鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の事情

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† 桃太郎side

羅刹島に降り立った時、この島は特別なんだなってすぐに解った。空気の美味しさとか、自然の匂いとか、まるで違った。

羅刹に抱き締められたり、不二丸が羅刹の呼んだ蛇達に驚かされたりしてるのを眺めていたら「羅刹!」って呼ぶ声。それに一早く反応した羅刹が駆け出した。
「とーちゃん!」夕陽色の髪をした元気おじさんが羅刹の勢いに押されて大地に寝転んだ。

優しいおじさんは母さんと一緒で、その年齢と比例しない容姿をしていた。
羅刹は養女だと知ってるけど、全然どこの家族よりも仲の良い父子だ。

「お久しぶりです。元気おじさん」
ゆっくり追い付いたところで声を掛ける。
すぐに羅刹がその場を離れた。それが気になりながらも、自分の事が知りたくて元気おじさんに食い付く。

「あぁ。桃太郎。見事な角が生えたなぁ」
元気おじさんが溢れんばかりの笑顔をくれた。

「そう、です。それに」
「初めての“鬼退治”をして来た」
そう言った元気おじさんは、瞬時に真顔になった。

「羅刹の知らせがあって“千里眼”で視て居たよ。運転手は残念だったね。後の事は“市松”が処理するから安心して……それに桃太郎が知りたい事、姿を隠すやり方は、お父さんに訊く方がいい」
 
 
「父さん?」
「そうだよ。俺も“鬼”だけど“角”は無いんだ。兄さんは角を有する鬼だからね」

そうだ。
“鬼退治”の時は角があって、俺と話した時に角に目眩ましをかけた。

「樹利亜も安定しているから会って来るといい」

母さんと父さん。
今朝別れたばかりなのに長い事会ってないみたいだ。

「俺は?」
って、不二丸が肩越しから顔を覗かせた。忘れてた。
「君は……、桃太郎の友達だね。犬飼 不二丸くん。」

「はい。はじめまして、です。桃のおじさん?」
「そうだよ。桃太郎の母親の弟だ」

元気おじさん。
何で不二丸の名前?

「桃太郎が教えてくれたのさ。羅刹からはワンちゃんとして伝えられてたけどな」
「俺、何も言ってない」
「うん。羅刹が言っていたろう? お前はココロに蓋が出来てないんだ。その強い思いが直接聞こえて来る。鬼とは互いに思いを声に出さず伝える事が出来るんだ」

俺の考えは駄々漏れってやつ?
「そう言えば母さんはしょっちゅう俺のココロ読んでた」

て。待て。フルネームで考えたのって、あの時……チラッと元気おじさんを見ると、苦笑した。

「うん。すまん。視てしまった」
     
やっぱりぃ。
顔が熱くなるのを意識した。

「何を見たの?」
事情を知らない不二丸はただキョトンとしていた。
目を白黒させてたら、
「父ちゃあーん!!」
羅刹の叫ぶ声が空から降って来た。
 

 
いや。
本当に、空から降って来た!
飛んで来た羅刹を両手を広げて受け止めた元気おじさんが「診せて」と、泣いている羅刹を促した。

「ダメって……言ったのに、白も黒も聞かなかったの」
ポロポロと涙を溢す羅刹の両手の平に、ぐったりとした二匹の蛇が横たわっていた。

「解ってる。鬼の血珠を飲み込んだんだろう?」

鬼の血珠?
「羅刹がポケットに詰め込んでたやつ?」

「そうだ。“朱色の鬼”と呼んでる悪鬼の鬼の部分の血が珠に変化するんだ。けど、大丈夫だよ羅刹。“ライ”も父ちゃんも血珠を取り込んでたんだ。この子達の母親はこの島の護り神。ちょっとやそっとじゃどうにもなりゃしないよ」
言いながら、優しく両手の蛇達の小さな躰を擦る。
それは“癒し”だ。

「ほら。蛇狼、白火。母さんが泣いているよ」
元気おじさんの言葉に、二匹は反応する様に眼を開けた。
綺麗な金と銀の瞳をしている。

「それは、ダメ。」
「泣いちゃ、ダメ。」
「あぁ。蛇狼! 白火!」

顔をぐしゃぐしゃにした羅刹が二匹を抱き締める。
始めて見たその姿に、ドキッ とした。

ドキッ?
羅刹にときめい、た?

チラリっと、視線を寄越した元気おじさんに、気持ちを読まれたんだと気付いた。
まさか。羅刹にも?!

元気おじさんが首を振る。
羅刹は二匹の事が心配でそれ所じゃないらしい。
胸を撫で下ろす。

違った一面を見て驚いただけだ。
絶対にそうだ。
自身を分析して一人納得する。

 
「蛇が喋った?」
って、俺の背後から本気で驚いてる不二丸が呟いた。
「だな。俺も始めまして。だったからな、あの二匹とは」

羅刹が落ち着いた所で彼女を抱っこしたまま、元気おじさんがこちらを見た。

「桃太郎は両親の所へ、犬飼くんは俺と一緒に来てくれるかな?」

元気おじさんが視線を向けた場所に、いつの間にやら小さな男の子が立っていた。
夕陽色の短い髪と、黄金の瞳。
従兄弟の結歌ゆうただ。

「久し振りだね。結歌」
結歌はにこりと微笑んで俺の手を取った。
とても静かな彼には、双子の女の子結愛ゆあが居る。彼女も同じ外見で髪が結歌より少し長めだ。
結愛は前の方に立っていて、二人が案内してくれるんだと理解した。

「桃……」不安気にこちらを見る不二丸。
「無理、しなくて良いんだぞ。忘れてさ、普通に戻る事だって出来るんだ」
口を閉じたままの不二丸は、俺をじっと見て、
「忘れるなんて、無理だよ」
ふ。と、形の良い口端を歪め、小さく微笑んだ。

忘れるなんて。は、俺への想いだと解った。

俺は正直、不二丸にそんな感情を持った事はなかった。
今からもそうだと思ってる。

不二丸は、唯一無二の親友なんだから。それに、羅刹だって、二歳年上のただの従姉妹なんだ。

俺のココロは複雑に絡んで、今までに無い程の悩みを抱えた。
  
よりも、人間関係に悩むなんて、変な感じだ。
 
 
連れて来られたのは平地の草原、石造りの家が数軒ある内の一軒の前に案内された。

「ここ。」
「桃太郎、樹利亜と龍太郎の家だよ」

結歌と結愛が扉を叩いた。

「はい」

母さんの声がして、静かに扉が開いた。

「父さん」

顔を覗かせたのは父さん。満面の笑みを浮かべた。

「見事な二本角だな」
「うん。やっと、だね。」

父さんは待ち望んでた筈だから。
苦笑いに変わった父さんが、俺の頭をわしわしと撫でた。
考えを読まれたんだと解って、溜め息。どうしたら蓋が出来るんだろう?

「慌てる事はない。その内出来る様になるさ」
父さんに促されて室内に入る。

「そうなると寂しいけどね」
「母さん!」
ベッドに座った母さんが微笑んで言った。

「桃太郎は正直で真っ直ぐで、誰にでも優しい。自分のココロを隠す事も知らない純粋な子なのよ。だから、貴方のココロに触れるのはとても気持ち良いの。周りは読まない様に気を付ければ良いのだけど、貴方のココロに触れずにはいられないの」

ココロに触れる?

「読まない事も出来るの?」
「そうだな。伝えたがってる事はどうしたって聞こえてしまうが、こちらが遮断する事も可能だ」

父さんが母さんの隣りに座って俺を見上げる。
 
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