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鬼の事情
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しおりを挟む鬼に成ってから、山をさ迷う羅刹が視える。
それは白い大蛇の姿で、何かを求め赤い瞳は見開かれたまま。
山で出遭った者は、男は尽く呑み込まれ、女はその眼光で気が狂った。
故に、白き大蛇は山の主と畏れられた。
何十年とさ迷った羅刹は、ある日少女と出逢う。
少女は騙され、家族から引き離され男と山を降りていた。
羅刹は、その少女の絶望の声を聞いた。
そして、少女と目が合った時、心臓が高鳴った。
求めていたものを見付けた。
それが瞬時に解ったのだ。
羅刹は迷わず少女を助け、その能力を使って山を削った。
山は島と成り、麓の海岸から海へと旅立つ。
少女の望みは、家族とまた一緒に居られる事。
それを理解した羅刹は、少女の村ごと山を島に変えた。
その村には男は殆ど出稼ぎに出ていて居らず、残っていた男は、老人と子ども。それでも羅刹は男を喰う。辛うじて少女の弟は難を免れ、島でその生涯を全うした。
その少女の名前は、空羅寿。
羅刹は空羅寿を囲って、一年に一度島に迷い込む男から性を搾り取り“蛇”を孕む。孕んだ後は、男の寿命を奪い、奪った寿命を人間である空羅寿に与え、何百年とを共に過ごす。
羅刹の前世の業は蛇による呪詛。
だがそれは、人間の男が羅刹に与えた不幸。
蛇側、鬼女である羅刹は狂っていて、人間、空羅寿の傍に居る羅刹は辛うじて正気でいられた。
羅刹と空羅寿の関係。
それは、前世から繋がっている。
羅刹島。
島は亡者の鬼が囚われた牢獄で在った。
ある時、赤と青と黒と黄の鬼が現れた。
赤の……何故か懐かしい。
赤色の長髪に額に二本角の美しい鬼。赤鬼。
……赤鬼、まほろば?
その金色の瞳が優しく見つめる先に青い短髪の一本角の鬼。
とても、不思議な雰囲気を持つ青鬼。
黒い長髪は、今と変わらない母さん。傍には少し若い父さんが寄り添う。黒鬼。
そして、夕陽色をした元気おじさん。黄鬼。
今と見た目はあまり変わらない元気おじさんは、名前の様に明るく元気で、空羅寿おばさんとの出逢いに戸惑いながら急速に惹かれてるのが解る。
羅刹。羅刹は今とは違う……白い大蛇。上半身は艶かしい女性。下半身は白き大蛇の姿で、苦しんでいる。
元気おじさんは羅刹の前世を視て、全てを理解していた。
だけど、それよりも深い前の世で、空羅寿と羅刹は繋がっていた。
それを掘り起こしたのが……青鬼? その姿は白銀に輝く銀の鬼に変わっていた。
羅刹は幼い頃、見世物小屋へ父親に売られた。
そして、その羅刹を取り戻そうと走る母親が空羅寿。
それを思い出した二人は救われた。
それを引き出したのは、銀の鬼。
そして、今世の二人の関係に繋がってる。
羅刹は、傷付いた魂を癒す為に、また、生まれ変わったんだ。
意図せず、蛇の呪詛を絡ませたまま。
前世より“蛇の呪詛”から羅刹を護り続ける者が居た。それはこの羅刹島を楽園に変えた白と黒の蛇がもたらした護り。
黒の蛇は、幼い頃から見ていた羅刹に母性を感じ、霊魂と成った後、母性は護る力と変わる、白の蛇は人間に神と崇め奉られた存在で、羅刹と出逢った時には既に神格化し能力を持っていた。
故に同族である蛇達の救いを求め声を無視出来ず行動を起こさせた。
黒の蛇が人間で在る羅刹を護りながら、白の蛇が蛇達の呪詛を受け、躰を“鬼化”させた。
それは、狂いそうな羅刹の魂を護る結果となった。
そして銀の鬼が羅刹を鬼女から人間の赤ん坊に転生させた。
その時に、鬼と成らざるを得なかった記憶は封印され、魂の母親である空羅寿おばさんに還された。
それは空羅寿おばさんの新たな生への、未来へ進む切っ掛けになった。
元気おじさんとの未来。
それは、希望に満ちた未来への道筋だと……
元気おじさんから視えていた事柄が一変する。
これは……。
目線が変わった?
ザワザワと青葉が揺れる。
樹の根本の空羅寿おばさんの墓石が目に入る。
墓石が揺らめいて、ゆっくりと人型を成す。
時代錯誤な着物を纏った柔らかい印象の女性。
空羅寿おばさんだ。
その表情は憂いを帯、苦しそうだ。
強い想いを感じる。
羅刹と元気おじさんに対する罪悪感。
―――……そう。
私には、うしろめたさがあった。
私は空羅寿と言う人間としての寿命を越えて生き長らえて来た。
それは、多くの“命の灯火”を奪っての、犠牲からなる人生。
幸せだと思えば思う程に私を苦しめた。
だけど、これは私の問題。私は頑なにそう思っていた。
元気との子どもを身籠ったと判った時、すぐに感じた。
この子らは、“鬼の子ども”だと。
そして、深い魂の部分で、私の弟と妹の生まれ変わりだと解る。
だから、余計にどんな事があろうと無事にこの世に産み落とさなければ。
喜ぶべきなのに、素直に喜べず、その想いが私から笑顔を奪い取った。
私は、自分の事ばかりを優先した。
私の命は私だけのものだと、自分勝手な解釈をして、後の家族を苦しめる結果に。
元気に相談せず、ギリギリまで隠し通した。
だけど、ただの能力者である私の身では、育つ子どもらの鬼気を抑える事は難しく、見付かってしまった。
彼は喜んだ。
それと同時に絶望もした。
私の命に関わると瞬時に理解したから。
二人の愛の結晶は、私達の未来を奪う者に他ならなかった。
そして、見ないふりをしていた事実が、私にのし掛かる。
半ば無理矢理延ばしていた寿命。
他者から奪った“命の灯火”で生き長らえていた私の“現身”はもう既に限界が来ていて、そんな体で“鬼の子”を育てるのは無謀な事だった。
それでも、確かに宿ったこの命を、私は護りたかった。
元気の言う通り、鬼と成って居たなら或いは……けれど、それは私の“罪”に背を向けてしまう行為だと思っていた。
私は私“前世”を許せずに居たから。
羅刹を失ったのは母である私の責任。
羅刹が不幸になったのも、
羅刹が私にした事……“命の灯火”を私に与えた事も。
全ては私の罪。
母“前世”である私と背中合わせの様に、女の部分“現世”の私は元気を愛していた。
けれど、女の私よりも、母性の方が先に立ち、羅刹が、そして、宿した命が大切だった。
私“現世”は、私“前世”の想いを優先し、元気を元気で無くした。
朱色の悪鬼。
死してその罪に気付いた。
けれど、魂の存在となった私には何も出来なくて……。
私が引き起こした元気への罪を、羅刹がそのまま背負い込んでしまった。
元気が“朱色の鬼”に変化し始めた時、羅刹が“鬼化”し、彼をせき止めた。
止める力を欲して、自ら鬼化した。
鬼の事“前世”を知らない筈の羅刹が、鬼に成った。
その姿を見て、唐突に理解した。
羅刹の中に隠れている“想い”を、魂の存在と成った私には視えた。
羅刹は、元気を愛していると。
羅刹は父親としてではなく、女性として元気を愛している。
けれど、元気には私が居た。
私の存在が羅刹の切ない想いを封じていた。
もしかしたら、私が生きていたならそれは自然に消滅したかもしれない。
けれど、私は、死んでしまった。
前世、過去に固執して、現世、現在から目を背け……家族を崩壊させた。
愛しい子どもら。
前世の娘、羅刹。
現世の子、双子の結歌、結愛。
それは手放せない宝。
元気は私の大切な男性。
双子を身籠ってから現在まで、元気を見失ったままでいる。
双子はそれを理解している。
双子と私は魂で繋がっていて……私をこの世に繋ぐ道標。
私は、私の業を払拭する為に現世に残らなければならなかった。
現状は変わらないまま。
時間だけが過ぎて行く。
そして、貴方が現れた。
貴方は忘れているかもしれない。
元気にとって貴方は特別。
元気と、羅刹、二人にとって貴方は救い。
私は祈る事しか出来ず……、家族の枷になっている。或いは“呪い”に。
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