鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の事情

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俺の言葉に顔を上げた元気おじさんの瞳が一瞬赤く見えて ドキッとした。
けど、気のせいだ。今見えてる瞳は黄金色に輝いている。

「二人がそう言ったのかい?」
心底驚いた顔で訊かれ頷く。

「そんな事は一度も……言わせなかったのか」
間を開け、首を振ったおじさんが静かに言った。

「幸せだったって。今度はおじさんと羅刹が幸せになる番だって」
おじさんの表情が硬くなる。

「……そう、か。空羅寿がそう言ったのか?」
狼狽えて見えた。

「そう。あの子達は、人のココロに敏感で、俺には、俺と羅刹には、何も話さない……優しく、強い所が母親に似ている」

「二人だから大丈夫なんだって」

「……そう。だから双子だったのか」
呟く様に言ったおじさんが立ち上がる。

「空羅寿は双子には意味があるの。って再三言っていた。そして男女の双子だと調べなくとも知っていた。名前も二年じっくりと悩んで付けたんだ」

元気おじさんの両手に残る爪痕から滴る血が地面を濡らす。

「血が……」
「あぁ、大丈夫だよ」
言ったおじさんが手の平を合わせ、少しして開いた時、傷痕が消えていた。
残った血液を舐め取る。その時に見えた瞳が、また赤く見えた。

「桃太郎には視えてしまうんだね」
 

 
ふっ と、小さく微笑んだおじさんの顔から笑顔が消えた。
「俺はね、朱色の鬼に成りかけてる」
衝撃の告白に言葉も出ない。

「そのせいでか、人の気持ちに鈍くなってる。人間味がなくなって来ているって言ったら解りやすいかな?」

その両眼が、黄金と赤と、斑に揺らぐ。

「……自分が怖いよ。まだ、この島に居るから辛うじてただの鬼で居られる」
瞬きの後に黄金色の瞳に戻る。

「父さんと母さんは」
「知ってる」
「羅刹は……」
「彼女が俺を留める枷だ」

静寂がその場を支配する。

「誰が不幸になってもかまわない。空羅寿を失ってすぐ、朱色の血に染まる自分を感じたよ……だけど、それを留めたのはまだ幼い羅刹だった」

背を向けた元気おじさんの告白は続く。

「止める彼女の精神を、俺は容赦なく犯した。空羅寿が死んだのは元々は、全て羅刹のせいだと……黄金色の瞳を持つ桃太郎なら視えるんじゃないか?」

そう言われて戸惑う。

「俺と樹利亜は千里眼を持っている。同じ色の瞳を持つ桃太郎もその能力はある筈だ。いや、“魂が近い”お前にはその能力がある。思い出せ、幼い頃の父母の鬼退治を視ていただろう? あれこそが千里眼の能力」

言われて納得もする。
“千里眼”

「全ての事柄をあらゆる角度から見透せる能力」

母さんが自分の過去を俺に視せた。それも“千里眼”?

「そうだよ。さあ……俺の記憶を覗くといい」

元気おじさんの差し出された手に引き寄せられる。
抗えない。
俺も、知りたがっているから。
ひんやりとした手を握ると、急に目の前が暗くなって行った。
 
..............
.......
 


温かい水の中。
そこから出たくはなかった。
だけど……苦しさと、痛さと、突然訪れた解放感に、大きい泣き声を上げた。

それは春。茜色に染まる夕陽の綺麗な時間帯。
生まれ落ちたのは、丸々とした男児。
まだ幼さを残す母親は、一度だけ母乳を与え、愛する者の傍へと帰った。

後に残された男児は、母親の弟に育てられた。
それは愛情深く、母親の不在など気にもならない程に。

だが、人のココロに蓋は出来ない。
男児は幼いながらに、自分の父親が山の鬼神だと知っていた。
そして、母親に捨てられた事も。

巫女の家系に生まれた男児、宗寿そうじゅは、鬼の父親の気質を受け継いだのか強い先読みの能力と強い感受性を持っていた。


母親は、寿ことぶき
父親は、鬼神、赤鬼まほろば。
養親は、はる。寿の弟。


宗寿。その見姿は、誰もが振り向いてしまう程に美しい夕陽色の髪に整った顔立ちで、遠い存在である山の鬼神よりも身近で、村人の崇める対象となって行く。
それは、誰もが求める神の様な存在へと変化して行った。
それを本人は望んでいなかったとしても……。
彼は人目の無い真夜中に、山を仰ぎ見る。
俺はその佇む背中を見つめる。
宗寿が何かに気付いた様に振り向いた。
黄金色に輝く瞳と目が合って―――……これは、誰の記憶?



「ああああああ―――……!!!」


突然聞こえて来た。悲鳴に振り向く。
 
 
そこに居たのは“宗寿”と同じ髪を振り乱した男。

「何故!? 何故?? 死ななきゃならない!!」
声で解った。
それは、元気おじさん。

でも全然違って見えた。

何故??
何故??

問う声がココロまで響く。

そして、その腕に抱いて居たのは、力なく項垂れた女性。
痩せ細り、見る影もなくなった空羅寿おばさん。

亡骸を抱き締めた元気おじさんは、吠える様に泣き叫んで居た。

そして見え隠れする赤い眼光。

「父ちゃん!」
幼い羅刹が叫ぶ。
羅刹の足元には生まれたばかりの双子が、へその緒がついたまま転がっていた。

当時、七歳だった羅刹は小さく、だけど、その小さな体をなげうって、元気おじさんに飛び付いて行った。

「ダメ!!」
そう言って抱き締める。
「ダメ!! 父ちゃん!」

元気おじさんの鬼気が膨れ上がる。
それは危ない程に。
鬼気に触れた空羅寿おばさんの体が崩れ、骨だけが残った。

「父ちゃん!」
羅刹が更に叫ぶ。

元気おじさんの夕陽色の髪が逆立ち、黄金色の瞳が赤く染まる。
それ処か、肌の色も朱色に染まり始めた。

“朱色の鬼”の意味が解った瞬間。

羅刹は元気おじさんの膨れ上がる鬼気を押さえ付ける。
それは七歳の幼子の出来るものじゃない。

一瞬、白い鱗の大蛇が羅刹と重なる。
思い浮かんだのは神社で視た羅刹の姿。
 
 
「「放っておけ―――……。お前に俺を止める術などない!!」」
声が滲む。

「ダメ!! 父ちゃんは、父ちゃんのままでないと!」
必死にすがり付く羅刹。

元気おじさんは容赦しない。
しがみつく小さな羅刹の両肩を鷲掴み、その首元に歯を立てる。
だが、白い鱗がその歯が食い込むのを阻む。

「父ちゃん! しっかりして!!」
羅刹は尚も元気おじさんに訴える。
「一人に……しないでっ」
涙を流しながら訴える。

「「それを、お前が言うか?」」
「え?」
「「お前が、空羅寿を追い詰めた」」
「何を?」
「「惚けるな! 羅刹―――……お前こそが、空羅寿のココロを蝕んだ張本人ではないか!」」

「解らない!」と、叫ぶ羅刹の姿が一瞬人間に戻る。
それを見逃さず元気おじさんは喉に歯を立てた。

苦痛に歪む羅刹の顔。
次にはまた白い鱗が身体を纏い、弾かれた元気おじさんの口許はべっとりと血に濡れていた。

「「ああああああ―――……!!」」
悲しみの慟哭。
それと共に元気おじさんの“千里眼”が爆発する。

それが羅刹を、俺を呑み込んで行く。

そこに視えたのは、羅刹と空羅寿おばさんの関わり。

の前世の記憶。
羅刹は母親から引き離され、愛を求めていた。
その生活は酷いもので、狂って仕舞わなかったのが奇跡。
彼女には蛇の呪いと加護がついていた。
そして、狂う一歩手前で鬼の血筋と蛇の呪いで最初の“鬼化”をした。
 






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