鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の子ども

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「桃ちゃん……綺麗」

羅刹の声は静かで、それでいて真摯な響きがあった。

額に在る二つの熱。
それは、二本角。

「角? ……目の色が、青い? いや、金色に見える」

不二丸の確認する様に呟く声に、思い当たるのは……両眼は鬼を視る為に輝く金色。

自分がどんな姿に変わったか想像出来る。

見る角度で青い炎を纏った様に見える黒髪に銀色に光る青い眼と、一本角を持つ父さん。
長い黒髪に黄金に輝く瞳を持つ母さん。

二人の“鬼の部分”を写し取った姿。
それを受け継いだのが、俺だ。

「俺は、桃太郎。鬼の血を受け継いだ“悪鬼を救う鬼”」

言葉にしてやっと理解出来た。
父さん母さんがしていた事。あれは“救い”……救って居たんだ。
 
鬼を救う鬼。

それが迷い続けていた今までの俺の心情にぴったりの表現だと思った。

狐の男。
悪鬼と成り果てた哀れな男。

に当てられ、古株に激突し地面に仰向けに転がった狐の男は、ピクリとも動かない。
だが、千切れて蠢く黒衣の甲冑蟲は列をなし三列に分断し“脳”を求めて俺達に向かって来た。

狐の男は、そのお面から覗く瞳を赤く光らせ、こちらを見ていた。
全てが同時にスローで、クリアに見えた。

狐の男は、絶えず泣いて、哭いていた。

胸に疼く力の波動は、俺の角に向かって集中する。
大気は揺れ、風に髪が服が煽られ靡く。

羅刹は大丈夫だと直感で解っていた。
だから不二丸に視線を向けると、甲冑蟲が足元に喰い付いている所だった。

角に集まった力を、不二丸と俺に集まる甲冑蟲に解放する。

その力は、稲光。
雷電。
不二丸の足元に集まった甲冑蟲は弾け、地面に黒い跡を残して消滅した。

安心し、改めて羅刹を見ると、黒髪は白髪に変化し、その躰は薄い鱗を纏っていた。
そして、甲冑蟲は姿を消していた。
瞬きをした次の瞬間には、その姿は成りを潜めた。
羅刹のあの姿は……羅刹の、鬼の部分。
その姿が垣間視えたんだ。
羅刹は長い舌で唇を舐め、小さくゲップをした。

喰ったんだろうな。
けど、何でそんなに食べるんだろう?

「桃ちゃん!」
羅刹の声で現実に戻り、視界に狐の男が映る。
狐の男が仰向けのままバキバキと音を立て四肢を背に向けて折り曲げ、ゴキリッ と首を折り、顔の上下を正すと地面を駆けて、こちらに向かって来た。

鳥肌が立つ。
こんな不気味な姿は無いと思った。
そして哀れで、終わらせてやらなければ。と、強く思った。

渦巻く力を二本角に集中させる。それは“鬼力”。
甲冑蟲に放った雷電を、今度は狐の男に落とす。
 
ダァーン! ドォン!

鈍い地面を抉った音が山中に響いた。
俺の目の前で、雷は狐の男に落ちた。
狐の男は、上向いていた胸を焦がし、土にめり込み潰れていた。
黒い衣は全て消滅し、狐のお面が顔から剥がれ、それはゆっくりと地面に落ち、パキッ と、縦に割れた。
お面の割れた音に共鳴した様に、男の躰が崩れ骨も残さず土に消えた。
そして、土塊に残されたのは幾つかの赤い珠。
       
「それは、“朱色の血珠”。悪鬼の元になった鬼の血だよ」
羅刹が言った。

「これは、羅刹島に持って帰るよ」
言いながら赤い珠を拾い集めて服のポケットに無理矢理突っ込んだ。

「……んだよ。何なんだよ?!」
不二丸が叫んだ。

それで、現実に戻る。
俺は、“鬼退治”をした。
 
「不二丸。ごめ……」
「説明! してくれ」

真っ直ぐに俺を見て訊く親友に、嘘なんて吐けない。

「俺は、俺達は、鬼を先祖に持つ一族なんだ。
ずっと鬼退治をして来た」

「桃が、鬼?」
「信じられないだろうけど」
「信じるも何も、角が生えてるし」

あぁ。そうだ。
「どうしたら姿を戻せる?」
羅刹に訊く。

「取り合えず、羅刹島に行こっか」
羅刹がにっこりと笑顔を見せて、その変わらない態度に安堵する。

「ワンちゃんに忘れさせる事も出来るよ」
羅刹の言葉に、そうした方が良いって思った。

「そんなの、嫌だ! 俺は何があっても桃の親友なんだからな!」
不二丸が強い口調で否定して、それに嬉しさが混み上がる。

「だけど、それは巻き込まれるって事だけど、良いの? これからきっと桃ちゃんは“鬼退治”を続けるよ」

暗に警告をする羅刹。
そうか。そうだ。不二丸は人間。

「それはダメだ。不二丸はただの人間なんだから」
「そうとも言えないよ?」

羅刹がニヤリと微笑んだ。
それはどう言う事だろう?
と、首を傾げる。

「道を開くよ」
羅刹が先に立ち、神社に向かう。

「なぁ、羅刹? どう言う意味なんだよ?」
後を追いながら訊く。

「それは、ワンちゃんが“能力者”って事だよ」

「能力者?」
不二丸が俺の横を歩きながら訊く。

「詳しい事は父ちゃんから聞いたら良いよ」

壊れたバスの前に立った羅刹は、そのドアを勢いよく開けた。
「たっだいまー!!」

ドアの先は光に包まれて居て、羅刹は迷わず足を踏み入れ姿を消した。

「桃!」
不二丸に呼び止められ振り向く。
「俺、お前に言いたい事があるんだ」

向かい合わせで不二丸を見上げる。
緊張した顔をした不二丸。
やっぱり気が変わったのかな?
それは仕方ない。と、否定の言葉を待って居た。
 
 
「俺、お前の事が好きなんだ」
真顔で言う不二丸。

「俺も好きだぜ!」
幼なじみで親友だもんな。

「……違うんだ。本当は今日言おうか言うまいか悩んでた。ずっと、ずっと悩んでた。普通なら異性相手に恋するよな? けど、俺はずっと、桃太郎。お前に惚れてたんだ」

え?
「えと……。だって、お前、地雲 君子じうん きみこさんに」

「それは、誤魔化してた。お前への気持ちを、おかしいって思ってたから」

何て言ったらいいか解らない。

「桃が死ぬかと思った。そしたら、お前が男だって、鬼だって、どうだって良いんだって判った。今言わなきゃ後悔する。
それだけは、強く感じたんだ」
 
 
どう応えて良いのか分からなくて、あんぐり口を開けて不二丸を見上げる事しか出来なかった。
で、気付いたら抱き締められて居て、口が塞がれて居た。

「あ―――!!! 桃ちゃんは私が先に唾つけたんだからね!」

羅刹の甲高い声で我に返り、俺より大きな体を押し退ける。

「桃……俺は」
「黙れ」

俺、キスされてた。
不二丸に。

「桃ちゃん。ん。」
羅刹に呼ばれて振り向くと同時に重ねられた唇。

「ん、ななんっ」
「口直しだよ。桃ちゃんは私のなんだから!」
って、不二丸を睨む羅刹。

俺の唇って……。
もう、ファーストキスが誰なのかも判んないよ。

「それはね。虎ちゃんだよ」

その名前を聞いて更に脱力する。

虎之介おじさん。
 

 
「ん、もう。遅いから迎えに来たの! そしたら案の定ワンちゃんに襲われてんだから」

羅刹の言い方に引っ掛かる。

「そうだよ。ワンちゃん最初に見た時から解ってたんだ。やつの桃ちゃんへの邪な気持ち。私に敵意バリバリだったんだから」

「不二丸のココロ、読んでたのか?!」
「んー。敵意を感じただけだよ。だから、不二丸は能力者なんだよ。桃ちゃんよりココロに蓋が出来てるの」

羅刹は嫌ーな顔して不二丸を見て、
「だからね。ヤだけど羅刹島に連れてくの」
と、ドアを指差す。

光の先には羅刹島に繋がって居る。
とても穏やかで、豊かな島。

羅刹島。
 





 








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