河童様

なぁ恋

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二界の壁

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人界と妖界。
二界には見えない壁がある。


視える者には、薄い膜の様で簡単に破れそうに見える。
だが、実際には簡単に破る事の出来ない固い壁であった。


いつから在るのか、
誰が造ったのか。


それは誰にも判らない謎であった。
 



*********
 
 

*優月side* 



大切な話をしていた。
それなのに、朗が笑った顔に見惚れてしまった。

朗が僕の出した小さな声にこちらを見た。
朗はすぐに話に意識が戻ったけど、


何故かな。
笑った顔を見ていたいと思ったんだ。


それを見て居たいから、もっと見たいから。

だから、
朗の両親を助けに行くんだ。






妖気の匂いを辿って探す場所は、近くも遠くもなく、時間が掛かりそうだとクロスが言った。


母さんと父さん、姉ちゃんに探す事を話すと、姉ちゃんが暴れた。

「あんたは。一緒に行って何の助けになるの?! そりゃあ“河童”になるんなら治すとか、治すとか。そんくらいしか出来ないんじゃない?
それで行って何すんのよ??」

ごもっともです。

「私の栄養補給の為だ」

「だ~……れが可愛い弟に手を出す輩と二人きりにさせるもんですか!」

「姉ちゃあん」
目が本気だし。

母さんも父さんもそれ見て笑ってるだけだし。
何にも笑える場面じゃないよ!

「護る。必ず優月は私が護る」

力強く言った朗の、その時の笑顔はとても綺麗だった。
 
  
 
何でかな。
何故僕なのかな?

呼出人だから?
河童の仲間に成るから?



それとも、
ずっと近くに居たのが僕だったから?



“護る”と言われて、嬉しくなった。

でも、護りたいと思ってたのは僕の方。
言われた事で気付かされた。


僕は皆を護りたい。

おばあちゃんがそうした様に、僕にだって出来る筈。

昨夜の父さんの話に寄れば僕達の先祖は“閻魔様”なんだから……って、凄くない?


“閻魔大王”
人間の罪を裁く地獄の大王。

あれ?
人間を裁く?


「元々僕は混血だったって事?」

出かける前に父さんに訊いた。

「そうだよ。閻魔も妖怪みたいなものだからね」

飄々と言う父さんは悪怯れもなく、恐れても居なかった。

「もう遠い血で、それに繋ぐ血は女性にのみ受け継がれるもので、だから僕にはピンと来ないんだけどね」
と、笑って、
「これから大変なのは優星だよ」
と、さらりと言った。
 
 
それを聞いた姉ちゃんは、顔を青くして黙ってしまった。

「大丈夫。優星は今のままで。龍の宝珠にも負けない強さがあるんだからね」

脅しと励ましを交互にした父さんは、何だか満足げだった。

「私も行く!」

今度は顔を真っ赤にした姉ちゃんが宣言した。

「え~??」
嫌がってみるがそんなの聞く耳持たないのが姉ちゃんだ。

「なら、お前を護ってくれる者を連れて来るがいい」

簡単にオッケーしちゃった朗に溜め息を吐く。

「響夜くん? うん。良いかも♪ 父さん。右くん貸して」

「もちろんいいとも」
父さんも軽過ぎ。
こんなとこが二人は似てるって改めて思った。

右くんは、ちっちゃな男の子の姿をしてる母さんの座敷わらし時代の分身。
初めて姿見た時は、その可愛さに悲鳴を上げた姉ちゃんの気持ちが解った気がした。
僕の手の平くらいの大きさなんだよ。

ちなみに左くんは長い髪の女の子の姿をしてる。


「大丈夫かな?」
「ケガをしたなら治してやる。
二人にとって“龍の宝珠”を理解出来る良い機会かもしれない」
 
 
程なくして右くんと入れ代わりに先輩が現れた。

「響夜くん!」
呼ぶや否や姉ちゃんが飛び付いた。

「優星」
それを嬉しそうに抱き留めた先輩が、今までに見た事ない笑顔を見せた。

驚いた。

人を好きになるとこんなに変わるんだ。
て、先輩の事あんまり知らないけどさ。

二人をじっと見てたら、先輩と目が合った。
「詳細は右から訊いた。
留守を右が預かってくれるから、力を貸そう」

「ありがとう!」
「すまぬ」

僕と朗が同時にお礼を言うと、気が合うんだな。と先輩が言った。

それを聞いた朗が笑顔になるのを見て、僕も自然と笑ってた。

「緊張感がないわね」
母さんが苦笑して手渡してくれた大きな包み。

お弁当?

「一応ね」
「良いわよ。お腹空けば帰って来るから」

横から姉ちゃんが包みを取り母さんに返した。

「判った。
皆気を付けてね」

心配そうに眉を寄せた母さんの肩を抱いた父さんが、
「無理は禁物だ。
危険を感じたらすぐに引き返しなさい」

真面目な顔をして言った。

「うん! じゃ、言って来ます!」

姉ちゃんと僕は母さん達に手を振って、僕達の前を朗と先輩が歩き、先頭にクロスが進む。

この時はまだ、ピクニック気分だったんだ。

夢で視た怖さなんて本物の恐怖に比べたら可愛いものだって、僕は知らないで居たから。
 
  
 
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