うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

17 忘れられた森 その1

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気がつくと、
やまねこは、木の根元にすわりこんでいました。

どのくらい、眠っていたのか、わかりませんが、
体は重く、動くのがおっくうです。


動く必要もないので、
そのまま、背中を木に預けて、すわっていました。



薄暗い森です。



日差しが入ってこないのは、銀色トウヒの森と似ているのですが、
印象がまるで違います。

銀色トウヒの森の明るさとは、正反対の
陰湿な森なのです。


長い間、日が当たっていないカビ臭さと、
だれも入りこんでこない証の、
たくさんのクモの巣。

今のやまねこにとって、落ち着く場所でした。


もう少し、寝ようと、目を閉じると…、

「あんた、ふえ吹きの、やまねこだね?」と、声をかけてくるものがありました。 

めんどくさそうに、目を開けて見ると、
声の主は、黒と黄色のしま模様の、
立派なクモのマダムでした。


「…」

やまねこは、何も言わず、
クモを見ていましたが、
また、目を閉じようとしました。

会話をする気は、ありません。
長いこと、ふえとだけ、会話していたのです。
だれともことばを交わしていません。


ことばの使い方を忘れているのです。



「動けるなら、こっちへおいで。
 寝られる場所がある。」
クモのマダムは、糸を使って木から木へ移動していきます。

「さっさと、来な!」


「…」
 やまねこは、クモのマダムについてゆき、木のウロを貸してもらうと、
その中で、また、沈むように眠りました。
 


2度目に目が覚めたときは、
ずいぶん体は軽くなっていました。

決して、すがすがしくはない、
うっそうとした森ですが、
気分は、悪くありませんでした。


やまねこが、木のウロから出てきたのを見て、
クモのマダムが降りてきました。

「最近、森をつぶして歩いているのは、
あんただね。

 何があって、ここへ来たのか、知らないけれど、一度、会いたいと思ってたよ。」


「…」


やまねこが、何も言わないので、
マダムは、続けました。

「この森をつぶそうっていうなら、かまわないよ。

 ここは、忘れられた森さ。

 なくなったって、だれも困らないし、
 気がつきゃしない。」


「…」

「まあ、ゆっくりしていきな。
ふえを吹きたかったら、吹いていい。」

クモのマダムは、糸をつたって昇っていきました。


やまねこは、ふと、気がつき、
うすよごれたバッグのなかから、
ふえをとりだしました。

見ると、どこも、壊れていないようです。

黒いマントの端で、ていねいに磨いてやります。
すると、
ふえが話しかけてきました。

「ぼくたち、すっかり有名になっちゃったね。
 ねえ、今夜も、奏でよう。
 
 この森にも、ぼくらの音楽をきかせてあげようよ。
 みんな、聴きたがってるよ。
 クモのおばさんもね。」


ふえのどこかに、口があるわけでは、ありませんよ!
やまねこには、そうきこえるのです。


やまねこが、どうやってふえに答えるのかというと、
ふえを吹くことで、伝えるのです。

思いをこめて、ふえをふくと、
会話ができるのです。


ふえの声がきこえるようになったのは、
銀色の森を出て、まもなくのことでした。

それ以来、ずっと、そうやってきたのです。


 みんな、ききたがってる?

 そんなはずは、ない。

 森をあんなふうにして、
 いいはずがない。

 でも、ふえは、よろこんでくれる。
 ぼくも、うれしいんだ。

 だから、
 今夜も、吹かずには、いられない。
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