鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼の事情

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「元気おじさん。このままではいけない」

こちらを見るおじさんの瞳が黄金と赤の斑に輝くと、人間らしい表情が消えた。
 
「このままが俺には心地好いんだ」
「羅刹と結歌と結愛を犠牲にする事が?」
「犠牲? 違うね。これは結果だ」
 
結果。
    
空羅寿おばさんを生きている者達に罰を与えている。自分を含め、家族全員に。
 
「それは自己満足だ」
 
解っていて目を反らしている。
一時の憤怒で血を濁し、子どもらに当たり散らして……それは無言で、だが。無言が一番恐ろしい。
 
「“自己満足”?」
 
鼻で笑ったおじさんが、俺の胸ぐらを掴んだ。
 
「何が解る? お前に何が……」
「解らないよ」

誰にも他人の気持ちは解らない。
例えココロが読めたとしても、ただそれだけだ。
 
おじさんの手を自分の掌でそっと包み込む。
 
「愛する事に答えなんてないんだから」
 
愛される事も然り。
おじさんの怒れる手は電気を帯びたみたいにピリピリとしていた。
 
「何をするつもりだ」

元気おじさんの赤く濡れた瞳を見つめる。
「“朱色の血”を抜くんだよ」
どうすれば良いのか知らない。
だけど、何故か上手く行く確信はあった。
触れた掌から雷力を流す。
予想通り、おじさんは抵抗する素振りを見せた。
だけど、ココロの奥底では解放されたがっていたから逃げないのも解っていた。
 
掌から流れる雷力は、おじさんの血流を見付けた。
俺の血を雷力に乗せて、元気おじさんに注ぐと同時に“朱色の血”に変化した血のみを押し出す。
それはおじさんの両目から流れ出て、丸い赤い血珠に変化し足元に零れ落ちた。
       
蛇達が口にした
自体に毒は無い。
ただ、それを持つ者のココロ持ちで変化するんだ。
 
「俺は……幸せになんかなれない」
言いながら膝から崩れ落ちる。
「一番、幸せになってはいけないんだ」
俯いたおじさんの表情は伺い知れない。
 
「だけど、空羅寿おばさんはそうは思ってない……幸せにならないと、成仏出来ない」
木の根元の墓石を指差す。
「空羅寿が、居るのか?」
上向いたおじさんの両眼は黄金色に輝いていた。
その瞳には濁りは無く、輝きを取り戻した様に見えた。
 
「元気おじさんは羅刹の事、どう想ってる?」
無意識に訊いていた。
訊いて、だけど、少しの後悔で胸がざわつく。
落ち着く為に、空を仰いで深呼吸する。
 
  
仰ぎ見た空は白みがかり、夜が明け様としていた。月は太陽光に隠される寸前。
月は肉眼では見えなくなったけれど、ちゃんと空には存在している。
 
空羅寿おばさんも、多分そう言った存在に成ったんだ。
 
「羅刹?」
おじさんが訊き返す。
「羅刹は、元気おじさんの事が好きなんだよ。本人は自覚してないけど」
俺の口から言っちゃダメだったかもしれない。なのに、嫉妬心から言ってしまった。 
「……俺は」
答えは知りたくなくて、踵を返す。
 
「もう“朱色の鬼”には成らないで」
何度でも羅刹は助け様とする。
その危うさは想像出来る。

羅刹も、羅刹こそ、全てを自分のせいだと思っている。
“千里眼”は良くも悪くも視せつける。
羅刹は自分の前世を忘れている。忘れてると言うか“封印”されてるって言った方がしっくりくる。
なのに、罪悪感とか、負の感情を感覚として覚えてる。
 
「俺は……幸せになれない。だけど、羅刹には幸せになって欲しい」
 
背中越しに聞こえた声は、おじさんの本音。
元気おじさんも常に罪の意識を胸の奥底に抱えていた。
それは、前世の母親である後悔と女性の満足感。親としての罪の意識はあるけれど、女性としては満ち足りた人生だったと。
だから余計に空羅寿おばさんの死に様が憐れでならず、幸福感を与えられなかった自分に腹を立てている。

不幸のままで死なせてしまったと……。
そんなの、
「幸せなんて、人それぞれだ。俺は“宗寿”は確かに幸せな人生だったけど、足りないものがあったから転生して来たんだし」
 
愛する人を見付けたい。
ただそれだけの為に。
 
人は貪欲に何かを求めて足掻いてる。
何を求めているのか理解しているだけ、俺はましなのかもしれない。
 
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