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空の彼方
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しおりを挟む*黄泉のイザナミside*
開かれた入り口から流れ来る匂いと言葉に、頭のが興奮し我を忘れ扉から飛び出した。
光を帯びた扉。
その溢れ出る光は未だ私の眼を焼く。
私の闇を……安堵を、照らす光に……不安と、嫌悪を覚える。
光は嫌い。
光は私を否定するから。
光は、
───イザナギ。
頭のの命の珠を握り締め、“光”から浮かび上がった名に驚いて頭を振る。
私はイザナギに否定された事などない。
ただの一度も!
“光”に対する怒りが“闇”を生む。
私の怒りが光を包む闇と化す。
闇が光を呑み込み、そうしてやっと頭のの後を追って扉を抜け出る。
闇を通って外気に触れ、今一度、世界を見た。
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この子は特に甘えん坊、だから固執する。
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冷える。
胸の辺りが騒つき、怒りが込み上げる。
私以外のものに心奪われるとは。
ならば女はまた“珠”に閉じ込めてしまえばいい。
「そのおなごが気になるなら、また……この珠に戻せば良い」
「違う! 優星は俺の傍に居る。優星は自由で俺達は離れる事はない!」
種が口答えする。
頭のの種がそれを許さないと言う。
「そうよ! 私は龍羽くんだけのルージュなんだから。その躰を返しなさい!」
女が生意気を言う。
女。ただの小さな女。
頭のが夢中になる程の、それ程の女か?
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───否、
私だけが絶対の女。
私の子は私だけを敬い、私だけを見るのが当然の事。
怒りが胸を焦がす。
私は私を否定するものを許さない。
「この躰はもう私のものだ。
そなたが珠に戻るのが頭のの幸せ。私に逆らうものは決して許さない」
私は女神。
女神イザナミ。
地上に残りし神の一人。
私は私の必要とするものを探しにここに居る。
私の願いは、イザナギの願い。
こんな所で足踏み等してはいられない。
この女を早く始末し、私のものを探し、この手にし、私のイザナギの元へ帰らなくては。
イザナギ。
イザナギの気配が、私の所へ来ていた筈。
神経を研ぎ澄ます。
イザナギを、私のイザナギを見つける為に。
そうして視線に収まった男を凝視する。
黒い衣こそ身に付けてはいないが、黒い肌と獣の耳と尾を持つ男。
「あぁ……、ああああぁ───」
零れ出る声は、歓喜の叫び。
「私のイザナギ!!」
太陽の様なまばゆい光を帯びた瞳は、紛うこと無きあの人の光。
溢れる想いは留まる事なく、躰が動く。心が走る。
私は、ずっと求めて居た。
私だけを見てくれるあの人を、ずっと傍で過ごした黒衣のあの人は、私を見ては居なかった。
まるで私の影を視ているみたいに私を通り越して違う誰かを視ていた。
私のイザナギ!!
手を伸ばし、彼に触れた。
けれど、何かが私の行く手を遮った。
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「貴女は私───」
囁く様に呟いたのは、右手に焔を纏う小さな緑色の妖怪。
「───私は貴女」
解らない事を言う。
「邪魔をするならば命はないと思え」
「どの道、貴女を取り戻す事でしか道は開けない」
「私はイザナミ。産女神イザナミ。それを知っていて邪魔をすると言うのか?」
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「貴女は私の一部。私は貴女の一部」
その言葉に、私の内の空洞が響いた。
それを知るのは私だけ。
イザナギも知らない秘密。
そうして改めて目の前に立つ妖怪を見る。
右手に土の焔を纏う小さな妖怪。
右手の雷。
それは私の子。
まるで始めからそこに居る様に、小さな妖怪の右腕に巻き着いてその力を貸して居る。
「私はイザナミ。
黄泉から逃げ出した魂の転生者」
何を言われたのか判らなかった。
理解出来なくて躰が固まる。
目の前に立つ小さな妖怪は私だと言う。
私の魂と同じ者だと言った。
私の内の空洞に埋まるもの。
私が探していたもの。
それがこの小さな妖怪だと言うのか?
「私は“河童”と言う妖怪に転生した」
河童?
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その中に“河童”等居なかった。
「こうして傍に立つと、貴女も感じる事が出来るだろう?」
小さな妖怪が訊く。
「貴女の中にある記憶はどの様なものだ?」
記憶?
私は死んで、黄泉に堕ちた。
イザナギが後を追って来て、私達はそのまま黄泉の統率者となった。
記憶?
それは“真実”。
「私には貴女の内なる声が聞こえる。
黄泉にイザナギが居ると言うならば、ここに居るイザナギは何だと言うんだ?」
河童は疑問を放つ。
黄泉のイザナギ。
黒衣のイザナギ。
目の前のイザナギ。
獣の耳尾を持つイザナギ。
「……判らない」
「「私が貴女を視る様に、貴女も私を視なさい」」
視る?
河童は声を強めて私を真っ直ぐに見据える。
あぁ、それは確かに神声。
強く従わせる力がある。
視る。
小さな妖怪、河童の内を視る。
視えたのは───……
「嘘だ。」
……死に、黄泉に堕ち、私を放さない黄泉の王と、迎えに来たイザナギの逃げ行く後ろ姿。
そして、地上のその後のイザナギの事実と、知った上で後を追って地上に逃げた私……イザナミ。
私、イザナミ。
「ああぁああぁ───……!!!!」
口から零れ出る悲鳴。
私は、私こそが空洞の正体。
空洞はほんの少し、
いらないものの棲む隙間。
逃げ出した本来のイザナミは“負の魂”を切り離した。
私を切り離しイザナギを追い掛けた。
あぁ、視える。
それからどんな生を生きて来たか、苦しみも幸せも、その時折に精一杯を生きて居た。
イザナギを求めて、愛を増やしながら……ならば、私は?
暗い闇に取り残されて、私を大切にしてくれる黒衣のイザナギと過ごした。
大切に?
最初こそそうだったかもしれない。
だが、それも時が経つにつれてぞんざいになった。
見ない振りをして居たが、判っていた。
私を見るあの人は、私を通して違う誰かを視ていた。
それは痺れる程に熱い視線で、愛されている。と、感じていた。
その全てが幻。
私は、イザナミの───……。
私は、───……影。
「戻りなさい。
私と再び一つになりましょう」
“イザナミ”が当然の様に言う。
痛みが走った胸を押さえる。
胸が、心が熱く煮えたぎる。
「それは、私に消えろ。と言う事か?」
「違う。元に戻ると言う事だ」
「何が違う? 私は消える。お前に吸収されるなら、今の私は消えるのと同じだ!」
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私はあの時捨てられたのだ。
それなのに、今さらまた私に戻れと?
私を造って起きながら、簡単に消えろ。と、言うのか?
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お前はそれなりに幸せに生きて来た……」
視えたのは数々の輪廻。
どんなに不幸に見えても、私よりはいい!
「……私は、暗闇に生きて来た。愛するイザナギに……見下されながら───……」
今ならはっきりと解る。
私は、疎まれ、嫌われ、無駄に生きて来た。
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