うさぎの楽器やさん

銀色月

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<やまねこのふえ>のお話

49 扉とラン

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子うさぎの頃、
兄弟と遊びながら、
父が楽器をつくるのを見ていた。


父は、楽器と会話するように
音を鳴らしては、調整して、
何度も何度もやっていて、
「どうなりたいのか?」って、
楽器の言葉をきいているみたいだった。


そのうち、ゾクっとするほどいい音が鳴って、
たった今、完成したのだとわかった。

震えが、全身にジワリと広がる。
何かが覚醒する。

 
その時、オレは他の兄弟たちとは違う扉を、開けたのだと思う。ひとりで。

扉をつくったのは、父だけど、
その扉を開けるときは、誰でもひとりなんだ。




ものごころついた頃から、身のまわりには、いろんな楽器があった。

それどころか、楽器なのか、楽器になりそこねたものか、よくわからない物体が、すぐ手に届くところにいくつもあって、
おもちゃのようにして兄弟と遊んでいた。


父の仕事場には、完成している売り物の楽器もずらりと並んでいた。
きちんとした使い方をするなら、どれもさわっていいことになっていた。

その中でも、鍵盤楽器はお手のものだった。

母が、演奏家だったなんて、森のオルガンができるまで知らなかったけどね。

その前から右手も左手も思い通りに動かせていたから、
頭のなかに浮かんだ音は、そのままに鳴らすことができたんだ。


頭にどんな音が浮かぶかってことのほうが、大切だって気づいたのは、
街に出て、音楽学校の友達と演奏するようになってからだ。

オレの頭に浮かぶ音は、
どんなやつよりも面白くて魅力的だったんだ。



ひととおりの楽器をやってみて、
バイオリンは特に面白かった。

ちょっと、思い通りにいかないところもあったから、
それが、さらに興味をそそった。


楽器に限界があることも、そこで知った。

器を変えたら、どうしても出来なかった表現ができるようになったことがあるからだ。



外国の森の交響楽団が、街に来ることになったのは、
「キングダム」のメンバーだった黒ヒョウさんが、今は交響楽団のメンバーになっていたのがきっかけだったらしい。

そこのオーディションに合格したのも、
そのまま外国の森に行くことになったのも、
トントン拍子だった。

まわりは、すごい演奏家ばかりで、
毎日たくさんの事をおしえてもらってるけど、さ、

 父さん、あなたほどの扉を作ってくれた人はいなかったよ。


いまさらだけど、ほんと、すげえ、楽器やだと、思うよ。

その楽器やは、リンが継ぐんだろうけど、
リンはわかってんのかな?


まあ、いいや。
オレがわかってるんだから。



 さて、

 この場は、まかせろ。

 ニノくんを全身で受けとめて、
 感じて、
 浮かんでくる音を
 父のつくったふえで奏でる。



 オレにしか、できないだろ?
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