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黄泉のイザナミ
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しおりを挟む同調と共に視えたもの。
二つ結びの黒い長髪の娘。
頭のの血を持つ男。
それは瞬く間の事。
それらを“土の焔”が包み、あっと言う間に気配も消えた。
ほんの一瞬目覚めた頭のも強い土の焔にあてられて、今一度眠りについた。
“土の焔”
間違いない。右のの力。
同時に感じた私の気配。
私の気配。
私。イザナミの……私の無くしたものだと、解った。
どうしても、人界へ行かなければならない。
あれは、私のものだ。
あれが戻れば、イザナギは私を愛してくれる。
細い糸を辿り、今一度頭のと同調する。
頭のの頭上に、人界への入り口が視えた。
それは水溜まり。中心に浮かぶ人影に目を細めた。
腐りかけた女。
頭のが呪した女。
どこからか囁きが聞こえた。
これを使えばいいのだ。
と。
*黄泉のイザナギside*
私の囁きを訊いて、
イザナミが動く。
雷らの瞳からイザナミの考えが伝わり来て、私の思うところと……芽生えた願いを叶えんと腰を上げた。
芽生えた願い。
一度、冥界側からイザナミの気配を感じ、信じられぬ思いで餓鬼を放った。
だが、忌々しい閻魔の者に焼き払われ、それでも“イザナミ”を諦め切れずに雷二体をイザナミから引き離し向かわせた。
イザナミの気配を、匂いを一番解って居る者ならば捕える事も可能だろうと……。
だが、雷はどちらもいつまで経っても戻る事はなく、“イザナミ”への想いは焦がれて、私の手に在るイザナミの“抜け殻”では満足出来なくなった。
そこに居るだけで華やぐ輝く女神イザナミ。
完全なるイザナミ。
私では行けない人界へ、黄泉のイザナミよ、己を取り戻しに行け。
そうして私の元に帰っておいで。
イザナミの全ては私のもの。
私、イザナギのもの。
私はイザナギだ。
イザナミは“同化”すれば完全なる“イザナミ”に成る。
但し、大いなる賭けでもあった。
黄泉のイザナミは私を愛して止まない。
だが、産女神イザナミは私を受け入れるだろうか?
“同化”はどちらに転ぶか判らない。
だが、私が求める彼の女は、やはり“イザナミ”唯一人。
イザナミは頭上を見上げ瞳を閉じ、大雷と同調する。
そうする事で己が魂のみを人界へ引き上げて、腐りかけた女の躰に入り込むのだ。
───イザナミガ私カラ逃ゲタ時ノ方法。
思い出し、キリキリと胸が痛んだ。
イザナミが小さく声を上げ、その躰が力を無くし冷たい土に寝そべった。
残った子どもらはその空洞となった躰にまとわりつき、やがて体内に入り込んだ。
イザナミの躰を維持する為に。
そうして開かれた斑に色々変わる不思議な色合いの瞳が私を見た。
「「母は……どこに……行った……の?」」
五つの声色が重なって同じ質問をする。
「兄弟を連れて帰って来るよ。それまで大人しく私と留守番しておいで」
ただ、待つだけしか出来ないのだ。
† 龍羽神社
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
*龍羽の母side*
苦しい。
痛い。
悔しい。
辛い。
切ない。
自分が崩れて行く。
その痛みと、恐怖と……。
このいつまで続くか判らない責め苦。
どれくらいの時間が経ったのか判らない。
記憶は混濁していて、自分が誰なのかさえ判らなくなっていた。
ただ、解って居たのは時折傍に在る人の気配に癒されて居た事。
その人が傍に居る時は、私は安堵し静かに眠って居られた。
「「そなたの名は?」」
突如聞こえて来た声に驚く。
久し振りに人の声を聞いた気がする。
「「そなたの、名は?」」
その声は絶対的力を持って、私の中に沈んで居た記憶に触れる。
私の名前。
名前は……、
「───響夜、玲子」
固まった唇が開き、渇いた喉が声を出した。
張り付いていた舌が無理矢理引き剥がされて、痛みに悲鳴を上げる。
「「れいこぉ……“玲子”その痛みを和らげてやろう」」
───私を呼ぶのは誰?
「「我の名はイザナミ。“玲子”そなたは我を受け入れるだけでいい」」
───そうすれば痛みがなくなる?
「「痛みも、苦痛も、そなたを苦しめるもの全てから解放される」」
───解放……。
「「“玲子”……我の名を呼べ」」
───名前?
「「イザナミ」」
───イザナミ。
その名を呼んだ途端に、身体が熱くなった。
躰が在る感覚。
苦しみや痛みが取り去られ、その解放感は身体を軽くし、喜びが心を満たす。
大きく息を吸う。
空気が肺に満たされ、生まれ変わった様な感覚を覚えた。
ゆっくりと息を吐き出すと、霞んでいた頭がはっきりとして来た。
両手足を伸ばし、骨の軋む音さえ嬉しくて、ゆっくりと身を起こす。
体にまとわりつく水が転がる様に流れ落ち、水面が揺れる。
水に浸かったままの下半身と上半身の温度差に体が震えた。
私は生きている。
私は……、
私は何をして居たの?
どうしてこんな水? 池の中に居るのかしら?
周りを見渡すと、暗い室内だと判る。
そして背後に視線を向け、その恐怖に息を呑む。
目に飛び込んで来たのは、むき出しの岩壁に鎮座された、光り輝く大きな丸い宝珠。
それは私の恐怖の対象。
徐々に思い出す記憶。
この珠に触れて、私は壊れた。
一瞬にして世界が、人生が変わった。
あの恐怖。
あの痛み。
あの苦しみ。
悲鳴を上げる。
心からの叫び。
思い出す。
白い龍に私は───。
私。
私は響夜家に生まれた。
女が生まれて一族は驚いた。
何故なら判る限りの先祖の中に女児は生まれた事がなかったから。
龍の宝珠と言われる大きな水晶を祭った龍羽神社は、その始まりに響夜の娘を生け贄に捧げた。
それから娘は生まれて来なくなったと言う逸話が我が家には代々伝わっていた。
嘘みたいな話を子守唄に私は育った。
そして、私が18になった年に戦が始まり、この神社は龍の加護がある。だからか、そんな時でも何不自由する事なく生活出来た。
けれど、村人は違った。 飢えて、荒んで行った。
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