事に国境を越えられるルートを検索して!』」

『ルートを表示します。お気をつけて出発してください』

 調子のいい機械だな!

「じゃあ出発進行ーー!」

「おぉーーー!」

 余談だが、他の四人は返事をする余裕がなく、返事の声は上がらなかった。
 謎の呪文やどこかから聞こえる声に驚いているエルフと、説明している従魔たちの四人を置いてけぼりにして一路アギラ領へ。


 ◇◇◇


「早速【聖王国】とぶつかったね。あの調子に乗った『聖騎士』もどきの慌てふためくところが楽しみだね」

 くっくっくっと笑いながら、少年が一人でテレビを見ていた。
 彼は呪いの鎧がお気に入りで、特に赤い鎧が吹き飛んで被害を拡大したときは大爆笑していたほどだ。

「赤い鎧が赤い血液をぶちまけさせた! 呪いだ、呪いっ! 聖騎士の名を騙る呪いだっ!」

 ――と。

「敵に容赦がないところは両親に似ているけど、彼らと違って躊躇いがないね。というよりも、人間への好意が薄いのかな? やっぱり育ってきた環境が大きいのかも」

 勇者と賢者は勝手に召喚――拉致した異世界の人間たちに対しても好意的に接し、困っていればできる範囲で人助けをしてきた。
 貧富や美醜を問わず。

 それでも人殺しや戦争に加担することはせず、一番最初に盗賊を殺したときは寝込むほどだった。

 しかしディエスは、パー・プーと対峙したときも顔色一つ変えずに締め上げ、ボスに本気の意志を見せつけた。
 その結果、ボスに謝罪をさせる判断を下させたのだ。

 魔物を殺さないのは弾薬の節約に見えるし、人間に対しても同じく弾薬の節約程度で、ほとんど躊躇いがないように見えた。
 少年が一番驚いたのは、覗き魔の態度が悪いというだけで顔面を撃ち抜いたことだ。

 勇者と賢者なら魔法が使わずとも他の方法を取っただろうし、もう一人と同じように宣誓させることもできたはず。
 多少の面倒はあり、時間もかかるだろうが。

 神が造った体だからなのか、ベースとなっている種族の残滓が残っているからか分からないが、ディエスの人間に対する情は希薄と言える。

「それが良い方に行くか悪い方に行くかは分からないけど、僕と僕の親友の復讐にとって良い方向に進むことを願っているよ。僕も楽しめるように協力を惜しまないしね」

 ふふふと笑った少年の瞳は底が見えないほど暗く、そして身が凍るほど冷たかった。

「よろしくね、十蔵くん」

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