49 / 118
巡る世界
2
しおりを挟む「かあさんっ!!」
葵の叫び。
触れた箇所から葵の記憶が流れて来る。
満月の夜、鬼に誘拐された。
何も理解してない幼い葵。身体は成長を果たしていたが、彼の世界は母親との優しい時間だけだった。
それが鬼の世界へ連れ去られされた事は、彼の父親達の無体な仕打ち。
能力を目覚めさせる為に痛め付けられ、生きたい本能で鬼に成り、変化した途端、壁の前まで追い詰められ、命を潰されそうになった。
ずっと彼を支えて居たのは母親の愛。
恋しいと思う心が信じられない力を発揮した。
鬼を数体喰い殺し、壁を擦り抜け逃げた。
躰はボロボロで、山から転げ落ちる。
その先、山の麓に在る存在に気付いた。
河童の優しい匂い。
それは母親に似た匂い。
河童は赤ん坊を産み落とした直後で、母乳の匂いをさせていたから。
人間で在る葵は傷付ける気はなかった。
だが、妖怪で在る葵は、河童の価値に気付いた。
その本能が妙を傷付けた。
その飛び散る血液が痛みを和らげた。
後はもう、生きたい気持ちだけが葵を支配する。
人間で在る部分が泣き叫ぶ。
―――怖いよ。痛いよ。助けて、母さん!
妖怪で在る本能が怒号する。
―――生きたい。喰いたい。憎い。
闇に呑み込まれそうになった時、
「大丈夫よ。助けてあげる」
冷たい手の平が優しく頬を撫でた。
母親の優しさを感じ、恋しさに涙が流れた。
「さあ、貴方のお母さんの所へ帰りましょう」
忘れそうになっていた母の匂いが鼻につく。
そうして葵は家路に着いた。
辛い記憶に押し潰されそうになってる葵。
今まで何とか持ち堪えてた。そんな気持ちも引っ括めて朗の母さんはこの子を護ってた。
それが崩れた。
身体の傷は治せても、心に刻まれた恐怖は簡単に治せない。
どうすれば良い?
心が壊れる前にどうにかしないと!
不意に暖かな風が僕を包み込んだ。
あ……おばあちゃんだ。
思った瞬間、姉ちゃんが言った。
「“転生の術”……」
姉ちゃんが手にしてた“閻魔帖”なる古書が光り、パラパラと捲れるページ。
そしてあるページでピタリと止まった。
「ゆづ。閻魔の能力を」
姉ちゃんの言った言葉の不思議に、それでもそれが当たり前の様に感じてる自分が居て、戸惑う事なく、風に運ばれて来たその“閻魔帖”を手に取る。
温かい想いが手の平から僕の身体全身を包み、自分の内から溢れだす力が目覚めさせる。
河童に成った自分に、それよりもさらに奥深くに有った血の流れの中に確かに息づく能力。
ページに書かれた言葉を口にする。
「転生の術」
今一度生まれ変わる。
これは母さんが人間に生まれ変わった時に使われた術だ。
葵の場合は、鬼から人間に戻し、さらに失われた人間の時間の流れへ戻すと言う事。
巡る。
巡る。
能力の欠片。
巡る。
巡る。
血の記憶。
赤い髪の女性。混血。
黒髪の男性。人間。
そこから始まった。
ただ、染み渡る。
僕の身体に、
僕の精神の深い場所に。
手の平に集まる熱が、
葵に作用する。
葵の身体が宙に浮いて、
「母……さん」
呟きながら目を瞑る。
身体が光を発し、変化する。
小さな赤ん坊の姿に。
怖い事は忘れよう。
覚えてて良いのはお母さんの匂いと優しさ。
宙から僕の腕の中に収まると、
「ホギャ―――」
産声を上げて母を呼ぶ。
それは純粋な叫び。
力一杯に泣き叫ぶ。
それは生きている証拠。
命は巡る。
*鈴鳴side*
目の前で起こった事に息も吐けなかった。
あの古書が本棚からガラス戸を擦り抜けて飛び出して来た。
そして、水先の娘の手に収まった時、奇跡の様に光りだした。
まるで意志がある様に、ページが捲れる。
私が見つけた時は無地のタイトルもないシンプルな表紙のただの古い古書。
それが見る間に赤く色付く。
薄く文字が現れて、表紙に“閻魔帖”のタイトルがしっかりとした字体で刻まれた。
何故か納得出来た。
そして期待に胸が震える。
葵は助かるかもしれない。
そうして、最後の二人が部屋を飛び出した。
しばらくすると、叫び声が聞こえて来た。
葵の苦し気な唸り声。
あの子が助かるなら、私は何でもする。
私の可愛い坊や。
あの子の痛みも苦しみも、私が引き受けるから。
だから!
助けてやって。
「ホギャ―――!!」
高い産声が聞こえた。
瞬時にその声が葵のものだと判った。
何故そう思ったのか判らない。
それでも葵だと判った。
足は自然と地下室へ向かってた。
ドアを開けると暗い筈の地下室が明るく光っている。あの子の“鬼火”よりも明るい光り。
葵が居る場所へ走って階段を降りた。
そこに見えたものは、奇跡。
「ホギャァ……」
水先の息子の腕の中、産声をあげる赤子。
「葵……」
傍に寄って、その子を見る。
力一杯泣く産まれたばかりの赤子。
私の葵!
涙が溢れる。
夢にまで見た私の赤ちゃん。
私に葵を差し出す。
震える手に取ると、ずっしりとした確かな重みが、温かみが、これは現実だと解らせた。
泣き声は私の身体を変化させる。
双方の乳房が熱を持ち、あふれ出る。
葵の唇に乳首を当てると、むしゃぶりついて来た。
力強く母乳を吸う。
葵。葵!
「……ありがとう」
感謝で、胸が一杯になる。
「どう致しまして!」
水先の姉弟が声を揃えて笑顔で言った。
0
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
孤独な蝶は仮面を被る
緋影 ナヅキ
BL
とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。
全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。
さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。
彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。
あの日、例の不思議な転入生が来るまでは…
ーーーーーーーーー
作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。
学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。
所々シリアス&コメディ(?)風味有り
*表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい
*多少内容を修正しました。2023/07/05
*お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25
*エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる