光輝く世界で別れて出逢う~世界樹の子どもたち~

なぁ恋

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本編

愛情無常

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ことの詳細をアンスに伝える。
もうこうなると一族の全ての経緯を伝えなければならないと覚悟する。

「私が説明する。私の子どもたちのことなのだから」

ユグがアンスと向き合って、その小さな額をアンスの額に重ねる。
ウィクルムが私にしたことだ。
読むことも出来るし、伝えることも出来るのか。

ブルブルと肩を震わせるアンス。
そのブルブルにロアがちょっと楽しそうにしてる。

「なんと。童話のような朧気な物語ではなく、精霊の世界も世界樹も実在するのか?! ヴァロアがその血族。立場が違えど、あちらで言えばお姫様ではないか!」

アンスは馬鹿真面目だと思う。

「考えすぎです」

「花ちゃんたちが世界樹夫婦とは。感無量だ。生きている内にこんな幸運に恵まれるとは。俺は明日死ぬんではなかろうか??」

「長生きするぞ」

もう混乱して何を言っているのか恐らくは判っていないアンスに、冷静に答えるユグ。

「本当に長生きすると思う。あの人の“加護”も“番の印”と共に付与されてるもの」

アンスの肩に座るロアも静かに呟いた。

「番……」

アンスの頬が紅色する。
初めて見た。
ベタ惚れじゃない……
筋肉男にあんな顔させるなんて。

「もう。何が何だか解らないわ」

もう、呆けるしかない。

コホン と、我に返ったアンスが口を開く。

「お前は……ウィクルム。か、あの方と同じように成長した10歳の子どもなのか? や、理解している。ユグドラシル様の知識と能力、人となりが反映された見姿通りの年齢であるのだよな?」

「そうだ。それに、ヴァロア様は僕のものだ」

何余計なこと言っちゃってるの!
後ろから頭を小突く。

「違います!」
「違わないよ」

と、右手を取られ、その傷跡に唇を寄せられる。

「僕だって貴女に忠誠と愛を捧げてる。操だって立ててる。加護だって与えてる。嫌がったって僕が貴女のものであるように、貴女は僕のものだ」

言い切られて、体全体が火のついたように熱を持つ。

「諦めて。貴女を誰にも渡さないよ」

金色の少し垂れた両目が煌めき私を見つめる。焦茶色の髪が揺れ、祈るように右手を己の額に当てる。

心臓が口から飛び出で来そうなほど、鼓動が激しくなる。

「それとも、あいつがいいの?」

「いやよ!」

即答してしまった。
 
「だって……私は。わたしは……」

思い出す。
私はお母様の死と共に生まれ落ちた。
だから、
お父様に近付けなかった。
お父様と話してみたかった。
お父様を笑わせて見たかった。
お父様と食事をしたかった。
お父様に名を呼んで欲しかった。

「あぁ。ヴァロア様……泣かないで」

ウィクルムが私の頬を擦る。
私、泣いてたの?

「あの人は私の父親だもの……だけど、あの人は“前世”も“今世”も私を見てはくれない……何で愛してくれないのかな?」

そうか。
そうだ。私は苦しかった。
どんなに疎まれても、お父様と話してみたかった。あの人の視界に姿を写して欲しかった。
なのに、私は居ないみたいに振る舞われる。
それは現世も今世もずっと。ずっとだ。

目の前に居るのに、ヴァロアは見て貰えない。
ヴァロアはヴァロアでもなく、ヴィクトルだと言うのだ。
それで愛を囁く。

私は、私は───……

「ヴァロア様。僕は貴女しか見えないよ。貴女しかいらない」

大きな腕に抱き締められ、苦しくて悲しかった私の中の子どもが泣き叫ぶ。

「お父様……お父様! 死ぬ時でさえ、勝手に一人でっ! 私は、いらなかった? お母様、お母様! 何故、何故貴女は私を助けたの! 貴女さえ生きていれば、お父様は狂わなかった!」

喉が枯れるほど、今まで押し殺して来た事柄が溢れ出す。

「私さえ───……!」

双子と共に死にたかった。
塞がれた唇から言葉はそれ以上溢れなかった。
強く、強く押し付けられた唇に、私の歯が傷を付ける。口内に侵入する鉄の味に驚いて、やっと言葉が止まる。

そっと身を離され、ウィクルムの笑顔が見えた。彼の血の滴る口端を撫でる。

「僕は貴女と出逢えた幸運に感謝する。心から貴女が生まれてくれたことに感謝する。貴女が貴女であることに感謝する。だから、僕を見て? 僕だけを見て?」

甘やかな言葉は魔法みたいに水のように心に浸透して行く。

「僕は貴女しか見えない。貴女しかいらない」

「私だけを見てくれるの?」

「そうだよ」

「私が嫌がっても?」

「嫌じゃないでしょう?」

そうなのだ。
私は私を見つめる、ウィクルムの瞳が大好きだ。

「はぁ……」

「落ち着いた?」

ウィクルムの言葉に小さく頷く。


「すまない」

アンスが小さく囁いた。

「アンスのせいではないわ」

幾分か落ち着いた私は、それでも目頭と喉が痛くなっていて、ウィクルムが差し出した金色の花の蜜を飲み下し、花で目元を撫で揉み込む。それだけで腫れぼったさが無くなるのが判った。喉ももう痛くない。
これは、癒し手泣かせだ。

「この使い方が出来るのは食花する者だけですよ」

心を見透かしたようなウィクルムの言葉に笑えてくる。

「そうね。もう普通の食事の味さえ忘れてしまったわ」

「精霊の世界に来ればあちらの食材で作るなら普通にお食事出来るわよ」

ロアの情報に驚く。

「普通にあちらの世界にもこちらの世界のものとは形が違えど、獣や魚も存在するから沢山お料理出来るわよ!」

「そうだ。二人共に精霊の世界へ渡ればいい」

ユグのお誘い。

「体はもう半分あちら側の存在であるのだからな」

食花しているから体の半分があちらの存在に近いのだそうで、難なく溶け込め精霊、しかも上位の精霊と成れるそうだ。
とても、とても魅力的なお誘い。

「でもね。兎にも角にも、お父様……殿下との決着をつけなきゃ。前へ進めないの」

殿下は過去に引き摺られ過ぎている。
を助けたい。
傲慢かも知れないけれど。私がしなきゃいけない気がするから。


「そうだな。“お父様”にはヴァロアにしか出来ないこともあるだろう。“殿下”のことは、俺が見捨てない。何としても愛して、愛し抜いてやるよ。竜の“番”に選んで貰えたんだからな」

アンスが男らしい大きな笑みを浮かべた。













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