鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の事情

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どんなに恋い焦がれても手に届かない人って居るじゃない?

言葉にするなら、
諦めから始まる恋。
みたいな。

だから高望みしないし、自由で居られるの。

それでも、好きな気持ちは膨らんで、時々爆発しそうになる。

だけど、我慢しなきゃならないの。

だって私には……そんな資格ないって解ってるから。
 

~羅刹の中の羅刹~
 

***


 
† 羅刹side

羅刹島。

そこは私の故郷。
私の分身。

私の終わりと始まった場所。


私の造った扉を越えると、空気が変わる。

澄んだ空気。

「たっだいまぁ!!」

と、柔らかい草の上に足を落とす。

「と、ととと。」

と、ふらふらと、降り立った桃ちゃんを振り返り抱き留める。

「桃ちゃんん」

私の大切な子。
私の一部。
大好きな匂い。

ぎゅうって、抱き締めてたら、頭を叩かれた。

「やめろ!」

ワンちゃん。
自分の気持ちを告白したもんだから、余計に独占欲が強くなって―――……んふ。そうだ!

「白の! 黒の!」

私の相棒を呼ぶ。

草をかき分け現れた白と黒の影がワンちゃんに飛び付いた。

「わぁ! 蛇っ!」

面白いくらい驚いて後退するワンちゃんに声を立てて笑った。

白蛇と黒蛇。
私の相棒。

前世からの私の加護蛇。
 

 

、私は沢山の罪を犯した。
それは朧気で、ハッキリとは覚えていない。
けれど、ハッキリと解ってるのは、私は“愛してはいけない”って事。

「羅刹!」
「とーちゃん!」

私の名前を呼んで駆けて来るのは、優しい父ちゃん。
私にはとっても過ぎた養父。

駆け足で父ちゃんに飛び付く。

「とあっ! こら! お前は、何歳になったと思ってるんだ?」

私は押し倒した父ちゃんの上に跨がって笑う。
父ちゃんは、優しい黄金色の瞳を細めて私を見る。

私の大好きな父ちゃん。

「お久しぶりです。元気おじさん」

そう言って駆け寄って来た桃ちゃんに渋々父ちゃんを譲る。

桃ちゃんは、魂が父ちゃんに近いから、私は遠慮してしまう。
それは誰に教えられた訳じゃなくて、最初から解ってた。

生まれたばかりの桃ちゃんを見て、それはすぐに解った。
桃ちゃんは父ちゃんにそっくりだった。
それは甥っ子って枠よりも、親子みたいに……。

私は父ちゃんが大好き。

、桃ちゃんも大好き。

二人が話すのを横目に見て、溜め息。

許せない。
 
 
桃ちゃん。
桃太郎。
私の大好きな男の子。

私の大好きな父ちゃんに似た男の子。

考え耽っていると、
「羅刹。大丈夫か??」と、私の右腕にするするっと上って来たのは黒蛇の蛇狼じゃろう

「羅刹。あの男は誰だ?」
言いながら、左腕に巻き付いて来たのは白蛇の白火はくび

「蛇狼、大丈夫だよ。白火、あれはワンちゃん。要注意人物だよ。私の大好きな桃ちゃんを、自分のものにしようとしてるの」

私の言葉を真剣に訊く可愛いこの子らの小さな頭を指先で撫でる。

蛇狼は黒色の躰と銀色の瞳。
白火は白色の躰と金色の瞳。

可愛いこの子らは島そのものの分身。
私を前世から大切に想ってくれてるもの達の分身。
  
私がなった時、二つの卵が目の前に現れた。
それを温めて孵化させた私はこの二人の母親みたいなもの。

二人が私の傍に来てから、私のココロは落ち着いてる。
二人は私の加護蛇。護られてるって解るから……。
だから、桃ちゃんだけを想って居られた。

なのにあの“犬”が現れた。
私から桃ちゃんを奪い取ろうとしてる。

ジクリ。と、胸の辺りが痛くなった。
 
所詮な生き物なのだ。


 
だから、男は嫌い。
  
多分は前世と関わってる。
だけど、何に罪悪感があって、何で男嫌いなのか大本を思い出せない。

だけど、父ちゃんと桃ちゃんは別。
龍おじちゃんと虎ちゃんも別。
男でも大好き。

こっそり皆の輪から離れて私のお気に入りの場所へ向かう。

私と同じ名前のこの島の事で私の知らないところはない。

羅刹島。
とても美しい楽園の島。

その島の全てを見渡せる高い丘に着くと、そこに鎮座する。

柔らかい陽の光が豊かな山林を輝かせる。
大小の川が至るところに流れ、命の息吹きが囁き合って居る。

私の世界。
私の一部。

それは、幼い頃から理解していた。
けど、私はこの島の様に美しい訳じゃない。
違和感が痛い程に私を苦しめた。

だから“人間”であった自分は耐えられず、10歳になった年に“鬼”に成ったんだ。

私は鬼で在る方が楽に生きられる。
けど、そうなってから、恐ろしい程の食欲に翻弄された。

鬼に成ってからすぐ、鬼退治にも加わった。
そして、必要もないのに何かしらを喰い散らかして周りを驚かせた。

狐の男の甲冑の蟲。
あれだって喰う必要はなかった。
滅せばいいだけ。その術だってちゃんと持ってた。

なのに、私は私の食欲を満たす為にあれを喰ったんだ。
 

 
何にそんなに飢えているのか?
答えは見えてこない。
それに、心配させると解ってるから誰に訊けば良いのかも判らない。

そんな時、ふっと頭に浮かぶのは銀色の人。
その人の事を思うと何故か安心出来た。
銀色の人は実在してて、父ちゃんから教えて貰ったのは“ライ”って名前。
その人は今は違う土地で幸せに暮らしてるそうだ。

幸せ。
幸せって何だろう?

今の私はただ目標もなく生きているだけ。
生きる事が究極の目標だと言えばそうなんだろうけど……それは幸せとは程遠い気がする。

私は迷路にはまった幼子の様に不安に押し潰されそうになる。

「気持ち良いなぁ」
蛇狼の声に我に返る。
「何が?」
「風だろうね」
白火が答えた。

風。
そこではじめて頬を掠める風に気付いた。
「そうだね。気持ち良い」
私はぐるぐると同じ事を考えては自分に閉じ籠る。
そんな時、白と黒が私を浮上させてくれる。

本当に「白と黒が居てくれて良かったよ」ココロからそう思う。

「「我らも羅刹と居られて嬉しいぞ」」
白と黒が揃って言った。

誰かに必要とされるのはそれだけで生きる糧になる。
元々の加護蛇はそれを解ってて二人を遣わした。
二人の母親達は私を護る術を心得てる。

 
「ん? 羅刹。これは何だ?」

蛇狼が私の服のポッケの膨らみに興味を示した。
両方のポッケに詰め込んだのは鬼の血珠。

「お土産??」

白火までポッケの外をその可愛い口で突っつく。
違うと言う前に、二人は狭いポッケに体を滑り込ませた。

「ちょっ。だめ!」

せっかちな所が私に似ている二人は、興味を示したらそれに突進する。
今回も私の制止をものともせず興味を満たすべく突進した。

けど、この血珠はダメなんだ!
両ポッケに手を突っ込んで、二人の首根っこを掴むと引き出す。
一緒に数個の血珠が大地に転がり落ちた。

「あ! こらっ! これは食べもんじゃないのっ」

二人の口が膨らんでいる。
注意するも、二人は血珠を飲み込んでしまった。

「「美味しくない」」
揃って言うのはいつもなら愛しさが込み上げる。が、害が有るもんを食べてしまった二人に、怒りや心配や色んなものがココロに渦巻いて言葉にもならない。

「と。父ちゃんとこ行かなきゃ」
いつもと違う私の反応に二人はやっと、事の重大さに気付いたらしく訊いてくる。

「これって、毒なのか?」
「判らない……」

本当に、判らない。
けど、この二人に何かがあったら私は耐えられない。

二人を抱えて父ちゃんの所に駆け出した。
大きな不安を旨に抱えて。
 



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