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二人の男
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しおりを挟む陰と陽。
相反した性格をもつ二つのもの。
それは一つのものから成り立つ。
男と女。
胎内に根付いた時、性別はどちらともつかない。
元は一つ。
全ては同じ一つのものから成り立って居るのかもしれない。
*********
† 水先家。
*優月side*
皆が気持ちを一つにした時だった。
悲鳴を上げた母さんが倒れた。
同時に先輩が一つ方向に険しい視線を向けて白髪を逆立てた。
「母さん!?」
僕と姉ちゃんが慌てて駆け寄る。
父さんの腕に抱かれた母さんは苦しい息遣いで、閉じた目を開いた。
左目眼球は黒一色で、右目は赤く色付いていて、それは涙の様に頬を流れ落ちた。
まるで血の涙。背筋が寒くなる。
「どうしたの?!」
心配で声が裏返る。
「……右くんが怪我をしたんだね」
父さんが静かに答えた。
「何でっ」
「白龍が、目覚めた」
先輩が拳を握り言葉を吐き出した。
「目覚めただけじゃない。“黄泉”から来たものが居る」
優良が右手を抑えて顔をしかめた。
「来たもの?」
「私の残して来たもの。私自身───イザナミ」
イザナミ。
黄泉に残ったイザナミ。
それに、と口を閉じた優良に、母さんが後を続けた。
「見えたは……響夜くんのお母さん、躰を取り戻した」
それは嬉しい事。
「でも……その躰を“イザナミ”が奪ったのよ」
言われた事に皆が固まる。
「そんな事……」
信じられないと首を振る姉ちゃんに、
「私が菊理媛の躰に入った同じ方法だ」
と、苦い顔をした優良が溜め息を吐いた。
黄泉から逃げる為に、岩戸から魂だけを移動させた。
「何で今頃―――」
呟いた先輩が口を開けたまま膝を着いた。
「俺のせいか?」
呟くと同時に姿が人間のものに変わった。
その先輩の肩にそっと手を置いた姉ちゃんが、
「なら、私よ。優良が隠してくれたけど、龍珠の私が白龍を一瞬でも起こしかけて……」
「責任の所在なんてどうでもいい事だよ。兎に角今は右くんを探しに行かないと」
父さんの言う事が今する事だと感じた。
「なら、私が行こう。他の誰かでは見付かっては困るからな」
朗が言った。
今は、どうすれば良いのか判らなくなった。
先輩のお母さんを助ける。
それは簡単に出来ると思ってた。
それが複雑になる。
でも、何で“イザナミ”がこっちへ来る必要があるの?
「河童が行けば癒せる。それが一番だな」
「なら、僕も」
「お前は駄目だ。前世が目醒めた今、捕まってしまったら何をされるか判らない」
優良は頑として譲る気はないみたいで、
「ゆうつきの時、冥界の境で餓鬼がゆうつきを捕らえ様としたのは、黄泉の王が私に気付いたからだ」
閻魔の朗が救けてくれた。
「恐らくは、私の存在をこの土の焔から気付いたのだろう」
掴んだままの右腕には土色の炎の刺青。
それはイザナミの子どもである雷の一人。
「責任を問うなら、イザナミの本体で在る私にある」
本当に、誰かの責任なんて言ってられない。
「気付かれない様に、座敷わらしの右を見付けたら直ぐ様帰って来るんだ」
優良は朗にしつこく言い聞かせた。
「判っている、それにあの場所は、私がかつて護って居た地だ」
泉守道者で在った時。
朗が、笑顔で僕に言った。
「行ってくる。必ず帰って来るから」
別れはもう十分に経験した。
「うん。信じてる」
笑顔で返す。
これからは、一緒に生きて行くんだから。
出て行く朗の背中を見ながら、初めて“約束”した事に気付いた。
菊理媛の時も、ゆうつきの時も、こんな約束事をする余裕なんてなかった気がする。
だから大丈夫。
朗は僕のところへ帰って来る。
“約束”は、“誓い”なんだから。
*朗side*
石段を上がる道すがら、懐かしい匂いが鼻についた。
それは桃の甘い匂い。
かつて冥土へ旅立つ者を桃の木が護って居た。
その痕跡?
いや、今現在香る匂い。
桃の木は全て壁を造る為に消えた筈だ。
桃の加護と、私、泉守道者の躰を使って壁を造った。
だが、酷く匂う。
何かを護ろうとして居るのか?
気配を感じて顔を上げた。
そこに居たのは淡い光りを纏った老人。
そしてその腕には小さな座敷わらしの右。
「誰だ?」
訊くと、声は直接頭に響いて来た。
「「私は、玲子の父親です……その前の世では、“ゆうつき”と“たまゆら”の父親でもありました」」
すると、龍の祖父。
「「……私が決めたのです。贄を捧げると強固な護りになると……それが娘二人を失う羽目になりました」」
「私は懺悔を訊きに来た訳ではない」
老人は、口を閉じた。
「その座敷わらしをこちらに」
差し出した手に、素直に右を寄越した。
右は小さな赤子よりも更に小さな躰をして居る。
水先の母の前世の分身ながら、ちゃんとした座敷わらしだ。
それが躰が透けて魂が弱って居た。
どんなに隠れるのが上手くても、イザナミの力はそれだけ強大。
すぐに治療をしなくては。
石段に座り、右を膝に寝かせ、手首を爪で裂き右に血をかける。
すぐに効果は現れて、実体が戻った。
安心し、改めて気付く、桃の甘い匂いが右から香る。
桃の加護で右は消えずにすんだと言う事か。
背後に居る老人に視線を向けると、その後ろの石段の頂上に入り口の鳥居よりも背の高い樹が見えた。
それは一見桃の木には見えない。
注連縄をされた大きな幹を持つ護神樹。
長く太い幹の天辺に傘をさす様に開いた葉も、まるで桃とは違うもの。なのに、桃の木なのだ。
「お前が右を救けてくれたのか?」
老人は静かに頷いた。
「「私は死して後に遺した遺言にて、この護神樹の下に埋めて貰ったのです。結果、現世に留まりこの因縁を知る事になりました」」
因縁。イザナミとイザナギと黄泉の王。
更には、菊理媛と泉守道者。白龍と玲子。
「「この護神樹は“壁”に成った桃の木の、遺った“加護”の集合体。私はこの樹と同化し、精霊と成ったのです」」
老人が右の頭上に手を翳すと、右が目を開けた。
「「玲子と龍羽の事も見守って来ました」」
右は慣れた感じで老人の肩に登る。
「「この座敷わらしも、玲子を護る為に無理をしようとしてくれた。けれども、余りの邪気に弾かれて死にかけた」」
溜め息を一つ吐いて、
「「“イザナミ”は、今は白龍の下で眠りについています」」
老人は更に言葉を続けた。
「「桃の加護で結界を造り、この人の居ない神社にイザナミを留めておきます。
決着をつける時だと私は感じています」」
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