うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

42 特別な周波数

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「ココハ、ドコ?」

『銀色の森だよ。君が行きたかったところ。』

「イキタイナンテ、イッタ?」

『言わなくたって、わかるよ。だって、君は僕で、僕は君なんだから。』


やまねこは、右の手に軽くふえを握って、一歩一歩、丘を登っていきます。

それほど高くもない丘ですが、
見晴らしは良く、
西の空は遠くまで見渡せます。

丘の上には、お茶のお店の姿が、
小さく見えてきました。
 
 

うさぎの楽器やさんたちは、ふえの音が聴こえる方向を確かめるために、
オリーブの木の3階に登りました。

3階には、アイスやさんがあり、
オープンテラスになっているので、あたりが見渡せます。


青い湖のある森のカラスは、オリーブの木のてっぺんの枝に飛んで、
音がする方向を探しました。

すると、オリーブの枝をすり抜けて、黒い影が飛んできました。

北の森のカラスです。
 

北の森のカラスは、やまねこの姿を確認して、青い湖のある森のカラスに伝えに来たのです。

「お茶のお店がある丘の、南西の斜面だ。」

青い湖のある森のカラスは、3階にいるうさぎの楽器やさんたちに伝えてから、

北の森のカラスと共に、先に飛んで行きました。

「南西の斜面…。
 お店に登る道の途中の見晴らしのいいところに、急な斜面がある。

 銀色トウヒの森の真上だ。」
オークがいいました。

「銀色トウヒは、強い品種だ。
 そう簡単にやられはしないぞ。
 でも、急ごう。」

うさぎの楽器やさんは、2ndのふえをつかみ、
すぐにレノさんとオークと一緒に、オークのお店のある丘に向かうことにしました。

テンくんは、自分も楽器が必要になるかも知れないと、
家にバイオリンをとりに行きました。


途中、何度かふえの音が聴こえたので、
うさぎの楽器やさんは立ち止まって2ndのふえを吹きました。

その間、レノさんとオークは先に進んだので、うさぎの楽器やさんは、ひとり、遅れるかたちになりました。


2ndのふえのおかげで、みんな、影響を受けずに行動できます。

頼りない演奏ですが、効果があることは分かっているので、
うさぎの楽器やさんは必死にやまねこのふえに食らいついていきます。

音が途切れた間には、うさぎの楽器やさんも演奏をやめて、
少しずつ先に進みました。



立ち止まって何度目かの演奏をしている時に、うさぎの楽器やさんは、
ある事に気がついたのです。


「こっちに、合わせてくれているんじゃないか?」


まるで、うさぎの楽器やさんとの演奏を楽しむように、
優しいメロディーが続きます。

音をすくい、時にはひっぱり上げるように、寄りそって、
並走してくれているように感じるのです。

予測の難しいメロディーや、高度なテクニックが必要なところはありません。


うさぎの楽器やさんは、全身の毛が逆だつほどの喜びの中にいました。


 今、
 
 ニノくんと、演奏している!



美しく、みずみずしい音の中で泳いでいるようだ。
なんて心地よい世界だろう。
 

そう感じたときに、2ndの声が聞こえてきました。
『うさぎの楽器やさん、ありがとう。
 1stと話せるよ。』

でも、うさぎの楽器やさんは、ニノくんとの演奏が嬉しくて、楽しくて、
そんなことどうでもいいと思うくらい、
夢中になっていました。


ニノくんの音に必死についていくと、
しっかり握られていた手が、いつのまにか離され、そっと背中を押されて、
たくさんの色彩につつまれました。
 

その中で、ソロ演奏をしているのです!


うさぎの楽器やさんは、まるで自分がニノくんになったみたいに、
得意になってふえを吹きました。

そのうち、だんだん心細くなると、
すかさずニノくんが手をさしのべて、
メロディーが途切れないようにつないでくれるのです。


 自分がこんなにステキに演奏できるなんて…

 やっぱり、音楽は楽しい!
 楽しいよ!




『ねえ、合わせているよね?

 おかげで、余計な声が聞こえてきた。

 君とぼくとの特別な周波数の中に、
 割りこんで話しかけてくるんだ。

 不愉快だな。』

ニノくんの演奏に、ふえはいら立ちました。
 

ふいに、
曲想が変化しました。

メロディーが難解で、ついていけません。
うさぎの楽器やさんは驚き、
我に返りました。


急に冷たく突き離されて、今までのは、お遊びでつきあっていたまでだと思い知らされたようでした。

「そりゃあ、そうだって、
 わかってるけどさ!」

うさぎの楽器やさんは、演奏をあきらめて、うなりました。

でも、このままではすぐに動物たちに影響が出てしまいます。
銀色トウヒの木だって、いつまでもつか、分かりません。

「せっかく、2ndをつくっても、
 届かないっていうのか!

 楽器やに出来るのは、
 ここまでか!」

うさぎの楽器やさんは、力なく肩を落としました。


その肩に、
触れる手がありました。
「父さん。」

うさぎの楽器やさんが振り返ると、
そこには、3兄弟の真ん中の、
ランがいました。
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