河童様

なぁ恋

文字の大きさ
96 / 118
空の彼方

しおりを挟む
 
*黄泉のイザナミside*


開かれた入り口から流れ来る匂いと言葉に、頭のが興奮し我を忘れ扉から飛び出した。

光を帯びた扉。
その溢れ出る光は未だ私の眼を焼く。
  
私のを……安堵を、照らす光に……不安と、嫌悪を覚える。

光は嫌い。
  
光は否定するから。

光は、
───イザナギ。
   
頭ののを握り締め、“光”から浮かび上がった名に驚いて頭を振る。
  
私はに否定された事などない。

ただの一度も!
       
“光”に対する怒りが“闇”を生む。
私の怒りが光を包む闇と化す。

闇が光を呑み込み、そうしてやっと頭のの後を追って扉を抜け出る。

闇を通って外気に触れ、今一度、世界を見た。
 
 
 
頭のに言葉を掛ける。
     
この子は特に、だから固執する。

一度手にした女を手放す事はしないだろう。

冷える。
胸の辺りが騒つき、怒りが込み上げる。

私以外のものに心奪われるとは。
ならば女はまた“珠”に閉じ込めてしまえばいい。

「そのおなごが気になるなら、また……この珠に戻せば良い」

「違う! 優星は俺の傍に居る。優星は自由で俺達は離れる事はない!」

種が口答えする。
   
頭ののがそれを許さないと言う。

「そうよ! 私は龍羽くんだけのルージュなんだから。その躰を返しなさい!」

女が生意気を言う。

女。ただの小さな女。

頭のが夢中になる程の、それ程の女か?
それ程に価値ある女か?

───否、
私だけが絶対の女。

私の子は私だけを敬い、私だけを見るのが当然の事。

怒りが胸を焦がす。
私は私を否定するものを許さない。

「この躰はもう私のものだ。
そなたが珠に戻るのが頭のの幸せ。私に逆らうものは決して許さない」
 
 
 
私は女神。
女神イザナミ。

の一人。
私は私の必要とするものを探しにここに居る。

私の願いは、イザナギの願い。

こんな所で足踏み等してはいられない。

この女を早く始末し、私のものを探し、この手にし、私のイザナギの元へ帰らなくては。

イザナギ。
イザナギの気配が、私の所へ来ていた筈。

神経を研ぎ澄ます。
イザナギを、私のイザナギを見つける為に。


そうして視線に収まった男を凝視する。
黒い衣こそ身に付けてはいないが、黒い肌と獣の耳と尾を持つ男。

「あぁ……、ああああぁ───」

零れ出る声は、歓喜の叫び。

「私のイザナギ!!」

太陽の様なまばゆい光を帯びた瞳は、紛うこと無きあの人の光。

溢れる想いは留まる事なく、躰が動く。心が走る。

私は、ずっと求めて居た。

あの人を、ずっと傍で過ごした黒衣のあの人は、私を見ては居なかった。
まるで私の影を視ているみたいに私を通り越して違う誰かを視ていた。
 
 
私のイザナギ!!

手を伸ばし、彼に触れた。
けれど、何かが私の行く手を遮った。

それは熱い土色の焔。

「貴女は私───」

囁く様に呟いたのは、右手に焔を纏う小さな緑色の妖怪。

「───私は貴女」

解らない事を言う。

「邪魔をするならば命はないと思え」

「どの道、貴女を取り戻す事でしか道は開けない」

「私はイザナミ。産女神イザナミ。それを知っていて邪魔をすると言うのか?」

まだ小さな妖怪は静かに頷いた。

「貴女は私の一部。私は貴女の一部」
     
その言葉に、が響いた。
それを知るのは私だけ。

も知らない秘密。

そうして改めて目の前に立つ妖怪を見る。

を纏う小さな妖怪。

右手の雷。
それは私の子。

まるで始めからそこに居る様に、小さな妖怪の右腕に巻き着いてその力を貸して居る。

「私はイザナミ。
魂の転生者」
 
 

何を言われたのか判らなかった。
理解出来なくて躰が固まる。

目の前に立つ小さな妖怪は私だと言う。

だと言った。

に埋まるもの。
私が探していたもの。

それがこの小さな妖怪だと言うのか?


「私は“河童”と言う妖怪に転生した」

河童?
妖怪は私から生まれたもの達だ。
どんな生まれだろうと、そのもの達は全て覚えてる。

その中に“河童”等居なかった。


「こうして傍に立つと、貴女も感じる事が出来るだろう?」

小さな妖怪が訊く。
        
「貴女の中にあるはどの様なものだ?」

記憶?


イザナギが後を追って来て、私達はそのまま黄泉の統率者となった。


記憶?
それは“真実”。
 
 

 
「私には貴女の内なる声が聞こえる。
黄泉にイザナギが居ると言うならば、ここに居るイザナギは何だと言うんだ?」

河童は疑問を放つ。

黄泉のイザナギ。
黒衣のイザナギ。

目の前のイザナギ。
獣の耳尾を持つイザナギ。

「……判らない」

「「私が貴女を視る様に、貴女も私を視なさい」」

視る?
河童は声を強めて私を真っ直ぐに見据える。

あぁ、それは確かに神声。
強く従わせる力がある。



小さな妖怪、河童の内を視る。

視えたのは───……
「嘘だ。」
……死に、黄泉に堕ち、私を放さない黄泉の王と、迎えに来たイザナギの逃げ行く後ろ姿。
そして、地上のその後のイザナギの事実と、知った上で後を追って地上に逃げた私……イザナミ。

私、イザナミ。



「ああぁああぁ───……!!!!」

口から零れ出る悲鳴。
   
私は、が空洞の正体。
 
 
 
空洞はほんの少し、

の棲む隙間。

逃げ出した本来のイザナミは“負の魂”を切り離した。

切り離しイザナギを追い掛けた。

あぁ、視える。
それからどんな生を生きて来たか、苦しみも幸せも、その時折に精一杯を生きて居た。

イザナギを求めて、愛を増やしながら……ならば、私は?

暗い闇に取り残されて、私を大切にしてくれる黒衣のイザナギと過ごした。

大切に?
最初こそそうだったかもしれない。
だが、それも時が経つにつれてぞんざいになった。

をして居たが、判っていた。



私を見るあの人は、私を通して違う誰かを視ていた。

それは痺れる程に熱い視線で、愛されている。と、感じていた。


その全てが幻。


私は、イザナミの───……。
 
 
 



私は、───……影。



「戻りなさい。
私と再び一つになりましょう」

“イザナミ”が当然の様に言う。


痛みが走った胸を押さえる。
胸が、心が熱く煮えたぎる。

「それは、私に消えろ。と言う事か?」

「違う。元に戻ると言う事だ」

「何が違う? 私は消える。お前に吸収されるなら、今の私は消えるのと同じだ!」

捨てられた。
私はあの時捨てられたのだ。
それなのに、今さらまた私に戻れと?
  
私を起きながら、簡単に消えろ。と、言うのか?

「勝手過ぎる。
お前はそれなりに幸せに生きて来た……」
視えたのは数々の輪廻。
どんなに不幸に見えても、私よりはいい!
「……私は、暗闇に生きて来た。愛するイザナギに……見下されながら───……」

今ならはっきりと解る。
私は、疎まれ、嫌われ、無駄に生きて来た。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...