うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

38 銀色の森へ!

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夜が明けようとしています。

空気が、これから差し込む太陽の光に、
まるで引き潮のように吸い込まれ、
シンと静まりました。

一番冷える瞬間です。


『ねえ、銀色の森に行こうよ。』

「ギンイロノ モリ?」

『僕たちが出会ったところだよ。』

「ボクタチガ?」

『ああ、もう、君は僕で、僕は君なんだった。
 銀色の森は、ね、居心地がいいんだ。
 北の森も良かったけど、
 銀色の森は、空気がいいのかな?
 
 それに、音楽があふれている。
 僕は、銀色の森に行くよ。』

光が、差し込みます。
どこまでも、全てのものに、等しく、
あたたかな太陽の光があたります。



「うさぎのおじさん。」
きつねの若者が、うさぎの楽器やさんに声をかけました。
きつねの若者は、北の森の長の息子で、
きつねの一軍を率いて、やまねこの捕獲作戦を実行していました。

「ぼくたち、状況を悪くしちゃったみたいで、ごめんなさい。
 北の森は助かったけど…、
 やまねこが次に行くところは、もっとひどい影響を受けてしまうかもしれないよね。」

きつねの若者は、しゅんとして、言いました。
「大きな悪者を作り出しているのは、ぼくたちかもしれない。」


うさぎの楽器やさんは、ニッコリ笑って言いました。

「きみは、きっと、いい北の森の長になるだろうな。
 どんどん失敗して、経験して、

 次に同じことが起こったら、
 その時は、変えて行けばいいさ!

 それに、今回のことが失敗かどうかなんて、まだ、わからないよ。」

「…うん。」きつねの若者は、素直にうさぎの楽器やさんの言葉を受け止めました。

「そうだ…、」うさぎの楽器やさんは、
思いついたようにいいました。

「君たちは、やまねこのふえを聴いて、
 どうだった?
 どんな風に影響されたの?」

「ああ…、ぼくは、そうだな…、
 あの時、失敗するんじゃないかって、
 どうしようもなく不安になって、冷や汗がとまらなかった。
 どうしちゃったんだろうか、
 あんなに自信を持って挑んだのに、
 ぼくらしくなかったな。」

「…きみの仲間たちは、どうだったの?」

「うーん、」きつねの若者は、あの時起こったことを思いうかべていいました。

「ああ、そうそう。
 グータのやつ、
 いつもは暴れんぼうで強気なんだけど、
 メソメソ泣いたりして、ちょっと驚いたな。」

黒クマの男の子のことかな、と、うさぎの楽器やさんも思いうかべました。


やまねこのふえの音が及ぼす影響は、
動物それぞれに違うけれど、
同じ種類のものが毎度現れるようだというのが、
うさぎの楽器やさんの推測です。

うさぎの楽器やさん自身は、毎度、自尊心をもった感覚に陥るのです。

しかし、もうひとつ、
確信が持てずにいることがありました。


「その後、さ…。
 やまねこのふえに影響されて、大変な思いをした後って、どうだった?
 どんな気分だったかな…辛かった?」

うさぎの楽器やさんは、おそるおそる、
確かめました。

「うーん、そうだな…。
 影響されていた時は、もう、すごく辛くて、ひどい思いをしたのは覚えているんだけど…、

 その後かぁ。」


解放されたから、楽になったのは当たり前で、
その後といえば、特になんともないというのが、きつねの若者の答えでした。

「でも、そういえば…、
 こうしておじさんと話そうと思えたっていうか…。
 それって、これまでと違うかな。」

うさぎの楽器やさんは、ちょっと照れながらそう付け加えたきつねの若者の顔を、
まじまじと見ました。


 ああ、なんてことだ…。


心の奥に、あたたかな光が差し込んだようでした。

うさぎの楽器やさんは、推測を確信にかえました。




北の森を後にして、
うさぎの楽器やさんとレノさんは、銀色の森に向かいました。
 
カラスたちは、ひと足早く飛び立ち、
南にそびえる高い山を越えて行きました。

銀色の森に向かうには、この山をある程度登って越えるのが近道となります。


道は、レノさんが知っていました。
ニノくんがこの道を通っていなければ、
もしかしたら、うさぎの楽器やさんたちの方が先に銀色の森に着くことになるかもしれません。

多少ムリをしてでも、そうしたいと言って、うさぎの楽器やさんはレノさんに同行を頼みました。
言わないと、レノさんのことですから、
さっさとひとりで行ってしまいますからね!


そんなわけで、うさぎの楽器やさんにとっては、少々きつい旅ですが、
なんとかレノさんに食らいついています。


まだ、冬桜が咲くには早い時期ですが、
見上げると、この高い山の頂上付近は、
もう、うっすらと白い雪が降りているのが見えます。

うさぎの楽器やさんたちは、雪のゾーンまでは行きませんが、
空気はさすがに冷えてきました。

夜は、レノさんに甘えて、テントと焚き火、そしてキャンプ飯を、ごほうびとばかりに、ごちそうになりました。


翌朝、
早く出発して、このルートの峠となる道を登りきると、
その先はもう、あたたかい朝日が当たっていました。
 
白い息をはきながら、朝日を浴びて、
すがすがしい気持ちで下界の景色を眺めると、
太陽の光に照らされて
キラキラと輝く場所が目に入りました。


その、繊細で上品な銀色の輝きは、

うさぎの楽器やさんがいつか見たかった風景でした。


「…銀色の森だ。」

銀色の森に群生する銀色トウヒの下葉が、
日に照らされて、
森全体が銀色に光っているのです。


「美しい森ですね。そこに住むものには、
 わからないでしょう。
 森を離れなければ、見ることができませんから。」

レノさんは、静かにいいました。
彼は、これまでの旅の間に何度か見たことがあるのでしょう。


「ええ。初めて見ました。」

日の角度、
見る場所、
時期。

条件がそろうことで、見ることが叶う、
我が森の美しい姿。


うさぎの楽器やさんは、
俄然、力が湧いてきました。
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