鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の子ども

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「不二丸! 何で逃げなかった?!」
「そんなん当たり前だ! 親友置いて行けるかっ」

はき捨てる様に言った不二丸は、格好良かった。

「俺が女だったら惚れちゃうね!」
「バッカ言うな!」

不二丸が顔を赤くした。

「男どもは呑気だね。狐の事忘れてない?」

羅刹の言葉に現実に帰る。
現実味のない現実に。

「狐の男は?」
「奴は寝床に向かったよ」

寝床。
妻と子の墓の傍。

「なぁ。あれは何なんだ? それにお前も、何だか光って見える」

この言葉に羅刹が反応した。

「ワンちゃんには視えるんだ?」
「何だよ?」

ふーん。と、まじまじと不二丸を見つめる羅刹。
けど、そう言われたのは二度目だと思い出した。

保育園入園式の時「何で光ってるの?」って訊かれた。
それが不二丸との出逢いだった。
 
 
「ワンちゃんは、後でいいや。取り敢えずは狐を退治しなきゃでしょ?」

羅刹に賛同して狐の男の気配を追う。
そう遠くはなく、神社の裏の小道の先に気配を感じた。

「おい! 桃?!」
「不二丸はそこに居て」

羅刹を連れて小道の先に向かう。

「嫌だよ。羅刹がよくて俺がダメなんて癪に触る!」

それも予想出来てたけど。俺らの後ろに不二丸は着いて来た。

「仕方ないな! 危なくなったら隠れるって約束しろよ!」 

返答は聞かず先を急ぐ。

あんな鬼がまた外へ出たら、街に出たら、大変だ!
それを止めなきゃ!

「うん。それが私達“鬼”の役目だからね」

羅刹の呟きが耳に残る。

鬼。
鬼退治。市松の裏家業。
ズンッと胸に重しがのしかかる。
 
 
不意に思い出す。
市松の裏家業を知った時の事。

眠る時聞かされていた子守歌は桃太郎の歌。

♪桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきび団子一つ私に下さいな。

俺の名前だからだと思ってた。
だけど、違ってた。

それは大抵が真夜中、俺が眠りについた後両親が呼ばれるのを視て居た。
  
そう。

目を瞑り眠りにつくとその場に居るみたいに視えていたのが“鬼退治”それは“夢”だと思っていた。
その夢を視る度に疼く額の瘤。


月夜に舞う黒い長髪。
青く光る短髪に白く輝く一本角。
   
二人がだと解ってた。
   
二人がだと判ってた。

鬼退治の全てを無意識に視ていた。
そしてある時無邪気に訊いたんだ。

「鬼退治は楽しいの?」
 
 
二人は鬼退治から帰って来たばかりで、母さんは黒く綺麗で、父さんの俺と同じ色の髪の額から伸びる一本角は白く輝いて居た。

母さんは涙を浮かべて首を横に振った。

「決して楽しい事じゃないのよ。これは悲しい事」

父さんは自身の角に目眩ましをかけて言った。

「“悪鬼”に成る事は悲しく辛い事だ。それを解放してやるのが俺らの仕事だ」

自分だって鬼なのに?
悪鬼とどう違うの?
仲間を倒すの?
人間に戻せる時と殺すしかない時の違いって何?

俺の口から零れ出る質問は止まる事なく続いて、最後に訊いたのが、
   
「俺はの鬼に成るの?」



それ以来、夢は見なくなったし、桃太郎の歌も歌ってくれなくなった。

思えば見なくなったのは父さん達が意識して遮断したからだ。
 
 
訳も解らず視てしまった事実。
あの頃は幼くてその重大さに気付けなかった。
無自覚に両親を傷付けた。

だから今まで敢えて鬼退治に触れずに来たんだ。
俺も、父さん達も。

けど、目の前で見た事実は、目を背けてはいけない事で、力在る俺達“鬼”がなんとかしなけりゃいけない事で……。

力が欲しいと切に思い、同時に自覚した。

鬼退治。
これは、俺の仕事だと。

俺は鬼の子、桃太郎。

「もう逃げたりしない」
自分に約束する。

「桃ちゃんは逃げたりしてないよ。逃げたのはおじさんとおばさん」

羅刹があっけらかんと言う。どうして心を読むんだか。

「だって全然ガードしてないから聞こえちゃうんだよ」
「ガードって?」
「心に蓋をするの。まあ桃ちゃんは鬼の知識と能力を持ってても使った事ないんだから素人と一緒。徐々に出来る様になるよ」

玄人な羅刹は生まれながらに鬼だ。
 
 
不意に小道は終わり開けた場所に出た。
そこは周辺の山々がよく見える神社裏の小高い丘。
そこに二人の眠る墓があった。
そして近くに寝床になっていた浅い洞穴が口を開けていた。
気付くと丁度男の大きさ程の穴が掘り起こされていて確かにそこに狐の男が居た。

怒りと絶望と耐え難い飢えと共に。

男は空の躰に巣喰う鬼。
記憶から生まれた鬼。
飢えた鬼。

それは悪鬼。

倒すもの。
倒さねばならぬもの。

俺がする事。
俺がしなきゃならない事。


「俺は、桃太郎なんだから」


狐の男はこちらに視線を向け、ゆらゆらと手を振った。
そこから放たれたのは、無数の甲冑の蟲。
動きは早い。けど、それよりも俺の方が素早い。
全てを叩き落とし、狐の男の黒い衣が全て蟲なのだと理解した。
 
 
その衣は意思を持ち、男の躰にまとわり蠢く。

狐の男は空に吠え、四つんばいになって駆けて来た。
その姿は黒い獣。
それは悪鬼。

「俺は、桃太郎だ」

信じられないくらい落ち着いていた。
どんなに強く大きな相手でも負ける気がしない。

熱く燃える額が ミシリ  と音を立てた。
それが何か、俺には解ってる。
ずっと見ない振りをしていた俺自身の、真実の姿。

額から流れ出る力の波が両眼を覆うと、突進して来た狐の男の、その元の魂が狐の男に重なって視えた。

男は、泣いていた。

力の波動は“角瘤”そのものから出ていて、小さかった瘤が盛り上がり、皮膚を突き抜けた。
それは“角”が生えたと言う事。

生えた角から放たれた力の波動は、狐の男を弾き飛ばす。
長く閉じ込められていた力が爆発した。






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