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鬼のゆくえ
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しおりを挟む“丸”は、不二丸と言いにくかったのだと当時は解釈していた。保育園の時に桃から呼ばれてたあだ名みたいなもの。
けど、今なら納得。
元々の俺の名前だったんだ。
「あぁ。腹へって死にそうだよ! 蛇どもにも脅されたしさ!」
俺は差し出されたままだった桃の手を取り、勢いよく立ち上がると、その反動のままに桃の肩を抱くと、先にさっさと部屋を出た羅刹の後を二人で追った。
そして、台所。
の、皿の上。
の、物体は何だろう?
羅刹と双子は黙々と食べてる。
俺と桃が呆然とする中、申し訳なさそうに頭を下げる元気さん。
「ごめん。作るの久しぶり過ぎてさ……何だか判らないものか出来たよ」
って、謝られてもっ。
グーって腹が鳴るから覚悟して箸を取る。
黒くて茶色い物体を口に運んで噛む。
「ん?」
あれ? 普通に美味しいし。
安心したところで、食欲が帰ってくる。
それからは怒濤の様に食べ散らかす俺が居た。
食べるって幸せ。
俺の中の“丸”が頷いた気がした。
前世と今世って、微妙にリンクしてるんだな。
ココロの中で呟いて、一人納得する。
俺のこの世に生まれた意味は桃太郎と出逢う為。
能力の開花は桃太郎の役に立つ為に必須だった。
俺の中で生まれた想いは、生まれる前から温めていた想い。
俺は桃太郎の傍に居られて、本当に、幸せなんだ!
今度は絶対に諦めない!
何があっても桃を護りぬき、幸せにするんだ。
▲
羅刹島とは別の場所、桃太郎たちが朝食を食べている時間帯。
とあるマンションの一室から、事は始まる。
▼
† 君子side。
「何?」
母さんが機嫌が良い時は、大抵があの人がらみ。
「だから、今日は父さんが来る日だからね。君子も居てよ」
ココロからの笑顔が痛々しい。
だって、絶対に裏切られるに決まってるのに。
「嫌よ」
本音を口にしても、母さんに届かない。
「久しぶりだもの。綺麗にしておかなくっちゃ!」
母の頭の中は父に支配されている。
私は知ってるもの。
私は父の愛人の子ども。
母はそれを認めないけど、母は愛人にすぎない。
私は聞いていたの。
幼い頃、父親の口から溢れた言葉を。
「あの子は君の子どもだ。私は血の繋がりはあるだろうが、あの子と関わるつもりはないよ?」
それが、私の名前の由来だとピンと来た。
母も気付いてはいたのだろうけど、知らない振りをしていたのだと思う。
二人が愛し合って生まれた子ども。
それは形在る愛の証みたいなもの。
母は永遠を欲しがって居た。
そんなものは幻でしかないのに。
そう言えば、あのチャラ男は自分の気持ちにちゃんと気付けたのかしら?
綺麗な顔をした同級生。
犬飼 不二丸。
私を盾にして自分の気持ちを誤魔かしていた男。
私を好きだと公言し、まとわり着いて来た男。
実際は同級生の男子に恋していた。
トゥルルル……
と、電話の音に我に帰る。
またね。
きっと来れないって連絡。
「―――……嫌よ! 来るって、そう言ったじゃない!」
毎回繰り返されるやり取り。
父は、ここ一年程、顔を見せない。
約束しておきながら、当日にドタキャン。
母は哀れだ。
浮上させられ落とされる。
廊下を覗くと、受話器を握りしめたまま、項垂れていた。
母はこの頃、前にもまして鬱状態が酷く、父からの電話の後は放心状態になる。
じっと空を見てブツブツ言い始め、カリカリと手首の“傷痕”を掻き始めた。
見てられない。
台所に戻り、水道水をコップに注ぐと一息に飲み下す。
愛なんて幻。
私の両親を見ていたらそうとしか思えない。
だから余計に気になるのはココロに秘めた想いを抱いていた犬飼の事。
相手は男。これも面白いと思う。同性に惹かれても、そこから何が生まれるの?
“愛の証”が生まれない関係なんて、私の両親より居たたまれない。
ドサッ て、音が耳につく。
廊下からだ。母が気絶したのだと理解して、彼女をベットへ移動させる為、様子を見に行く。
半ば習慣になっている母と私の関係も、親子としては壊れているのかも知れない。
倒れた母を見下ろす。
美しい人だと娘ながらに思う。
18の若さで私を生んだ母は、未だに幼さが垣間見える。
何も知らない少女を、騙した形で愛人にした父は、娘である私からしても酷い男だと思う。
美しいだけでは満足出来なくなった父は、子どもの様な母を煩わしく思い、気持ちも離れて行った。
母はそんな思いなど露とも読み取れず、ただ、ただ、父の愛情を信じ、ワガママを言い続けた。
私と言う“愛の結晶”が存在しているのだから。
“家族”なんだから。
“愛人”なんて、誰が名付けたのか、愛する人、何て、皮肉にも程がある。
「私の存在が永遠を縫い留める枷になり得る筈がないのよ」
声に出して言ってみて、まるで詩人だと苦笑する。
母は父を繋ぎ留めるには、私が必要不可欠だと考えていた。
私は母に生き写しだと言われた事がある。
だけど、多分、性格は父に似ている。
私にとっても母は重荷になりつつあった。
高校卒業後、就職を決めた。
小さな会社の事務員で、準社員の立場。
自立出来るまでにお金を貯めたら、さっさと家を出て行く予定。
今日は日曜日で、仕事を始めてから一週間が過ぎていた。
明日から新しい週が始まる。
だけど、母は新しい事が始まらない毎日を繰り返し過ごしてる。
ひたすら毎日を愛する男の事ばかりを考えて……。
「まるで、籠の鳥」
籠の鳥。
籠の中の世界しか知らない小鳥。
母にぴったりの表現だと思った。
私も、似たようなものだけれど、この人よりはまだまし。
生活は、何を仕事にしているのか判らない父が全てを出してくれていた。
囲われものの母は、父と出逢ってから外の世界を知らない。
母の両親とか、兄弟とか、そんな話も聞いた事がない。
頼れるのは父のみ。
だから母は大人として成長しなかった。
殆んどを放って置かれた私達母子は、小さな籠の中で、おままごとの様に暮らして来た。
どんな親でも、ここまで育ててくれたのは母で経済的に養ってくれたのは父だ。
母の小さな体を抱き起こすと、片腕を首に回し、体は小脇に抱えて母の寝室へ向かう。
そこにはダブルベッドが可愛らしいフリルのシーツを掛けられ陣取っていた。
上掛けをはだけると、ゆっくりと力ない母を横たえる。
ベッドの端に座ると、母の顔を見る。
そして、目線の先にある姿見に映る私の姿。
長い黒髪に眉毛の角度まで、確かに母に似ている私。
それが嫌とは思わないけれど、嬉しくもない。
私は何でここに居るの?
私は何で生まれて来たの?
そんな事思っても考えても、答えなんて出ては来ない。
生きる意味なんて、ただ、生きる為に生活しているだけ。
私はそう。
だけど、この人は?
父と会えなくて窒息しそうになってる母を見て、少しは羨ましくも思う。
犬飼の事も……。
人を好きになるって、どう言う感覚?
~♪
聴き慣れない音楽に意識が戻る。
少し考えて、高校に入ってから与えられた携帯電話だと思い出す。
使う事は殆んどなく、自分の部屋に充電器を差したまま放置されていた。
その画面を見ると、父からの電話。
始めてかけて来た。その事に少しの不安がココロを過る。
止む事のない着信音に半ば諦めて、出る事にした。
「はい」
『……君子か?』
当たり前じゃない。と、口には出さずに頷く。
見える筈無いのにと、一人苦笑する。
『すまない』
「え?」
何を謝られたのか考えて、
「直接母さんに言ってよ」
今日の約束を破った事に対してだと思ったから。
『お前たち二人には、本当にすまない事をした。謝っても謝りきれない。だが、もう限界なんだ』
別れ話?
「そんな事、私に言われても困るだけよ。当人同士で話してちょうだい」
『……すまない』
次の瞬間、プツン。と、電話が切れた。
不思議な事があるものだ。
いつもならこんな連絡を寄越さない。
胸の奥がざわつく。
この予感めいたものは、何だろう?
ピンポーン。
インターホンの音。
いつもなら確認をして鍵を開けるのに、今日は出だしから忙しなく、考える事なく携帯を握りしめたまま玄関の鍵を開けた。
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