河童様

なぁ恋

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二人の男

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父さんの前世がイザナギの血を受け継いでるって事は、その血脈の水先は……。

「僕らはイザナギの血も継いでるんだね?」

不意に気付いた事実に少し驚いた。

現在の水先の血の流れは、イザナギの血をその身に宿した陽優と、イザナギの躰半分で出来た冥界で産まれた閻魔の娘、優良から成る。

「驚く事もないでしょう? イザナミとイザナギは日本を造った神様なんだから。人間だって元々はその子どもなんだから……妖怪も?」

と、姉ちゃんも首を傾げる。

「私の“魂”はイザナミ。“躰”はイザナギの血筋。だから尚お前達が愛おしいんだ」

優良がにこりと微笑んだ。
そして、と、表情が曇る。

「妖怪は、あの子らも“イザナミ”から成る者。イザナミが死する時、その血、涙、汚物、その身から流れ出た死臭。すべてから産まれた負の存在」

それでも母性はある。
だから表情が曇るんだろうな。
“ゆうつき”の感覚がそう気付かせた。
 
 
イザナミはすべての母親なんだ。
神様みたいに超越した存在でないと、そんなの耐えられないよ。

それに気付いて体が震えた。

「私は、イザナギを護りたい。私は……今でもあの人を、愛しているから……」

告白。
哀しみを湛えた瞳に薄らと涙が見えた気がした。

「俺は、イザナギに成りたい!」

叫ぶ様に聞こえて来た言葉に驚いた。
声の主のクロスが、正座してその膝に両手拳を握って必死な形相で訴えていた。

皆が驚いた。

「俺は、優良を見た瞬間から……何だか胸が痛くて、俺は、優良が好きだ。そう心が感じてる!」

その言葉に嘘偽りは感じられない。
まるで“心”と言うよりも“魂”が叫んでる様に聞こえた。
 
 
 
*クロスside*


言うつもりはなかった。
けど、優良の涙を浮かべた瞳を見た時、言わずにはいられなかった。

悲しまないで欲しい。
幸せで居て欲しい。
笑って居て欲しい。
花の様に美しく、
風の様に自由で、
いつも自信に満ちた貴女で在って欲しい。

「俺は、貴女を悲しませるだけかもしれない。
...
あの時の貴女の悲しみに満ちた目を忘れられない。
俺は、変わらず愛していた。
なのに、騙されて、それに気付いた時には、もう遅すぎて───」

零れる言葉は無意識で、意味も解らない。
なのに心にしっくりとくる言葉。

「俺は、俺は……」

頭が痛くなって来て、目眩を起こす。
喉が渇いて息苦しい。
俺は、伝えたい事があった。
でも伝えたい相手は遠くに居て、手が届かなくて、苦しくて……。

ただ、逢いたくて───。

 
 
 
********


───逢いたい人。
思い出したくはなかった。
思い出してはいけなかった。



イザナミを振り払って地上に出て、岩戸の入り口を閉じた。

その時の顔を忘れない。

“毎日千人の死者を出す”
と神の言霊を発したイザナミに、
“千五百人が産まれる”
と同じ言霊で反した。


神の言霊は絶対。

岩戸を桃の樹に護らせて、地上の子どもらに事実を話した。

今まで死ぬ事が無かった子どもらは混乱した。
そして、初めて憎悪を剥き出しにして私を見た。

その目は、哀しみを湛えたイザナミを思い出させた。
耐えられない!
子ども達に言霊を使う。

───私を殺せ。
最初の死者は私がなる。

と、神殺しは大罪。けれどもその罪も自身で背負って私は“転生”し続ける。

その為には死者の“黄泉の国”には逝く事は出来ない。
イザナミの下には行けない。
その為に躰半分を神力の大部分を注ぎ、魂を護る世界にしよう。
もう半分は、最初の千五百人の徒人の赤子に転生させた。
 
 
*********


「クロス!!」

優月の声が聞こえて来て、躰を揺すられて目を開けた。

「ゆづ……き」

心配気な優月の顔が目に飛び込んで来た。
躰を撫でられる感覚で、自分が猫化している事に気付く。

「俺は……」

「イザナギは、もう居ないのです」
その声は優良。

「あの人は冥界を造り、徒人の血肉となった。私の下へは帰って来ない」

それは拒絶の言葉。

俺の、クロスの躰は猫だ。
化け猫。

こうなる前は、自分の血の流れの中で、輪廻を続けていた。
ただ輪廻するだけじゃなく、自身の罪をその時の身に受けて来た。

“神殺し”それは今思えば他の手で殺されたにしろ“自殺”だった。

“罪”は“罰”を呼ぶ。
輪廻は不幸の人生辿る旅。俺の輪廻は尽く不幸で哀しみに満ちたものだった。

そこに一匹の優しい猫が救いの手を差し伸べた事で事態が一変する。
 
 
 
「クロス……」

優月が膝に抱き上げて体を撫でてくれる。
俺も黒介をこうして可愛がって居た。

黒介。
優しい黒猫。

彷徨っていた。
自身の血の流れの中に潜って、ひたすらに輪廻する。何度も何度も……刻まれた肉片の数だけ魂も散り散りとなった。その数程転生を繰り返す。
まるで分散した魂を掻き集める様に、実際に意図せず魂の大部分を回収して居た。

この時も、罪を罰で償い続ける。
いつもの悲惨な最期を迎える筈だった。

そんな俺を、俺の魂の全てを大事に扱ってその身に転生させた黒介。

融合した獣の躰は、イザナギの魂の影響で化け猫と化し、記憶は混濁、自分を化け猫そのままと理解し生きて来た。

そして運命の様に巡り合わせた優月との出逢い。


「苦しいなら、寝ていてもいいよ」

優しく声を掛けてくれる優月。
その肩越しに見える優良。

「大丈夫ニャ……少し、疲れただけニャ」

優良は、イザナミは俺に気付かない。
 
 
 
*優月side*

 
クロスが叫ぶ様に優良に告白した。
そして頭を抱えて倒れ、猫の姿に戻った。
服に隠れたクロスを抱き上げる。
気絶し苦し気に唸り涙を流して居た。

その心が僕と共鳴する。
後悔と懺悔。
それに、誰かを愛しく想う気持ち。

前見えたみたいにはっきりとは見えない。けど、苦しく暗い、そんな幻影が視えた。

僕も、
切なくなった。

クロスの滑らかな躰を撫でる。

「クロス……」

呼ぶと、耳がピクッと動いて、微かに黄色い瞳が開いた。
視線をこちらに向けて小さく鳴く。

「苦しいなら、寝ていてもいいよ」

身をゆっくりと起こしたクロスが、

「大丈夫ニャ……少し、疲れただけニャ」

と、小さく笑った。

繋がった感覚は消えて、心配だけどクロスの言葉を信じて膝に抱いたまま、朗に話の続きを促した。
 

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