クレイジーソルトキャンディ

瀬模 拓也

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弱虫

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玄関のドアを開けたのも靴を脱いだのも階段を駆け上がったのも覚えていない。一瞬の事だった。



僕は自分の部屋の勉強机に突っ伏していた。





僕の所為だ―!



違う!僕の所為じゃ無い―!





さっきからそればかりが頭の中で唸り声の様に響いていた。



「何だ?」



さして大事に捉えていない様なソルトの声がした。



相変わらず出窓に座ってポップコーンを空中に投げては器用に口に収めている。



「僕は弱虫じゃ無い!!」



頭の中の声を掻き消そうと僕は大声を上げた。

でも耳に入ったのは泣きそうな声だった。



「んなモン自分で決めるモノじゃねーだろ」



僕に言ったのか独り言なのか適当な感じで言い放ったソルトのその一事に僕は無性に腹が立った。



机を叩いて立ち上がると一番下の引き出しにしまっておいたデジカメを取り出す。

あの時からずっと怖くて封印していたのだ。



僕はデジカメをソルトに突き出す。



だったら弱虫かどうかお前に決めて貰おうじゃないか―!



「これ!」



半ば逆ギレ状態だ。



ソルトは答えなかった。



3連続で投げたポップコーンを口で受け止める最中だったからだ。



「・・・心霊写真!」



痺れを切らして僕の方から話しだした。



そう言われてもソルトはピンと来ないらしくデジカメをくるくると回している。



妙な処でソルトは原始的だ。



僕は電源を入れるとデータを画面に映した。





暗い画面の左端に白い靄の様な物が映っている。

煙とか霧じゃなく物体が幾つかに重なっている様に見えた。



僕は最初それを見た時に怖くてデジカメを落としそうになった。



場所は学校の近くに出来たショッピングセンターだ。

輸入系の品を揃えたかなり広い作りでオープンする前から目立っていた。



記念にと思ってオープン前の店を塾の帰りわざわざ寄り道してまで撮ったのだ。



何枚か撮った中にそれが入っていたのだ。





僕は翌日学校でヤッケ達にその写真を見せた。

ちょうど終業式の日だった。







「本当だって」



疑うヤッケ達に僕は食い下がった。

嘘やカメラの具合が悪い所為じゃない。



「だったら確かめに行こうよ」



そう最初に提案したのは男勝りのラーコだった。

腕っ節も強くてケンカではメン太を負かした事もある位だ。



「・・・・え?」



けれどもそう言われて僕は弱腰になってしまう。



「今日の放課後。どうせ明日から夏休みなんだし」



構わずラーコが続ける。



「それ良いな。早めの肝試しって事で」



賛同したのはメン太だった。

毎日サッカー部の練習に出ているから既に真っ黒に焼けている。



「無理だよ」



僕は力無く反対した。

まさかそう提案されるとは思って無かったからだ。



「本物だったらどうするのさ」



本物なんか今まで見た事が無いけど。



「だから確かめに行くんじゃない」



ラーコが頬を膨らませる。



「だって・・・本物だったらどうしたら・・・」



幽霊とかお化け相手に何か出来るとは思えない。



「相変わらず弱虫だな」



そう言ったのはヤッケだった。

『弱虫』そう言っていつも3人は僕をからかう。



考えてるだけの弱虫だって。



いつも僕はそれでしぶしぶ3人について行く。



だけど僕は怖い目に会うのは嫌だ。

弱虫って呼ばれるのも嫌だ。



「いいよ。じゃあ」



決めかねている僕を置いてヤッケはそう打ち切ってしまった。



「弱虫じゃない」僕は心の中で何度も呟きながら自分の席に戻る。



「今日の6時に学校の門の前な」



ヤッケが僕に聞こえる位大きな声で言った。



だけども僕はその声を無視した。



家に戻ってデジカメを引き出しの一番下に仕舞うとその日はそのままご飯も食べずに寝てしまった。















「弱虫」



渾身の告解を聞いていた僕の心を貫く様にソルトがそう言った。



「・・・・ちっ違っ!」



急に言われたから吃驚して舌を噛みそうになった。



「僕は弱虫じゃ・・・・」



「だったら何でこの写真見せたんだ」



僕の弱々しい反論なんか蹴飛ばしてソルトがとどめを刺した。



・・・・・そうだ。僕は何でこの写真をヤッケ達に見せたんだ。



心霊写真である事を否定して欲しかったから?



・・・・・違う。だったら何でヤッケ達にあんなに必死に食い下がったんだ。



だったら肯定して欲しかったのか?



・・・・・・それも違う。



僕だってもう小さな子供じゃ無い。あの写真を見せて嘘じゃ無いと言わせてどうなるか、そんな事少し考えれば分かる事だ。



好奇心旺盛な彼等なら確かめに行こうとするに決まっている。







   だったらどうしたかったんだ?



    僕は   





問題を投げかけて、それでそこから逃げ出した。

一人で抱え込む事も出来なくて、皆と確かめに行く事も出来なくて。



・・・・・それも違う。



弱虫と言われるのが嫌で

皆の後を着いて行くだけなのが嫌で



嫌な事全部を投げ捨てて蓋をして見て見ない様にしていたんだ。





結局僕は宙に浮いたままだったんだ。



ぶらぶらと浮かんでいるクセに何処にも引っかから無いで時間が過ぎるのを唯待っていたんだ。

時計の針が進む毎に怖さも悔しさも現実から薄らいで行く、そんな気がしていただけなんだ。



・・・・・・こんなの。



弱虫よりももっと達が悪い。





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