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二人の男
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しおりを挟む「イザナミの魂が輪廻する水先の血筋に、先に在ったイザナギの魂が追いやられ、僕の目に収縮された。
その力は強く、僕の目が耐えられず弱視となった訳です」
「そもそも魂って何なの?」
疑問を口にする。
「魂は自分自身を表すものだよ。
だから優月は菊理媛でゆうつきで、その全てなんだよ」
父さんが当たり前みたいに答えてくれた。
「だから魂の欠けた状態はよくないんだよ。
イザナミとイザナギが今そういった状態なんだ」
それにね。って父さんは母さんに目配せする。
母さんが頷いて、両手を水平に前に出すとすぐに手の平に光りが集まり形作る。
「水先の“櫂”は壁を管理するものでも有るけれど、魂を解放する力もあるんだ」
母さんの手に現れたのは、一本の木で造られた、何の変哲もない櫂。
「と言うか、実際にはそちらの方が主なんだよ」
「“イザナギ”は無意識に造ったんだ。魂解放の“鍵”をね。
それは新たに壁を造った時、最初の優良が生み落としたもの。この形に成ったのは、三途の川の渡し守の死神が櫂を持って船に乗ってあの世へ連れて行く。と、語られていたからだと思う。
実際に話題にしていた事もあったからね」
櫂は父さんの手の平で仄かに光り揺れる。
「“母さん”には僕しか子どもがいない。
だから母さんが死ぬ時、女児に渡る筈の“櫂”を一時的に僕が触れる事になって、その時、気付いたんです。
自分の状態と、前世の優良の真実を……」
「真実なんて……」
優良がはた目に判るくらいに動揺して立ち上がった。
..
「真実は、結局のところ、優良は優陽に恋したんじゃないって事。
優陽の中に在るイザナギの魂に反応しただけ。
まぁ、虚しくもありますが、僕は母と子の関係が一番心地好いので今の状況に満足して居ます」
*優良side*
「優太……」
この告白は心の奥底では理解していた。
見ないふりをしていた。
聞かないふりをしていた。
そして、
口を閉ざしていた。
とても残酷な真実だから。
優陽は代わりだった。
それでも良いと優しい彼は言った。
優太は知っていて、それを受け入れてくれていた。
知らぬは私だけだった。
護って居ると自惚れていた。
その実は護られて居た。
護られてばかりだった。
「貴女はより人に近くなって、その心は神の強さとは異質のものとなった。
..
弱さを知ったのですよ」
「弱さ?」
「そうです。ただ、人は弱いからこそ強くなれる」
人が弱い?
「貴方は最初から強かった」
優太は小さく微笑んで、
「強がってただけですよ」と、見た事のない寂しい表情をした。
「優陽の時、愛する人の死を見送るのは、例えるならば身を切られる程の痛みを用いました。
けれども、優良の願いでしたから。
僕の気持ちを言えば、世界なんて滅んでも良かった。優良と共に生きられるなら……ね」
優陽の気持ち等、訊きもしなかった。
「だが、僕は弱い人間ですから嫌われたくなくて貴女の思い通りに振る舞った」
目を閉じた優太が、決心した様に強い声と開いた目で私に宣言したのは、
「僕は、同じ過ちは犯しはしません。
璃世を、今世で愛した女性は何があっても手放しはしません」
深い愛の約束。
「優良。貴女はもう最初の、始まりのイザナミとは違います。イザナギも然り。
嫉妬だって、許せないのだって、人間に近い心を持っているから」
今は河童ですが、と微笑んで、
「人間らしく、ワガママを通したら良いのです」
人間らしく……。
「神はもう遠い存在。
神の求める完璧なんて、くそ食らえですよ」
....
私は、二人の男を愛したつもりだった。
その実、イザナギしか愛していなかった。
それはきっとイザナギも同じ。
どうすればいい?
「しつこいのも、人間の特徴と言えるかもね」
優星が背後から肩を叩いて来て目配せする。
「要するに、自分を取り戻せば良いって事じゃない? “かくれんぼ”はもう終わりにして、ね」
取り戻す?
「自分を受け入れるのよ。負の、悪い部分だって、何だって、自分で在るにはかわりないんだから」
捨て去る事が一番だと思っていた。
「自分が自分を追い掛けるのは当たり前だと思う。
足りないから満たそうとする。そう言う事なんじゃない?」
「そうかも知れない。
世界がどうのじゃなくて、自分がどう有りたいかって事、どうしたいかって事」
優星が、優月が、私の両脇を支えて言った言葉。
私は今まで何を求めて生きて来た?
ただイザナギ一人だけを求めて、輪廻を繰り返して居た。
優月を見て、優星を見て、周りの者達の顔を見て。
単純で良いのかもしれない。そう初めて思えた。
朗の腕に抱かれた化け猫のクロス。
傍に行き、手を伸ばす。
イザナギを感じる事が出来なかった。
見れば、傍に居ればイザナギの魂を感じられる筈だった。
輪廻の過程で伴侶に選んだ婿達も少しでもイザナギの魂を感じられる者を選んだ。
このクロスは妖怪。
イザナギとは異なる存在。
その黒い躰に触れる。
柔らかい毛並み、小さな躰。
触れて感じられたのは、イザナギの温かい魂の輝き。
そして優太が目の前まで来て、その厚い眼鏡を外した。
孕んだ時、優陽だとすぐに判った。
けれど、イザナギの魂には気付かなかった。
そっと優太の頬を撫でる。
その顔を見上げると、薄い色素の瞳に赤く斑な光が沢山見えた。
それ程に強いイザナギの魂が、その瞳の中に存在した。
気付かなかったなんて、信じられない。
「……イザナギを解放して」
何も考えられず零れ出た言葉。
私は心からあの人を求めてる。
「私に、あの人を……イザナギを!」
本当の想いと願い。
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