鬼を継ぐ者

なぁ恋

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鬼のゆくえ

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「こんにちわ!」
と、顔を覗かせたのは、見知らぬ男性。
驚いてドアを閉めようとするも、足先を踏み込まれ閉める事が出来なかった。
「どなたですか?」
仕方なく訪ねると、
「お父様の代理ですよ」
害の無さそうな笑顔。
「お嬢さんは聞いてたより、綺麗だね。じゃあ、お母さんも期待出来そうだ」
笑顔とは裏腹な辛辣な言葉。
「え?」
「お父様、君たちの為にお金を借りてたんだよ。ざっと、1億円程ね」
 
言葉も出ない。
 
「それでね、お父様、その全てを貴女たちが支払ってくれるって言ったんだよね」
 
それで、謝っていた?
握る手にある携帯がミシリと音を立てた。
 
「そんなお金……」
「なぁに。身一つでどうにでもなりますよ」
 
これは、借りてはいけないところから借りていたの?
そして、全てを私達のせいにして父は逃れ様としている?
 
「父は何をしているの?」
「さあ? ととんずらしたのか、どうしたのか。私らは払って貰える相手が居ればそれでいいのでね」
 
父のは、私達の方ではなかった。
 
「嘘よ」
母の声が背後から聞こえた。
 
「あらら。お母さんかな? ふうん? うん。綺麗だね。二人で毎日頑張れば、二年、いや、一年で完済出来るんじゃないかな?」
 
男の笑顔が歪んで見えた。
私達は父に捨てられたんだ。
 
 
男の言葉を鵜呑みにするなら、私達の生活費は、借金で賄っていた。
最初こそ違ったのかもしれない。
けれど、
男の声が遠くに聞こえる。
 
会社がどうの。
だから借金が……。
 
会社社長であった父の会社が傾き、それでも頑張ってはみたが落ちるところまで堕ちた。と、言ったところだろう。
 
そして究極の選択?
 
自身が支払うか、全てを別宅の“重荷”になっていた私達に被せるか……。
 
だから、すまない。
 
謝ればすむ事?
私達がどうやって返済していくか、判らない筈がない。
男達が来て、私達が逃れる術のない事も解っていた筈。
 
捨てられたのだ。
18になって変な感じだけど、元々捨て置かれたものだけど、こうやって目の前に現実を突きつけられると、何も感じなくなる。
考えられなくなる。
 
目の前の男達は、有無を言わさず笑顔で私達を何処かへ連れ去るのだろう。
そうして私と言う個人は、消えて行くんだ。
 
生きる為に働き始めた私は、始めての給料さえ貰えず、闇に消えて行くんだ。
 
犬飼。
何でだろう?
彼の顔だけが鮮明に思い出せる。
 
彼が、本当に、私だけを見ていてくれたなら……。
こんな結末ではなかったかも知れない。
 
 
男は二人いた。
私達親子を逃がさない為なのだろう。
諦めに似た気持ちがココロを萎えさせ、話してた男が私の肩に手を掛けた。
 
「うわっ??」
男が驚いて私の背後を凝視する。
私の背後に居るのは母だ。
母を思い遣る気持ちが意識を浮上させた。
 
「母さ……」
振り向く前に目の前の男が宙に浮いていた。
男に巻き付く黒いもの。それが男を持ち上げていた。
―――……何?
 
「「私は“籠の鳥”? 違うわよ。ちゃんと外の世界も知っているもの」」
 
ゆっくりと振り向く。
そこには母が居る。
 
「母さん?」
 
そこに在るのは母に在らず。
 
“黒いもの”は、長く伸びた髪。
髪は母の髪。
現実か幻か、判らなくなって来た。
 
「「ねえ、貴方方、私のあの人を知らない?」」
 
声が滲んでる。
何より目立つのは、赤い、真っ赤に染まった両眼。
 
「母さん?!」
「「きみこ。君子。ねえ? お父さんの居場所、判る?」」
 
ただ、恐怖を感じた。
母が、母でない感覚に戸惑う。
 
「「知ってるのよ? お父さんから電話があったんでしょう?」」
 
“籠の鳥”と、呟いた時点で意識があったのね。体の力が抜けて、その場に座り込む。
手に握られたままの携帯が熱く感じる。
この期に及んで思い浮かぶのは犬飼の事。彼の携帯番号。かけたことはないけれど、登録だけはされていた。
 
 
目の前に母の変わり果てた顔が現れる。
辛うじて悲鳴を呑み込んだ。

「「可愛い、可愛い、私の君子」」
 
真っ赤な両眼が私を見つめる。
私の名前を呼ぶ唇は、まるで嘴の様に尖っていた。
 
籠の鳥。
 
鳥。怪鳥。
妖怪の様な姿に変化した母の姿。
 
「「私は、知っていたわよ? 私は、あの人の“愛人”。だけど、私の方が愛されてた。愛サレテタ。あの人は私を“愛してる”って、言ったもの。子どもを生んでくれって。言ったのはあの人。」」
 
嘴は更に尖って行く。
黒髪は長く伸び、男達を捕らえていた。
それが、翼に見える。

「「私は全てを捨て、あの人に着いて来たのに、あの人は……なぁにも捨てなかった」」
 
そう言った母の顔が歪む。
赤い両眼は後ろの男達へと移動する。
 
「「ねえ、貴方方。あの人は私をどう言っていた?」」
「き……綺麗な女だと」
 
恐怖に蒼白になった男は素直に答える。
 
「「それから?」」
「それから?」
「「正直に答えて」」
 
赤い両眼が丸く笑みを作る。
 
「む、娘も綺麗だと」
「「君子は私の“分身”だから……。私の事をどう言っていたの? 答えなさい」」
 
有無を言わせぬ迫力に負けて、男は喋る。

「あいつは綺麗だが、おつむが弱い。だから扱いやすい。好きにするといい。そう言われた!」
 
それは、残酷な現実。
 
 
「「嘘よ! ウソ―――……!!」」
人のものとは思えない甲高い声が耳をつんざく。
 
耳を塞いでも、その声は脳天まで響いて意識が朦朧とする。
恐る恐る振り向くと、言った男は白目を剥いて泡を吹いていた。
 
「「嘘はいけないは。貴方ならちゃんとした答えを貰えるかしら?」」
 
もう一人の男は恐怖に見開いた眼から涙を流していた。そうして必死に頭を振る。
 
「おれは、俺はその場に居なかったから聞いてない! だけど、どこに居るかは判るかも知れない! だから、離してくれ! 確認、確認するから!」
「「嘘は、吐かないでね?」」
 
そう言った母は、ゆっくりと男を離した。
男はモタモタしながら懐に手を入れた。
次の瞬間、爆発音と共に、私の左頬に痛みが走る。
何? 痛みに触れると、指先が濡れた感触。見ると、赤く染まっていた。
 
血?
 
「「嘘を吐くなと言った筈よ」」
 
私からは母の顔が見えない。
だけど、男の見開かれた眼に映る恐怖は、はっきりと見えた。
男は握り締めたピストルを母に向け、ひたすら撃ち込んだ。
当たる音がした。
だけど、弾は弾かれコンクリートの床に落ちた。
ぼんやりと思う。私の頬をあの弾がかすったのかな?
頬を伝う血の生暖かさが、妙に安心出来た。
 
 
私は見ていた。
母は長く尖った嘴を男の口に突っ込み、何かを掴み出した。
ブチリッ と、鈍い音がした。
男は悲鳴を上げた筈。だけど、声は声にならず、口から溢れ出した赤い血は、尋常の量じゃない。
そのまま、スローモーションの様に男は倒れた。
 
「「男って……」」
言いながら、嘴に挟んだ肉片を呑み込んだ。
「「……美味しいわぁ」」
 
床に転がる男は、ピクピクと動いていた。が、やがて静かに動かなくなった。
白目を剥いた男も、多分死んでる。
 
私は、生きてるの?
頬を伝う血が、生きてると実感させた。
 
「「女の子の顔に傷をつけるなんて。何て酷い!」」
 
いつの間にか傍に来ていた母が私の頬を見て、言葉とは裏腹に微笑みを浮かべていた。
母は嘴を開けて、長い舌で私の頬の血を舐めとる。
腹の底から恐怖が沸き上がる。
    
「「あぁ……美味しい……も、美味しいかしら?」」
恍惚とした赤い両眼が光る。
「「君子なら、あの人の居場所、判るんじゃない?」」
言われても、判る筈ない。
だけど、このままでは死んでしまう。
母の手によって、私は殺されてしまう。
その恐怖がココロを締め付けた。
私は、死にたくない。
 
握り締めた携帯が、また熱く熱く、熱を持って来た。
 
私は、まだ、死にたくはない。
それは、本能の目覚め。
 

 


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