河童様

なぁ恋

文字の大きさ
81 / 118
黄泉のイザナミ

しおりを挟む
 
*黄泉のイザナギside*
 

器だけでも満足だった。

微量の魂は器に留まり、彼女は私のものとなった。

彼女はイザナミ。
私はイザナギ。


私は、黄泉のイザナギ。
 
 
  
† 黄泉の国。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

イザナミ。
目の前に居るイザナミは、私に微笑み、媚びる。


───所詮ハ紛イ物。

私は何を求めていた?
渇いた心が、

───心ガ有ルトスレバ。

求めていたのは?

───恋イ焦ガレテ……

イザナミ。
美しい女性。
神々しく光り輝いていた彼の女。

イザナミ。
彼女が私の傍に居れば、
この暗い世界が明るく照らされ、満たされた心は優しく歌う。

───歌トワナンダ?

黄泉の国に彼女を落とし、手に入れようとした。

だが、私を見る事は一度とて皆無。
だから、彼女に苦痛を与えた。
私の傍から離れては居られぬ様に施した呪い。

神で在ったイザナミを、他の死者と同等に腐る躰を与えた。

それでも、それが解って居ながらイザナミは、私の傍から離れて引き籠もる。

それが、イザナギがこの国に足を踏み入れ迎えに来た。途端にイザナミが生き生きとし、見向きもしなかった私に頭を下げに来た。


憎い。
憎い。

───憎悪ガ蝕ム。
 
 
 
イザナギを想い、破顔する。
その輝く笑顔に嫉妬する。

───私ニ向ケル顔ワ何ノ感情モ映サナイノニ。


銅鏡を用意する。
その醜い姿をそれ以上に映し出す鏡。

イザナギを呪う言葉を吐くイザナミの幻……。

それは予想以上にうまくいった。

───アノ男ワ振リ向ク事無ク来タ道ヲ引キ返シテ行ッタ。


絶望に打ち拉がれたイザナミはその背中を追い掛ける。
だが、イザナギの手によって閉ざされた岩戸は堅く、イザナミには開ける事が出来なかった。
イザナミは岩戸の前で長く泣き伏せる。

イザナギへの愛しい気持ち。
憎しみ。後悔。

そういった、もろもろの負の感情を曝け出し、暗い闇に呑み込まれて行く。


イザナミの躰に生まれ出た雷達がその様子をその瞳に映す。
それは直接私の頭に流れ来る。

哀しむイザナミ。
苦悩する、
愛しい女。

もうすぐ、もうすぐ。
私のものとなる。
 
  


……追憶。
       
一つ目を開き、を見る。

今、目の前に居るイザナミは、私に笑顔を向ける。

媚び、へつらい。
それでも私と共に居る。

イザナミが私の腕に触れる。
その滑らかな指先が私を求め彷徨う。

その手を取り、撥ね付けた。

「イザナギ?」

悲しげな表情を浮かべるイザナミ。
表情豊かな、私のイザナミ。

けれど、何も産まない女。

人型の人形。
       
私が欲した女はとは違う。
余りにも違い過ぎて、嫌悪すら覚える。

“躰”だけでも傍にと願ったが、今更ながら痛感する。

欲しかったのは、あの光り輝くイザナミと言う名を持つ魂。
完全なる女神。

この躰に残る魂は、イザナミの負。残りかす。

くすんだ闇の、この世界を象徴した様な存在。

私は、この闇が嫌いだ。
ここに堕ちてからも、生れ故郷の光りを忘れられず、足掻き、藻掻いて居る。


それは“イザナギ”の名を奪い、名乗る事で気付かされた感情。
 
  
羨ましい。
妬ましい。

それは貪欲に私を絡んで放さない。
無意識に胸元に手をやる。
そこに烙された獄印。
着せられた黒色の獄衣ごくい


それに抗う術を持たなかった私自身を、私は呪い嫌っても居た。

衣を鷲掴み引き千切る。
だが、その黒衣は生き物の様に再生する。
       
千切られたそのは私自身の痛みへと代わる。

黄泉は私の牢獄。
罪無き“無辜の民”で在った私を、容姿が気に入らないからと陥れた神々を呪う。

美しい神々。
それらを貶める為に私は力をつける。

黄泉のイザナギ。
私はこの黄泉の王。

黄泉は唯一“生者”である私の牢獄であり、同じ様に、私を産み出した神々がいずれは“死”して来る世界。

私の世界。

私は待つ。
待つ事は今の私には苦痛ではなく喜びだ。
 
 
*黄泉のイザナミside*

私のイザナギ。
いつも私を護って慈しんでくれた。

イザナギと愛を語らい、交わり子を産んだ。

それは至極当たり前で当然で幸せに満ちた日々。

永遠に続く幸せ。

 
この世界でも、イザナギが傍に居れば、それだけで華やぐ。
  
このな匂いも、
───甘い花の香りに変わる。

いつもの様に、彼にしなだれる。
なのに、やんわりと私を拒み、イザナギは立ち上がって奥に隠れてしまった。


途端に私の躰を蝕む闇。

「あぁ───……痛いぃ……」

躰に巣くう子ども達が騒つく。

私は、イザナミ。
───イザナミ?

イザナギの隣に居るべきはイザナミ……そうでなければならない。
また、そうであった。


だが、この虚しく広がる心は何?
傍に居るのに彼を遠く感じるのは何故?
 
  
私の中にぽっかりと空いた穴が在る。
目には見えぬ空洞。

その空洞に納まるものがどこかに存在すると、私は感じていた。

それが正しく戻ったならばイザナギは私と離れる事はない。
その理屈は判らないが解っても居た。

イザナギは私を“イザナミ”とは呼ばない。
それは私が無くしてしまった空洞に在ったものが足りないから。

私は理解して居る。

躯に棲まう子ども達は、足りない一人と、上の人界と黄泉の間に眠る一人と、私と繋がる細い糸から、静かに旋律し伝えて来ていた。

私が無くしたものは、人界に在る。と。
それを取り戻せば、イザナギは私を見てくれる?

以前の様に愛してくれる?

不安、不満、怒り。
渦巻く黒い感情……
こんな気持ちは今まで知らなかった。

 
イザナギを私の傍に繋ぎ留めるには、が必要。

そうするには?
私と共に居る子どもは五人。
私の大切な子ども達。子どもらは私の肉を喰む。

肉は母乳。
痛みは甘え。

その子は頭の大雷。
居ない子は右手の土の雷。


何故二人は私から離れたのだ?

右手のは姿も見えず、まるで消えた様に居場所も判らない。
けれど、生きている事だけは解る。

だが、頭のは人間と深く関わった事でこちら側に帰れなくなった。
頭のとは繋がったままの細糸で解る。

まずは、人界に上がる手立てを考えなければ……。

頭上を見上げ、眼を閉じ集中する。
頭上に繋がる子どもと同調する為に。


丁度その瞬間に、不思議な力の流れを感じた。

水の流れ。
頭のが、目覚める。
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...