うさぎの楽器やさん

銀色月

文字の大きさ
上 下
59 / 88
<やまねこのふえ>のお話

37 カラスのリーダー

しおりを挟む
北の森では、やまねこのふえの音は聴こえなくなり、
レストランでふえを吹いていたやまねこも、その後、見かけません。


「どうやら、北の森は、
 難をまぬがれたようだな。」

青い湖のある森のカラスを中心に、
カラスの自警団が集まっています。


青い湖のある森のカラスが、傷を治し、
完全復活となり、
再びリーダーになったのです。


これまで、代理でリーダーをつとめていた北の森のカラスは、
自分の森を、なんとか守ることができたこともあり、
肩の荷がおりてほっとしていました。


結果的には、北の森は守られましたが、
きつねの一軍も危ない目に合わせてしまったし…、
もし、青い湖のある森のカラスがリーダーとして指示を出していたら、どうだったろうと、考えてしまいます。

もっと、青い湖のある森のカラスから学ばなければと、ガラにもなく、
まじめなまなざしを向けていました。


カラスの自警団は、青い湖のある森がやまねこのふえの被害にあった後、
すぐに結成されました。

動物たちが避難している間に、
その森を、他から来た者に侵略されることがないように
守ることが目的で結成されたのですが、

いつのまにか、
やまねこを追うことに懸命になってしまいました。


もちろん今も、青い湖のある森は、
交代で数羽のカラスが巡回しており、
時々、近況の報告が上がってきます。


最近の報告では、
青い湖のある森の、枯れた地面から、
ほのかな緑が芽を出し始めていることが確認されていました。

青い湖のある森のカラスに、それを伝えたところ、
「やはり。」と言っただけで、
それほど喜びませんでした。


どうしたのかと聞くと、
「我々は、やまねこを追い詰めすぎているのではないか。」と言ったのです。


森は、再生する。
飽和したものを手放すだけだ。

やまねこは、その手助けをしているだけかもしれない。

動物への作用も、似たようなことが起きているのかもしれない。


やまねこを追い詰めすぎて、
状況を悪くしているのは、
自分たちの方ではないのか?と。
 

「ちぇ、オレにはわかんないよ。
 守りたいもん、がむしゃらに守ることしか、オレには思いつかないから。」

北の森のカラスは、リーダーを見つめます。

青い湖のある森のカラスは、自分が見ている目の前のこととは
違うところを見ている。

 だからさ、
 もっと見て、知りたい。

 どうしたら、あんな風に考えられるんだろう?
 どうしたら、きつねの一軍たちを傷つけずにできただろう。



いっぽう、レノさんは、
うさぎの楽器やさんと話していました。

「ニノに会いました。」

うさぎの楽器やさんは、銀色の森に向かうしたくをしています。

「ニノくんは、ふえと同化してしまっていますよね。」

「ふえは、手離せないそうです。
 執着しているのは、ニノのほうかもしれません。」

レノさんがそう言うのを聞いて、
うさぎの楽器やさんは、ニノくんがふえと出会ったときのことを思い出しました。


ふえがニノくんを呼んでいると感じたのです。

 では、
 なぜ呼んだのか?

と考えると、うさぎの楽器やさんは、
おそらくの見当をつけていいました。

「きっと、同じ波長を持っていたのでしょう。」

ニノくんにも、少なからず、ふえと同じ心があったのだと、
考えないわけにはいきません。


「誰にだって、悪い心はある。
 ただ、その波長が合ってしまっただけかもしれません。」

でも、あのふえに2ndの心があったのと同じように、
ニノくんには、普段のニノくんが表に出していた心があります。

悪い心は、ちゃんとしまっていたのです。

悪い心を、悪いことに使うようなことは、
しなかったのですから。

「…息子を救いたい。
 あのふえは、生き物だ。
 どうしたらいい?」

レノさんは、あのときのおぞましい感触を思い出しながら言いました。

「私も、ニノくんを、助けたい。
 この2ndのふえが、助けになってくれる。

 これは、ニノくんの持っているふえの、
 心の一部ですから。」

と言って、うさぎの楽器やさんは、
小さなふえを見せました。


そのとき、青い湖のある森のカラスが、
自警団の話し合いを終えて、やってきました。

「このふえが、音を重ねれば、
 悪い影響は与えないのはわかったが、
 いつまで続けられる?

 やまねこがふえを吹くたびに、
 おまえが一緒に吹き続けるつもりか?」

そして、ただ追い払うことにしかならないのではないか?と、
青い湖のある森のカラスが言いました。
 

たしかに、追い払って次の森に行くことの繰り返しかもしれない。

ただ、ニノくんはふえと同化している。
ふえを壊したら、ニノくんの心も、ふえとともに壊れてしまうかもしれない。

それだけは、絶対にダメだ。


うさぎの楽器やさんは、きっぱりと、
青い湖のある森のカラスにいいました。

「続けるさ。ずっとだって。
 何がいいかなんて、誰にもわからない。

 今は、これしかないんだ。
 やっているうちに、何かが変わるかもしれないよ。」


 ずっと…、
 ほんとうは、
 聴いていたいとも、思うのだ。

 ニノくんのふえの音を。
 自分は、ニノくんのふえの音が好きなのだから。
 初めてニノくんのふえの音を聴いたときから。


やけにスッキリした笑顔の、うさぎの楽器やさんを見て、
青い湖のある森のカラスは、くちばしの端をニヤリと上げました。

「わかった。
 それなら、
 われわれカラスは、あんたに協力する。」

青い湖のある森のカラスは、
「このうさぎに、なんで協力するのか」と、北の森のカラスに聞かれたことがありました。

「そのほうが、いいと思ったから」と、そのときの答えは曖昧でしたが、

今は、はっきり、こう思うのです。


このうさぎは、
協力するに値する。
しおりを挟む

処理中です...