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鬼の子ども
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しおりを挟む桃太郎さん、
桃太郎さん。
お腰につけたきびだんご一つ私に下さいな。
イヌ
サル
キジ
その3匹が家来になりました。
そうして、
人を困らす鬼を退治しに鬼ヶ島へ行きました。
***
*桃太郎side*
ジリジリジリ―――!!
けたたましい音に目覚めて、目に飛び込んだ時間に驚いた。
とっくに学校が始まってる時間だ!
なのに何で母さんは起こしてくんなかったんだよ!
ブツブツ言いながら制服に手を通す。
慌て廊下へ出た所で母さんにぶつかりそうになった。
「きゃっ!?」
って、可愛らしい悲鳴を上げた母さんが、普通の家よりも高造りの天井へ飛び、長い黒髪をなびかせ一回りして、俺の前へ降りて来た。
「まったく。落ち着きのない子ね!」
キッと睨まれて、いつもの通り、素直に謝る。
「ごめんなさい」
「はい。よく出来ました。て、桃ちゃん。
制服着てどこ行くつもり?」
きょとんとした母さんの顔は、実年齢よりかなり若々しくて、下手したら本気で俺の姉だか妹に間違えられる。
「学校……「なら、卒業したでしょう?」
俺の言葉を遮る様に母さんが言った。
あれ?
そっか。
昨日卒業式だった。
習慣って恐ろしい。
「そうね。私が起こさないと起きないのも習慣の一つね」
母さんは、笑って俺の頬を撫でた。
「大きくなったわね。」
優しい声色。
普通の家庭とは違うと理解するのに、長い時間が掛かったけれど、母さんの息子に生れた事には感謝してる。
優しい母さん。
ほどけば足元まである長い黒髪。
何時までも若い容姿。
ここまでは良いとして、
有り得ない身体能力や(今の跳躍は俺が脅かしたから仕方ないとして)
勝手に人のココロを読む事は止めて欲しいけどね。母さん?
ほほ笑みを浮かべた母さんが言い放った答えは。
「桃ちゃんが立派な大人になったと私が納得したなら、ココロは読まないわ」
「“桃ちゃん”も止めてくれる?」
「それは、イ~ヤ。」
ふーん。
仕方ないか。
どうしたって母親はそんなもんなんだって、不二丸が言ってたっけ。
「犬飼くんは元気にしてる?」
「多分。元気だよ。」
“恋煩い”の薬があれば尚元気になるかな。
「あらぁ~…」
しまった!
うっかり考えちゃってた。
母さんの満足気な顔。
「あんなハンサムくんを悩ますのはどこの可愛子ちゃんかしらね?」
「止めてくれよ~。今日あいつ来んだから」
「あらあら。こう見えて母さん口が固いって知ってるでしょう?」
「……」
そうだ。勝手にココロは読むけど内緒にしたい事は確かに誰にも言わない。
母さんが口を閉じて、指先でチャックする真似をする。
「お願いだよ?」
再度言い、母さんが頷くのを見て安堵の溜め息を吐く。
「さ。母さんも忙しいのよ。朝ご飯食べちゃってくれる?」
言われるままに、食堂に足を進めた。
*
「あれ?」
テーブルに付いて新聞を広げてトーストをかじっている父さんが居た。
こんな時間に居るなんて珍しいな。
「“おはよう”が先だろう。桃太郎?」
ちらりとこちらに視線を寄越して言われる。
「おはよう。父さん」
自分の席へ着くと、父さんが新聞を畳む。
「ふむ。それで?」
「何?」
「お前はこれからどうしたいんだ?」
それは、俺が聞きたい事だよ。
「大学に行かなかったし」
「父さん。正確には行けなかった。だよ」
そんで今日から取りあえずプーな生活の始まり。
「まあ、急ぐ事はない……あれだ、何ならうちを手伝うとかな、色々ある」
父さんは一つ咳払いすると、珈琲を飲んだ。
「うん。遊んどくつもりはないからね」
トーストにバターを塗る。
「その心掛けがあるなら良い」
言って立ち上がると、行って来る。と俺の背後に居た母さんを見て驚いた。
「樹利亜!?」
「母さん?」
俺が振り向くより先に父さんが傍に行って居た。
母さんはその場に力なくしゃがみ込んでいて、父さんが目にも止まらぬ早さで抱える。
「元気の所に行って来る。桃太郎、すまんが後は頼む」
頭を下げた父さんは、目を瞑り、廊下に続くドアを開けた。
鈍い光と共に現れたドアの向こう側は、いつもとは違う風景。
草原広がる屋外。
現実では有り得ない事。
だけど、俺んちでは当たり前で、これが現実。
父さんと母さんはドアの向こう側に消えた。
母さんを心配しながらもそれが一番安心だと判っていたから無言で見送った。
ドアが静かに閉まる。
「大丈夫かな?」
心配はないと判ってるけどいつも元気な母さんが倒れるなんて信じられない。
呆然と、味の判らなくなったトーストを呑み込む。
「大丈夫だ。きっと」
自分を安心させたくて声に出す。
元気おじさんならどんな病気でも治せるんだから。
そんな不思議な力を持ってるのが俺達の一族。
鬼の血を受け継ぐ一族。
でも、その能力も目醒めなければ意味がない。
自分の額に手を置いて、髪に隠れた“角瘤”を触る。
俺に鬼の能力が目醒める気配がない。
何故か解らないけど焦る気持ちとか、未だにそう言った事が信じられない気持ちとかが胸の中でしこりを作って居て、未来を夢見る歩みの足を留めて居た。
自分の“存在”にどんな意味があるのか。何て、考えたり。
色々考えてパニックを起こしそうだった。
行く気もない大学を何校か受けてみたり。
でも、そんな浮ついた気持ちで挑んだ受験結果は、当たり前だけど惨敗で……。
当たり前に元気で居た母さんが倒れて、現実が何だか判らなくなって、本当に、一杯一杯になってた時、閉じたばかりのドアが開いた。
「もーっも、たろ―――!」
聞きなれた甲高い声と共に飛び付いて来た物体に、俺は押し倒されて居た。
「桃太郎」って俺の名前を連呼する物体。
「―――羅刹。重いって」
俺より年上の元気おじさんの長女。従姉妹の羅刹
「女の子に何て失礼なっ! 私は軽いでしょっ! そんな意地悪くんには懲らしめが必要だにっ」
て、何時もの様にキスしようとして来た。
これが懲らしめになるんだか判らないけど、物心着いた頃から何度もされて来た行為に、俺は慣れきってしまってた。
だから、顔を掴んで未遂に終わらせる。
「いい加減にしろって! お前、結果知らせに来たんだろ!」
母さんの容体の。
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