鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の子ども

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気付いたら不二丸の前に立ち、何かを拳に握り締めていた。

「―――桃っ?!」

背後の不二丸が驚いた声を出した。


疼く額の角瘤が、胸が痛い位に鳴る鼓動が、全てが目醒めを誘発する。

拳の中の蠢く何かが顔を覗かす。
長い甲冑を有するむし
目は無くギザギザの尖った歯が無数に並ぶ口を大きく開いて奇声を上げて居た。

「「チィッ、ジッ」」
それを握り潰す。

目前を見ると、狐の男が銃口を上にしたまま乗客全員に蟲を放った。

「羅刹、頼む」
「OK、桃ちゃん」

羅刹が体を曲げ、跳躍する。
俺は感覚でそれを確認すると狐の男に体当たりをかけ、フロントガラスを割って外に飛び出す。

地面に転がりすぐに立ち上がる。
狐の男もすでに立ち、銃口をこちらに向けて居た。

先ずは、武器を壊す。

そう考え、飛んで来た蟲を手刀で叩き潰し体を捻る。
すぐに助走を付けて蹴り上げた踵を男の銃にめり込ませた。

カツン と、金属音を立てて銃はバラけて地面に散らばった。
 
 
狐の男、その顔が目立って全身を見ていなかったが、懐かしい感じの古臭い黒い着物を着て居た。

まるで時代錯誤な印象をうける。

背景の色の剥がれかけた鳥居が更にその印象を強くした。
鳥居の脇、左右にお稲荷さんの石像があり、奥には朽ちかけた社が存在して居た。

「「コォー――ン!!」」

狐の男が空を仰ぎ見て、大きく口を開き吠えた。
そして、四つんばいになり、突進して来た。

まるで狐そのもの。

躱しながら、いつの間にか社の階段部分に来ていた。

キシリ と軋む音が耳につき、足元を見ると所々に穴が開いていた。

誰も住まなくなると家は朽ちる。
上を見ると屋根も重そうに頭を下げて見えた。

狐の男は唸り声を噛み殺しながらこちらを見据えている。

何が目的なんだ?
この男は誰なんだ?

色んな疑問が浮かぶ。
それに答える声は聞こえては来ないけど……どうすればいい?
 
 
足元に気配を感じ下を見る。
黒い波が押し寄せて来ていた。

それは甲冑蟲の大群。
足から這い上がり、あっと言う間に全身を覆いつくされた。

キキキ……ギチッ

蟲が鳴く。
蠢く蟲の足がしっかりと至る所を掴み、俺の体の自由を奪う。


そして気付けば、無音の世界。


この蟲は?
狐の男は?

何故現れた?
何故殺した?

何故?
何故?
幾つもの疑問が頭を過る。

それらを知る事が最善。
どうすればいい?

でもそれは“鬼”ならば、判り切った事。

意識を集中させる。

狐の男。
その人に……。


体の熱が、角瘤の疼きが、鼓動のリズムが、それらすべての感覚が停止する。

そして、蟲に造られた闇の中心に光が見えた。
   
そこにのは、狐の木彫りを作る男の背中。
 
 
***


視えたのは、神社の中、神前で男が無心にお面を掘っていた。


何故?
何の為に?


場面が変わる。

可愛らしい女性が男に話し掛けていた。

「私は、何があってもこの子を産みたいの」
「だが、体が弱いお前には……」

医者には無理だと言われていた。
出産も、それ以前に子宮で育てる事自体が命を縮める事だった。
女性も解って居た。それでも諦めきれなかった。
そして授かった命。

「私はいいの。この子さえ元気に産まれてくれたなら」

それは無理だと、もう反対しても女性は聞かず、男も黙した。

そして無心にお面を掘る。

神社の守り神に祈る。

無事に産まれます様に。
何よりも女性が生きて笑顔で居られます様に。

その為のお面。
すべての災いを妻と子の代わりに、身代わりに受けて貰う為の守り神をかたどった狐のお面。
 
 
だが、願いは虚しく打ち砕かれた。

女性は死んだ。
子どもも産まれる事なく母体と共に亡くなった。

狐のお面は出来上がる前であった。

男は怒り、狂う。
何に怒る?

自身を呪い、
神を呪い……。

そして、稲荷神社。その元祖を思い出す。
元々は鬼神を祀る神社であった事。

幾代か前に縁起が悪いとお稲荷様に代えたのだった。

始めから間違っていた。鬼神が怒ったのだ。
先祖を恨む。
その血を継ぐ自身を恨む。

男は静かに狂って行った。

狐のお面の仕上げにかかり、出来上がった後、そのお面を顔に被せ、手に持ったのみを自身の頭に振り下ろす。
それも何度も何度も振り下ろし、それは事切れるまで続いた。

見るも無残な光景。
そして不思議な事に、お面は紐も通さず男の顔に留まって居た。

座ったまま事切れた男の頭から流れ出る血潮に脳髄、それらがお面と男の間を埋める様に隙間に入り込み、お面は吸収する。

鬼の血筋の、その命と血液と男の狂った記憶の残る脳髄を……。

は、男の怒る分身と成り、鬼と化したのだ。
 
 
狐のお面が黒い涙を流しながら大きく一声吠えた。
黒い涙は小さな粒と成り、形を変えて蟲と成る。

蟲は蠢き、神社の軒下に朽ちかけていた古い銃をねぐらにし、それは武器となった。

狐の男は状態が安定するまで眠りについた。
妻と子の眠る墓の傍の山の斜面にあった小さな洞穴で。

次の日、神前に残る大量の血痕を通いの巫女が見付け、事件と警察が捜査するも判ったのはその血が宮司のものであると言う事のみでその所在は判らず、迷宮入りとなった。

そんな神社は次の宮司も決まらず、やがては人の寄り付かぬ忌みな場所となり、朽ちて行った。



狐の男は長い月日を経て、一つの生き物として目覚めた。
目覚めを誘発したのは同じ血を持つ者の強い波動。

鬼の波動。


それは、俺、市松 桃太郎の目醒め始めた強い波動。
側に共に居た、鬼たる羅刹の波動。

狐の男は、目覚め飢えて居た。
眠る前、生まれた時に口にした味を求め、俺達の波動を追い掛け、バスに辿り着いた。

これがバスの運転手が死んだ理由。
 
 
***


目を開けると、また蟲の暗闇の中に戻って居た。

狐の男は、この神社の宮司の死骸、成れの果て。
木彫りの狐のお面が鬼の血脈の宮司の血液を吸収し“鬼”に変化した。

 
の鬼。こんな事が起きるなんて初めて見た」

羅刹?

「何ぐずぐずしてんのさ?」

頭上がメキメキと音がして、暗闇が開けた。
そこから覗いたのは羅刹の笑顔。
しかも、その口には……

「蟲っ!」
「ふむ。不味いじょ」
「って喰うなぁっつ!」

口端からグニョグニョと蠢く蟲が気持ち悪い。

「私は雑食だからね。何でも、んぐ。食べられる」

差し伸べて来た羅刹の手を取ると一気に引っ張り出された。

「皆は!?」
「大丈夫。“羅刹島”に送ったから……けど、約一名拒否したんだよねぇ」

ザザザザッと、蟲が引いて視界が開けた。

「桃太郎!」
羅刹の後ろから不二丸が現れた。
 
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