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我楽多の世界で
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しおりを挟むどんなものも必要で、
何も捨てられない。
それが例えば要らないもので、ただ場所を取るだけの“ガラクタ”だとしても。
何も価値がない、
そんなものでも。
手にした時から、それらは全て自分の一部。
*********
*優月side*
朗の手にあった剣が消えた。
それが櫂と繋がりのある姉ちゃんの所へ行ったんだと判って安心する。
心底安堵して、溜め息が出た。
「優月」
朗が囁く様に僕の名を呼んだ。
呼ばれ、抱き竦められて、初めて朗が震えてる事に気が付いた。
「朗」
改めて、自分のした事を思い起こして、身震いが起こる。
自分に刃を向ける行為。
まるで自殺をしようとしたみたいだ。
そんな気は全くないのに!
僕を包む腕を擦り、心配させた事を謝る。
「ごめん……」
「置いて行かないでくれ」
不意に言われた事に驚いて
「そんな事……」言い掛けて、空から響く爆音に気を取られた。
音につられて空を見上げると、先輩の化身である白龍が白く輝いて いた。
その背中に跨がる姉ちゃんが、遠くに居るのにはっきりと見えた。
姉ちゃんが手にした光る剣、十拳も。
雷雲が、ゴロゴロと音を立てる。その雲に隠れてる黒龍が灰色の雲から透けて見えた。
黒龍も躰が光ってるんだ。
そして怪しく光る赤い眼。それらがはっきりと見えた。
次の瞬間、形在る雷が姉ちゃん目掛けて放たれた。
僕は、何も出来ずに、ただ見ていた。
その短い間に祈る事しか出来ない。
祈るのは、姉ちゃんの無事。
朗にすがりつき、目を瞑る。抱き締められ、その腕の中で感じたのは、十拳剣に繋がる細い糸。
細い糸は“力”を吸い上げて行った。
僕の力。
僕の力は、どこから来ているの?
僕の意識がまた、飛ぶ──………「優月!」朗の僕を呼ぶ声が耳に響いた。
───置いて行かないでくれ。
そう言った朗。
そんな事、ある訳がない。
思いながらも、朗の声を頼りに戻る。
戻る。
それはほんの一瞬。
体の感覚が戻り、朗の体の固さを感じた。
目を開いた瞬間、頭上で爆音が響いた。
それは十拳剣がした事だと解った。
姉ちゃんと十拳剣のした事。
何でかな?
何で解るのかな?
壊れた雷は、白い光を放って消滅した。
キラキラと輝いて、その痕跡が空から降り注ぐ。
淀んだ空に、とても綺麗に光る星。
それが雷雲を薄く消して行く。
姿を現した黒い躰の龍。
赤く光る眼が、不気味に瞬きする。
「姉ちゃん!」
思わず叫んだ。
黒龍が、大きく口を開いたのを、まるでそこに居るみたいに見えたから。
口腔から覗く幾重もの鋭い牙、その白さまでが鮮明に見えた。
それが、姉ちゃんを白龍を襲いかかる様が、視えた。
ゾクゾクと鳥肌が粟立つ。
“恐怖”と、“力”が一度に躰を駆け巡り、悲鳴となって僕から放たれる。
体がガクガクと痙攣し、呼吸が、出来なくなる。
だけど、僕を掴む強い腕が、朗が、僕を引き留めてくれた。
柔らかい感触が、唇に触れ、空気が肺に満たされる。
僕は、僕は……。
僕の意識は、十拳剣と共に在った。
呼吸が楽になり、体が軽くなる。それとは反対に、意識は重く、固くなる。
硬い、それは剣。
僕は、十拳剣に包まれて、その力の糧になってた。
刃先で黒龍の牙を受け止める。刃は火花を散らし牙を撥ね付けた。
「なんっ………。ゆづ?」
姉ちゃんが僕の名を呼んだ。
けど、それに応える暇を与えない黒龍は、その尾を降り下ろして来た。
刃で尾を滑らせ弾くと、金属音が空に響き渡った。
姉ちゃんが歯を食いしばり、その力を受け止めた。
攻撃は止む事なく、僕と姉ちゃんは精一杯対抗する。
白龍は牙を牙で止め、僕らは尾と雷を刃で止める。
三対一。
なのに、圧されていた。
垣間見える赤い眼が、強い狂気を帯びて居た。
赤い眼は無言で訴える。
それは怒り、悲しみ、苦しみ。
そう言った負の感情。
それらは黒く力を増す。
僕は。僕は、それらに負けられない!
魂がいきり立つ。
僕の魂は、十拳剣の内に在って、姉ちゃんと一緒に戦ってる。
それが大事な事だと感じる。
二人で、戦う事が。
この世界は、正しい方向へ進めないといけない。
僕は、 僕と言う個を護らないといけない。
そうしないと、世界は、僕を排除しようするから。
僕の考えはまとまりのない、訳の解らない事ばかりで、けど、悩める程に時間もなかった。
依然として黒龍は、攻撃の手を緩める事はなく、僕らは必死に戦っていた。
*朗 side*
身体中の酸素を絞り出す様な悲鳴を上げ、呼吸が出来なくなった優月に、唇を重ね人工呼吸させる。
ぐったりと力の入らない体は、何度か酸素を与えると、息が整い、浅く安定した呼吸になった。
だが、脱け殻の様に重みを増した体は、私を不安にさせた。
優月に縋りつき、懇願する。
置いて行いかないでくれ。と、だがすぐに、優月の行った先に気付いて空を仰ぎ見る。
体と魂が分離して、否、体と魂は繋がっていて、優星の居る上空へ行ったんだ。
優月の体に触れた箇所からその魂の行き場所を探る。
眼を瞑り、優月の魂の軌跡を辿る。
優月の所在は、優月がその魂を移し、優星と共に戦っていた。
“十拳剣”の内に在った。
そんな事は有り得ない。
だが、疑う事が出来ない程に、優月の存在があの剣に在ると解る。
「何が、起こったんだ?」
クロスが傍に来て訊く。
「優月が……十拳剣に行った」
口にして、その通りだと実感して鳥肌が立つ。
空に響く金属の音。
雷の、龍の咆哮、その全てが優月を危険に晒しているのだ。
「優月が十拳剣にとり込まれたって事か?!」
クロスの言葉に、ただ頷いて、腕の中の優月の体を抱き締める。
空を見上げ、どうしたら良いのか判らなくて、胸が苦しくなる。
茫然自失となった一瞬、一際大きな地響きが耳に届いた。
私達の足元は護りでビクともしなかったが、山が、神社の在った山が、人、一人分沈み込んだ音だった。
沈んだ土地の中心に、黄泉のイザナミが黒い闇を纏って立ち尽くして居た。
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