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全てのはじまり
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しおりを挟む好きになる事は簡単。
嫌いになる事も簡単。
どちらも簡単なのに、
忘れる事は難しい。
*優月side*
「……イザナギを解放して」
優良が声を絞りだす。
「私に、あの人を……イザナギを!」
涙を溜めた目に河童の証の星が煌めく。
父さんは一度頷き、手の平に浮いた櫂が更にクルクルと回り出した。
何処からか現れた右くんと左くんが父さんの左右に控えた。
回る櫂は白い光を放ち、その光は父さんの両眼に降り注いだ。
父さんの瞳から数えられないくらいの沢山の赤い光の欠片が飛び出して、欠片は櫂に吸収される様に戻って行く。
それが止むと、櫂は反対に回り出し、今度は朗の腕に居るクロスに光が降り注がれた。
光の中の赤い欠片がイザナギの魂なんだと判る。
ずっと探して、
ずっと求めて来た再会。
それが叶う時なんだと胸が熱くなった。
菊理媛の想いが成就する様な感覚が心を満たす。
暖かい空気が室内を満たし、その空気はクロスを中心に渦巻いて、やがてクロスに吸収されて行く様に消えた。
静寂が辺りを包む。
朗の腕のクロスの姿が仄かに光出し、人型に変化しながら畳に下り立つ。
クロスの人型、猫耳と二股尻尾もある。
けど、開いた目は中心に赤い星屑が輝く黒い瞳に変化していた。
仄かに纏う光はまるで薄いベールみたいで神々しく神秘的だ。
クロスが口を開く。
「思い出した」
姿勢を正して、噛み締める様に言葉を紡ぐ。
「川の水面に映るイザナミの姿を見留め、その時の母乳を与えるイザナミの美しさに驚いた。
だが、母乳を貪る男児が、神族故に次の瞬間には成人し、その乳房から離れる姿を目の当たりにして、初めて“嫉妬”を覚えた。
神はそんな私の小さな変化もよしとはせず、私の中から“嫉妬”の部分を削ぎ落とした。
それが黄泉に堕ちた私自身。“黄泉のイザナギ”」
クロスが優良の傍に寄ると、自分の胸元くらいの背丈の優良の前に膝を折り目線を合わせた。
..
「私は、イザナミと居る事が当たり前で特別な事だと思いもしなかった。
けれど、
..
俺は、優良と出逢えた事が幸運で特別な事だと解っているし、もう絶対に離れはしない」
それはプロポーズにも見えた。
優良は目に一杯の涙を溜めてクロスに抱きついて行く。
「私も……私も同じ。
ずっと、一緒に居るのが当たり前で、当然だと思ってた。だけど、長く、永く離れてて、私は、貴方への愛を確信した。
イザナギとイザナミは……不確かだった。
何度も愛し合い、何度も子をなしながら、けど、それは依存でしかなかった。
神に与えられた模造の愛の」
空気が変わる。
二人の温度が変わる。
「私達は歩き出した。神の手から離れ、個を持ち、愛を見付けた」
不思議な言葉。
今まで、意志がなかった様な言い方。
ただ、黙って見守って居た。
ここに居る誰もが皆、言葉が出ないでいた。
クロスが顔を上げて僕達に語る。
「気付かないで居た。
与えられた状態で選択肢はなかった」
優良も僕を見て訊く。
「そもそも“神”とは何で在るか?」
「解らない……」
考えた事もなかった。
「そう。私達も解らない。ただ産み出された事だけは理解して居た。その“使命”も」
「“使命”は産み出す事。全てを形造り出す事」
「ただ、それだけ」
二人が声を揃えた。
「それ以外は望まれていなかった」
手を繋ぎ、話し続ける。
「その枠を超えた私達を神は捨てる事にした」
..
「だから、それぞれを分離させた」
「二人がまた再会し、共に歩む事を決めた時、その意味を知った」
二人の空気が変わった時?
*優良side*
抱き締めたイザナギの体温を感じる。
心に広がるのは例え様のない幸福感。
次に心に押し寄せて来た“絶望”と、色んな感情。
───想い。
それに押し潰されそうになる。
私達の産まれた理由。
私達が分離させられた事実。
産みの神の声。
私達は引き離されて、
再び巡り逢った。
これが“運命”これが“宿命”
徒人として生きて来た事は運命の道。
『イザナギ、愛してます』
『イザナミ、愛している』
..
再会し、触れて目醒めた奥に隠されていた真実。
「私達は歩き出した。神の手から離れ、個を持ち、愛を見付けた」
......
私達の子どもに真実を語る。
私達が全ての始まりに戻る為に、正常な日常を取り戻す為に、
神はこの世界を捨てたのだから。
..
神は廃棄した。
自ら造り出した世界を、私達を残したまま。
..
私達を時の獄に時獄に押し込めて。
..
失敗した部分を地の獄。地獄に閉じ込めて。
神はこの世界から去った。
それは自由になったと言う事。
私達が望む世界に出来ると言う事。
二人で確認する様に口を開く、
「気付かないで居た。
与えられた状態で選択肢はなかった」
考える。
「そもそも“神”とは何で在るか?」
「解らない……」
優月が答えた。
「そう。私達も解らない。ただ産み出された事だけは理解して居た。その“使命”も」
「“使命”は産み出す事。全てを形造り出す事」
「ただ、それだけ」
二人で声を揃えた。
「それ以外は望まれていなかった」
手を繋ぎ、話し続ける。
「その枠を超えた私達を神は捨てる事にした」
..
「だから、それぞれを分離させた」
「二人がまた再会し、共に歩む事を決めた時、その意味を知った」
イザナギは断言する。
「愛は生まれるもの」
イザナミは感謝する。
「愛が生まれたからあなた達と出逢えた」
愛の形は? と、問われたなら、それは一人一人、個々個人その人。
大切なその人が愛そのもの。
「愛が生まれた俺達は、もう迷う事はない」
「だから、愛を求め迷って居る私自身を救いに行く」
黄泉のイザナギ、イザナミは、神に産み出された最初の二人に似ている。
“疑似愛”に縛られ逃げ出せずに居る私達に。
「本当の始まりは、これから」
手を取り合って、進むのは未来。
それを始める為に、先に進む為に、
「行きましょう。黄泉の二人を迎えに、黄泉比良坂まで」
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