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鬼の事情
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しおりを挟む自分を“呪い”と言う空羅寿おばさん。
何故?
そうまで自分を追い詰めるの?
それが聞こえたのか、空羅寿おばさんは小さく笑って霧に変化し消えた。
視た事を振り返る。
前世、それは不幸な人生だった。
子どもを不幸にしたから、現世でもそれが譲れない想いを生んだ。
自分は幸せになってはいけない。
その想いが鬼に成る事を拒んだ。
双子をひた隠したのも、前世の想いが、子どもを護りたい想いが強く現れたから。
父親から子どもを護りたかった。
羅刹と空羅寿おばさんの前世はその父親と夫からなった不幸。
空羅寿おばさんは元気おじさんをココロから愛していた。
けれど、絡んだ前世がそれを歪めた。
“愛”の癒しよりも“罪”の意識からくる罰が魂を蝕んだ。
その結果が死―――……。
もしかしたら無意識に解放されると思っていたのかもしれない。
解放されるどころか、更に罰を受ける結果となった。
それを因縁と言うのかもしれない。
罪の意識は強く魂を蝕む毒だ。
それは元気おじさんにも言える事。
忘れているかもしれない。
そう空羅寿おばさんは言った。
元気おじさんにとって俺は特別だと。
その言葉に重なるのは、元気おじさんから視た光景。
夕陽色の髪をした男の人。
巫女の母親と赤い鬼神の父親を持つ……名前を宗寿。
夕陽色の髪は、そのまま元気おじさんを思い起こさせる。
だけど、彼はおじさんとは違う。
違うけど、魂は絡んでる。
複雑に、
けれど、それは身近に。
とても、
身近な―――……。
―――……
突然、赤い月が頭に浮かび、
目前の景色が変わる。
暗い夜。
夕陽色の長髪は風任せに靡かせて、空を仰ぐ。
いつもの様に、産みの親の眠る山を見遣る。
山の横には赤い月。
赤い月を人は恐れ、不吉とされている。
それは違うと私は解っていた。
ふと、視線を感じ背後を振り向くと、そこに佇む一人の少年が居た。
青く光る黒髪に額に掲げた白い二本角。
誰?
瞬きの間に少年は消えていた。
けれど、
その姿を私は知っている。
そう。
“千里眼”は応えたのだ。
私の未来の行く末を……。
―――……
突如、景色は反転する。
暗い空に浮かぶのは、白い満月。
ザワザワと騒ぐ風音は俺の髪を撫で付ける。
そして、握る両手の先に無表情のおじさんが居た。
「何が……視えた?」
ここは現実の世界。
羅刹島。
我に返る。
元気おじさんが俺を見て訊いた。
おじさんには視えなくて、俺だけが視た真実があると気付いた。
それがおじさんの瞳に視えたから。
瞬間、ココロに蓋が閉まるのを感じた。
視せられない真実、空羅寿おばさんの事。
俺のココロが閉じたのが判って驚いた表情を浮かべた。
「何を視た?」
再度訊かれ、恐らくは自分の前世で在る者の名前を口にする。
「宗寿」
弾かれた様に手を放され、同時に動揺するおじさんのココロに隙が出来た。
黒髪の少女の姿。
あぁ、そうか。
残酷で愛おしい真実が解る。
宗寿の母親はまだ若い少女の巫女だった。
空羅寿おばさんの謎の言葉。
貴方は忘れているかもしれない。
元気にとって貴方は特別。
その意味は、前世の関わり。
元気おじさんは、前世の母親。
そして、羅刹の俺に対する執着の理由。
元気おじさんと俺の魂が近いから。
おじさんの代わり。
羅刹は、命を掛けて元気おじさんを救った。
それは愛してるからに他ならない。
そんなの、勝てるわけがない。
「失恋かよ」
無意識に口にした事で自分の気持ちに気付いた。
やっと気付いた。
俺はずっと年上の従姉妹で在る羅刹を好きだったんだ。
自覚した途端、失恋した。
「桃太郎……」
元気おじさんの不安気な声。
それは前世の母親の不安そのものを表していた。
人が抱える想いは他人には計り知れない。
「俺は、幸せだったのだと思う。」
実際に嫌な思いなど浮かんでも来ない。
浮かんで来るのは羨ましさ。
愛する人を持てた母親を羨ましいと思っていた。
それは何故か?
宗寿は、他者を愛する事を知らずに生きたから。
身内への愛は有った。
けれど、それだけだ。
生涯、愛する誰かを見付けられなかった。
「宗寿は、幸せだった。愛されて育った。だけど、愛する事を知らなかった」
だから、今の元気おじさんをも“宗寿”は羨んでる。
自分を見失う程に愛する人が居た。
そして、見返りなく、体当たりの愛でおじさんを救った羅刹が居る。
それが、どんなに恵まれているか。
きゅうっ と、胸が締め付けられる。
悪鬼に成るなんて、我が儘な事だ。
我が儘な……。
「俺は、お前を見捨てた。空羅寿を殺し、羅刹を……苦しめている。
そして、双子を無視している」
双子、故意に。居て居ない存在にしている。
なのに名前を呼んで、まるで使役者の様に振る舞い、親として双子を愛する事を拒んでいる。
それを全て、“悪鬼”のせいにして。
それは、我が儘でしかない。
「元気おじさん。貴方は逃げているだけだ」
自分の冷静さに驚く。
俺は今、自分の前世を知った。
なのに、ココロは穏やかだ。
あれだけ悩んでいた事柄も、全ては自分で選んだ道筋だった。
母さんの元に誕生したのは、母さんが、育ての親だったから。
鬼に成る事を選んだのも、それは前世から望んで居たから。
それが、自分のルーツだから。
人間で在っては強すぎる能力は、周囲の人間をダメにする。
それを目にした者はひれ伏すか、手に入れようと足掻く。
戦いが起こる。
血を流し、多くが死んで行った。
隠す能力が欲しかった。
垂れ流れる力を止める能力が。
「桃太郎……何を考えている?」
俺はココロに蓋をした。
それは解れば不思議と簡単で。おじさんに覗かせるつもりはなかった。
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