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鬼の子ども
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しおりを挟む「あぁ。樹利亜。
“おめでた”だったんだよ」
え?
えぇ??
あんまりにも驚いて、開いた口が塞がらず、その隙をつかれ、羅刹に再び押し倒された。
茫然自失の俺は、そんな事に構う余裕なんてなくて羅刹のされるがまま。
そして耳に届いた声に我に返る。
「桃太郎―――何やってんのさ?!」
声の主は、犬飼 不二丸。
そうだ。
来る約束してたんだ。
って、ぼんやり思い出した。
俺は完全に思考停止状態。
でも、自分の見知った世界が変わって行くんだと、どこかで感じ、解って居た。
時間は、止まってはくれない。
「俺は、これからどうしたら良いんだろう?」
完全に、途方に暮れた。
「取り敢えず、そのセクハラ女を退かす事から始めたらどうだ?」
冷静な不二丸の言葉に我に返り、
「羅刹!」
何度目かの口付けに顔を背け、羅刹の顔を鷲掴む。
「羅刹? 噂のお前の従姉妹?」
右眉を上げた不二丸が、その美麗な顔を邪険に歪める。
「ショ タ コ ン レ ディ」
と、整った唇から毒を吐いた。
それに羅刹が反応する。
「……女と見間違う程の綺麗な顔立ちをお持ちの君は誰?
あ、失礼。おカマさんかな?」
合わさった二人の視線の間に火花が散ってる。
羅刹は俺より二つ年上の二十歳だ。
不二丸とは保育園からの長い幼なじみで、羅刹の話題は俺の格好のネタで、羅刹の俺に対する態度や行動を不二丸は一言“変態”と言っていた。
度を過ぎた愛情表現。
と不二丸の意見を俺は正していたが、不二丸の反応を見るのが楽しくて、よく羅刹の事を話してた。
ショタコンって、どんな意味があったっけ?
気の逸れた羅刹の下からうまく抜け出せた俺は、溜め息と、思い出した言葉の意味に気が滅入る。
「どーせ俺は童顔ですよ」
俺の呟きは聞こえてないらしく、羅刹と不二丸は睨み合ってる。
まるで猿と犬。
犬猿の仲。なんて言葉が頭に浮かぶ。
これでキジが揃えば鬼退治に行けそうだ。
初めての顔合わせとは思えない気の合いっぷりに、何だか可笑しくなって来た。
「ふ。ははっ」
声に出して笑い、仕舞いには腹を抱えて爆笑していた。
「桃?」不二丸が、
「桃ちゃん?」羅刹が、
きょとんとして俺を見ていて、その様にまた笑いが起こる。
「おれっ。俺は桃太郎。確かに桃太郎だよ!」
俺の言葉に解らないって顔した二人。
それがまた可笑しくて笑いは長い事止まらないでいた。
「や。ごめん」
すっかり気の削がれた二人は、食卓に座り無言で俺を見ていた。
「いや、俺も知らなかったとは言え、すまん。大変だったな」
不二丸が申し訳なさそうに、頭を下げた。
「そうだよ。私も桃ちゃん慰めてただけなのに、失礼な奴だよ」
羅刹がすまして言った言葉に嘘だって突っ込みたくなった。
「そうだな。ありがとう」
言いたい事は呑み込んで、羅刹に笑って見せた。
「それで、母さんはどうするって言ってた?」
「うん。安定期に入るまであっちに居るってさ」
羅刹の答えは予想出来てた。
「父さんは?」
「付き合うって」
これも予想通り。
いつまでも新婚の様な二人。
「どうすんだよ」
「だから、私が世話する為に代わりに来たの」
「何の世話だよ」
不二丸が言った言葉にまた吹きそうになった。
「色んな世話だよ。
桃ちゃんが望む事なら何でもね」
何だか身の危険を感じて身震いする。
不二丸の眉間に皺が寄る。
「判ったからさ。
大人しくしとけって犬と猿っ」
思わず言ってた。
二人はまたきょとんとして。
「俺が犬か?」
「ぬ? 猿」
また笑いが沸き起こる。
面白い。
こんなに面白い組み合わせになるならもっと早くに顔合わせさせれば良かった。
「さて。桃の気持ちの解決はしてないと思うけどさ、今日はどうする?」
不二丸が訊く。
そうだった。出掛ける約束してたんだ。
「うん。もちろん行くさ。気晴らしに良いよ。
めでたい事だとは解ってるし、混乱もしたけど」
一人息子を残して一度も帰る気無さそうな両親に、少し苛立ち。それを拗ねてる自分に腹も立ち、溜め息を吐く。
きっと体でも動かせば気が紛れる。
「私も行くっ」
はいはい。と手を挙げて自己主張する羅刹を横目に立ち上がり、不二丸を促し外へ出る。
羅刹の事だ。どうせ、有無を言わせず着いて来るのは判っていたから。
外は晴天。
春の空はどこか遠く澄んで見える。
気持ちいい風が吹いて、体温も丁度好い。
悩みなんてどっかへ吹っ飛んじゃいそうだ。
両手を広げて目を瞑る。
本当に体が軽くて、空を飛べそうな気がした。
「ダメだよ」
羅刹の声が身近で聞こえ、驚いた。
「本当に飛べるけど、ワンちゃんの前ではダメでしょう?」
意味深な言い方。でもそれで思い出した。
人成らざる自分の部分。
「何だぁ? ワンちゃんって俺の事かよ!」
不二丸は理解出来ない言葉の意味を無視して羅刹に噛み付く。
「ワンちゃんには綱と首輪が必要だね」
「ムカつくなっ!
お前本当に桃の従姉妹かよ?」
二人の噛み合いに笑いながら歩みを進める。
気を引き締めながら。
俺は鬼の血を継ぐ人間だ。
だからと言って特別な能力が有るかと言えば、今は無い。
父さんが期待していたのも知ってる。
期待だけで口には出さなかったけど、感じる時があった。
母さんが俺の心を読んだ様に、無意識に感じ取ってしまって居たんだろう。
期待されても目覚めない能力。
俺の将来は?
解らなくなった。
定まらない未来に訪れた卒業。
色んな事に焦って、先が見えなくなって……でも時間は進んでる。
俺に変わる跡継ぎが生まれるんだ。
「桃太郎?」
「おいっ! 置いて行くなよ」
後方の二人の声に、随分先に進んでたんだと気付いて立ち止まる。
「んで、どこに行く?」
先に追い付いて来た不二丸が右肩に腕を回して訊いて来る。
こいつは俺より背が高い。
「映画観たいっ」
左側から腰に手を回して来た羅刹が主張する。
両脇から固められて身動きし辛い。
けど、何だか力が抜けて、心が楽になる。
「今アニメ祭りしてたっけか?」
どの道街に出るならリクエストのあった映画も良いかもしれない。
「いやいや、バッティングセンターだろ」
二択になった場合は?
「まだ午前中だし、順番で行くか。取り敢えず、街に出ようぜ」
と、二人の手を擦り抜け、駆け出す。
自然と追い掛けっこの形になって、笑いが弾けた。
未来の事何て誰にも判らない事。
悩んでも仕方ないって、二人が思わせてくれた。
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