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空の彼方
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しおりを挟む*黄泉のイザナミside*
水中に居るみたいに意識が揺らぐ。
これは玲子の記憶。
玲子の眠りは水に直結している。
早く私の求めるものを探しに行きたいのに、先に進むには“躰”を完璧に自分のものにしなければならない……。
躰。不思議な躰。
眠りの中、玲子の躰と交じり合う時、ほんの少しの記憶と、その深くに眠る魂の、躰に流れる血潮の中にある“イザナミ”の残り香を感じた。
それは古い古い残像の様に不確かなもの。
私はイザナミ。
なのに玲子の中にあるその残り香のあては無い。
それよりも気になるそこかしらに感じる懐かしい匂い。
それは“イザナギ”の匂いに似ていた。
何故?
私の傍に常にあの人は居た。
考えられる理由は、私達の子ら。
それぞれに独立し、国を造った筈だ。
その子孫だろうか?
私達の子孫?
だが、感じるのはイザナギそのものの匂いと、時折、その気配さえ感じられた。
眠る前、懐かしい匂いを感じた。
無視しようとした。
だが、無視出来ない匂いだった。
それは私が欲してやまないもの。
あの人の甘い体臭と、
あの人の輝かしい魂の気配。
それが突如大きな気配に変わった。
そして、探しに行かなくともこちらに向かって居るのを感じて、笑いを噛み殺す。
私はゆっくりと待てばいい。
頭のの護る結界の中で、玲子の躰を馴染ませながら。
そうして現在。
揺らぐ水中が光に満たされ、小さなひび割れが出来、入り口が開かれた。
はっきりと感じるのは、私が私の探して居たものを手に入れられると言う喜び。
指先を動かす、一本ずつ開いて握り締めた。
十二分にこの躰は私に馴染んだ。
始まる。
私を取り返す戦いが。
そうして手に入れるのは甘美なる喜びと、イザナギその人。
*朗side*
水先家の能力。
それは神々しくも光に満ちた暖かいもので、その能力で優月と優星が黄泉のイザナミへ続く扉を開けた。
開いた扉は淡い光を帯びていた。
そこから一陣の風が吹き抜ける。
それは黒い闇色を帯びた生暖かい風。
その扉から淡い光とは別に覗く白く鈍い光。
「「……誰が……邪魔をする?」」
低く威嚇する声色。
それが何か私達は判っている。
「白龍」
龍が、確認する様に言葉にした。
「「ふぅむ……主はぁ、おぉ……我の落とし種かぁ……んむ? それに……」」
続く言葉は、咆哮となった。同時に暴れる様に扉が揺れ、三本の指が扉の端に覗く。指は入り口を握り潰さんばかりに強く存在感を示す。
「「そこに居るは、我のぉ……龍珠……」」
“龍珠”は優星の魂。
地面が揺れる。
その揺れに全員が倒れそうになり、優月を支え、化け猫と優良も互いに支え合った。
龍は背後に優星を隠す様に抱え地面にしっかりと両足を縫い付け、前を見据える。
光の扉から覗く指が伸び、その腕が、白い躰が、姿が現れた。
扉の大きさよりも幾分も巨大なその躰は、難なく扉を抜け、その姿を見せた。
「「我のぉ……“龍珠”よぉおぉぉ……」」
白い龍。
「違うッ!」
龍が叫んだ。
それは一瞬で地響きを止める程に力強く、白龍の動きをも止めた。
「優星は俺のものだ」
白く変化した髪は逆立ち、眼球も白黒が反転する。
広げた両手は長く堅い鱗に覆われ、全身へと変化を遂げた。
躯は鼓動と一体化した様にドクン と、音を立てて巨大化する。
それは対峙する父龍と寸分違わぬ姿に成った。
龍の背後に優星は佇み、その額は光を放ち己が龍を包んで居た。
己が龍。
それを身を持って示して居た。
*優星side*
白龍の声は私を呪縛する。
けれど、それよりも強く私を包む声が、
私が私で在って良いんだと護ってくれる。
“優星”と、私の龍が私を呼ぶから、私は迷わずにすむ。
私は“ルージュ”
龍羽くんの、龍羽くんだけのルージュ。
龍羽くんの変化を目の当たりにしながら、私の躰は軽くなる。
水先の櫂を手にした時よりも、躰の芯から温かくなる力の欠片。
それが大きく成長する。
大きく膨らんだ力が背中から抜け出て、まるで羽根が生えたみたいに躰が軽くなる。
そうして身体中に龍羽くんを感じる一体感。
私は私。
そして龍羽くんにもなる。
私は閉じ込められる事なく自由自在に愛を叫ぶ。
龍羽くんへの沢山の溢れる気持ち。
それが力になる。
私を、龍羽くんを、皆を護る力になる。
「頭の……」
澄んだ声が響く。
その声は小さいのに強い存在感があり、白龍は動きを止めた。
声の主は誰?
「あぁ……頭の。落ち着きなさい」
声は扉の向こうから聞こえて来た。
そこに居るのは、黄泉のイザナミ。
龍羽くんのお母さんの躰を乗っ取った黄泉の女神。
「そなたには私が居る」
声が近くなり、扉の光が黒く闇色に変わる。
その闇から姿を現したのは白い肌を持った裸体の長い黒髪の女性。
その腕に抱えられた透明無色の龍珠は、前世の私の抜け殻。
「そこのおなごはただのおなご。私はそなたの母。どちらの繋がりが強いかは明白。惑わされるな」
そう言った彼女は、無表情に微笑んだ。
悠然と佇む黄泉のイザナミ。
その眼は言葉よりも強い力を持っていた。
「そのおなごが気になるなら、また───」
二の腕に抱えた龍珠をさらに抱き締め、長く出した舌で珠を舐める。
「……この珠に戻せば良い」
その言葉で縛り、
その眼で命じる。
間に居る白龍も龍羽くんも透かして直接私を視ている様な錯覚を起こす。
私の全てを見透かす眼光。
頭を過るのは恐怖。
「違う! 優星は俺の傍に居る。優星は自由で俺達は離れる事はない!」
龍羽くんの声が私を包み込み、頭を傾げた不安が一変に吹き飛ぶ。
「そうよ! 私は龍羽くんだけのルージュなんだから」
私の意思は強く、もう惑わない。
「その躰を返しなさい!」
龍羽くんのお母さんを。
微かに目尻を曲げたその顔は、どことなく龍羽くんに似ていた。
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